「本当に……囚が、殺したのか」
「…そうだね。ぼくが彼女を殺したよ」
囚は周りの目をものともせず、にこやかに言う。いつもの穏やかさが、逆に狂気を感じさせるのは何故だろうか。
「きみは優秀なメイドだ。周防さんを殺す計画なんて話してなかったのに、きみはぼくを庇った。きみは素晴らしく優秀なんだ」
囚は隣の紗環を肯定しながら、目をほそめる。紗環の方はと言えば、返事もせず黙りこくり、下を向いたままで。
「この時間は真実を話す時間。そうだろう?」
囚は紗環から目を逸らすと、満足げに辺りを見渡した。
「話すよ。ぼくが、周防さんを手にかけた理由をさ」
〜緒環囚 side〜
いつのティータイムだったか。
紗環と2人で食堂にいる時に、周防さんがやってきてね。
約束のネイルをしにきた、と。
どうやら、仕事の邪魔にならないようなネイルを紗環に施すらしい。
ぼくは紗環を座らせ、彼女がネイルを施すのをじっと見ていた。
ネイルが済み、紗環が仕事に戻っても、周防さんはそこにいた。
話すこともないから、ぼくは傍ら本を読んでいたんだけど、周防さんは意外にもぼくにも声をかけてきた。
「ねぇ」
そもそもぼくと周防さん自体はそこまで仲が良いわけじゃないし、オシャレやショッピングに興味があるわけでもないから、話しかけられたのは少し驚いたかな。
「周防さん、なにかな?」
「囚はさ、紗環のこと生かしてあげたい?」
彼女が何を考えているのか、初めは読めなかった。
こんな環境下でそんなことを聞かれるとは、ぼくとしては思わなかったわけで。
「紗環かい?それはそうだね」
どんなことをしてでも。
ありがちな小説の台詞は、今吐けば重い。
けれど、ぼくの心は誰にも理解されなくていいと思えるほどには、彼女を、
愛していたんだ。
「…ふふ、じゃあ決まり。ねね、あーしのこと、殺してよ」
ぼくは少し目を見開いた。
まさか、彼女からそれを持ち掛けられるなんて思ってもいなかったから。
「…へぇ、本当にそれでいいのかい?ぼくには好都合だけど…」
彼女の内に何が秘められていたのかは理解するつもりもない。
ぼくの愛が他人に理解されないように、彼女の心情がぼくに理解できるとは言い難いだろう。
ただ一つ言えるのは、彼女はこの世を去りたがっていた。
それだけだ。
そうそう、彼女がピアスを置いていったのは、仲のいい人間が消えた中、「自分がここにいたこと」の証明にしたかったみたいだよ。
ふふ、どうでもいいけどね。
まぁ、周防さんには感謝しているよ。
利害の一致で、彼女を犠牲にここまでこれたんだから。
そこからぼくたちは被害者と犯人の不思議な共犯関係になり、今までの経緯を作った。
推理通り、毒薬をフォークに塗り彼女に手渡すだけ。
周りの風景を見つめた後、何の躊躇いもなく彼女は口に含み死んでいった。
ああ、それからもう一つ。
紗環を生かすためにぼくはモノクターと契約を結んだ。
ぼくが裁判で勝てば、紗環以外を処刑にすると。
最悪ぼくも処刑されても構わない。と言えば、モノクターは「絶望のためなら」と了承してくれたんだ。
殺人なんてそうそう起こるものではないし、モノクターからしてもぼくと周防さんの言い分は願ってもなかったんだろう。
善人の面を被っただけの、ひ弱で哀れな生き物が成せないことをぼくはやってみせる。
紗環には、ぼく以外必要ない。
だから彼女以外の人間を破滅させたって構わないでしょう?
〜水蜜優 side〜
紗環を生かすためなら、俺達全員を殺しても構わない。
それを人は狂愛と呼ぶだろう。
「ぼくはね、彼女と共にいるためならなんだってできる。きみたちを踏み台にしたとしても、ずっと手の中に置いていたいんだよ!」
「…狂ってるね」
慎一は冷たい目で囚を見るが、既に陥ったその成り様は変わることはない。
「さて。真実を話終えたことだし、そろそろオシオキの時間かな?」
「残念ですが。規則ですので」
囚が裁判台から降りた時、今まだ黙り込んでいた紗環がふと彼の手を掴んだ。
「……どうしたんだい、紗環?」
「あの、囚様………い…行かないで…下さい………紗環を…置いていかないで………」
初めて紗環が見せた悲痛そうな声だった。まだ幼い子供のような、甘い声。
「……きみはどこまでもぼくを狂わせる」
「ぼくだけの紗環。ああ、できることなら共にいたいが、きみだけを生かしておくのもそう悪くないと思うんだ!だってぼくはきみのために…」
「ずっとそうしてきたんだから!」
「…な、なんの…話でしょうか?」
震える声で紗環は聞き返す。
聞いている側の俺達も、囚が何を言っているのかわからなかった。
「君の両親はね、ぼくが殺したんだ。きみとぼくがずっと一緒にいるために、邪魔だったから」
「……え…………?」
更に、紗環の顔色は蒼白になっていく。
紗環は思わず手を引っ込めようとした。
「それじゃ紗環。一度お別れだ。ずっときみを待ってる」
囚はそんな紗環の手を掴むと囁いた。
「2人きりの、地獄で」
▼緒環囚クンがクロに決まりました。オシオキを開始します。
ーーー
「……………」
裁判場に音はなく、ただ紗環を気遣う目で溢れていた。
当の本人はは呆然と立ち尽くしたままで。
「……の……いで…………っ」
「え?」
何を呟いたのか、初めは聞こえなかった。
「お前のせいで!殺してやる………!!!!」
紗環はばっと顔を上げると、泣き叫びながら一直線に駆ける。
「まって、紗環チャン!」
視の声も届かず、
紗環はモノクターの元へ
その生まれ変わったままの首を絞めた。
「なんで私達を巻き込んだの!?なんでよ……!!紗環達の日常を、あの幸せな時間を…返して……っ!」
長い髪がモノクターの顔にかかり、俺達から見えなくなっていく。
モノクターはもがいたものの、すぐに紗環の下で動かなくなってしまった。
肩で息をしながら、紗環は気が狂ったようにずっと何かを呟いていた。
「おやまぁ、復讐劇でしょうか?ご立派ご立派、流石は超高校級のメイドでございますね」
「……!?な、なんで………」
ぬるりと現れたのは普段通り、闇に包まれたモノクターで。
モノクターは、紗環を立たせるとそのまま注射器を彼女に打ち込んだ。
「…………ぅ゛………ッ」
みるみるうちに、紗環の口から血が溢れていく。
瞬く間だった。
「犠牲の上に成り立つ命なんてクソ喰らえよ」
そう言うと紗環は目を閉じ、
息絶えた。
▼風桐紗環サンが追放されました
「ひっ…….!!!ム、ムンちゃん!!」
「…そんな………風桐さん……」
「規則違反といいましたよね?ワタクシに危害を加えるのは」
モノクターは残酷だった。
注射器を白衣にしまうと、冷たく言い放つ。
「ですがまぁ、これだから愛憎って面白いんですよね。うぷぷ」
「……紗環ちゃんに殺された…はずじゃ……」
「ワタクシは院長、この病棟の絶対的な支配者。蘇ることなど容易いのです」
モノクターは春子にそう言うと手を叩く。
「さ!終わりにしますよ!本日もお疲れ様でした!死体の処理はこちらでやりますので!」
もやもやする。
心の奥がどっしりと重くなり、何とも言えない不快感に襲われるのがわかった。
皆もそんな気持ちだったのだろう。
いのり、囚、紗環。
それぞれのこころを考えると、胸の内が苦しくなる。
同じ人間なのに、理解できない境地。
それが生んだこの結末。
重い足取りで裁判場を去ろうとする時、ポツリと実花が言った。
「でも結局、2人は一緒なんだね」
「………あら。………ワタクシどうやら、してやられましたかねぇ」
果たして、それを紗環が望んだのかは分からない。
この死は彼女の思惑通りだったのか。
真実は、紗環だけが知っている。
愛憎も厭世もいつかは命と共に消えゆく。
俺は何を抱いて生きれば、正しい、と言われるのだろうか。
ふと、ラベンダーが香った。
明日にはもう、薄まり香ることはない優しい香り。
「さよなら、紗環」
どうか彼女達に光を。
Chapter 4
お先真っ赤の夢物語 旅のお供にラベンダー
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