ガンダムビルドファイターズ AMBITIOUS 作:大ちゃんネオ
朝飯をかっ食らう。
母ちゃんの雑談を聞き流しながら。
「駅前で撮影してたんだって! 見に行きたかったわ~生チヅ……」
「ごちそうさまー! いってきまーす!」
「こらケンユウ! 食器片付けなさい!」
追いかけてくる母ちゃんから逃げるように家から飛び出る。
今日は一秒も時間を無駄にしたくはない。
なんといっても今日は丸一日フリーなのでガンプラバトルの腕を上げるのに一日特訓デーと決めたのだ。
そのために課題も終わらせといた。
自転車に乗り込み、目指すは駄菓子屋!
荒野に吹き荒ぶ剣閃は激しく、勢いそのままにケンユウの駆るガンダムエクスカリバーは対戦相手を打ち負かそうとしていた。
「うおぉぉぉぉぉ!!!!!」
対艦刀エクスカリバーの二刀流。
上段から振りかぶり、駄菓子屋店主タケノワ・タミオが操るSDガンプラ将軍汰鞍英(ショウグンターンエー)に斬りかかる。
「前に見た時よりは動きが良くなってるが……。まだまだ甘いな」
「なにっ!?」
ケンユウからは将軍汰鞍英がその場から一瞬にして消えたかのように見えた。
将軍汰鞍英はガンダムエクスカリバーの背後を取っており、刀を鞘へと戻すと同時にガンダムエクスカリバーは爆発。バトルエンドのアナウンスが流れ、システムも停止した。
「くっそー!!! 負けた!!!」
「前よりは良くなってるよ。前よりは」
ニヤニヤとした笑みを浮かべ、ケンユウに今回のバトルの総評を述べていくタミオ。だが、ケンユウにはいまいち理解出来なかったようで首を傾げるばかり。
「とにかく前より強くなったんだな!」
「こいつ人がせっかくあれこれ言ったのをざっくり纏めやがった……」
やれやれと頭を振ったタミオは店の商品であるイカを咥えて一休みと、畳にちゃぶ台だけ置いて作ったイートインスペース(そう呼ぶのがタミオのこだわり)に座り込んだ。
久しぶりのバトルは意外と疲れると肩を回した。
店を継ぐためと一度止めたガンプラバトルだったがケンユウ達の熱を見て、将軍汰鞍英を押し入れの奥底から引っ張り出したのだった。
「あーオレにも一本!」
「おう、30円な」
「金取るのかよ!?」
「当たり前だろ商品なんだから」
「売り物食うのはどうなんだよ!」
「だって俺店長だもん」
「だもんじゃねー!」
冗談はここまでとケンユウにも一本イカを渡すとごねていたケンユウもすっかり大人しくなる。
ケンユウは度々タミオの駄菓子屋でガンプラバトルの自主練を行っており、タミオもそれに付き合っていた。そうして関わってくるうちにケンユウの家庭の経済状況を知り、気が付くと店のものをあげているのだった。
「ガンプラソードマスター……勝てるかな!」
「いんや、予選落ち」
やっぱりと肩を落とすケンユウ。
自分の実力は自分がよく分かっていた。
「……最近、なんかオレって弱いんだなって気付いたんだ」
「ほう」
「これまでは結構勝ちまくってたけど、それは遊びの中での話で。星涼入ってからはオレなんかより強い奴はたくさんいて、それを認めたくないから……ダイモンに突っ掛かったりして。なんかダメだなオレって」
ヒバリとは馬が合わない。
それがケンユウのヒバリと関わって出した初期の結論。
ヒバリの言うことはいちいち正しく、自分よりも強いヒバリという存在が気に食わなかった。
それが最近、こうして自主練するようになってから徐々に変わりつつあった。
「急にどうしたお前そんなキャラじゃなかっただろ。お前の辞書に反省の文字はなかったはずだ」
「んだとぉ!? ……とにかくさ、ソードマスター出るって決めて練習付き合ってもらって、自分がまだまだだなぁって、思ったんだよ」
イカを囓りながらそう語ったケンユウにタミオは内心感動していた。
こんな立派になって……と思わずにいられない。
これだけやる気があるならこちらも指導のモチベーションが上がる。もう一戦するかと持ちかけたがドタバタと小学生の集団が来店。
一気に店が慌ただしくなった。
「悪いなケンユウ。ちょっと待っててくれ……え、それは50円。そっちは70円だ……」
対戦相手が忙しそうにしているのでどうしようかとイカを囓るケンユウ。
子供達の喧騒は別に不快ではない。
なんなら数ヶ月前まではそちら側だったと遠い昔を思い返すかのように懐かしむ。
「オレ、中学生なんだなぁ……」
なんだか、妙な感慨に耽り出す。
大人に一歩近付いたんだなと嬉しくもあり寂しくもあり。
いまいち、この感情がどういうものなのか今のケンユウには分からなかった。
子供達の声をぼんやりと聴きながら、無心になっていく。
自分が透明になっていくかのような、そんな錯覚────。
「おい」
プツン、と糸が切れたかのようだった。
そして目の前には見知らぬサングラス男の顔がドアップ。
これで驚かない人間はいない。
「うわぁッ!?」
驚き、後退るケンユウは怪しいサングラス男の全身を視界に納めた。
身長はすらりと高く、180cmは確実にあるだろう。
手足も長く小顔で、これがいわゆるモデル体型かと実物を見て理解した。
男にしては長めの髪も違和感なく似合う。
服装自体はラフで、タイトなジーンズに白のVネックシャツというものだがそれでもやたらとお洒落なように見えてくる。
「そんなに驚くか」
「な、なんだよあんた!」
「俺は……。君と同じガンプラファイター。それで充分だろう。ここでバトルが出来るようだからな、相手になってくれないか?」
突然のバトルの申し出に戸惑うケンユウであったがバトルの上達にはとにかく数をこなすべきだと。
自分に足りないのは経験。
たとえ怪しげなサングラス男だろうとガンプラファイターであるならば何も問題はないと申し出を受け入れた。
「バトル、お願いします!」
「よろしく頼む」
ガンプラバトルブースに移り、ガンプラをセット。
フィールドは海岸地帯。
ガンダムエクスカリバーでは水中戦はこなせないのでメインとなる戦場は断崖絶壁の陸上にしたいというのがケンユウの考え。
しかし、それは相手のガンプラ次第。
もしも水陸両用のアッガイやゴッグだったりしたら向こうが有利になってしまう。
「ガンダムエクスカリバー、行くぜ!」
二振りの対艦刀を手にガンダムエクスカリバーは発進。
最近、ユナと作り直したフォースシルエットは性能が大幅に向上したため飛行を可能とした。
しかし、まだ性能向上したフォースシルエットをケンユウが使いこなせていないため空中での戦闘は出来る限り避けたいという事情がある。
崖上に立ち、対戦相手のガンプラを待つ。
「……来た!」
センサーが捉え、拡大されたガンプラの姿。
青と白の機体。背部から放出されている緑色の粒子。
「エクシア……?」
「惜しいな。クアンタだ」
機体はダブルオークアンタ。
機体色が変更されており白と黒をメインカラーに赤が差し色として各部を彩る。
クリアグリーンの刃も本物の刃物のように塗装されており、落ち着いた配色となっていた。
そのカラーリングにケンユウは鶴のようだと暢気な感想を抱くが今はバトル中。
桃色の粒子ビームがガンダムエクスカリバーを狙う。
鋭さのある射撃。
飛び退いて回避するが回避先を読まれており、既にビームが放たれていた。
「くっ……メイよりなんか……すげぇ……!」
チームメイトのメイとこの男の射撃を比べる。
メイの射撃は一発一発を大事にしており、一発必中を心掛けていた。
そのため回避されるとメイは内心慌てるのでケンユウとしてはメイの射はまだ対応出来るものであり心に余裕を持てた。
対して男の射撃は野球で言えば打たせて取る。
必ずしも一発で仕留めようとはせず回避コースを先読みしビームを置いてくるかのような射で、回避されたところで二発目、三発目が襲いかかる。
「避けてばかりか?」
「くっ……なんのぉ!!!」
ビームを回避するとスラスターを全開にしクアンタに向けて一直線に加速。
上段からの斬りかかり。
当たれば撃墜、撃墜とまではいかなくとも大きなダメージとなる。
(あれ……この感じさっき……)
ふと、ケンユウの脳裏に今と同じ状況が思い起こされる。
それは先程のタミオとのバトルでのこと。
「ふっ……」
クアンタはGNソードⅤを展開。
ガンダムエクスカリバーの斬に合わせ、胴にGNソードⅤを叩き込むという寸法……だった。
最高のタイミング。
男はそう確信していたがガンダムエクスカリバーは斬りかかりに来ず、途中で減速し逆噴射。胸部のCIWSでクアンタを牽制しながら距離を取った。
「勘がいいな」
(あっぶねー……あのまま突っ込んでたらさっきと同じだった。絶対)
さっきと同じ轍だけは踏むものかと行動したのがケンユウの寿命を延ばした。
そうでなければさっきと同じ負け方をしていた。
「今度はこちらから行かせてもらう!」
先程のケンユウと同じようにクアンタが一直線に突撃してくる。
ならばと、ケンユウは先程のタミオの将軍汰鞍英を真似ようと左手のエクスカリバーを地面に突き刺し、両手で一刀を脇構えにする。
吶喊し、振りかぶった瞬間こそ隙。
その隙をエクスカリバーで切り裂く。
上半身と下半身で真っ二つ。
イメージは出来たと構え、神経を研ぎ澄まし……。
「来た……」
あの、感覚。
世界にポツンと一人孤独になったかのような感覚。
一秒が何倍にも引き延ばされていく……。
「すごい集中力だ。だが……」
何倍にも引き延ばされた時間の中、クアンタがこの孤独の世界に踏み入ってきた。
緩やかだった動きは最早捉えることの出来ない速度。
気が付くと、ガンダムエクスカリバーは袈裟に切り裂かれていた。
バトル終了のアナウンスが流れると同時にタミオがバトルルームに顔を出す。
一体いつの間にケンユウはバトルをしていたのかと対戦相手の顔を見て、驚いた。
「チヅ……!」
「しー」
タミオはサングラスの男が静かにとジェスチャーしたので口を塞ぐ。
それにしたって内心は驚きで大変なことになっているが。
そんなタミオをよそに男はケンユウへと歩み寄り、手を差し出した。バトル後の握手である。
「え、えと……」
「まだまだだが、素質は十分だ。これからも精進してくれ」
「は、はい!」
ケンユウは男の手を握り、サングラスの奥に隠れる瞳を真っ直ぐ見つめ返した。
そんなケンユウに男は小さく微笑むと「また会おう」とだけ言って去ろうとする。
「あ……ま、待ってください!」
その背に、ケンユウは声を掛けた。
男は強かった。
であるならば、彼からなにかを得たい。
そんな気持ちがケンユウを動かしていた。
男は足を止めるが振り向くことはせず、ケンユウの言葉が紡がれるのを待っていた。
「あの……どうしたら、オレはもっと強くなれますか!」
男はその質問に間髪入れず答えた。
「剣を振れ。素振りだ。一日千本は振れ」
「千本!?」
「ああ。もっと剣と、ガンプラと向き合えばそのうち何かが見えてくるようになる」
「何かってなんですか?」
「それは君が見つけるものだ。俺と君ではきっと、違うだろうからな。それじゃあ……待ってるぞ」
最後の言葉はケンユウには聞こえないように呟き、男は店から立ち去った。
男からの言葉を自分の中で反芻するケンユウは、胸の中で何かが熱くなるのを感じていた。
「いやいや……。驚いたぁ……本物かよ……」
「ん? 店長あの人のこと知ってんの?」
ケンユウの何気ない質問が、タミオを驚かせた。
「え!? お前、誰か知らないでバトルしてたのか!?」
「おう。初対面だ」
「マジかよ……。それでこれまでガンプラバトルやってたのかよ……。しかもそれでソードマスター出るとか……」
タミオのあまりの呆れっぷりにケンユウは苛ついてきていた。
なので、言葉が少し荒くなる。
「なんだよもったいぶらずに言えよ」
「あのなぁ、さっきのはロクドウ・チヅル。人気俳優にして千刃鶴の異名を持つファイターでだな。ガンプラソードマスター初代チャンピオンにして唯一の三連覇達成者。今じゃ殿堂入りだ。お前、そんなのとバトルした……というかしてもらったんだぞ」
その情報量に、ケンユウの脳はオーバーヒート気味であった。
センバヅル?
初代ソードマスター?
三連覇?
とりあえず、わかったことはあの人はすごい人ということだけであった。
月曜日。
チームピスケス部室。
「よおダイモン! いや、ライバル!」
「は?」
「これからお前は俺のライバルだ!」
あの後、数時間後にロクドウ・チヅルとのバトルはとても貴重なものだったのだと実感し、彼から言われた通りにガンダムエクスカリバーで素振りを行うなどとにかくエクスカリバーと接し続けた。
そして、まず見えたのは身近なチームメイト達。
特にヒバリはライバルだと、そう素直に意識するようになったのであった。
「……イミフ。あとうるさいから離れて。作業に集中したいから」
「なんだよバトル相手してくれねえのかよ」
「相手しても結果見えてるし」
「んだとぉ? 男子三日会わざればって言うだろ!」
「顔会わせてないの土日の二日だけだから。あと男子三日会わざればって……待って、男子……」
「おう、男子だろ。俺達」
「……ありがとうオオノ。僕達、男子だもんな。あと……30分したら、バトルしたげるから……」
おお、とケンユウは感動せずにいられなかった。
さっき言ったことを否定しバトル相手を務めてくれるらしい。
一体どんな心境の変化やらと疑問が浮かぶ。だがまあいいだろうとヒバリが相手してくれる30分後までガンダムエクスカリバーで素振りでもしていようかとバトルシステムを起動させる。
ちなみにヒバリは男子と言われたのが嬉しかったのとチームのためというユナから言われたことを実行したのみだった。
そんな未だに妙な関係の男子二人の部室にメイがやって来た。
ヒバリとケンユウがそれぞれお疲れと挨拶したのでメイもお疲れ様と返すと一度深呼吸して何か意を決すると改めて二人に話しかけた。
「あ、あのねケンユウくん、ヒバリちゃん」
「なに?」
「なんだ?」
「ちょっと頼みがあって……」
再び深呼吸するメイ。
そして、二人への頼みを伝えた。
「あのね……お姉ちゃんに、会ってもらえないかな」