「……此処から出られるなら、なんだってやるわよ」
「一緒ならぜーったいできるよね!」
「ど、どんな結末だとしても………!がんばります…から!」
「………やるなら早急に、だ」
「そうだね、御宮寺くん」
「……始めよう、皆」
「…本当に神戸くんは死んじゃったんだ」
月玖は何よりも先に緒丑のことを出す。その顔は、緒丑の場所だったはずの裁判台に立つ遺影写真に向けられていた。
「モノクターさんから『神戸さんが亡くなってしまった』とだけ……しか聞いてなくて………今でも…信じられません………」
らいあは血の気のない顔で首を振った。
「一体、何があったわけ?あいつが誰かに殺されての裁判ってワケじゃないんでしょ?」
実花に言われ、俺は緒丑が死んでしまった経緯を話す。
一つ一つの光景は鮮明すぎて、あまり上手く言葉にならなかったかもしれない。
それでも春子やらいあは痛々しく悲しそうに、実花と優成と月玖は黙って最後まで聞いてくれた。
「……そうだったんだ………緒丑くんは、真実を見つける為に………」
「…………神戸が。そうか」
皆が一度、緒丑の遺影に向かい黙祷を捧げる。
遺影に被さった蛍光ピンクで殆ど見えない顔はうっすらと、幸せそうに笑っていた。
「…それで………く、黒幕さんが…わかった、って……」
らいあは震える声で沈黙を切った。
「あぁ。捜査時間の間、ヒントからたどり着いたんだ。……今から話す」
俺の言葉に、全員の顔に緊張が走る。…それは無論俺も同じであるが。
緊張と恐怖を悟られないよう、俺は深く息を吸い込んだ。
「モノクターのなぞなぞ、覚えてるか?」
「ああ。裏返せば裏返すほど終わりに近づき、小さな世界で創るもの、だったか」
優成はあの時のなぞなぞを一言一句間違わず述べる。
「…導き出した答えで、俺は図書館へたどり着いたんだ。そしてディランのメモの正体は図書室の隠し扉の場所と資料のフォルダ名。…走り書きの上にあいつは外国人特有の文字を書く。だから初めはなんて書いてあるかわからなかったけれど…、それは中の資料部屋の『1-04』というフォルダを示していたんだ」
俺はそこで言葉を区切る。
「それで、」と話の続きを聞きたげに、全員がこちらを見ているのを感じていた。
言わなきゃ。言わなきゃ。
「フォルダの中身は超高校級の絵本作家 御伽月羽についてだ。5年前もここで同じ事件が起こっていたんだ。それになぞなぞの答えは『絵本』ではなく『絵本作家』だったんだと思う。……モノクターが本当にヒントを告げたのなら、絵本作家の関係者が黒幕なんじゃないかって」
俺はあの資料に映っていた内気そうな少女を思い出す。御伽月羽はどことなく、彼に似ていた。
「黒幕とは、お前のことだ。月玖!」
未だ開くことのない目は何も読ませてはくれない。
月玖は暫く黙っていたが、やがて露骨に嫌な顔をして口を開いた。
「…御伽月羽の話を出されるのは嫌いなんだ」
しかし、
「だけど惚れ惚れしちゃうね。……ふふ、僕が黒幕でした〜なんて」
月玖が告白した瞬間、裁判場がゴゴゴ…と重厚的な音を鳴らし、壁が崩れていく。瞬く間に景観はまるで結婚式場のような厳かかつ華やかな様子に丸変わりした。
「…!?か、変わった…!?マジック?!」
春子は片腕で目を擦る典型的なリアクションをしてみせた。
「素敵な演出だろう?…それで?君は何を言うの?何を…見せてくれるの?」
焦った様子など、ない。それどころか恍惚としている。俺が話す一言一句に嬉しそうに震えている。
「……それだけじゃない。内通者がいるはずなんだ。この施設を維持したり、仕掛けを用意したり……到底1人だけの力では成り立たない」
これは裁判の直前、以前のことを思い出した春子から言われたことだが……。月玖はこれさえも愉快そうに聞いていた。
「内通者は………」
「らいあ。お前なんだろう?」
「わ、わっ、わたしですか!?……どうして……どうしてそんなこと言うんですか!信じてくれるって……たしかに、言ったじゃないですか…」
らいあはフルフルと首を振り、必死に否定していた。
まるで俺が間違っているかのようだった。
「わたしじゃ…わたしじゃありません………!信じて!わたしの魔法を!」
【理論武装開始!】
「嘘なんてついてません…!わたし本当に魔法少女なんです」
「魔法なんてあるわけない。そこにあるのは嘘だけよ」
「内通者じゃありません…!信じてください」
「…ごめんね、らいあちゃん。………らいあちゃんが内通者、なんだよね?だって、らいあちゃんは…自分から病棟内を歩き回らないのに……手術室に鍵がかかっていること、メスが手術室にしかないことを…月玖くんと一生に知ってた」
【Break!】
「本当に………わたしじゃ…………」
その時、ぷつりと何かが切れた感覚があった。
「……………」
らいあは下を向いたまま。
「……ふ、ふふ……ふふふ………」
やがて肩を震わせ乾いた笑いを漏らす。拍手を交えながら!
「……そうだ。“夢鳥姫らいあ”こそ、内通者。いわば裏切り者さ」
「…ら、らいあ………ちゃん………親友だって…言ってくれたのに………本当に内通者…だったんだ…」
「なんとも思ってないんだよ。彼女もまたキャラクターのうちの1人にしか過ぎないかもしれないからね」
春子の切なそうな言葉に、らいあは冷たく返す。
「…今までずっと騙していたんだな、俺達のことを」
俺はらいあにそう言った。今までのらいあの全てが演技なのだと、その事実がどうしようもなく悲しいと思ったから。………否、夢鳥姫らいあとは何者なのか、今となってはわからない。
「ああ、騙した?騙してなんか居ないんだよ。君達が魔法少女を殺しただけで、あのこもわたしも限りなく夢鳥姫らいあであり、夢鳥姫らいあではないんだよ。本当の自分なんてどこにある?本当なんてどこにある?全て真実全て虚構。わたしたちは夢」
らいあは虚とした言葉を紡ぎ出す。
あの時の小さな花のような笑顔はもうどこにもなかった。
「まぁ、バレてしまっては仕方ないさ。進めよう、次の夢が始まるまで」
「そうだね、夢鳥姫さん。僕はね、君たちのもっと絶望する顔が見たいんだ。…だから、こんなことも教えちゃうね」
「そこでただ話を聞いている、御宮寺優成も内通者だよ」
「……失望したんだ、その全てにな」
「………え?」
予想だにしていなかった事実に、思わず声が漏れる。
「正確には『内通者になった』と言えばいいかな?彼はこのコロシアイ病棟生活中に、こちらに転んだんだよね」
「…ああ。馬鹿共の茶番劇には付き合ってられない。薬も、何も要らない。もう散々だ。……西園寺も同じだと思ったがな」
「………は?黙れよ。一緒にすんな」
「生きたいとか、希望とか、しょうもないんだよ。そんなことをぼやきながら、今まで何人が死んだと思っているんだ?絶望なんだ……生きていても絶望しか起こらない」
希望について語った彼等を思い出せば、優成の言葉は残酷なもの極まりない。
……優成が絶望側にいるとは思っていなかった。誤算だった。
6人中3人が絶望側。
俺、実花、春子はただ月玖の言葉を待つしかできない。
数ではないことは分かっているが、それはあまりにも俺たちにとって信じがたいことだった。
「夢鳥姫さんとはこのコロシアイ病棟生活前に出会っていた。夢想家は二つ返事で承諾してくれたよ」
「面白そうだからね。手伝うことにしたんだ。たまにはこんなことも必要だろう?」
「絶望ってわかるかな」
月玖は俺達に言う。
「あの感情はね、何と表していいかわからない。感情がどうしようもなく揺れ動くんだ。ああ、たまらないんだよ。是非もう一度味わいたい…君達にもそれを味わせてあげたいんだ。命の限りを強調することで、僕自身も感情の動きを感じることができる。なんて…なんて、幸福なんだろう!」
「僕は過去に絶望したことをきっかけに、御伽月羽について調べていた。……彼女が……全て引き金だったとでも言える。いや、何でもないよ。………そうしてこの場所と5年前のコロシアイにたどり着いた。あの時の感動は忘れられないよ!5年前と同じようなことを起こそうと思った。コロシアイに魅入られたんだ」
「過去のコロシアイ生還者の研究室に爆発物を仕込み、少しばかり特効薬を奪ってきた。おかげで世界でも供給は遅れてきてるみたいでさ………ふふふ、楽しいよねぇ。皆が絶望してる」
「あの時と同じ様な流行り病の患者を集めて、コロシアイ病棟生活をプランニングしたんだよ。結婚式とは真逆だけど、結婚式よりもより大きな感情の動きが見れる」
「……彼は絶望中毒だね。わたしが資金を提供するのもわかるだろう?」
「もっと絶望して欲しいんだ!絶望してくれるよね?できるよね?君たちなら!!御宮寺くんのように、全てを捨てれる様な、掃き溜めみたいな目をして………膝から崩れ落ち、眼から光を消して!絶望して欲しいんだ」
「さぁ、魅せてくれ。夢の続きを」
月玖とらいあは俺達に絶望を迫る。
俺は2人の燻んだ眼を見つめた後、裁判台の上で立ち尽くす優成を見た。
彼は未だ何も言わないが、その一瞬こちらを見た。
目が合う。
優成は、確かに頷いたんだ。
その目には何故か、光が灯っていた。
花も夢もいつかは枯れるかもしれない。
それでも_______
ただひたすらに歩んできたはずだろう?
「この生活で生まれたのは絶望だけじゃない!仲間と過ごした時間は、俺を少しだけ変えてくれた。そんな時間にお前達の言う絶望なんてしない!俺は希望を選ぶ!」
「進めるはずだよな?実花、春子!」
俺は2人に力強く問いた。
「…当たり前じゃない。アタシよ?」
強い意志の彼女は口を開く。
「アタシ、別にこんな事じゃ折れないの。アイドルってそういうもんじゃない?ウジウジしてらんないの、馬鹿にしないで」
更に朗らかな彼女も口を開く。
「わたしは、みんなを笑顔にするのが仕事だから…絶望なんてしない!わたしは、わたしの道を行くの。…じゃないと死んだみんなにしめしが…つかないでしょ…?…だから、希望を選ぶ!」
「……つまらない……つまらない…つまらないな………っ。これじゃ、あの感覚を忘れてしまう……」
月玖は初めて焦燥の顔を見せた。
「…それから、ここで別れを告げさせてもらう。童部、夢鳥姫」
「………どういうこと?」
優成はそんな月玖を一瞥すると、言った。
「……俺は元々そちらに堕ちたりなどしていない。ずっとそちらの動向を探り、潜り込んで得た情報と通信手段から、国へ連絡させてもらった。貴様達の誤算は、俺達の意思を甘く見ていたことだ。希望は絶望の前で、屈したりはしない。何故なら、それが希望だからだ」
「…全て…嘘だったの?」
「嘘とは都合のいい夢で、決して存在しない悪夢だ」
「…夢は、叶うから夢だ。
紛い物であれ、夢を願うからそれは“魔法”になって、奇跡に、“希望”になる。
だから、俺はそれを叶える為に“裏切る”。俺は、希望を諦めない。
俺は、夢を叶えよう。そうして、前に進もう。」
「じきに…国や研究所の連中が迎えに来るだろう」
「…思っていたよりもつまらなかったな、その計画。…どうやら、わたしたちはまた次の夢を見なくてはならないみたいだ」
優成がそう言うと、らいあは目を閉じた。
「……わたしたち、お友達…ずっと、ずっと親友だから!…決して、あなたが嫌いなわけじ
ゃないんだ。そこだけは…覚えててね」
「………」
“らいあ”は、春子の言葉に何を思ったのだろう。
淡い天使は消えていく。
▼夢鳥姫らいあサンが内通者に決まりました。オシオキを開始します。
「は…はは……ははは」
月玖はらいあのオシオキを見届けた後、膝をつくと、ただ「つまらない」と吐き捨てた。
「……お前の感情は絶望以外でもきっと揺れ動けた…筈だろう?」
「………」
彼もまた何を思ったのだろう。
▼童部月玖クンが黒幕に決まりました。オシオキを開始します。
(オシオキ動画は公式Twitterを参照ください)
…童部月玖という人間がどこまでプランニングしていたのかは本人以外知る由もない。
「あら、ついにエンディング、と……皆様お疲れ様でした」
血痕を器用に避け、いつのまにかモノクターが現れる。
「つまらないですよね。黒幕も内通者も何も感じることができない。彼らこそ1番つまらない生き物なんだと…ワタクシは思いますがね」
そんなことない、と俺は否定するが、モノクターは無い首を振った。
「あなたは…?どうするの?」
春子は身長差のあるモノクターを見上げた。
「ワタクシは休業してのんびりバカンスでも楽しみますかねぇ」
「させないぞ、待て!」
俺はモノクターを引き留めようとする。
「ワタクシは院長。童部クンが死んだ今、それ以上でもそれ以下でもありません。面倒ごとは御免ですので、ワタクシはここでどろんさせて頂きます…ああ、ワタクシ約束は守りますのでね。研究所の方も大分復旧されてるでしょう」
そう言いながら手渡されたのは人数分の薬。
「……貴様は何者だ?」
「最後まで解けない謎があってもいいでしょう?わかったら、またこの病棟に訪れてくれてもいいんですよ?」
…2度と来ないだろう。
そしてその後本当に、モノクターは姿を消してしまった。
幻想のように、薄い雲のように。
あんなにも残忍な記憶を擦り付けられたはずなのに、モノクターという存在が本当にあったのか。そう言われると確証はない。
薬を手にした俺達は、数時間ほど病棟内を歩き回った。
そうして迎えがきたのだ。
現れた男女4人は「よく抗った」と涙を流して俺達を讃えた。
俺達は暫く国から質問を受けると、一度自宅に戻る様解放された。休養してから国の人間が訪問してくれるらしい。勿論必要であれば付き添うと言われたが、俺達は問題ない、と言い、遂に病棟を出た。
「……外だ!」
春子は目を輝かせ、本物の外の空気を思いっきり吸った。
あれほど願った外は、夕暮れに染まっていた。呑気な鴉の鳴き声も聞こえる。
「…それじゃあ…」
「別れの時間だ」
何週間にも渡ったコロシアイ生活を共に生き抜いた仲間との別れ。
「あぁ。今後も命運を祈る」
優成は真っ直ぐに全員の目を見つめ頷くと、凛々しい姿勢のまま立ち去る。振り返ることはしなかった。
「帰ろ、はるちゃん。もやし炒めじゃなくてさ、今日はアタシが作るから…スーパー寄ってこ。……じゃ、これで」
「うわ〜〜!幸せすぎるよ!帰ろう!帰ろう、実花ちゃん!じゃあね!優くん!」
春子が大きく手を振り、2人は並んで沈む日の中に消えていく。
「……俺も帰らなくちゃな」
俺はそう呟くと、サックスを背負って足を前に出した。
幾多に別れた道を俺達はそれぞれ進んでいく。
変わったもの、変わらないもの、それら全てを受け入れながら、感情の全ても向き合って、一歩ずつ確かに踏み出していくのだ。
Chapter 7
選択の時、君は光差す場所へ
俺は楽団に身を置くことをやめ、誰一人知り合いのいない地で一人活動を続けていた。
生き方の正しさなんて誰にも分からないんだろう。
これでいいのか、と問えば、今はきっと大丈夫だって言われてるような気がして。それでいいんだと思える自分もいて。
振り返れば、いつでも光はそこにある。そしてその先にだって。
俺はサックスに息を吹き込んだ。
それは高らかな音を上げて、幸せだと告げた。
Epilogue
そして未来に
(ED動画、7章組裏CSは公式Twitterを参照ください)