暫くの沈黙が続いた。
悲しさが先に出て、何も言葉にはならない。
「どうして」
視はその末呟いてドンと裁判台を叩く。
「さめぎ、くん…!なんで、どうしてだよ。どうして…君が…!」
幸応はショックでいっぱいの様で、必死に裁判台の向こうから問いかける。
「まあ急かすなよ。ゆっくり、真実を話してやるからさ」
雨生はただ笑いも泣きもせずに言った。
〜安心院雨生side〜
昨日の夜、オレは弔宮に呼び出されたんだ。
オレから呼び出したんじゃないんだぜ?……こんなところで嘘ついてももうどうにもならないだろ。
弔宮からは嗅いだことのない金属の匂いが掠めていた。
まさか、とは思っていた。でも………
でも最後まで信じていたんだ!
「急に呼び出してすみません。わざわざありがとうございます」
倉庫の奥、弔宮はあの作り笑いを浮かべていた。
「いーけどさ、何の用だ?」
「ええ、すぐ終わりますわ。………妾と皆さんの為……………犠牲になってくださるか知らん?」
弔宮は間髪入れずにナイフを振りかざした。
……嗚呼。
オレは思わず横に避けた。
ヒュッと俺の腕をかするナイフ。
殺されるという感覚。
もうそこからは本能だったと思う。
ハッキリとした明確な殺意。
生きることへの執着が、オレを動かした。
オレは弔宮の手からナイフを奪った。
ナイフは床を滑って離れていく。
少しの間だけ争いが続いたが、流石にオレだって男だ。細い弔宮を抑え込むのは難しいことじゃない。
抑え込まれた時、弔宮の長い黒髪は乱れて、目には若干の恐怖が浮かんでいた。
…さっきまでのオレの顔と一緒だ。
ナイフは遠いし、少し目を離せば形勢が逆転してしまうかもしれない。
カバンの中にはアロマ。……過度な摂取は死ぬと昔覚えた。
そこでオレは弔宮の顎を掴むと思いっきり口内にアロマを流し込んだ。
アロマで口内が溢れかえり、飲まざるをえないところまで来た時、やっと弔宮は倒れ込んだ。もう立ち上がる気配もなく、ここまできたら勝敗は目に見えていた。
オレは瓶を処理し、自分の傷を軽く手当てしながら聞いた。
「どうして…オレを殺そうとした?」
「……モノクター、言ったじゃないですかァ。3日以内に殺人が起こらなければ、皆殺しだって」
「死ぬのは妾も御免なんだよ。だから妾が行動に移してやろうと思った…何なら裁判切り抜けて特効薬を手に入れられたのなら…万々歳ってやつだろ?……貴方を狙ったのは、貴方がそこそこ友好的だったからですよ」
「…くだらね」
オレはそう吐き捨てて、側に落ちていた刃物で弱りきった弔宮の身体を数回刺した。
何回刺せば死ぬのか、わからなかった。
「後はお好きにどうぞ」
それは諦観。
そして、
(この妾を殺したんですもの。精々頑張って生き残ってください)
そう言って、弔宮は事切れたんだ。
オレは弔宮の涙を拭うと、カバンにアロマと刃物をしまって、倉庫を出て行った。争った時にできた傷が痛んだよ。まさか、その姿を見られているとはな…。
〜水蜜優side〜
「わかったかよ?弔宮を殺したのは、単純にオレが殺されかけたから。仮にも友達になった相手を簡単に殺せるような酷いやつなんだよ」
雨生は救いを求める様な目で俺達を見つめた。「お前は悪くないよ」と言ってくれとばかりに。
「…本当に……哀哭ちゃんが?」
薫はまさか、というような顔で首を振る。しかし、雨生の話したことはおそらく事実なのだろう。
全てが覆ることはない真実。
「…違う!オレのことだ!だってオレ、弔宮のことだけじゃなくてアンタらのこともきっと殺せる。今のオレにとってはアンタらなんて他人同然なんだよ!他人を殺すのに躊躇なんてないし、そこに罪悪感もない。此処にオレと仲の良いやつなんていやしない、オレがオレである以上はこの先一生…それこそ死ぬまで出来もしない!」
「………」
そんな雨生をいのりも、視も、月玖も、見つめるだけ。それだけ。
それにどれだけの感情が詰まっているか!
だがこれも、きっと真実。
ああ、何も返してあげれる言葉がない。
雨生の叫びよりも大きな声を出すことも、そうして雨生を動かすことも無責任にはできない。待つべきものはもう、お互いにわかっていたはずだから。
「貴様自身を見失うな!」
優成は構わず雨生に怒鳴りつけた。
心の底から怒りを感じている様だった。
「……ロ、ローマンくん…………」
優成は雨生を睨みつけ、その中ディランは2人を交互に見つめるだけ。
「……オレ、ひとりぼっちは嫌いなんだ。うさぎは寂しいと死んじゃうんだぜ?……なんて、遅いかな。もう、みんなはさ、オレのこと嫌いになっちゃった?」
「…俺は、お前と友達になれてよかった、と思ってるよ」
「うーん………友達、ってことだけは変わらないと思うよぉ」
「……アロマ…ありがとうございました………あのっ、ほんとうに…うれしかった…です」
俺と緒丑、らいあは口々に言った。
雨生は一度下を向くと、何かを呟いた。けれどそれは俺達の耳に届くことはなく。
___それでも、俺達の声は雨生に届いたのだろうか。
「モノクター。これを預かっててくれねえか?」
「ええ、構いませんよ」
モノクターに鞄ごと預けると、雨生はいのりの方へと歩いていく。
「アンタ…いのり、だっけ?オレはちゃんと愛してたよ。まあ、そのせいで…なんだけど。日記やるよ、鍵はこれな。アンタはオレのこと忘れられなくて一生オレに縛られていればいい」
いのりは表情一つ崩さずに、日記を受け取ると、雨生の襟を力強く引っ張った。
「あんたもね」
それは最後のキスだった。
「またね、雨生」
「さよなら、いのり」
▼アジムくんがクロに決まりました。オシオキを開始します。
(動画はTwitterを参照ください)
閉廷!
「さて、これは皆様に配りましょうかね。ワタクシが持っていてもどうしようもないですし…本人もそれを望んでいたでしょう。処分はご自由に」
そう言ってモノクターから渡されたのはアロマ。雨生が死んだことを感じさせない、変わらないあの匂いがした。俺はそれを握りしめては俯く。
「…どうかしたか?」
「いや……俺、この先やってけるだろうかって。…………仲間の死を…未だ信じられないし…自信がないよ」
千年は俺を見つめた。
「進もう。その先に何があっても、逃げてはダメだ。嘘になんかすり替えず、ただ真っ直ぐと…その足で進むんだ。少年はそれができると、三上は信じているよ」
「行こう、水蜜少年」
あの時と同じ言葉。
一筋の涙を彼女は拭ってみせた。
希望の匂いを未だ漂わせ、俺達は再び歩き出すのだった。
Chapter1
真実の涙はしとどに香る
▼安心院雨生の遺品が譲渡されました。
サングラス→陰明寺視
ネックレス→Dylan・Monroe
ブレスレット→御宮寺優成
日記→周防いのり
アロマ→皆様
(2から裏シートはTwitterのいいね欄を参照ください)