パナケイアダンガンロンパ2   作:ろぜ。

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非日常編

「人を殺してしまえば…それは罪だろう?」

「…意味わかんない」

俺の返答にみのりは動じることもなく、ただ無表情で首を振る。

周りはただ、その“異変”を奇妙な目で見つめる。

 

「どうして…そんな目で私を見ているの?殺すことは何も悪いことなんかじゃない」

感情のない、声。

 

「…幸応くんと君は仲がよかったよね。それに、ディランくん、優成くんにも友好的だったは…」

「だからこそよ」

薫の言葉を最後まで聞かず、みのりは冷たく言い放った。

 

「だ、だからこそ?」

「メスは初日に手に入れてたんだよね?」

春子と実花は「そっちの方が意味がわからない」とでも言いたげに困惑した声を漏らす。

 

「ええ、メスはこの生活の初日に手に入れてたわ。ずっと、皆を救うためにね」

 

〜大樹寺みのりside〜

そうね。幸応さんを殺すのは計画の内だったわ。

私はいつも通り、彼の研究教室で裁縫をしに訪れた。

目的はもうそれだけではなく、メスも裁縫セットに入れてたわけだけど。

 

いつからでしょう。

生きることが幸せだと人類が錯覚してしまったのは。

 

苦しまずに死ぬことが一番の幸福だと私は思うの。

だから、大切な方を楽にしてあげようと思ったのよ。

 

…研究教室での話だったわね。

彼は大分心を開いたようで、随分と熱心に自分のことを話してくれた。

自分の病気のこと、過去のこと、家族のこと、今のこと。

 

その全てを可哀想だと思った。

それも生きているせいよ。

 

そしてこの後はディランさんと会うんだと。

ここを出たら、捜し物を得意とする彼に行方不明の姉を探してほしいと伝えると。

 

……もう、そんな必要ないようにしてあげる。

 

「…今生きていることに不安は感じないのかしら?」

「病気…だとか、殺人、だとか…不安なことはあるけど……、みんなと一緒なら、きっと、大丈夫」

彼はそう言い切ってみせた。

 

ああ、

 

もう頑張らなくていいのよ。

無理に前を向く必要なんてないの。

前も後ろもありはしない。

この地獄から救ってあげる。

 

私は隠し持っていたメスで深く彼の身体を刺した。

 

「……ゔ……どうして……みのり…ちゃん…」

「貴方のためよ」

 

即死しそうな場所を刺したはずなのに、中々彼は死へと導かれない。それどころかとても辛そうだった。

幸応さんは苦しみながら目の包帯をとり、朧げな意識下で抗おうとしていた。

傷跡の包帯は彼が自ら巻いたものよ。止血しようとしてたみたい。

 

_______どうして?

 

早く、早く!

 

楽にしてあげないと。

 

「ごめんなさい……」

 

「ごめんなさい……ごめんなさい…」

 

「すぐに殺せなくてごめんなさい……」

何度も何度も、メスで刺していく。

やっと気づいた時には幸応さんは息絶えていた。

苦しんだでしょう。私が上手に殺してあげられなかったせいで。

でも大丈夫。もうこれ以上苦しむことなんてないわ。

 

「おやすみなさい」

「…みのりちゃん?」

日常の終わりに何者かが声をかけた。

ああ、うっかり忘れてた。ディランさんは幸応さんに呼ばれてたのよね。

時間がかかってしまったせいで、招かれざる者が扉を開いてしまった。

 

…まあいいわ。

悪くはない人だし、貴方もまとめて楽にしてあげる。

 

彼は好奇心とやらが強いのか、この部屋の中に一歩踏み出した。

「……君が幸応くんを殺したのかい?」

私は頷きながら、側に目を走らせる。

 

「貴方今幸せ?」

答えない私にディランさんは顔をひくつかせた。

「……え?」

 

「幸せ?」

「そうかもね」

「…心の底から?本当に?」

「…ああ、でも今君に殺されようとしてる俺は不幸なのかもしれないね」

 

「…私は貴方を救いたいだけ」

 

彼の綺麗な瞳は相変わらずきらきらと反射して、鏡みたいに私の顔を映していたわ。

映った私の顔はどんな表情だっけ。

 

ディランさんは思えば不思議なくらいに、たまに察しが良かった。

それからこの人は筋力がないんだったか。

 

「…ネックレスだけ……外してくれないかな」

「…どうして?」

「血だらけになったら困るからさ」

「………」

 

私はもうこれ以上会話をする意味もない、と目に捉えていた椅子を掴むと思いっきり彼の頭にぶつけた。

要望通りネックレスは血で浸される前に取ってあげた。

出来るだけ幸せに殺してあげたほうが彼のためだと思うから。

 

「…何をしている!!!!」

私を叱りつける声。

友人を殴り殺す私を見つけたのは、優成さんで。

 

なりふり構わず、息絶える友人に近づいていく。

……貴方に救えるわけがないのに。

 

邪魔者ばかり入ると思ったけれど、考えればそんなことないわね。

丁度いい。

彼も救ってあげよう。

 

私は何も答えずにもう一度椅子を掴むと、彼が思考に至る暇も与えず殴りかかった。

 

「…っ貴様…………」

誰もが生きることに救いを求めるからこうなってしまうのよ。

 

あと一発、殴れば彼は救われる。

 

大きく、ふりかざす。

 

「おっと、そこまでの殺傷はワタクシ求めてなくてですね?」

私の手を掴んだのはモノクターで、

 

「……離しなさいよ」

「嫌ですねえ!言い忘れてしまいましたが…。殺人は2人までとさせて頂きます。1人の方に何人も殺傷されると困るんですよ。楽しいことは多く味わいたいでしょう?……ということでね、彼は運良く助かりますよ」

 

「……助かる?何を言ってるの?」

「…ワタクシ耳はいいんですよ。もうあと30秒もしないうちに誰かがここに来るでしょう。早くお逃げなさい」

 

私はモノクターに追い出されるようにして幸応さんの研究教室を後にした。

心残りよ。善意はいつだって悪に邪魔されてしまうの。

 

〜水蜜優side〜

一通り話し終えると、みのりは

「以前もいたわよね。殺してオシオキされていった方達。苦しませるなんて最低よね……」

と殺すことについては何も言わずに、ただ「最低」という言葉を吐きつける。

 

「私も…そうなのかもしれないけれど….生き残りたいなんて馬鹿なこと思ってないわ。滑稽で、醜くて、不幸な人間になんてなれないのだから」

 

「とのことですけど、どうです?」

ついにモノクターはリモート画面の音声をついにオンにした。

その途端裁判場に響き渡る怒声。

 

「生きる事に意味のある“人生”を地獄だと?貴様のその目は節穴か、愚人め。

貴様は人生を、勇気を、意志を、夢を、踏み躙った愚か者だ。独り善がりな願望で他の人生を踏み躙るな、馬鹿者が!!!!」

 

「おかしいわよ…こんなのっ……」

「….……キミは最低だよ」

視と慎一は冷たい目線をみのりにむける。

 

「……何が?私はおかしくなんてない。不思議なのは貴方達の方よ。生きることを幸せだなんて誰が決めたの?」

 

「この世が生き地獄などと喚くなら、貴様一人で勝手に死ね!!!!」

優成はものすごい形相でみのりに怒鳴り散らす。

その心の中を、俺はどれだけ測れるだろうか。

 

だがみのりに声は届かない。

 

届かないんだ。

 

処刑場まで歩む途中、視線をリモート画面に向けるとこう言った。

 

「それでも私は、」

 

「あなたも連れていきたかったわ」

 

▼ダイジュジさんがクロに決まりました。オシオキを開始します。

 

(動画はTwitterを参照下さい)

 

閉廷!

 

【挿絵表示】

 

 

失われた命は戻らない。

4人が探し求めたものを縫い合わせることは出来ないし、互いの心を測ることもできない。

 

俺は裁判場を出た後、外の緑を眺める。

 

整えられた美しい緑。

 

予定調和だったのだろうか。

こうやって、秘めたものを明かせば崩れていくのだろうか。

 

中庭の柵を見つめ、俺は目を閉じた。

 

俺の意思は_______

 

Chapter 3

憶持に目瞑千寿菊 真理解明は箱庭の央へ

 

【挿絵表示】

 

 

▼黎葉幸応の遺品【髪飾り】が童部月玖に譲渡されました。

 

(裏シートはTwitterのいいね欄を参照下さい)

 


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