「…嘘ではないぞ、少年」
弔宮哀哭は、たしかに、死んでしまっていた。
それはつまり、この中の誰かが彼女を殺したということになる。信じたくはないが、「嘘ではない」という千年の言葉が深くのしかかる。
「死体が発見されました…って何があったの…?」
その時、アナウンスを聞いて急いで向かってきたのか、焦ったような表情の紗環が倉庫に合流する。
「まさか本当に死んでなんかいないわよね?」
「……残念だけど………哀哭ちゃんが亡くなっているんだ」
薫は悲しそうに首を振った。
「あらあらあら!ついに死体が現れてしまいましたね
「……モノクター…」
いつ現れたのだろう。気づけば後ろにやけに嬉しそうなモノクターが立っていた。
「ここにいる誰かが殺したっていうの…?」
「さあ?その真実は裁判で見つけなければなりませんよ。NOT他力本願でございます」
慎一の問いに答えは出さず、モノクターは人差し指を慎一の唇に当てた。
「さて、死体発見をしてしまったのなら捜査をしなくてはなりません。ある程度皆様が捜査をしたら裁判を始めますよ。中庭のエレベーターから地下に下がってくださいね。間違ってもサボりなんてしないように。もしも私用もしくは私への嫌がらせで欠席したら…。どうなるかわかってますね?」
みのりはビクリと体を震わせた。
「鍵のかかっていない部屋なら、どこを捜査して頂いても構いませんよ。それではまた裁判で」
そういう時モノクターはわざとらしくカツカツと靴を鳴らし、どこかへと消えて行った。
俺達に捜査をしろ、と伝えたかったようだ。捜査と言われてもその手には全くの素人。命がかかっているため尚更不安だった。
周りが少しずつ捜査に向かう中、俺は未だ動けないでいた。
「水蜜少年」
そんな中隣から声をかけてきたのは千年だった。
「1人で道に迷うより、2人で迷った方が色んな道を見つけられる。昔三上が演じた役の台詞だ」
千年は上向きがちに言う。
それが何を示唆しているのか、千年の人間性と共に、なんとなくわかった気がした。
「困ったのなら周りに助けを求めればいい。何も、1人で躓く必要はないのだよ。…三上達は人間なのだから」
「俺達は人間、か。…ありがとう、じゃあ一緒に捜査してくれるか?」
「勿論だ、少年!!」
千年は嬉しそうに笑った。
「…まずは、周辺の状況を見てみるか」
哀哭の死体周辺は物が散乱していた。
床には一箇所だけ、刃物か何かで傷つけられた痕もある。
「争いが起きたのだろうか…」
哀哭は物を散乱させたり大声を出したり、そんな風に争うような人物には見えなかったが…。この荒れようは何らかの争いがあったに違いない。
もしかすると哀哭が抵抗をした跡なのかもしれないとも思いつつ、俺は死体と化した身体に目を向けた。
身体には数箇所にわたる刺し傷が。
「酷いな…痛かっただろうに」
千年は目を伏せ、合掌した。
「あとは………この傷をつけた凶器だな」
俺の発言に頷くと、千年は自信満々に辺りを見渡して言う。
「水蜜少年よ」
「……?」
「凶器となるものを見つけたいのだが…………ないな!!」
…先程の頼れそうな雰囲気はどこへ行ったのだろう。
しかし、俺達がいくら探しても凶器は見つからなかった。
念の為病棟の隅々まで手分けして探したのだが…。それでも見つからなかったのだ。
それから哀哭の自室にも一応足を踏み入れさせて貰ったが、誰かに呼び出されたようなメモといった目星い証拠は見つからなかった。
「倉庫の奥でばったり…なんて偶然はあまり考えにくいから…てっきり呼び出されたのかと思ったが…メモなどには残されていないな」
「口頭で伝えた…とか?」
「あり得るな!仲の良い人物なら…不自然でもないし…むむ………しかし、弔宮少女に話しかけた人物は1人や2人ではないだろう…」
俺達が考え込み始めた時、放送が鳴った。
「そろそろ裁判にうつりますよ。皆様、移動をしてくださいね」
モノクターから裁判へと進むように指示が渡される。
「裁判…か」
俺は思わずつぶやく。
これに失敗したら、俺の命は……。
「不安か?」
「ああ、…まぁ」
「皆でなら掴めるさ」
千年は俺を奮い立たそうとそう言う。そう、信じたいのだが。
しかし凶器は見つからないし、それから………
漂うあの匂いに不安を覚えながらも、初めての学級裁判へと足を踏み入れていくのだった。