やはり俺の青春ラブコメに女神がいるのはまちがっている。 作:秋銀杏
前作は訳あって削除し、私自身もハーメルン から退会した身ではあるのですが、Twitterでもう一度読みたいという投稿を目にしたので、再び書くことを決意しました。
前作を読んでくださってくれていた方は、突然の作品削除は本当に申し訳なく思っています。魚拓なども取っていなかったため、昔の作品の再投稿という形ではなくリメイクという形での投稿となります。
また、書く時間自体も私生活の都合上キツキツなので不定期になる恐れがあります。
それでも宜しければもう一度彼と彼女達の青春群像劇をお楽しみ下さい。
青春とは嘘であり悪である。
青春を謳歌せしもの達は常に自己と周りを欺く。自らを取り巻く環境のすべてを肯定的に捉える。
どれだけ致命的な失敗をしようとも、彼らはそれを若気の至りという簡単な言葉で片付けてしまう。
例を挙げよう。
彼らはなんでも軽々しくSNSに載せようとする。まるで自分たちが世界の中心、主人公であるかのように横暴に振る舞って。
〜中略〜
例えばスクールアイドル。学校という場に相応しくない組織を設立させては、それがまるで青春の象徴かのように振る舞うのだ。
そもそも、学校にアイドルとかなんだよ。妹がスクールアイドルにハマって俺の相手をしてくれなかった時期があるからあれはマジで許さない。妹をたぶらかす奴らは全員敵であり悪だ。
つまり、青春を謳歌せしものたちは悪であり、逆に青春を謳歌していない俺のような生徒こそ真の正義なのである。
そう、だから俺は、新世界の神になる!
* * *
国語教師の平塚静は額に青筋を立てながら、俺の作文を大声で読み上げた。
こうして自分の書いた文章を読み上げられると自分の未熟さに気付かされる。
適当に難しい言葉使ってたり、ありきたりなネタに走ったりと、売れない作家の真似事をしてるみたいだ。
つまり、俺が呼び出されたのは文章の未熟さが原因ということでよろしいか?
え、違う? でしょうね。
全てを読み終えた平塚先生は大きくため息を吐くと、ジロリと俺に視線を向けた。
「なぁ、比企谷、私が出した課題はなんだったかな?」
「……はぁ、高校生活を振り返ってというテーマの作文でしたが」
「それがどうして新世界の神になるという結論に落ち着くんだ? 君は馬鹿なのか? それともキラなのか」
いいや、僕はキラじゃないよL。てか、あんた少年マンガ読んでるのかよ。
心の中で返事をしつつ、申し訳なそうな顔をして首を振っておく。先生に怒られたときはとりあえず申し訳なさそうな顔をしておけばいい。
そうすれば相手は勝手に納得するし、こっちは説教が早く終わって助かる。
そんな俺の甘い心中を察したかのように、平塚先生は紙の束で俺の頭を叩いた。
「真面目に話を聞け。全く……、まるで君の目は腐った魚のようだな」
「そ、そんなDHA豊富そうに見えますか? かしこそうすっね」
「あぁん?」
「ひ、ひぃ!」
ちょ、この人、生徒に向けていい圧じゃないんだけど。闇金取立てに来る人とかが向けてきそうな圧を感じたんだけど!
はぁと大きくため息をついて、平塚先生はとんとんと作文の一部を叩く。
「そもそもここはなんだ? 君がスクールアイドルが嫌いなのは分かったが、途中からどう考えても私怨じゃないか。いや、最初から全部私怨ではあるんだが」
「なっ! なんてこというんですか! 俺の妹への愛が間違ってるとでもいうんですか! それだけは許せねぇ! もう帰らせてもらいます!」
平塚先生に背を向けて歩き出そうとすると、俺の右手首が掴まれた。
「まぁ、待て。そうやって逆ギレして帰ろうとするな」
優しい声色とは反して、掴まれた俺の手首が悲鳴を上げているんですが、これは何事なんですかね。
いや、ちょ、まじで痛い。ギブギブギブ!
諦めて向き直ると、平塚先生は手を離してくれた。
「まず、レポートは書き直せ」
「はい」
それは仕方がない。甘んじて受け入れよう。
次はもっと中身のない、ミルクキャラメル作れそうなお花畑な文章でも書いておこう。
「それと君には罰を命じる」
「は? なんで?」
「君がキラだからという理由でどうだ?」
「いや、意味わかんないんですけど……」
「じゃあ、変なレポートを出した罰でいい」
「じゃあって言ったよこの人……」
罰を受けさせるための建前が適当過ぎません?
げんなりしつつ、どうせ引いてくれないだろうと頷くと、平塚先生は少し考えるように顎に手を置いた。
「ところで君は友達は?」
「いません」
「恋人は」
「今はいません」
「部活にはもちろん入ってないよな」
「そりゃあ、まぁ」
なにこれ? 新手の職質?
うんうんと頷きながら俺の回答を聞いた平塚先生は俺に一つの選択を投げかける。
「君は、部活に所属するのと、ボランティアに参加するのはどちらが良い?」
「えぇ……」
どちらも嫌なんですけど。
しかしそれが通じないことは既にわかっている。
ならば考えるべきはどちらの方がバックれやすくて楽であるかということである。
そういう点で考えると、部活に所属するよりはボランティアの方が良いかもしれない。
それに俺は好青年だからボランティアとか好きだしな。
海とか行って騒いだりしないし(騒ぐ友達がいない)、友達とアイス食べて道端にゴミのポイ捨てをしたりもしない(一緒に食べる友達がいない)。なんなら、一人で残って教室の掃除までしちゃうもんね(一緒に掃除する人がいない)!
「そうか。ならば、明後日の放課後は空けておいてくれ」
「ああ……、すみません。明後日の放課後はお腹が痛くて早退する予定が」
「ちなみに、もし参加しない場合はもう一度二年生をやってもらう」
流石に顔が引き攣った。
脅迫として訴えられるんじゃないだろうか。
「と、ところでボランティアって何をするんですか?」
恐る恐る尋ねた。もうね、ボランティアという名の悪行積ませられるんじゃないかと思い始めた。
「ふっ、それは明後日のお楽しみだ」
ニヤリと意味ありげに笑う様を見て、なぜかデスノートの7巻を思い出した。
俺が心臓麻痺で死ぬってことですね。つまり、お前がキラか。
* * *
約束の日の放課後、俺はまだ死にたくない! と逃げ出した俺を捕まえた平塚先生によって連行されていた。
ボランティアは学外でやるらしく、無駄にカッコいい車に乗せられて道路を走っていた。しかも、随分と走っている。そろそろ千葉県から出て東京に着いてしまうぞ。
「これ、どこまで連れて行かれるんですか……。東京湾?」
「東京であることに間違いはないが、残念ながらハズレだ。海の清掃ではないよ」
ほっと一息つく。海の清掃ではなくて、俺が清掃されるんじゃないかと心配してただけです。
でも、それじゃあどこに向かっているのだろうか。
横から見る平塚先生はご機嫌そうで、車の運転を楽しんでいそうだ。または、俺のこの後の展開を妄想して楽しんでいるのかもしれない。
先生と二人きりという居心地の悪い状況で不意に車が止まった。
「ここが君のボランティア先だよ」
「は?」
変な声が出た。目の前に聳え立つ、学校と呼ぶに相応しい建造物。
気のせいだと目を擦ったが、建物は消えない。
門に囲まれた建物の入り口には音ノ木坂学院の文字が。
え、ここ?
「ここで君は生徒会業務を手伝ってもらう」
「え、い、いやいやいや。冗談ですよね?」
「この顔が冗談を言っているように見えるか?」
マジかよ……。
今一度音ノ木坂学院を見て絶句する。
これなら部活に所属した方が絶対に楽だった。
もう驚きと絶望でこれ以上何も言われても、びっくりしない自信がある。
「ちなみに、ここは女子校だから変な行動はするなよ。捕まるぞ」
「はぁ!?」
今日一番の声が出た。
* * *
「ちょっと待ってください。考え直しましょう! そうだ。肩でも揉みましょうか?」
首根っこを掴まれて無理矢理歩かされながらも必死に説得するが、全く効いている気がしない。
ボランティアだけでもキツイのに、女子校となれば更にキツイ。加えて、逃げることかも不可とか超キツイ。3Kだ。今の主流は4Kだから、多分もっとキツくなる。
「さぁ、着いたぞ。ここが理事長室だ。変な行動はするなよ?」
「いや、変な行動というか、俺がここにいるという事実が既に変なのでは?」
俺の指摘を無視して平塚先生が理事長室のドアを開けた。
そこに居たのは椅子に座る女性と、二人の女子生徒だった。
その女子生徒の容姿に目を奪われる。一人は高校生にしては大きめの胸を持った髪を二つに分けて縛った柔らかそうな雰囲気の女子で、もう一人は珍しい金髪をポニーテルにしたスタイルの良い冷たそうな雰囲気の女子だ。そして、どちらも一般的に言って美人や可愛いの部類に入る顔立ちだった。
俺が入ってくるのを見て、巨乳な女子生徒、巨乳ちゃんは興味深そうに見て、もう一人の金髪の女子生徒は俺を観察するように見る。
巨乳ちゃんはわからないが、金髪の女子生徒はどう考えても俺に良いイメージを持ってなさそうだ。眉間にシワよってるし、凄い不服ですってオーラが出てる。
今すぐ帰りたい。アウェーすぎる。
「静ちゃん、前も言ったけどドアはノックして開けないとダメでしょ?」
椅子に座った女性が平塚先生に注意をする。
その女性も十分に整った顔立ちをしていて、しかも大分若い。大学生と言われても通用しそうである。
「いやー、すまんすまん。比企谷、こちらがこの学校の理事長の南さんだ」
「ご紹介にあずかりました、南です。比企谷くん、よろしくね」
「は、はぁ……」
なんとかそれだけ返した。
もう蛇に睨まれた蛙状態である。小さくなって怯えていると、巨乳ちゃんが手を挙げた。
「じゃあ、うちらも自己紹介しよっか。うちは東條希。生徒会の副会長をやってます。よろしくね」
どうやら巨乳ちゃんは生徒会の副会長のようだ。つまり俺のこれからの上司。
曖昧に頷きだけ返すと、優しく微笑んでくれる。やだ! この面子だとこの人だけ女神だ! 惚れそう!
「ほら、絵里ちも」
東條さんに呼ばれたえりちという女子生徒は、不承不承といった感じで頷く。
「絢瀬絵里よ。生徒会長をやってるわ」
ものすごく素っ気なく挨拶をされた。しかし、なぜかこれぐらいの方が安心してしまう。
そう、ゲームやアニメの世界ではないのだから、こういう異物が歓迎されることなどまずないのだ。やっぱりあれら詐欺だな。
平塚先生に軽く背中を叩かれた。俺も挨拶をしろということらしい。
「え、えと、ひき、比企谷、八、幡です……」
絢瀬さんにそれだけ? と言わんばかりの目を向けられたが、知らんぷりを突き通す。
こういう時は最低限な情報に限る。変な情報とか加えようものなら引かれること間違いないし、そもそも追加できる情報が俺にはない。
「これから一緒に活動していく仲間なんだから仲良くしていきましょう」
南さんのそんな言葉で締め括られ、それに東條さんだけが頷く。
それに苦笑いを返した南さんは、はいっと俺に向けて校章を差し出した。
「次から来る時はこれをつけて来てね。警備員さんへは話を通しておくから」
つまりこれが俺の通行許可証でもあり、受け取れば俺が生徒会活動に参加するということが確定してしまうというわけだ。
嫌すぎる。受取拒否。または、クーリングオフを希望します!
「ほら、比企谷、受け取りなさい」
残念ながら許されなかったようで、南さんに向けて平塚先生に背中を押され、無理矢理受け取りに行かされる。
ああ、今までの人生が頭の中を駆け巡る。これが走馬灯というのね。
俺の手の中に渡ってしまった校章を見て、そんなことを思い、ついつい涙が出そうになってしまう。
「それじゃあ、確認だけど、比企谷くんは明日から生徒会の仕事を手伝いに音ノ木坂学院に来る。ということで大丈夫かしら?」
全然大丈夫じゃないです。
なんとかして今からでも取り消せないかと考えを巡らせる。
「あの、俺、金ないんすけど、交通費とかは」
そうだ。ここに来るには電車を使う必要があり、俺はアルバイトをしてないのでその交通費を払うのは厳しいものがある。
「それなら安心したまえ」
そう言われて、平塚先生が俺に見せたのは見たことある切符。定期とか呼ばれるものだろう。
「半年分だ。これを使いなさい」
マジか……。そこまでして俺を働かせたいの?
「い、いや、ほら、俺、男子生徒だし、なんか問題でも起こすかも」
慌てて次の策の案を口走ると、隣の絢瀬さんがめっちゃ冷たい目になった。凍えそう。やだ! 隣の人怖い!
「君のリスクリターンの計算と自己保身に関してだけはなかなかのものだ。刑事罰に問われる真似だけはけっしてしない。君の子悪党ぶりを信用しているよ」
「何一つ褒められてねぇ……」
隣の絢瀬さんの視線が更に険しくなった気がした。
しかし、相手方も納得しているとあればこれ以上は俺が説得する余地はない。
黙り込んだ俺をみて、南さんはにっこりと微笑む。
「ほかに何か質問とかはあるかしら?」
暗黒微笑とも呼べる美しい微笑みに、なす術なく頭を垂れて敗北を宣言するしかなかった。
「ふふ、それじゃあ明日からお願いね。東條さんと絢瀬さんも比企谷くんのこと頼んだわよ。そうね。今日は仲を深めるためにも一緒に帰ったらどうかしら?」
「すみません。私はこれからやることがあるので。……それでは失礼します」
南さんの提案に素っ気なく返した絢瀬さんは俺に最後に一瞥すると踵を返して、理事長室から出て行ってしまった。それを追うように、東條さんも一礼してから出て行った。
不機嫌さを隠そうともしない絢瀬さんの態度、これもしかしてボランティアって難易度ルナティックだったりします?
* * *
平塚先生はこの後用事があるということで、一人で帰れてと放り出されました。
その結果、道に迷った。
くっ、歩き慣れていない東京の街並みはわからない。しかも、ここ秋葉原だから人多いし、同じような建物ばっかりで全く分からん。
そして、こういう時に限って電源が切れているのが俺の携帯である。
ちょ、携帯くんさぁ、やる気ないなら明日から来なくていいよ。
近くのコンビニか店で道を聞いた方がいいかもしれない。
「あれ、どうかしたの?」
コンビニとかを探してキョロキョロしてると、不意に声をかけられた。
振り返ると、髪の毛をサイドテールにした女子が俺の後ろに立っている。年齢は俺と同じくらいだろうか。
「あ、いや、あの、道に迷っちゃって……」
「? ごめん。もう一回言ってもらえるかな?」
唐突に声をかけられたせいでめっちゃボソボソと喋ってしまったからか、その女子は俺に顔を近づける。
いや、近い近いいい匂い近いいい匂い!
なんでこの人は、こうやすやすと人のパーソナルスペースを踏み越えて来てるの?
「道、迷って」
「え、そうなんだ! どこに行きたいの?」
「駅」
「えっと、それならね〜」
早く離れてしもらうためにめっちゃ簡潔に言ったせいで日本語に不慣れな外国人みたいな喋り方になってしまったが、それを笑うことなくその女子は駅までの道筋を教えてくれた。
「ありがとうございます……」
「ううん。あ! 私の家、和菓子屋さんだからよければ今度来てねー!」
それだけ言うと、道を教えてくれた女子は手を振って俺と別れていく。
随分と元気な女子だった。しかし、もう会うことはないだろう。だって店の名前教えてもらってないし。多分馬鹿な子なのだろう。
さて、とりあえず、コンビニに行くか。
緊張しすぎて、女子が教えてくれた道順全く覚えてないし。