やはり俺の青春ラブコメに女神がいるのはまちがっている。 作:秋銀杏
「そもそも、比企谷さんは……」
「ああ。はい。すいません」
耳が痛くなりそうな園田からの小言を得意の瞑想術で聴き流す。ポイントは適当に謝っておくこと。そうすれば相手は満足するし、なんならバレたとしても呆れられて怒られない。
ちなみに平塚先生にやってバレたら鉄拳が飛んでくる。あの人ほんとに教師かよ……、悪魔の血でも流れてても不思議じゃないぞ。
「比企谷さん。……比企谷さん!」
「ああ。すまない」
「はい? えっと、何を……?」
「え?」
園田の声がいつの間にか後ろから聞こえてきていた。振り返ると、怪訝な顔でこちらを見ている。
「着きましたよ」
着いた……ということはここが高坂の家か。
それは穂むらという和菓子屋だった。
……そういえば、和菓子屋とかなんか高坂が言ってた気がしなくもない。ぼっちは記憶力がいいんだ。人と話すこと少ないからな。
「ここが高坂の家か」
「はい。そうなんですが……」
ジトっとした湿度高めの視線を向けられた。
「私の話聞いてました?」
ちょっと冷たい声色で尋ねられる。
「……ほら、早く入ろう。高坂が待っているだろ」
「ちょっと、待ってください!」
逃げ出すように扉を開けると、若い女性が団子を頬張っていた。
「いらっしゃ……、あら?」
どうやら従業員だったらしく、俺の姿を見て笑顔で接客を始めようとするが後ろの園田を見て意外そうな顔をした。
てか、この人、勤務中に売ってるもの食ってたのかよ。団子食ってるから客なのかと一瞬思ったじゃねぇか。真面目に働け。
「こんばんは。穂乃果は?」
「上にいるわよ。それより、そこの人は……、海未ちゃんの、これ?」
「ち、違います!」
小指を立てて聞いてくる女性に園田は顔を真っ赤にして否定する。
ははは。なんて乙女思考MAXなお茶目な店員さんなんだ。団子を食べ過ぎて頭の中が糖分まみれなのかもしれない。頼むからやめてほしい。こういうやり取りでどれだけ多くの男子が傷ついてきたと思っているんだ。
園田の否定が恥ずかしがってから来てるからまだいいが、これが真顔で「やめて」とか言われてみろ。夜中に枕を濡らす羽目になる。
「彼は今、音ノ木坂学院に手伝いに来てくれている比企谷八幡さんです」
「どうも」
ペコリと頭を下げておくと、女性の店員さんは花の咲いたような笑顔を向けてきた。
「あらあら! そうだったのね! いつも娘の穂乃果がお世話になっています」
……え? 娘?
そうか。東京では妹のことを方言で娘って言うのか。知らなかった。んなわけない。
この女性店員が高坂の母親だと言うのか。20代前半と言われても全然信じられる見た目をしている。
「あ、そうだ。海未ちゃん、比企谷くん、お団子食べる?」
「いえ、結構です。ダイエットをしないといけないので」
ダイエットね。別にする必要はないと思うんだが。
しかし、片方がダイエットが理由で断ったとなると俺が貰いにくい。
「いただきます」
まぁ、そんなこと知ったことではないので貰うけど。園田から凄い目で見られてる気がする。多分気のせいだろう。
「ふふ。素直な子ね。はい、これ」
大人の魅力あふれる笑顔で高坂のお母さんは言うと、戸棚から商品を一つ取り渡してくれた。
危ねぇ。人妻だと知らなかったらころっと惚れていたかもしれない。
渡された商品を見ると、ほの字が書かれたお饅頭だった。団子じゃなくて饅頭じゃねぇか。
「あ、そうだ。ついでにこれも……」
言ってぱたぱたと後ろに引っ込んだと思うと、ちゃんと包装されきっていないお饅頭を持ってきた。
「うちの今度出そうと考えてる新作よ。さっき作ったばかりの出来立てホヤホヤ。良かったら味見してみて」
ほほぉ……、まだ販売されてない新作。それは気になる。なぜ日本人は未販売とか新作とか期間限定という言葉にここまで弱いのだろうか。別にこの店来たことないから新作とか知ったことではないというのに。
「ありがとうございます」
「帰りに感想だけお願いね」
感想……。美味しかったですと言っておけばいいだろう。大体それで許される。
「……ほら、行きますよ。お邪魔しますね」
やけに冷たい声の園田に促されて俺も靴を脱いで、高坂家にお邪魔する。
……そういえば女子の家に上がるのって初めてだな。やっべ、緊張してきた。手汗がやばい。格好変じゃないかな。高坂にあった瞬間叫ばれたりしないだろうな。
園田について行くように階段を上り、奥の部屋の扉を開ける。
すると、そこにはお団子片手に喋っている高坂と南がいた。
「「お疲れ様〜」」
俺らを見た二人がそんなことを笑顔で言うなか、園田は固まっている。
「……あなた達、ダイエットは?」
え、この二人もダイエットする予定だったの?
そこにある団子はもしかしてカロリーゼロとか言う代物なんですか。
「「ああ!!」」
忘れていたように声を上げる二人。それに呆れたように園田はため息を吐いた。
大丈夫かこいつら。園田も俺の更生よりも先にこの二人の更生に取り掛かった方がいいと思うぞ。
「努力する気はないようですね……」
「あ、あるよー!」
口だけなら誰でも出来るんです! 結果を出しなさい、結果を!
どこかの熱血教師のようなことを思いつつ、高坂の部屋を見渡した。
高坂の部屋は机にベッドの一般的な学生の部屋と大差はないだろう。そこに小物が置かれていたりするあたりは女の子らしい。それよりも、なんかいい匂いするんだけど気のせい? ちょっと胸がドキドキして心筋梗塞の疑いがあるから帰っていい?
そっと逃げようとしたところで、高坂の瞳が俺を捉えた。
「あ、比企谷くん、いたんだね!」
「……お、おう」
え、気づかれてなかったの? 園田の後ろにずっといたんだけど……。
もしかして背後霊かスタンドだとでも思われた?
どうぞどうぞと手招きされて逃げるわけにもいかず、おずおずと部屋の隅、扉のすぐ近くに棒立ちになる。
……す、座っていいのかな?
オロオロと連れられてきた子犬のように震えていたら、園田から不審な目で見られた。
帰りたい……。あったかいカマクラが待っている我が家に帰りたい。
カマクラ、我が家のとってもふてぶてしいペットの猫。俺よりも家の中のヒエラルキーが上位に位置する存在。ちなみに最下位は親父。
「比企谷くん、どうしたの? 座ったら」
「あ、ああ……」
ちょこんと隅に正座する。このまま動きたくない。隅っこぐらしを満喫したい。なんなら、中盤から鬱展開まっしぐらでゾンビとか出てきちゃっても構わない。いや、それ学校ぐらしやないかい。
「……ことりちゃん、ことりちゃん、比企谷くん笑ってるんだけど、どうして?」
「うーん……? なんでだろ……?」
ひそっと話す内容が聞こえてきた。それを誤魔化すように咳払いをする。
「んんっ! ……それで、今日はなんで集まったんだ?」
「作戦会議!」
俺が尋ねると、高坂が薄く胸を張って元気に答えた。
そういえば、今後の予定について話し合うとかなんとか園田が言ってた気がしなくもない。
「あー、えっと練習場所とかか?」
「ううん。それは見つかったよ。そうじゃなくて、曲作りの!」
「曲作り?」
え、こいつら曲作るつもりなの? 思ったよりも本格的だ。
「一年生の子にすっごく歌の上手い子がいるの。ピアノも上手だから、作曲もできるんじゃないかなぁって」
自分たちで作るわけじゃないのか。まぁ、別にアウトソーシングが悪いわけじゃない。それよりも俺は出来ないことを精神論で乗り越えさせようとする奴らの方が嫌いだ。
精神論で勝っていいのは少年漫画だけだ。現実では、実力も周りの雰囲気、そしてノリで勝負は決まる。慈悲はない。
「それで、作曲をしてもらえるなら作詞はなんとかなるかなって」
「なんとかですか……?」
「うん」
笑顔で頷く高坂と南に対して、園田が不思議そうに首を傾げた。どうやら何も聞いてないようだ。
この二人が書くとも思えないし、頼むアテでもあるのだろうか。
そう思っていたら、二人の視線が園田に注がれる。
「「んふふふ〜」」
「な、なんですか!?」
意味深な笑みを浮かべて園田に詰め寄る二人。戸惑うような海未を今にも押し倒そうとせんばかりだ。もしその展開になったら俺はそっとこの部屋から出て、扉の外で聞き耳でも立ててよう。
「海未ちゃんさ……、中学校の時、ポエムとか書いたことあったよね」
「ぶっ!」
思いっきり吹き出してしまった。ぽ、ポエム!?
「読ませてもらったこともあったよねぇ」
悪い笑顔だ。
園田とは相容れないと思っていたが、黒歴史を持つもの同士だったのか。ちなみにそれがわかったところで、互いに傷を深め合うだけなのでやっぱり相容れない。
それにしても、誰かに読ませるとか俺ですらしてなか……、妹に読ませるのはノーカンだよね?
しかしこいつら、人の黒歴史に触れて、しかもそれを利用しようだなんてあまりにも黒い。慈悲がない。やはり現実は残酷なようだ。
「うぅっ……、くっ!」
園田が逃げ出した。素晴らしいスタートだ。逃げSはあるぞこれは。
「あ、逃げた!」
それを追いかける高坂。こちらも素早い動きだ。こちらは差し型かな?
二人とも出て行った部屋の中で俺と南だけが残される。
別に話すこともないので、二人が戻ってくるまで無言で待つことにした。
こういう時にぼっちは有利だ。時間の潰し方を知っている。そう例えばこういう場合は天井を見上げて、シミを数えればいい。
「……ねぇ、比企谷くん」
「あひゃ、ひゃぁい!」
唐突に話しかけられたことに驚いて変な返事をしてしまった。それを南はクスクスと笑う。
心の中で気持ち悪いとか思われてないだろうな……。
「ど、どうかしたか」
少しどもりながら尋ねると、南は少しこちらに前屈み気味に近づいてきた。
あんまり近づかないで欲しい。いや、そのじっと見ないで。恥ずかしい。
「じぃ〜……」
綺麗な瞳でじっと見つめられる。流石に恥ずかしくて顔を逸らす。それなのに、南はずっと見つめてきた。
その視線が俺じゃなくて俺の手元に向いている。それに釣られるように俺も視線を向けると、先程もらったお饅頭たちが手にあった。
「……欲しいのか?」
「えっ!? そ、そういうわけじゃないけど、見たことがないお饅頭があるなぁって思って」
欲しいんだろうなぁ。慌てたような南の様子から察する。
「ほら」
南に貰ったお饅頭を差し出すと、南はぶんぶんと首を振った。
「比企谷くんに悪いよ」
「いや、別にもう一個あるから大丈夫だ」
「でも……」
悩む素振りを見せることりだが、お饅頭の誘惑に勝てなかったのか手のひらに乗っていたお饅頭を受け取る。
新作のお饅頭を食べれないのは残念だが、あの視線では食べにくかったし仕方がない。感想を頼まれてもいだが、どうせ美味しかったとしか言うつもりなかったし問題ないだろう。
南はお饅頭を2つ割ると、片割れに小さく口を開けてかぶりついた。その瞬間、花の咲いたような笑顔になる。
「ん〜! 美味しい〜!」
幸せそうな表情だ。そんなに美味しいのか。
俺も貰ったもう一つのお饅頭の包装を解いて食べてみる。
……おお、おお。これは……!
なるほど。南が新作のお饅頭が気になるのも頷ける美味しさだ。これはきっと素材中やら真のお饅頭を見せてやりますよ中も満足すること間違いない。
妹の小町にお土産として買っていてお兄ちゃんポイントを稼ぐのもありかもしれないと思う味だ。
しかし、これだけ美味しいと新作の方も気になる。くっ、渡したのが悔やまれる……。
チラリと南の方を見たら、ばっちりと目が合ってしまった。
目を合わせたらポケモンバトルを仕掛けないといけないと習った俺なのだが、流石に唐突すぎて心の準備も出来ていなかっただけに慌てて再び目を逸らす。
動きが完全に好きな女子とたまたま目が合ってしまった男子すぎて我ながらキモい。
視界の端で不思議そうに傾げた南が、はっと気づいたような顔になると、手に持っていたお饅頭の口のつけていない片割れを更に半分に割った。
それを指で摘むとこちらに向けてくる。
「はい、あ〜ん」
……え? 一瞬理解出来なかった。
この子、何やってるの? それは昔からよく聞くあーんとか言うやつですか?
どうやら俺が食べたいと思っていると考えたようだ。間違ってはいないが、なぜそれがあーんになるんだ。これが女子校クオリティとでも言うのか。ハイレベルすぎて俺は完全にレベリングが足りてない。攻略組なんて夢のまた夢だ。
「い、いや、いい」
「えー、でも……、ほら、海未ちゃんが帰ってきちゃうから」
早く早くと急かすような南は摘んだお饅頭を揺らす。
ぐっ……、なぜ、こんなことに。
しかし、このままでは膠着状態なのも確かだ。それにいつ二人が戻ってくるかもわからない。戻ってきた時にこの状況は死んでも見られたくない。
小さく息を吐くと、意を決して行動に出る。
「……じゃあ、ありがとな」
言って、南が摘んでいたお饅頭を手で受け取った。
そうだ。例え相手があーんと言っていたからといって、口で受け取らなければいけないルールはない。完璧な策でお饅頭を受け取ると南は笑顔を向けてきた。
「食べてみて。とっても美味しいよ」
お饅頭を渡した南は残ったお饅頭も食べ始める。
俺も渡されたお饅頭を食べてみた。
うん。美味い。美味いけど、さっきの緊張のせいで味がよくわかんねぇ……。
1週間以内を目標にしていた奴はどこのどいつだ……。
前話よりは早めに投稿できたとはいえ、まだまだスローペース。もっと速度上げなきゃ。書く時間を増やさなきゃ……。
前作の面影が消え始めた今日この頃。ほぼ最初から話考える羽目に。強くてニューゲームなんて存在しなかった。
ちょこっと紹介コーナー
南ことり
音ノ木坂学院2年。おっとりとした甘さたっぷりな女の子。
前作では個別ルートでヒロイン予定だった少女。海未ちゃんとの友情と恋心の両方で悩ませ、揺れ動かしたかった。今作では……。
比企谷八幡による南ことりの印象
『ほわほわしてて何考えてるかわからない。一番優しい子が、実は一番危険とかいうパターンあるある』