「………い、いのり………?」
「周防さん…………」
後ろへと倒れたいのりに、周りは恐々と声をかけるが、返事はなく。
口元から溢れた血と虚に変わった瞳で、いのりの死はもうわかっていたはずだ。
目の前で人が殺されたんだ。
さっきまで、本当にさっきまで、彼女は生きていたはずなのに。
死の瞬間を目撃したショックは、いつになってもきっと消えやしない。
「また、捜査と裁判だ」
もういい加減にしたい、とでも言いたげな憂鬱顔で慎一はヘッドフォンを押さえ、暗い顔で席を立ち上がる。
「ボク達も捜査しなきゃねえ」
椅子を元の位置に戻しながら、緒丑は言った。
「ああ」
そっといのりの死体に近づく。
「ないわね……」
「どこかこの辺に落ちてたりしてないかな」
視と月玖が、テーブルの下やいのりの死体周辺、かがみ込んでは何かを探しているのが聞こえる。
「2人してどうしたんだ?」
「周防さんのピアスが見当たらないんだよねー。忘れてきちゃったのかな」
「ピアス……?」
「ええ、いつもつけてるじゃないあの子。だからないのが気になったけど…この辺にはないみたい」
俺と緒丑の問いかけに、2人はそれぞれ不可思議そうな顔をして答えた。
確かに、思い返せばいのりはピアスをずっとつけていた。今日に限ってつけていないのは、少し不穏で不可思議だ。
「ボク、周防さんの自室見てこようかぁ?」
「ワタシも行くわ。2人はこの辺を捜査してて頂戴。あとで共有しましょ!」
そう言うと、緒丑と視はパタパタと食堂を出て行ってしまった。
まあ、1人で見に行くよりは効率もいいし、証言に使いやすいだろう。
「残されちゃったけど、どうしよっか」
「とりあえずいのりの死体をもう少し見てみるか…」
残された俺達2人の方だが、もう一度いのりの死体を観察することにした。
いのりの側には割れたティーカップが。
踏むと危ないだろうからよけてやりたいのだが、現場を片付けてしまうのは良くないのでぐっと抑える。
中身は紅茶で、液体は殆ど床に染みてしまっていた。
死体に他気になるような不自然な点はない。
「ちなみに食堂に来た順番とかってわかるか?」
「どうだろう…僕が来る前には周防さんはいなかったと思うけど。詳しい順番なら、風桐さんに聞くのが早いと思うよ」
ということで、俺達は紗環の元へ。
聞きたい内容を説明すると、紗環はすぐにパッドを取り出した。
「待って頂戴、思い出すから」
紗環はメモ画面を出すと、一人一人の名前の横に順番を書いていく。
15時前からいたのは紗環と囚、そしてその後に緒丑、月玖、優成、らいあ、薫。
15時頃に実花と春子、慎一。
少し過ぎて視が到着。
時間にルーズだったいのりは、視の後に来たようだった。そして最後が俺という順番らしい。
「ああ、でもケーキ作りを手伝ってくれたのは、いのりなのよ。その後どこに行ってたのかは知らないけど…」
「ついでに聞くけど、それ以外にこのセッティングを手伝った人間はいる?」
「ほぼ私がやったけど………………。……強いて言うなら、ケーキを運んでくれたのは神戸ね」
「緒丑が?」
「ええ、手伝うことはないか?って」
「あ、いたいた!優クン、月玖クン!」
紗環との会話の途中、視に名前を呼ばれ振り返る。
いのりの自室の捜査が終わったようだ。
俺は紗環に礼を告げると、2人の元に戻った。
「どうだった?」
「ピアスならいのりチャンの自室に置いてあったわ!」
「忘れてたのかな?」
「さぁ…それはわからないけど……」
「それで…捜査の方はどう?」
「ああ、今から2人に話すよ」
俺は捜査内容を緒丑と視に共有する。
「成る程ねぇ……」
視が一つ一つ考え込むように、頷いたその時、
「さーて!裁判のお時間ですよ!」
意気揚々としたモノクターの放送がかかった。
「行かなきゃ」
今日も、地獄の炎を焚きながら。