(非)日常編
「爽やかな朝におはようございます。皆様、講堂にお集まり下さい」
朝食を済ませた後、自室に戻り歯を磨いている時、放送は鳴った。
放送を鳴らしているのはモノクターで、何やら全員に話がある様だ。
行かなくて何かされても怖いし、と俺はすぐに講堂に向かう。
なんの話だろうか?
また、よくわからないイベントごとを計画しているのか、はたまた恐怖を与えるつもりなのか。
顔に張り付いたもやが象徴するように、いつまで経ってもモノクターは謎であった。
講堂に集まった全員は皆怪訝そうな顔、もしくは不安そうな顔をしていた。…いや、月玖だけはいつもと変わらない表情だ。
「あの放送のせいで、AP出なかったんだけど…」
と慎一はやや不機嫌そうに呟く。
「あらあら皆様お早いですねえ、素晴らしいです」
現れたモノクターはなんだかご機嫌だ。
「何の用だ」
それとは真反対のオーラを出すのは優成で。
優成は壁によりかかり、腕を組んだままモノクターをじろりと見た。
「本日はですね、皆様と個人面談を行っていきたいと思います」
「面談……ですか?」
「ええ、いわばヒアリングとやらです」
らいあは何度も経験があるのか、モノクターのヒアリングという言葉に大人しく頷いた。
「アナタと2人きりで話すことなんてないわよ」
と視は明らかに嫌そうな顔をして舌を出す。
「そんなこと言わないで下さい……ワタクシ悲しくなっちゃいます……」
シクシクと泣き真似をするモノクターに、視は更に顔を顰めた。
「でもどうしていきなり?何を話せばいいの?」
「ここは病棟ですよ、田中サン」
「病棟………?病気のことを話すの?」
「ええ、主に。まぁ、現在の病気の進行とか、そんな話です。オトモダチ関係や恋の相談でも構いませんけどねぇ!」
「現段階、殆どの方の病気の進行が早まってきています。病気で死ぬか、はたまた殺されて死ぬか。皆様全員でのご存命はないでしょうねぇ…」
「い、嫌よ…そんなの………」
視は、顰めた顔とは一転して不安げな顔をする。
「ま、とにかくお話しましょう!まずは御宮寺クンから、談話室に来てください。面談の後は講堂で待機している方を呼んでから、自由に過ごしてくださいね」
優成は10分ほどで帰ってきた。そして、視、緒丑が呼ばれていく。
どうやら面談の所要時間は1人5分から10分程度らしい。
戻った優成と視はどちらも暗い顔つきだった。
「このまま終わることはできないのかなぁ」
「今までだって、もう11人いなくなったんだ。具体的な人数は知らされていないけど…でも、9人分の薬はないような気がするよ」
「ひぇ…………ここまで生きながらえているのも……奇跡みたい…ですよね……」
もう誰かが誰かに殺されることなんて起きて欲しくない。
でも、それをやめれば……薫のように、病に侵され死んでしまう。
春子、月玖、らいあの会話を聞きながら俺はそんな“どうしようもないこと”を考えていた。
「ど、どうされましたか………?」
俺の視線に気づいたのか、らいあが首を傾げた。
「…いや、どうやったらこのコロシアイ生活を止められるのかなって」
「わかってるでしょ。ちょうどいい人数になるまで終わらないって。結局病気で死ぬ様な命なんだ」
月玖はいつもの様に感情の薄い声で言う。
「じゃあこの中にいる誰かを殺すの?殺せって言うの?」
赤光を滲ませ月玖を睨みつけたのは慎一だ。
「そうとは言ってないけど。……君、なんだか随分熱を込めるね?何か殺人に思い入れでもあったの?」
「思い入れなんてない………っ!ただ……これ以上死んで欲しくないってだけ」
「あはは、そっかぁ。じゃあ君は…ここで死にたいの?」
「こいつ……!!」
慎一は月玖の幾ら経っても焦りを見せない態度に怒りを感じたのか、今にも殴りかかりそうな顔で近寄ろうとする。
「まぁまぁ落ち着いて!一度冷静になろ!ゆっくり考えようよ!ね!」
実花は2人の間に入るように制した。
「ど、どうしたのぉ…」
ヒアリングから帰ってきた緒丑が2人を交互に見つめ、慌てた様子で言う。
緒丑はその場にいなかったため、何があったのか理解できない。
「あらあら、西園寺サン」
厭しい声を出す。
それは勿論モノクター。
「アナタこの前も喧嘩を止めていらっしゃいましたね!平和の象徴!何より何より!」
「な、何……?」
「実花ちゃんは優しくて可愛い!すごいアイドルなんだから!」
「一度冷静になろう、ゆっくり考えようだなんて、ぷぷ………」
どこか様子のおかしいモノクター。意図しない打撃で皆落ち着きを取り戻す。
「ワタクシ知ってるんですよ、アナタの秘密」
秘密_______
そう言われた実花は、「なんのこと?」と言う。しかし、その瞳には明らかな動揺が浮かんでいた。
国民的アイドル、そして明るく平和主義な実花が何を隠しているのか。
実花の口から話されるよりも先に、あの悪魔から告げられるなんて。
「偽り隠しながら、誰よりも焦燥してるアナタを」
(画像サイズの為か掲載不可でしたので、詳しくは公式Twitterをご覧ください)
モノクターは実花の後ろに回り込み、思いっきり髪を掴んだ。
長いサイドテールは消え去り、ショートカットの実花が現れる。
実花の髪はウィッグだったのだ。
「彼女はね、誰よりもここを出たがっているんですよ。そして、皆様のことをここから出るための踏み台としか思っていない」
「…それは本当なのか?」
「…………」
実花は俺の問いかけに答えない。
「見せていた超高校級のアイドルなんて偽物なんでしょう?」
「………私はここから出なきゃいけないの!早く病気を治してステージに立たなきゃいけないの!仲良しこよしで最後まで野垂れ死ぬ馬鹿になんてならない!救われない今に甘えんな!」
実花は静まり返った講堂に、叫んだ。
もう、花のような笑顔はなかった。
「…っ………自分で自分を救わなきゃ…」
実花は喉を掻くとそう呟く。
「私はもうこれ以上、待ってられない」
「実花ちゃん!!!」
そう吐き捨て、春子の言葉にも振り返らずにそのまま講堂を出て行ってしまう。
春子はへたりとその場に座り込んだ。
「どうして…実花の秘密をバラした」
俺はモノクターを問いただす。
「楽しいからですよ」
「……え?」
「楽しいからです!秘密をバラされた西園寺さんとその恐ろしい事実を知った皆様……それを見るのが楽しいんです」
「もういい」
そんな身勝手な理由で、傷をつけたのか。
「後の皆さんも続きをやりますよ!さ、次はウワサの西園寺サン…は出て行ってしまったので、田中サン!ほら早く早く!」
「…う、うん…………」
春子は後ろ髪をひかれる思いだろう。心ここにあらず。逆らえはせずに浮かない顔のまま、モノクターに着いていくのだった。
ーーー
『死体が発見されました。繰り返します、死体が発見されました。場所は厨房です。生徒はすぐに向かってください。』
翌日の朝だった。
何度目かのアナウンスは
俺達に歪みを残したままで
残酷にも、
ゲームオーバーを告げていく。