奇妙な夜だった。
俺達は夜ご飯の後、なんとなく食堂で駄弁っていただけだった。
「…って、こういうワケだったの!」
「はは、面白いなぁ」
視と月玖の会話を聞きながら、俺はそろそろ皿を片付けようと立ち上がる。
「皆様、まだいらっしゃったのですね?」
そこに現れたのはモノクター。普段の雰囲気に緊張感がないといえばそうなのだが、今日のあいつはどこか違った。なんとなく、そう感じた。
「…やはりぜんっぜんコロシアイなんて起きませんね……」
モノクターは苛立ったような、どうしようもないような、そんな声色だった。
俺達が一向にコロシアイをしないことに腹を立てているようだった。
「………当たり前だろ」
「むむ……なら3日以内に殺人が起きなかった場合、皆殺し!でどうでしょう……ぷぷ」
「はぁ!?」
「ふぅん、それは困りましたねェ」
俺はモノクターの発言に身じろぎする。
隣にいた哀哭はジロリとモノクターを見つめた。
そして俺達は一瞬だけお互いの顔を見合わす。
「…ないよね?」
誰も何も言葉を発しない。何を考えているのだろう。「おやすみ」とだけ残して1人また1人、消えていくのだった。
次の日はいつも通りにやってきて、俺達はまたいつも通りの様子に戻っていたが、俺はこの時の奇妙な感覚を忘れないだろう。
ーーー
「ねえねえいい匂いがするよ〜!なにかな、ハンバーグかな!」
「そうじゃない?美味しそうな匂いね」
「なあローマン、ディラン!オ、オレのアロマ知らね〜!?1個ねえんだけど!」
「知らないっす!物の管理はちゃんとしないとだめっすよ〜!」
「俺も見てないなあ。どこかに落としちゃった?後で探そうか」
「悪いな〜!!捜索頼むぜ!」
「珍しいね!夢鳥姫ちゃんが食堂にいるなんて!」
「ひゃ!?西園寺さん!?はっ、はい……、か、風桐…さんがわざわざ、作ってくださる、って…………いうので…申し訳なくて………」
ガヤガヤと賑わうここは食堂。
「さて、夜ご飯にしたいのだけど、1人足りないわね」
紗環はグルリと全体を見渡すとため息をついた。
食堂には3種類のメニューが日替わりでいつもあるが、「メイド云々の前に紗環が作った方が効率がいいもの」とのことで今日から紗環が夜ご飯を作ってくれることになっていた。
折角あたたかいのに、と紗環は不服そうな声を漏らす。
「どこに、いったんだろう………」
「夜ご飯の時間の放送は鳴らしてもらったから、知ってはいると思うけどぉ……」
「探しに行ってあげたほうがいいかもしれないね」
幸応と緒丑の会話を聞いていた薫がそう提案する。
夜ご飯の時間は当日の昼過ぎ、紗環が放送していた。だから時間を知らなかったということはありえない。何もなければいいのだが…。
俺はモノクターのあの日の言葉と、一瞬だけ見せた皆の戸惑いを思い出した後、すぐに嫌な考えを振り払った。
「そしたらさ、オレが見つけようか?アイツの匂いバッチリ覚えてるから辿るの余裕だし!」
「そうね、悪いけれどお願いしてもいいかしら?」
「まかせろって!普段アンタには世話になってるからな!」
それに手を挙げたのは雨生。紗環は申し訳なさそうに頭を下げた。
「じゃあ皆で探しに行こー!!!」
「皆で?はは、非効率的だけど…面白いからいっか」
冴香の一言により何故か皆で捜索することになったが、紗環だけが食堂に残り夜ご飯の支度を続けるようだ。
「くんくん……こっちだぜ!」
雨生が先頭に立って皆を引き連れる。一同は食堂を出て本棟へ向かう。そのまま左へ曲がると行き着いた場所は…
「…倉庫?」
ガラクタから生活に必要なものまで、大概なんでも揃う所_______倉庫だった。
「何か探し物でもしてるのかな」
ディランは怪訝そうに言う。
「夜ご飯前にわざわざかい?」
同じく怪訝そうにコンクリートの扉を見つめる囚。
「ま、なんでもいいっしょ。中、入ろ」
いのりは顎で扉を指した。
一同はゾロゾロと適当に列をなしながら、中へと進んでいく。どうでもいい話だが、この倉庫は中々に広く、目的は見つからないことが多い。
しばらく進んだ後、ピタリと列が止まった。
「ちょっと!いきなり止まらないで頂戴!」
文句を言うみのりの声が聞こえる。
「………だって、…___が!」
よく聞こえなかった。
だから俺は歩みを進めて、前を歩いていた奴らの視線の先を突き止めようとした。
「………え?」
視界をそれがただ鮮明に埋めていく。
刹那、鳴り響くアナウンス。
それは呆然と立ち尽くす俺達に在る現実を告げていく。
『死体が発見されました。繰り返します、死体が発見されました。場所は倉庫です。生徒はすぐに向かってください。』
バンシーに洗われたか、はたまた此処にいる人間に殺されたのか。
「…嘘、だろ……」
その涙は枯れ果てて。