やはり俺の青春ラブコメに女神がいるのはまちがっている。   作:秋銀杏

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[第2話]どことなく東條希は気を回している。

 朝の満員電車の様子をニュースなどで見ていると社畜である親を思い出すし、その様はまるで売られる前の仔牛達を想起させるのだが、今の俺ほどその表現に当てはまる人物はいないと自負している。

 

 音ノ木坂学院での初面談から翌日の放課後、逃げ出そうとした俺を再び捕まえた平塚先生の手によって秋葉原行きの電車の中へとぶち込まれてしまった。

 もうね当たり前のように門の前で待機されていて、そのオーラを見た瞬間逃げ出したくなったね。逃げ出してた最中だったけど。

 生徒会業務という激務の場に送られる囚人としてドナドナ言いそうになりながら電車に揺られていると、昨日ぶり街並みが見えて来た。

 

 ここで、比企谷八幡の戦いはこれからだ! って感じで連載終了しない? 次回作に期待しましょうよ。

 ダメですか。ダメですね。知ってた。

 

 電車から降りて、溢れかえってる人混みを見やると、今すぐ回れ右をしたくなる。

 しかし、留年がかかっているともなればそうはいかない。

 流石に留年するとなれば親父達に申し訳ないし、小町と高校生活を一年多く過ごせてしまうとか最高じゃないですか! 

 とはなるものの、こんな兄がいると下級生に知られた場合、小町の尊厳に関わるので流石にやめた方がいい。

 

 携帯のMAPアプリを開いて音ノ木坂学院までの道を検索して歩いていく。

 流石は秋葉原というべきか、横を見れば有名アニメの映像が流れ、左を見れば萌え絵のポスターが貼られている。

 そして、目の前、やけに人が集まっている地帯のほぼ真上ではスクールアイドルのPVが流れていた。

 あそこを通るとなると邪魔そうだなと思いながら、彼らが見ているPVを見てみると、見覚えのあるスクールアイドル達が踊っていた。

 確かUTX学院のA-RISEというグループな筈だ。

 小町が一時期凄い熱中していたのを記憶している。

 つまり俺の敵である。思いっきり睨みつけておいた。

 

 そんなこんなの末に音ノ木坂学院に到着すると、校章を付けていたにも関わらず周りから凄い変な目で見られた。というか、警備員さんに一回止められた。

 あ、あれー? 南さん? 話は通しておいてもらえるんじゃなかったの? 

 校章の存在を見せた上でもこの警備員さんに凄い不審そうな顔で見られてるんですけど。

 終いには無線で誰かに応援呼びはじめた。もしかしてこれ警察案件になるんじゃないか? ごめんよ。小町、お兄ちゃん捕まりそう。

 内心ヒヤヒヤしていると、昨日会った巨乳ちゃん、東條希さんが来てくれた。

 

「大丈夫です。この生徒であってます。はい」

 

 警備員さんと二言、三言と会話を交わすと、東條さんが俺に向き直る。

 

「比企谷くんごめんね。ちゃんと連絡が伝わってなかったみたいで」

 

 ごめんごめんと手を合わせて謝ってくれてる東條さんの後ろで未だに警備員さんはこちらを怪しそうに見ていた。

 お前のことは一応優秀な警備員さんということにしておいてやろう。ただ、お前の絶対許さないノート入りは既に確定した。

 

「それじゃあ行こっか」

 

 東條さんに先導されて音ノ木坂学院の校舎に再び足を踏み入れることになる。女子校という響きだけで緊張するし、冷や汗が酷い。

 

「あ、そうや! 比企谷くんって上靴持ってる?」

「あ……」

 

 言われて、そういえば上靴を持ってきてないことを思い出した。昨日もスリッパだったのだからその時点で気づけばよかったのだが、色々とありすぎてそれどころではなかった。

 俺の反応を見て持ってないと判断したのか、東條さんは待っててと言ってからスリッパを持って来てくれた。

 

「はい、これ! 使ってな」

「ありがとうございます」

 

 お礼を言いながら東條さんの口調に引っかかる。

 さっきから思っていたが、この人は関西人か何かなのだろうか。

 

「ん? どうしたん? うちの顔に何かついてる?」

「あ、いや、なんでも……」

 

 見ていたのがバレたのか、首を傾げられたので慌てて首を振る。

 なんか好きな女子に、は、何あの視線、キモ! って言われたのを思い出して軽く死にそうになった。

 

「んー? あ、もしかして、うちの口調?」

 

 東條さんは確信がいったかのようにポンと手を叩いた。

 

「実はうち、小さい頃は親の都合でよく引っ越していて、それでこんな似非関西弁が身に付いちゃったん」

 

 ほーん。

 まるで、アニメキャラのようなキャラ付けだ。

 

「でも、昨日は結構標準語だった気も」

 

 ついつい呟いた言葉に東條さんは怪しい笑みを浮かべる。

 

「ふふ、うちは勘のいいガキは嫌いよ?」

「……はは」

 

 愛想笑いを浮かべるしか出来なかった。

 あんたも少年マンガ読んでるのかよ。

 てか、このタイミングでそのセリフは怖い。誰だよこの人女神とか言ったの。余計なことは口にしないでおこう。

 ビクビクしながら東條さんの後をついて行くと、気を利かせているのか東條さんが偶に話を振ってくれたりした。

 

「比企谷くんって何年生なん?」

「2年です」

「へー、そうなんや。うちは3年生なんよね」

「そうすか」

「……えっと、比企谷くんって好きなこととかある?」

「特に」

「……比企谷くんってどうして音ノ木坂学院に来てくれたん?」

「まぁ、色々とあって」

「……そ、そうなんや」

 

 自分でも話していてすごく申し訳なくなってくる。

 なんか上手い返しでもしようかと考えはするのだが、それをして引かれたら嫌なので簡潔かつ、簡素に返していった結果、全く話が盛り上がらなかった。

 次第に東條さんも話を振らなくなり、無言で廊下を歩いていると東條さんがある扉の前で振り向いた。

 

「ここが生徒会室。今は絵里ちしかいないから気楽にしてええよ」

 

 東條さんと2人きりの時点で全く気楽ではなかったというのに、あの敵対心バチバチの絢瀬さんの前で気楽にできるという未来は全く見えない。

 東條さんが道を譲ってくれて、扉の前に立たされる。

 自分でノックして開けろということらしい。

 ……俺、実は箸より重いものが持てなくて。

 そんな言葉が頭をよぎったが流石に口には出さないでドアをノックする。

 

 中からどうぞという声が聞こえてくるまで、やたら時間がかかったように感じた。

 考えてみれば、女子校に男子生徒1人きりとかシチュエーションだけを見れば完璧だ。ふと中学時代の甘酸っぱい思い出が蘇る。

 

 好きな女子に誘われて参加したカラオケ。部屋に入った瞬間漂う微妙な空気。

 

『ちょ、誰だよこいつ呼んだの』

『わ、わかんない……』

 

 誰とない呟きに答えたのは、俺を誘ってくれたと思っていた女子だった。

 ……甘酸っぱいというか、もうこれ苦い思い出だった。

 あの後、結局飲み物取りに行くふりして速攻で帰ったからね。

 多分、俺を誘ってくれた女子はなんとなく事務的にかつどうでもよく俺を誘っていたのだろう。

 あの時の、なんでこいつ来たの? って視線はやばかった。どれくらいやばかったかと言うと、軽くちびりそうになるくらいはやばかった。

 

 まぁ、要するに異物は排除され、目視されない対象であり、そこでラブコメ展開なんて起きようがないのだ。

 高度に訓練されている俺が今更こんな罠にかかるわけもない。

 そう思ったら逆に気楽に感じてきた。そうだ。俺の今までの努力の成果を今こそ見せる時なのだ。

 

 ラブコメ展開に巻き込まれないために、それを避けるためにするべき行動は既に決まっている。

 自らのプライドを守るためなら好感度など捨ててしまえばいい! 

 

 意を決して扉を開けた先には、確かに絢瀬さんが1人で座って作業をしていた。

 絢瀬さんは俺が入ってくるのを確認して書類を書くペンの動きを止めてこちらを見る。

 昨日と同じ値踏みするかのような視線だ。

 確かにこっちは異分子であることは間違いない。しかし、平塚先生に無理矢理連れてこられているというのにその態度には少しイラッとしなくもない。

 ということで、メンチを切るようにこちらを絢瀬さんを睨む。敵意マシマシで。

 

 野生の獣は目で殺す! ガルルルー! 

 すると、絢瀬さんは目を細めて、まるで射殺すかのような冷たい刃物のような視線を向け、氷のような声色で俺に言葉をかけてきた。

 

「……邪魔だからそこに立ってないで」

「……あ、はい」

 

 え、なにこの人。氷の女王かなにか? ありのままの人? 急に歌い出したりしない? 

 邪魔というのは扉の前にいることではなく、視界の邪魔というニュアンスの方が近そうだ。

 扉の前から離れ、絢瀬さんの視界にも映らなそうな生徒会室の隅に移動して立つ。

 東條さんの方を見ると、あちゃーと言わんばかりの表情をしていた。

 俺としては絢瀬さんが上司という事実があちゃーどころか、oh……って絶句しちゃうレベルなんですが。

 縮こまっていると、絢瀬さんが小さくため息を吐いてこちらを見た。

 

「そこだと仕事を教えられないわ。こっちに来て」

 

 これは世の男子なら軽く引っかかりそうな言葉だ。

 美少女に仕事を教えてもらえるとか最高ですか! とか、さっきまであんなに冷たかったのに唐突に優しくなるとかツンデレかよ、とか。

 しかし、俺ほどのプロになるとこの言葉の裏を読めちゃうもんね。

 意訳。わざわざ私の手を煩わせないでくれる? やる気ないなら帰る? てか、帰りなさい。

 多分、内心でこんな風に思いながら喋ってる。間違いない。

 女子とは頭と口からでは全く違う言葉が生成される生き物なのだ。

 だから、小町がお兄ちゃん気持ち悪いとか言うのも愛情の裏返しと考えていいよね! 

 そんなことを考えたせいで、俺は動き出そうともしなかった。それを絵里さんは無視されたと感じたのか、不快げに眉を顰める。

 再びピリついた空気が流れはじめた。

 

「あー、2人とも、えっと改めて自己紹介でもしよっか!」

 

 流石に見兼ねたのか、場違いなほど明るい声を出して、東條さんが俺と絢瀬さんの間に入る。

 

「それなら昨日したでしょ?」

「いやいや。だって、昨日はちょっとしかしてないやん。ほら、好きな食べ物とか、趣味とか」

「必要ないと思うんだけど……」

「えー、そんなことないやん。ね、比企谷くん?」

「……そうですか?」

 

 誠に遺憾だが自己紹介が必要と感じないというのは絢瀬さんと同意見だ。

 そもそも自己紹介とは相手と親しくするために自分の情報を開示する一方、自分の学歴レベルなどを開示してマウントを取り、相手に牽制を行う儀式でもあるのだ。

 俺たちは親しくなる予定はないし、マウント合戦とかするだけ無駄だ。よって、自己紹介なんて必要ない。Q.E.D.証明終了。

 俺の言葉に東條さんは不服そうな表情になる。

 またもや微妙な空気が流れそうなった瞬間、不意に生徒会室の扉が叩かれた。そして、失礼しますと言って、3人の女子生徒が生徒会室に入ってきた。




ちょこっと紹介コーナー

この作品は前作のリメイク作ということで、変更点や、キャラ設定について軽く後書きで書いていこう思います。読み飛ばしても全然OKです。

比企谷八幡
総武高校2年。音ノ木坂学院の生徒会手伝い。
前作の初期と比べて、積極力、コミュ力、行動力が作者の手によって大幅弱体化されてしまった主人公。これにはピチューもびっくり。前作の序盤は八幡のコミュ力が流石に高すぎた。
奉仕部に所属してないことを除けば、過去設定などは概ね原作通り。
ただ、原作とは違い、ラブライバーではなくプロデューサー。
妹である小町がスクールアイドルにハマって一時期構ってくれなかったせいで、スクールアイドルに敵対心を燃やしている。

絢瀬絵里による比企谷八幡の印象

『挙動不審で、やる気もなさそうだし、なんで彼みたいな生徒が手伝いに来たのかわからないわ』
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