やはり俺の青春ラブコメに女神がいるのはまちがっている。 作:秋銀杏
俺が生徒会室に着くと、絢瀬さんと東條さんは既に生徒会業務を始めていた。
絢瀬さんが俺の姿を見て、軽く睨む。
「どこ行ってたのかしら? 遅かったようだけど」
「そうすかね? 昨日より早い気がしますけど」
平塚先生に車で送ってもらっていたのだ。高坂たちと話していたとはいえ、昨日より到着は早い。
「平塚先生から連絡が来てたのよ。もう音ノ木坂に着いたって」
ああ、なるほど。音ノ木坂学院に着いているはずなのにいつまで経っても生徒会室に来ないから遅かったと。
それは高坂たちと話していたからなのだが、馬鹿正直にそんなことを答える訳がない。絢瀬さんが高坂たちの活動を嫌ってるのは間違いないし、そもそも俺が他の生徒と関わって欲しくないと思っているはずだからな。
だから、ここは適当に誤魔化すに限る。
「誰かさんによるパワハラでお腹痛くなったんで、ちょっとトイレ借りてたんですよ」
軽い牽制気味にジャブを放ちつつ言うと、絢瀬さんの顔が険しくなった。
おお、煽り耐性低いな。属性スキル盛り込んだ方がいいんじゃないか?
何かを言おうと絢瀬さんが口を開いた瞬間、東條さんが声を割り込ませた。
「そっかぁ。それなら仕方ないね」
何か言いたそうな視線を東條さんに向けた絢瀬さんだが、諦めたようにため息をついて仕事に戻る。
「それじゃあ比企谷くんは昨日と同じく作業してもらってもええかな?」
「うす」
東條さんが俺がやる仕事の書類を渡してくれたので、俺も机に座って仕事を開始する準備を始めた。
その後は基本的には静かに作業に没頭していた。
時折、東條さんが気を回して話を振るが、それに絢瀬さんが答えた時は俺が答えず、絢瀬さんが反応を示した時も俺は反応を示さず、絢瀬さんが話した時も俺は一切口を開かなかった。
俺超静かだな。多分フルフルのBGM並みに静か。
あの2人は話しているのに俺は参加してないせいで疎外感やばい。
なんだお前ら。喋ってないで手を動かせ。けど、俺より仕事スピードどう考えても早いんだよなぁ……。
せっせとひたすら無言で仕事を処理していたら時間が経つのも早いもので、気づいた時には完全下校のチャイムが鳴っていた。
「もう時間ね。お疲れ様」
労いの言葉をかけ(東條さんに向けてだけ)、同じ体勢でずっと作業をしていた肩をほぐすように軽く伸びをする絢瀬さん。
……その姿勢、山が強調されるんでやめた方がいいですよ。いや、別に全然視線向けちゃうとかそういうわけじゃないけど。
帰るための片付けをするかと、書き込んでいた書類を絢瀬さんに渡す。
「ありがとう」
笑顔を一つ見せることなく素っ気なく受け取ると、絢瀬さんは自分も帰る準備を始めた。お役所仕事って感じが凄いが、これぐらいの方が俺には逆に丁度いい。
片付けを終えて、全員が生徒会室から出ると絢瀬さんが扉の鍵を閉める。
「それじゃあ私達は鍵を返しにいくから」
「うす。お疲れ様です」
「比企谷くんもまたね。また、明日」
早く帰れと言われる前に、できる男は既に帰りだしているものだ。
東條さんの言葉を聞きつつ二人に背を向けて、玄関の方向に歩き出す。
仕事から解放されて、やっと帰れると思うと軽くテンション上がるものだ。どれくらいテンションが上がっているかというと、うまぴょいうまぴょいと口ずさむぐらいテンション上がってた。
「比企谷さん……?」
ばったり会った園田にガッツリ見られた。
何をしているんだと、めちゃくちゃ怪訝そうな表情をされる。
一瞬の静寂の後に、誤魔化すように咳払いをしておいた。
「……あー、園田は今、帰りか?」
「はい。弓道部の練習が終わりましたので」
多分、頬は引き攣っていたし、声もうわずっていたが、園田はそれに触れないで答えてくれた。
武士の情けでどうやら先程のことは見なかったことにしてくれたらしい。
危なかった。もし、先程のうまだっちに触れられたら、奇行種ばりの走りを見せて逃げ出していた可能性すらある。
そして、園田は弓道部らしい。見た目通りだなとしか表現できない。
弓道ってあれでしょ? 弓引いて的に当てるやつ。アーチェリーの日本版みたいな。多分言ったら怒られる。
「比企谷さんも今帰りなんですね」
「ああ。さっき終わったばっかりだからな」
「お疲れ様です。どうですか? 音ノ木坂学院には慣れましたか?」
「いや、全然」
即答してしまった。
しかし、実際、2回来たぐらいじゃ慣れないし、多分一生慣れることはないと思う。そもそも、女子校に慣れたらそれはそれで問題だろ。
俺の回答に園田は苦笑すると、そういえばと思い出したように口を開いた。
「この後、穂乃果の家で今後の活動について話し合う予定なんです。是非、比企谷さんも参加してください」
物凄く嫌そうな顔をしてしまったと思う。めっちゃ行きたくない。すごい嫌だ。どれくらい嫌かと言うと、どう考えても社交辞令で誘われたカラオケに参加するぐらい嫌だ。
そもそも、なぜ今からサービス残業ルートに突入しないといけないというのだろうか。
よし。なんとか断る策を考えよう。
その瞬間、俺の脳は超次元的な力を発揮し、一瞬ので回答を導き出した。
「……いや、俺この後実はお腹痛くなる用事があるから」
「……は?」
真顔で返された。
おい、どこに超次元的な力を使ったんだよ。どう考えても誤答だろ。
生徒会でのやり取りを引きずってしまっていた。
「えっと、お腹が痛いんでしょうか……?」
意味不明な回答すぎて心配されちゃってるじゃん。
流石に恥ずかしすぎるので、首を振って誤魔化しておいた。誤魔化し切れた気がしないけど。
俺のことをじっと見た園田は、考え込むように顎に手を当てて疑わしげな視線を向けてきた。
「比企谷さんって本当にスクールアイドルの手伝いをするつもりあるんですか?」
「な、なんだそれは! 面白い冗談だ。証拠を出せ、証拠を!」
「その言葉そのものが回答な気がするのですが……」
くっ、勘のいいガキは嫌いだよ……。
いや、待て。別にやる気ないってバレてもいいのでは? そうすれば解任される可能性も高まる。
そうと決まれば、俺の行動は早い。
「……いやまぁ、実際、手伝いはするがやる気はない」
「それは、どういう」
「そもそも、俺はスクールアイドルが嫌いだからな。まるで青春の象徴であるかのように立ち振る舞って、私たち可愛いとか思って活動してるんだろ」
唐突すぎる告白のせいか園田は口をアホっぽく開けてポカンとしていた。
そして、おずおずと尋ねられる。
「……比企谷さんはスクールアイドルが嫌いなんですか?」
「嫌いどころか憎んでいるまである。てか、関わりたくない。面倒くさいし」
溜まっていたものを吐き出せて心がすっきり晴れやかな気分だ。やはりストレスは溜め込まない方がいいな。
そして、これでめでたく解任も確定だろう。素晴らしい働きぶりだ。俺が社長だったらこんな社員すぐにクビにしちゃうね。
狙い通り、園田は顔を俯かせてぷるぷると震えている。怒りで震え涙が止まらないのかもしれない。
もしそうだったら今すぐ逃げ出そう。残念ながらスキルポイントをコンセントレーションに振ってはいないのでスタートで出遅れる可能性があるので準備は大事だ。
「……そうですか。わかりました」
逃げる体制を取っていたら、低く小さな声で呟いた園田がどんっと一歩前に踏み出し俺を睨みつけるのように見上げた。
「それなら私たちが比企谷さんにスクールアイドルの素晴らしさを伝えてみせます! そして、その腐った性根を私が叩き直します!」
「……は?」
予定外な宣言をされてちょっと困惑していると、園田は俺の腕を掴む。
「園田の名にかけて誓います! あなたを更生させると!」
いや、そんなじっちゃんの名にかけるみたいな言い方されても。殺人起こってないのよ?
てか、腐った性根って酷い言われようだ。
園田は呆然とする俺を引っ張るように玄関に向けて歩き出した。
「それじゃあ行きましょう!」
「え、いや、どこに」
「行ったでしょ? 穂乃果の家です」
「あ……」
忘れてた。そんな話だったな。
「いや、用事が……」
逃げの言葉を言おうとすると園田が鋭い視線を投げかけてきた。
その目は野生の獣のごとく。例えるなら平塚先生が俺を見る目!
「あるんですか?」
「……ないです」
弱肉強食の世界において俺は弱者だったようだ。
引きづられるようにして穂乃果の家に連れて行かれそうだ。
「とりあえず腕を離してくれ」
「離したら逃げませんか?」
「逃げない……方向で検討していく」
園田は疑わしげな目を向けてくる。くっ、俺の正直で真面目な性格がこんなところで……!
「いいから。離せ。ほら、あれだろ」
「あれ、とは?」
「いや、だから」
こいつ鈍感系かよ。今時流行らんぞ。
「なんだ、その恋人とか思われるとお前が迷惑だろ」
「なっ……!」
俺の言葉に園田は顔を真っ赤に染めてパッと腕を離した。
ふぃー、恥ずかしかった。美少女に腕掴まれるとかそんなラブコメ的展開はやめて欲しい。
「す、すみません」
「いや、いい。それじゃあ」
「はい。それでは……、って」
足早に去ろうとした俺の肩に手が置かれた。
ふ、振り解けない……! ついでに振り向けない! 怖い!
「……比企谷さん?」
冷たい声色で名前を呼ばれる。それだけでここまでビビらせるとかこいつ覇王色の素質持ってるんじゃねぇの? そろそろ気絶しかねない。
白旗の意味を込めて両手をあげて降参しつつ、恐る恐る振り返るとすごい笑顔の園田がいた。場合によっては女神に見えたかもしれないが俺には閻魔に見える。
「私の言いたいこと、わかりますね?」
「……あー、あれだな。お腹痛い」
「違います!」
激昂した園田によって無理矢理穂乃果の家に引きづられ、その間ずっと説教されていた。
海未ちゃん怖いよぉ……。
遅れてすいません。流石に遅すぎるのでもっとペース上げます。
今回の話、何度も園田の部分を海未って書いてました。前の時の癖が抜けない……。
ちょこっと紹介コーナー
園田海未
音ノ木坂学院2年。大和撫子タイプの女の子。
前作では個別ルートでヒロイン予定だった少女。かなりドロドロした展開にする予定だったとか。
比企谷八幡による園田海未の印象
『大和撫子と思ったら鬼だった。何を言ってるかわらかねぇと思うが俺も何を言ってるかわからない』