「し、んでるの……?」
大量の血液に沈む慎一に、悲しそうな顔をして立ちすくむ春子。
「君か……」
月玖は冷静に見下ろすだけで。
「…ムンちゃん……………」
らいあは誰と会話するわけでもないが、一人佇み“イマジナリー”に話しかけている。
そしてその側にいる優成は、慎一の死体を見て悔しそうに舌打ちをする。
実花や視は無言のまま既に捜査を始めていた。
「…昨日話していたばかり…だったのにねぇ……」
緒丑が慎一の死体に手を合わせながら言う。
「昨日の話が原因で殺されたり…。ありそうだな」
緒丑は辛そうな顔で頷いた。
正直、皆疲れ切っている。
どうにかして止めたいのに、またしても殺人が起こり、俺達は自分の死と天秤を揺らしながら暗い中をただ探っている。
俺は、いつまでこのまま流れていればいいんだろう。
やりたいことがあるんじゃないのか?
夢が、あるんじゃないのか?
俺はぼんやりと立ったまま、1つの微かな光を思いつく。
うまくいくかはわからない。その先のこともわからない。
でも、このまま迷うよりは進んだ方がマシだ。
「この事件が終わったら、やりたいことがあるんだ。緒丑、手伝ってくれるか?」
「……?もちろんいいけどぉ」
緒丑は唐突で中身が不透明な提案に、頷きながらも不思議そうな顔をした。
決断をしなくてはならない。
それに、実花とも話さなくては。
慎一の死の無念を晴らし、犯人に何かあったのかを知る。
そのために俺はこの事件と向き合うんだ。
「まずは捜査をしよう」
慎一の死体は、かなり無惨だった。
首元には刃物で掻っ切られたのか、大きな傷痕がある。床に染み渡るほどの大量の出血の原因はこの傷跡らしい。
「……痛そうだねぇ」
緒丑は思わずぎゅっと目を瞑った。
それにいつも顎にかけていたマスクも耳から外れ、髪も服も乱れている。
厨房の中もよく見れば、少し荒れている。
「よく見て、六瀬さんの体ぁ」
そう緒丑に言われ、慎一の体をまじまじ見ると、ところどころに切り傷やあざができていた。
「こんなの元からついてたっけぇ?」
風呂を思い出すと、慎一の体にはこのような酷い傷はついていなかった。
俺は「殺人に至るまでについた傷だと思う」と首を振った。
慎一と犯人は少しの間揉み合ったようだ。
そして慎一の遺体の側には大量の血が付着した包丁が落ちていた。慎一の首を掻っ切ったと思われる凶器、重要な証拠だが……実際に見るとかなりキツイ。
近くを見渡すと、中身が入ったままのカップが何個か放置してあり、冷たくなってしまっている。
「ちゃんと捨てておかないと…」
「あれぇ」
「…?緒丑?」
「いや、こんなのあったかなぁ〜って思ってぇ…」
それを見た緒丑が洗い場の横に乱雑に置かれたカップに首を傾げた。
「ボク、酪農の習慣で早起きなんだけどぉ、事件が起こる前の時間に厨房にきたんだぁ。早めに朝食を取ろうと思って…でもその時には厨房は綺麗だったし、このカップはなかったよぉ」
「成る程…それは何時頃だ?」
「え〜っとぉ…6時頃かなぁ」
現在時刻は7時半すぎ。
緒丑の証言によると、事件は6時より後、7時半より前に起きたようだ。
それからトラッシュルームには空の薬品瓶があった。薬品保管庫を調べてみると、中身は睡眠薬だったようだ。
隠すような感じもなく、乱雑に捨てられていたのが少し気になるところだ。
「捜査はこんなもんか?」
「うん…皆も何人かに分かれて他の場所を捜査してくれてるから大丈夫だと思うよぉ」
何度経験しても、この緊張感は消え去らない。
気持ちは初めの裁判と同じだ。
「さーて!裁判を開始致しますよ!元気よくいきましょう!」
相変わらず、逆に陰気を植え付けそうな台詞を吐くモノクターに、俺達は無言で従いながら裁判場へ向かった。