「俺達が見てる中での殺人か」
「一体、何があったんでしょうね」
「何にせよ、これもボク達が勝つよ」
「は、はいっ………!!」
「死因はきっと毒殺だよね?」
両隣がいなくなった中、遺影に囲まれる春子はやけに小さく感じる。
死因は毒殺。
それについて異論がある人間はいないようで、このまま話がされることとなった。
「一体、どこに毒が入っていたんでしょうか……」
「なにしろ要素は何個かあったわけだしね」
らいあは要素を指で数えるようにして考え込む。昨日から今日にかけてを思い出しているのだろうか。その様子を見て薫は更に言葉を続けた。
「でも、時間的に言えばお茶会の時だとは思うんだけどね」
「どうしてわかるの?」
「薬物保管庫だよ。あそこでは簡単に毒薬も入手できる。……即効性の毒だけが減っていたんだ」
慎一の問いに薫は声を落として言った。
「そっか。なら毒が入っていたのはケーキか紅茶のどちらかなんじゃない?」
と月玖。
その言葉に、視線を集めていったのは紗環で。
「…どちらも私なら犯行可能ね」
「決めつけるわけじゃないし、一つずつ考えていこうよ!」
実花は冷たくなりかけた場を暖めるように、笑みをたやさぬまま言った。
俺達は決して酷な人間ではない。できることなら誰も疑いたくはないが………。
…いや、まずは実花に従うとしよう。
「ケーキは?」
「勿論私も携わったけど、ケーキ作りにはいのりが隣にいたのよ」
優成に紗環は首を振る。
「それじゃケーキを運んだのは?」
次の着目点を話すのは春子。
ケーキを運んだのは………。
「緒丑だと…俺は聞いたぞ」
「う、うん……ボクで間違い無いよぉ」
おっとりとした緒丑の声が微かに震えるのがわかる。
一つ一つの可能性から疑われる感覚はあまり気持ちの良いものではないだろう。
「でも、お前は違うよな?」
「勿論だよぉ。ただ、何かお手伝いがしたくて」
と緒丑はいう。
鋭い言葉で返せるほど、緒丑は切れる人物ではない。
「緒丑ではない!」という謎の確証を突きつけられるほど、俺も弾丸を持ち合わせてるわけではない。
どう反論しようかと迷った時、声を上げたのは囚で。
「誰がどこに座るかわからない中で配るのは、危険だと思うんだ。神戸くんがケーキを配ったのは皆が座る前だろう?」
「それじゃ、ケーキに毒が入っていたというのは考えにくいな…」
俺は頭の中の図のケーキにバツをつける。
「そ、そう考えると紅茶に元から入っていたってのも考えにくいですね……」
「紅茶はいのりチャンが席についた段階で注がれてなかった?」
らいあと視が裁判場の会話を繋げていく。
「紅茶が元から入っていたポットは全員共通のはず。周防さんだけ亡くなったってことは、元々紅茶には毒なんて入っていなかったんだと思うよ」
と、薫は視に首を振った。
「あの時、西園寺が砂糖とミルクを勧めてなかったっけ?」
「ミルクだと紅茶の理論で難しいが、砂糖ならなんとかできそうな気もするな」
慎一と優成はちらりと実花を見た。
「確かに皆に勧めたよ!…でも、周防ちゃんが受け取ったかどうかは覚えてないし……私は毒を入れてなんかないよ!」
「そうだよ!砂糖にいれるなんて不確実だよっ!」
春子と否定するものの、実花の表情は曇ってしまう。
思い出そう。
幸応とディランが殺される前にいのりと話したことを。
確かいのりは…
▶︎ストレートで紅茶を飲む
甘いものが大嫌い
牛乳アレルギー
「いのりはストレートで紅茶を飲むんだ。実花から勧められても受け取らなかったはずだ」
「うん、ボクも聞いたことがあるよお」
「み、水蜜ちゃん、神戸ちゃん!」
助かった、という顔で実花がこちらを見つめる。
あの時のささやかな会話が役に立つとは。
「それなら、準備の段階で毒は仕込まれてたんじゃないか?……何か別のものに」
「15時前からいて準備ができたのは、風桐さんと緒環くんだね。緒環くんでも手を加えることはできるんじゃないかな」
と優成と月玖が言う。
「貴方の全てを肯定することはできないわ。ケーキを作り、運ぶ…それ以外の準備をしたのは私だもの」
「はは、ぼくは料理が苦手だしね」
と囚は「恥ずかしながら」と苦笑いした。
「それに緒環さんは、食堂にずっといたわけじゃないよねぇ?」
「そうなのか?」
てっきり、昼ご飯後からずっと囚が食堂にいたものだと思っていたから、俺は思わず聞き返してしまった。
「うん、2階で一度見たよぉ」
「コレクションを眺めたり、読書を一度しにね。でもすぐ食堂に戻ったよ」
2階といえば、緒丑と囚も研究教室がある。
「それじゃ、ずっと食堂にいたのは紗環だけ、ってことか」
「目の前で起こったことだし、複雑なこととかはないと思うんだけど…どうなんだろうね」
「まあね。…念の為だけど、皆は何か気になったところとか、見つかった?」
薫の言葉に相槌を打ちながら、慎一は裁判場全体を見回しながら言った。
「気になった点といえばやっぱり、いのりチャンがピアスをつけていなかったことかしらね」
そこに視が捜査時間の際に見つけたことを発言。
「そういえば、今日も服装から髪型、ネイルと頭の上から爪先まで完璧!…なのに…ピアスはしていなかったね!」
「今日…こ、殺されてしまう時に限って、してないなんて…なんだか不自然?ですね…」
春子とらいあも「たしかに」と不可思議そうな顔をした。
「それでもお昼にはピアスをしていたのを見たわね」
「自室に帰る周防ちゃんのことも見たよ!」
と紗環と実花がそれぞれいのりについて証言する。
「それじゃ、ピアスはやっぱりわざと外してきたってことなのかな」
「何故そんなタイミングで…」
「それ謎だよね……!」
囚と薫、春子は頭を悩ませ、
「どうしても、残したかったんじゃないの?あの時、あの部屋に」
「え?」
「どういうことぉ?」
慎一の言葉にらいあと緒丑は混乱し、
「彼女は自分が殺されるのを分かっていた、ということか………?」
「それとも自殺だった、とか?」
「まさか!」
優成、月玖、実花は議論を続け、
「………」
視と紗環は黙って考え込み、
裁判はぐるぐると憶測が飛び交い、まとまりを持たなくなっていく。
俺はその様子を何故か冷静に眺めていた。
サックスを吹いている時も、周りを傍観することがある。
…それと感覚が似ている気がする。
やはり……犯人は……………。
ーー!ーー
俺にはひとつだけ、思いつく可能性があった。
「なぁ、」
「…?どうしたの、水蜜さん?」
「….紗環が偽証をしていたとしたら、どうなんだ?囚のメイドである紗環なら庇ってもおかしくない」
紗環は、俺を大きな瞳で見つめた。
その瞳は、ほんの少しだけ揺らぎを見せた気がした。
「フォークを配ったのは…本当は囚なんじゃないのか?」
「…………」
黙り込んだまま。
「俺は後から来たからわからないが、本当に全てを紗環が準備していたのか?」
俺は一度紗環から目を逸らすと、誰か覚えている人物はいないかと裁判場を見渡した。
「…あ……席についてからナイフとフォークが配られて……」
慎一が声を漏らす。
「隣の席のいのりに緒環が渡したんだった」
【理論武装開始!】
「ぼくは研究教室で忙しくてね」
「2階には薬品保管庫があったわよね。ホントはそこに用があったんじゃないの?」
「紗環もぼくも嘘なんてついていないよ」
「風桐は貴様を庇っている、それは事実だ!!!」
「オホホ、それでは投票して頂きましょう」
静まり返った裁判場。モノクターがそれを気にするわけもなく、パッドには既に投票画面が表示されていた。
ーーー
「エクセレント!周防いのりサンを殺したのは緒環囚クンでした!」
「ぼくの計画は、失敗してしまったようだね」