「……失望だ」
優成は疲れたような顔で視を見ていた。
視といえば、確かに多少お金にがめついイメージはあるが、人を殺すような冷酷さがあるとは思えなかった。
「ワタシだって失望したわ」
視も同じ、疲れたような顔でぽつりと言った。
「…失望?君は人を殺して失望したの?」
月玖は首を傾げた。
「違う。あの時、モノクターに病気の進行具合を聞いたから、失望したの」
「……此処に来てからずっと殺人を犯すつもりなんてなかったのよ。コロシアイなんて馬鹿馬鹿しいとしか思ってなかった。でも……」
視は語り出す。
水晶玉には決して映らない心の内を。
〜陰明寺視 side〜
モノクターとの個人面談があったでしょう?
ワタシはそこで初めて、自分の病気がどれだけ進行しているか、その事実を知ったわ。
「ふーむ。陰明寺さんもおんなじです!手を打たなければ楽々死んでいくでしょうねぇ」
わかっていた事なのに目の前が真っ暗になった。
優クンに忠告するよりも先に自分の安寧を見ておくべきだった。
薫クンの死で何より現実は見えていたはずじゃない。
「殺しますか?!ねぇ、殺しますか?」
「馬鹿よ、アナタ」
……馬鹿はワタシだったのかもしれない。
生きたい。
生きてさえいれば。
お金さえ稼げれば。
返せさえすれば。
幸せなあの頃に戻れるんだと。
自分の末を視たその時、他人を犠牲にしてまで助かりたいと思ったの。
動機は?と聞かれて答えるなら「病気の進行を止めたかった」が正解なんでしょうね。
だからワタシはとりあえず誰かを眠らせようとしたの。そのための睡眠薬だった。
人生って不遇よね。
そして偶然ってあまりに酷だわ。
「……何してるの」
「……ぇ……?」
「…まさか、人殺しの計画でも立ててるわけ?」
習慣をこなそうとカプチーノを飲みに来た慎一クンとばったり鉢合わせしてしまったの。
睡眠薬の瓶を見られたワタシに、弁解の手なんて思いつかなかった。
ワタシは咄嗟に側にあった包丁で慎一クンの首を掻っ切った。
小柄な彼を殺害するのにそう時間は掛からなかった。
想定していなかった赤い液体が視界で一杯になるの。
やっと満たされる身体にワタシは多少の恐怖をも感じていた。
もう後戻りなんてできやしない。
ワタシは裁判での推理通り、睡眠薬を捨て返り血を処理するためにランドリーに行ったわ。
焦燥はワタシを追い詰めていく。
ずっと今も。
〜水蜜優 side〜
そう語った視の表情はどんどん弱気になっている気がした。
「君はそれで何を感じたの?」
相変わらず月玖は興味ありげに質問を続けている。
「彼を殺して初めに感じたのはどうしようもない喉の渇きだったわ」
「どういうこと………?病気の進行を止めるために、とか言っていたけど……」
春子は疑問の目を向けた。視の発言に疑問を持っていた数人も同じような目を向けている。
「………ワタシは慎一くんの血を啜ったの。溢れる血液を両手で掬ってね。そうでもしなきゃ、死にそうだった。……病気に関連してるのよ」
視は観念したように話す。
血を拝借すればよかったものの、結果殺害にまで至ってしまったという訳らしい。
「六瀬くんに何か思うことはある?懺悔の気持ちとか?」
「もうやめてください………っ!やめて……やめてください…………」
月玖の容赦ない質問に居た堪れなくなったのか、今まで黙っていたらいあがそれを遮る。
それっきり肩を震わせては俯くらいあに、流石の月玖も視への質問をやめた。
春子は、裁判台から不安げにらいあを見つめている。
「……謝罪できるならしてるわよ」
視は弱々しげに言った。いつもみたいに言い返したり、強気な態度を取ったりなんてしなかった。
「…もういい」
実花は強い瞳で視を睨んでは首を横に振る。
「……ええ。ワタシももういいわ」
「意外と終わりは大人しいんですね〜〜〜!泣き叫んだりしてもいいのに!」
「生憎、此処で泣いたりなんてしないわ」
「…フフ、分かりました、オシオキに参りましょうか」
モノクターは視を値踏みするようにオシオキ執行を告げた。
▼陰明寺視サンがクロに決まりました。オシオキを開始します。
(動画はTwitterを参照下さい。)
あぁ、見えなくなっていく。
視が悪戯な顔で笑うことはもう無い。
「………」
緒丑は苦しげに、視がいたはずの裁判台を見つめている。
気づけば、裁判場は遺影だらけとなってしまった。
哀哭、雨生、千年、冴香、幸応、ディラン、みのり、いのり、囚、紗環、薫、慎一。
皆のモノクロの写真は、何も言わずにずっと立ち続けている。
「なぁ、緒丑」
「水蜜さん…?…前言ってたことを話してくれるのぉ?」
「ああ」
「終わらせよう。俺達で」
覚悟の最終章はすぐそこに。
Chapter 6
足掻いて噛まれてニューゲーム
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