ガンダムビルドファイターズ AMBITIOUS   作:大ちゃんネオ

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邂逅×2

「二人をスカウトしに来たんだ」

 

 自信ありげな笑みを浮かべて言われた言葉の意味を推し量るのにコンマ数秒。

 スカウトということはボクとマトバさんをアリエスに……?

 レイカさんと同じチームに……!

 

「ま、待て待て! そしたらピスケスはどうなんだよ!」

「解散でいいだろう最下位掃き溜めチームなんて。オオノ・ケンユウ、ピスケスに相応しいのは君だけだよ」

 

 なかなかの毒舌。

 こんなのオオノが黙っていられるわけがない。

 

「誰が最下位掃き溜めゴミカス野郎だって!?」

「ケ、ケンユウくん……そこまでは言われてない……」

「最下位掃き溜めゴミカスクソ野郎には話すことはないよ。それで、どうだい? アリエスに来るかい?」

「クソを追加したなぁ!?」

 

 オオノのツッコミはさておき、アリエスに……。

 正直に言うと、悪くない話だと思う。

 元々、この模型部特有のシステムとして上位チームからの引き抜きというものがある。

 ボクとマトバさんは実力を認められた。

 ただ、それだけ。

 

「おい! まさかこいつの言いなりになるとか言わないよな!?」

「あの、ええと……」

「悪い話だとは思わない」

「そうだろう、ダイモン君」

「ダイモン! お前……!」

 

 睨み付けてくるオオノをスルーして言葉を続ける。

 

「急な話でもあるので少し考える時間をいただけますか」

「考えるまでもない話だと思うけど……。ま、良い返事を期待しているよ」

 

 自信満々といった顔を崩さず部室から出ていったウツミ先輩。

 そして案の定オオノが詰め寄ってきた。

 

「お前マジで言ってるのかよ!」

「悪い話じゃないのは事実。けど、あの先輩がいたら落ち着いて話も出来ないだろ。だから追い出したんだ」

 

 ずっとあの調子では落ち着いて話をすることも出来ない。

 それに……。

 少しばかり、胸につっかえるものがあるような気がする。

 なんなんだろう、この感じ。

 

「まったく……。なんなんだあいつは。大体スカウトするなら俺だろ!」

「いや、それはない」

「こんのやろ~!」

「ケ、ケンユウくん! ヒバリちゃんも!」

 

 マトバさんに諌められひとまず謝罪。

 だが、今はそれよりも例の件に関してだ。

 

「ともかく、ボクは悪い話ではないと思う。だから、考えてる。ピスケスに残り続けるか、アリエスに行くか」

「だからなんでだよ!」

「なんでって、むしろなんでさ。最上位チームから勧誘された。実力が……努力が認められたってことだよ。ボクには目標がある。レイカさんを越えるって目標が。そのために、もっと強くならなきゃいけない。アリエスには強い人がたくさんいる。そんな人達と戦っていけば……!」

 

 いずれ、レイカさんにも届く実力を……。

 ここにいるよりも、きっといいはず……。

 

 ……けど、なんだろうこの感じ。

 胸がざわつく……。

 落ち着かない……!

 

「おい! どこ行くんだよ!」 

「一人になりたい気分なだけ」

 

 扉を乱暴に閉めて部室を去る。

 さて、どこへ行こうか……。

 

 

 

 

 

 

 

「おいっす~」

 

 部室に入るとケンユウくんとメイちゃんの二人だけ。

 空気は重い。

 なんとなく、予想はしていたけれど……。

 

「どした」

「ゆ、ユナ先輩……。実は……」

 

 メイちゃんから事情を聞く。

 やっぱり予想通り。

 レイカめ、めんどうなことを……。

 

「ひとまず、二人は自主練してて」

「……先輩は、あいつのとこ行くんすか」

 

 不満たらたらといった風なケンユウくん。

 まあ、こっちはメイちゃんもいるし自分でどうにか折り合いをつけるだろう。

 こういう時、心配なのはヒバリくんの方だと短い付き合いながら分かってきていた。

 

「なに? オレのそばにいろよユナつった?」

「はぁ!? い、言うかよそんな恥ずかしい台詞!」

「そ。じゃあ私は行くから。ちゃんと練習しておくこと! いいわね!」

 

 ぴしゃりと言い放ち、ヒバリくんを探しに出かける。

 連絡して素直に居場所を言ってはくれないだろうから彼が行きそうな場所をしらみ潰しにする。

 見当はついてるから、すぐ見つかるだろうとは思うけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 部室に残された二人はユナに言われたとおり自主練を始めることにした。

 とりあえず、実戦形式でとバトルを始める。

 けれど二人の動きはいつもよりキレがなかった。

 なんとなく、無言のまま。

 端から見ればやる気がないと思われても仕方ないほど。

 そんな練習が身になるはずもなく、二人は同時に動きを止めた。

 

「……オレ、やっぱりあいつが分かんねぇ」

 

 ぽつりと呟くケンユウ。

 彼の胸中はヒバリに対する何故?といった言葉で埋め尽くされていた。

 

「ケンユウくんはピスケスが好きなんだね」

「なっ! いや、その、いや!」

 

 メイの言葉にケンユウは分かりやすく照れた。

 ケンユウ自身が言語化出来ていなかったことをメイがずばりと言い当てたからだ。

 

「せっかく同じチームになったんだから、さ……」

「うん、そうだね。……私も、好きだよ。ケンユウくんとヒバリちゃん二人をずっと眺め……」

「眺め……?」 

「二人と一緒にバトルするの好きだよ!!!」

「絶対に何か変なこと考えてたろ、ええ?」

 

 メイのことを分かってきたケンユウはそれ以上追及することはしなかった。

 すればするだけダメージを負うのは自分だからだ。

 誰も茨を掴むことはしない。

 

「ヒバリちゃんは部長を越えるっていう目標があるから、それが最優先なんだもんね」

「目標、か……。マトバは、姉ちゃんにバトルしてるとこ見せるだったか」

「うん。出来ればおっきな舞台で、見てほしいなって最近は思ってるんだ」

 

 そういった思いを抱き始めてからメイのモチベーションは上がり、練習にも力が入っていた。

 これはアサルトデュナメスで立てるようになったことが理由であり、立てるように手伝った二人はメイにとって恩人と言える。

 そんな二人とだからこそ、メイはチームでいたいと思うのだ。

 

「ヒバリちゃん、アリエスにいっちゃうのかな……」

「……なあ、あいつアリエスには強い奴等がいるから行くみたいなこと言ってたよな」

「え、うん……」 

「じゃあ、俺達がアリエスの……あいつよりも強かったら……!」

「ケ、ケンユウくん!?」 

 

 部室を飛び出したケンユウ。メイもまたその後を追って走り出す。

 二人が向かった先は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビームの雨を掻い潜り、対戦相手であるバイアラン・カスタムへと接近。

 

(どうして……)

 

 ビームサーベルを抜き、バレルロールしながらバイアラン・カスタムを切り裂きバトル終了。

 

(どうして……)

 

 どうして、こうも軽やかに動けるのだろう。

 フリーダムだと。

 いや、理由は分かっている。

 比較対象であるネオ・ペーネロペーより小回りが利くし何よりこのフリーダムを製作した先輩の腕。

 製作技術の差もある。

 バトルの腕だけではガンプラバトルは決まらない。

 ガンプラ製作のスキルもまた、求められる。

 自分はまだまだだと痛感しながら対戦相手のお兄さんに挨拶して、一旦バトルブースから離れて待機ブースへ。

 ポップな店内BGMといろんなゲームの音、ゲームを楽しむ客の喧騒。

 耳に響く。あまり、好きな環境ではない。

 けど、ここは結構強いファイターと出会える穴場。

 そろそろ大学生や社会人なんかもやってくる時間。

 そしたら、もっと強い人とも会えるかもしれない。

 適当にベンチへ座り、自販機で買ったサイダーを飲む。

 

「あのっ!」

「……ん?」

 

 いきなり、知らない顔から話しかけられた。

 長い茶髪をポニーテールにした、くりくりとした目の女の子。

 小学生、だよな?

 

「何か用?」

「さっき、青い羽のガンプラ? 使ってましたよね! カッコ良かったです!」

 

 ……なんだこいつ。

 感想言いに来ただけか?

 青い羽のガンプラって、フリーダムを知らないってことはガンダムシリーズもガンプラバトルもまったくの未経験者……?

 そんな子がなんでわざわざ……?

 

「わたし、リズムゲームが好きなんです!」

「そう」

 

 ……で?

 ……ああ、だからゲームセンターにはよく来てます、的な?

 言葉足らずが過ぎる。

 これだから子供は苦手なんだ。

 

「もうやらないんですか?」

「やる」

「また見ててもいいですか!」

「駄目」

「なんでですか!」

 

 スマホの画面を見せつける。

 もう5時になるところだ。

 

「小学生はもう家に帰る時間だ」

 

 常識的に考えて、大体5時ぐらいには家に帰るものだろう。習い事とかない限り。

 しかし、この小学生は何故か自信満々に胸を張った。

 

「ここの店長、わたしのお父さんなんです!」

「ふーん」

「えっと……その……だから遊んでていいんです!」

「宿題は終わったの」

「うぅ……お母さんみたいなこと言う……」

 

 ふん。

 小学生なんてこれで充分対処可能だ。

 

「そういうバリヒーは、宿題終わってないどころか部活抜け出してきたよね~」

「げっ、先輩……」

「まったく問題児なんだから」

 

 問題児とはなんだ問題児とは。

 オオノの方が問題児だとボクは思う。なんて思いながら先輩を見上げる。

 別に怒ってるとかではなさそうだ。

 

「バリヒー……? 変わった名前ですね!」

「バカ。あだ名だよ、この人が毎度テキトーに考える」

「テキトーとは何よ。あだ名があった方がフレンドリーさ出るでしょ」

「いりません。フレンドリーなんて」

 

 はあ、休憩しようと思ったのに休まらない。

 これならまだバトルしてた方がマシだ。

 立ち上がり、バトルブースへと戻る。

 

「またバトルするんですか! 見てていいですか!」

「……好きにしたら」

「ありがとうございます! バリヒーさん!」

「それはやめて。……ヒバリ。ダイモン・ヒバリ。それがボクの名前だ」

「わたしはヤタノ・ショウコっていいます!」

 

 それだけ言ってあとは無視。

 それでも、このショウコとかいう小学生と先輩はついてきたが。

 適当に対戦相手を探してそうな人に声をかけてバトル。

 使用ガンプラはフリーダム。

 何故、フリーダムを使うのか。

 ハイマットモードとフルバーストモードという二つのモードを適切に切り換えて戦う。

 これがネオ・ペーネロペーにも活かせるから。

 

 バトル開始と同時にハイマットモードで宇宙空間を飛翔。

 デブリなどは少なく、開けた空間。

 対戦相手は……ZZか。

 黒いカラーリングで宇宙に溶け込んでいるかのよう。

 ZZは鈍重なイメージがついてしまっているが高火力、高機動のフリーダムとタイプは同じ。

 ダブル・ビーム・ライフルから放たれる二つの光線を縫うようにして回避しながら接近。

 ビームライフルで牽制しつつ、距離を詰めていく。

 

「チッ!」

 

 ZZの対戦相手は距離を保ちながら戦いたいようで、間合を詰めてくるこちらの動きが嫌らしい。

 ミサイル・ランチャーから白煙を靡かせながら無数のミサイルが発射される。

 スラスターの熱を追尾してくる嫌なタイプ。 

 ミサイルへの対処を優先しつつZZの動きを見る。

 ダブル・ビーム・ライフルによる射撃が来る。

 ミサイルとビームの二つを回避し、ミサイルをCIWS(頭部のバルカン)とビームライフルで撃ち落としていく。

 

「隙ありだぁ!」

 

 ZZのパイロットが叫ぶ。

 ハイ・メガ・キャノンのチャージ中。

 今にも放とうという段階だが、遅い。

 最後のミサイルを撃ち落とすと同時にZZへと向きを変えて、フルバーストモードへと移行。

 バラエーナから放たれる赤い収束ビームとクスフィアスが撃ち出す黄色い光芒がZZを貫いた。

 

 バトル終了。

 

「ありがとうございました」

「ありがとうございました……。くそっ」 

 

 ZZのファイターはバトルブースから出ていった。

 帰ってしまったようだ。

 

「すごいすごい! すごくてすごいですすごい!」

「何回すごい言うんだ……。それに……」

 

 すごくは、ない。

 あれでは駄目だ。

 もっと、実力のあるファイターと戦いたい……。

 

「だいぶ動きが良くなったわね。無駄が減ってきた」

「先輩のフリーダムのおかげですよ……」

 

 先輩のフリーダムの完成度の高さがこの動きに繋がっている。

 作り込まれたガンプラは、自分の手足を動かすのと同じように動かせるのだ。

 

「まあ、私の手だからね。神の手よ」

「そのじしんがうらやましいです」

「なにその棒読み」

 

 詰め寄る先輩を避けようと後退。

 はあ、まったくこの先輩は圧が強いんだから……。

 

「あの、対戦いいですか」

「あ、はい……。っ……」

 

 声をかけられたので応じる。

 同年代ぐらいの少女である、が……。

 

「この前の……」

「はい。ぶつかりましたね」

 

 前にレイカさんとバトルした日にちょっとぶつかってしまった人。

 ガンプラを買っていたので、ちょっと覚えていた。

 それに福女との練習試合の時にも来ていた。

 これが三度目の出会いとなる。

 向こうもボクを覚えていたことに驚きだ。

 

「ちょ、ちょっと待った!」

「はい?」

 

 二人で話しているとボク達を見ていた先輩が慌てた様子で会話に割り込んできた。

 何をそんなに慌てているんだ。

 

「あなた、岩山中の子よね。この間、福女との練習試合来てた……ウイングゼロ使いの」

「はい」

 

 ウイングゼロを使うのか。

 高い火力と機動力を持つので戦うとなればかなり飛び回ることになるな……。

 

「ちょっと、ヒバリくん」

 

 先輩に引っ張られ、少し離れた場所で先輩が小声で話し始めた。

 

「あの子、強いわよ」

「そうですか」

「そうですかって、もっとなんかないわけ」

「強いのなら、戦いたいです」

「気持ちは分かるけど、恐らく情報収集が目的よ。今度の県大会で対戦する可能性があるから」

「そうですか」

「だからそうですかじゃない! あのね、情報を表に出さないことは重要よ。大会前だし」

「それはそうですけど、情報なんて戦えば知ることになるものですから」

 

 あの少女のもとへ戻る。

 強いのであれば、戦いたい。

 

「ダイモン・ヒバリさん。私は、あなたの福女との戦いを見ていました。あなたは、私の戦いを見ていましたか」

「……見てない、けど」

「そうですか。私は、あなたに勝てます」

 

 抑揚のない声。

 だが、勝つということへの思いは伝わってきた。

 ボクに勝てるという自信は本物。

 ブラフではない。

 

「……そう」

「機体はペーネロペーでお願いします。お互い、本気でやりましょう」

「いいよ。……さ、やろうか」

 

 エナメルバッグから大きなボックスを取り出し、中からペーネロペーを取り出す。

 

「フリーダムの方が、動ける。だけど……」

 

 筐体を挟んで向かい合い、システムを起動させる。

 フィールドは、夕陽が沈みつつある空。

 ネオ・ペーネロペーにとっても、ウイングゼロにとっても良いフィールド。

 地形的有利不利はない。

 

「……行こうか、ペーネロペー。ダイモン・ヒバリ。ネオ・ペーネロペー・トルネードで出る」

 

 光球の操縦桿を押し込み、発進。

 鳥の羽撃きを告げる音と共に、大空を怪鳥が舞った。

 

 

 

「イツキ・リナ。ウイングガンダムゼロオーバー。いきます」

 

 発進する、少女イツキ・リナの愛機ウイングガンダムゼロオーバー。

 テレビ版のウイングゼロをEW版のゼロを思わせる青と白を主体としたカラーリングにし、翼はより戦闘機を思わせる鋭角的なフォルムとなった。 

 また機体各所にウイングガンダムゼロ炎のクリアパーツをグリーンに塗装し配置。飛行すると、緑の光が空に線を描く

 機動力を高めた改造を施したウイングゼロ。

 それがウイングガンダムゼロオーバー。

 

「……あれが、彼のペーネロペー……」

 

 改めて、対峙して分かるプレッシャーをリナは感じていた。

 だが、リナは自分の実力を信じている。

 あの怪鳥を撃ち落とすのは、己が翼であると。

 ゼロオーバーをバードモードへと変形させ、フライト・フォームで飛翔するネオ・ペーネロペー・トルネードへと加速。

 

「来たか……!」

 

 ヒバリもまた加速する。

 二羽の鳥が最高速に達した瞬間、すれ違う。

 それが、開戦の合図。

 

「撃つ!」

 

 ネオ・ペーネロペー・トルネードの背に備わる二門のメガ粒子砲が旋回。

 ゼロオーバーへと照準を合わせ、高出力のメガ粒子が放たれる。

 

「予測済みです」

 

 リナは操縦桿を冷静に操る。

 一度、MS形態へと戻り進行方向を変えて即座にバードモードへと変形。

 機首をネオ・ペーネロペー・トルネードへと向ける。

 ゼロオーバーがネオ・ペーネロペーの後ろを取った。

 

「変形が速い……。くっ……!」

「撃ちます」

 

 ゼロオーバーの機首、シールドに内蔵されたバルカンとバスターライフルが火を噴き、ネオ・ペーネロペーを狙う。

 バスターライフルから放たれたビームがネオ・ペーネロペーの左脚部追加装甲を掠める。

 ヒバリは即座に両足の追加装甲をパージ、と同時に爆発。

 ネオ・ペーネロペーの巨躯が爆煙に隠れる。

 口角が上がるリナ。

 だが、怪鳥の声が響くと同時に爆煙を突き破って無数のミサイルがゼロオーバーを狙う。

 被弾していない右脚部追加装甲はバランスを崩さないためにパージした。

 だが、同時にゼロオーバーへの攻撃のためパージと同時にミサイルを放つようにしていたのだ。

 

「ッ……!」

 

 一瞬の驚愕を捨て去り、巧みにゼロオーバーを操る。

 ミサイルの数とポジションを瞬時に把握し、最適な回避ルートを導きだす。

 

「逃がさない……!」

 

 ネオ・ペーネロペーの拡散ビームが雨のように降り注ぐ。

 背後からはミサイル、頭上からはビーム。

 これは完全に獲ったとヒバリは確信する。

 だが、彼女は冷静であった。

 

「ゼロオーバー……。ッ!」

 

 加速。

 恐るべき、加速。

 緑光だけを残し、ゼロオーバーを貫くはずのビームの雨は虚を貫きそこへミサイルが接触。

 ネオ・ペーネロペーの攻撃を以てして、ネオ・ペーネロペーのミサイルを迎撃したのだ。

 

「これが、人間ゼロシステムなんて呼ばれてる子の実力……!」

 

 観戦していたユナが呟く。

 映像ではなく生で見るその実力は背筋を凍らせてくる。

 同世代でも、トップクラス。

 県内、いや全国クラスだと。

 

「とんでもない実力ね……!」

「でも! ヒバリさん負けてないよ!」

 

 ショウコの言うとおり、ヒバリも負けていない。

 食らいついている。

 二人の実力は拮抗していた。 

 追加装甲をやられたお返しにとネオ・ペーネロペーが牙を剥く。

 全身から放たれるミサイル、ビームがゼロオーバーを追跡する。

 

「くっ……」

 

 リナの思考は加速する。 

 弾道を予測し、回避コースを導いていくが流石に苦しくなってきていた。

 それでも並のファイターでは撃墜必至の弾幕を回避していく。

 その様は正に神業。

 

「はあぁぁぁぁ!!!!!」

「っ! ビームサーベル!」

 

 撃ちきったミサイルポッド達をパージし軽量化したネオ・ペーネロペーがゼロオーバーへと肉薄。

 両腕のビームサーベルの発振させ、二刀で斬りかかるがゼロオーバーがすんでのところで変形しシールドで防御する。

 しかし、パワーではネオ・ペーネロペーが勝りゼロオーバーは防御姿勢を崩され、左肩を切り裂かれた。

 

「くぅ……!」

 

 バルカンで牽制しネオ・ペーネロペーから距離を取ったゼロオーバーはバードモードへと変形しネオ・ペーネロペーから逃げるかのように飛び立つ。

 

「逃がさない!」

 

 ネオ・ペーネロペーもフライト・フォームへと変形しゼロオーバーを追う。

 ドッグファイトとは、犬の喧嘩が語源。

 相手の尻尾に噛みつこうと互いに後ろを取り合うことが犬の喧嘩に見えたので戦闘機の戦闘をドッグファイトと呼ぶようになった。

 ゆえにドッグファイトでは相手の後ろを取った方が有利。

 先程の白兵戦でゼロオーバーを圧倒したことも合わさって、勝負の波はヒバリに来ていた。

 

「離れてくれない……!」

「逃がさないと言った!」

 

 ネオ・ペーネロペーはゼロオーバーの背後にぴったりとくっついて離れない。

 ビームによる射撃も正確で鋭く、リナはヒバリからのプレッシャーを一身に受けていた。

 それでも、この圧されている状況を覆すのがファイターである。

 人間ゼロシステムと称される彼女が見据えるのは勝利のみ。

 現在の状況、フィールドの条件など様々なものを考慮し勝利を導き出す。

 そして……。

 

「見えた────」

 

 光球の操縦桿を静かに上へと向ける。

 ゼロオーバーの機首が上を向き、高度を上げるのかとヒバリは予測した。

 だが、ヒバリの予測は外れ、驚愕に目を見開いた。

 ゼロオーバーのスラスターに火が灯っていない。

 そして、風が吹く。

 機首を上げていたゼロオーバーは風に押され、一気にネオ・ペーネロペーの後方へ。

 

「風に乗った!?」 

「あのガンプラかなり軽量化されてるわね……」

 

 普通のファイターであれば、この挙動に驚き隙が生まれるだろう。

 けれど、ヒバリは違った。

 確かに驚いたが、同時に隙を見つけていた。

 風に乗っている最中は、無防備だと。

 

「獲った!」

 

 メガ粒子砲が回頭し、ゼロオーバー目掛けて放たれる。

 着弾は風に乗り終えたのとほぼ同じ。

 黒い爆炎が、ゼロオーバーの欠片を吹き飛ばす。

 しかし、バトル終了のアナウンスは流れない。

 何故かと誰もが訝しんだ時、風が吹く。

 風が爆煙を吹き流し、ツインバスターライフルを構えるウイングガンダムゼロオーバーの姿をヒバリに見せつけた。

 

「さっきの爆発は……シールド!」

 

 ヒバリはゼロオーバーがシールドを装備していないことに気付き、先程の爆発のトリックに気が付いた。

 ゼロオーバーのシールドはバルカンを内蔵しているため、弾薬に引火したことで爆発。

 それを隠れ蓑に変形しツインバスターライフルの発射態勢を取っていたのだ。

 

「その通りです。勝ちはいただきます」

 

 放たれる極光。

 ネオ・ペーネロペーの巨躯すら飲み込む光が迫る。

 回避にはもう間に合わず、ネオ・ペーネロペーは光の濁流の中へと消えた。

 

 

 

 

 

『DRAW』

 

 アナウンスが戦いの結果を告げる。

 結果は、ドロー。

 

「引き分け……?」

 

 何故、引き分けなのかと疑問符が浮かぶ。

 あれはボクの負けだと、なに馬鹿なこと言ってんだこのシステムはと思った。

 しかし、すぐに理由が分かった。

 筐体の上に倒れるウイングガンダムゼロオーバーは、胴体と下半身だけで腕や頭、翼は周囲に散らばっていた。

 

「最後のツインバスターライフルの射撃に機体が耐えられなかったようね。だいぶ軽量化した機体のようだし、ヒバリくんの攻撃を避けるのにかなり無茶な機動をしていた」

「それで……」

 

 先輩がボクに近付きながら言った。

 ボクは見ることが出来なかったが、光景が容易に想像ついた。

 ツインバスターライフルを撃った瞬間、機体各部が爆発していくウイングガンダムゼロオーバー。

 それはネオ・ペーネロペーが墜ちたのと同じタイミングだったのだろう。

 ゆえに、引き分けと。

 けど……。

 

「……ダイモンさん」

「……なにか」

 

 ゼロオーバーのパーツを拾い集め終わった少女が話しかけてきた。

 

「次は、必ず勝ちます。再戦までの間、このウイングガンダムゼロオーバーとイツキ・リナの名を忘れないで下さい。それでは、失礼します」

 

 そう挨拶して去っていく少女、イツキ・リナ。

 ……忘れられるかよ。

 

「……よく引き分けに持ち込んだわね。というか、ヒバリちゃん腕上がってるわねやっぱり!」

 

 先輩が朗らかに笑いながら言う。

 励ましてくれているのだろう。

 けど……。

 

「引き分けじゃないです……。ボクの負けだ……。ボクは最後、勝ったと思って油断しきって……。読みが甘かった、読み切れなかった……!」

 

 まんまと、彼女の罠にかかっていた……。

 

「けど、あの機体はあの子の操縦に耐えきれなかった。そこまでしたのはヒバリくんの実力よ。いい? ファイターとしてはあっちがまだ、ほんのちょっと上かもしれない。けどね、ビルダーとしてはヒバリくんの方が上よ。つまるところ、総合力的には二人は互角ってこと。へこたれんなよ後輩!」

 

 背中をバシッと叩かれる。

 ……ちょっとだけ、気が楽になったような気がするのが腹立たしい。

 ビルダーとしては、上か……。

 そもそも機体条件が違うというのはあるけれど、それでもボクがビルダーとして上というなら……。

 

「なに? 上目遣いなんてして可愛いわね」

「先輩のが背高いんですから必然的に上目遣いになるだけです。はぁ……」

「人の顔見てため息つく?」

 

 はあ……。

 ああ、そうだ、改めてちゃんと認めないといけない。

 ビルダーとしてボクが上というならば、それはガンプラ製作を指導している先輩のおかげだということを。

 はあ……。

 

「ヒバリさん!」

「あ……。なんか、置いてきぼりにしてごめん」

「いえ! すごかったので! あとわたしもガンプラしたいです!」 

「お! ご新規さんは大歓迎だよ! お姉さんが手取り足取り教えてあげるわ!」

「わーい!」

 

 小学生と一緒に盛り上がる先輩。

 なんか、うたのお姉さん的なの向いてそうとか思った。

 ……そういえば。

 

「あの、先輩」

「なに?」

「何しに来たんですか」

「何しにってそりゃ……ヒバリちゃんを連れ戻しに来たんだった!? ほら戻るよヒバリー! ……あっ、君もごめんね! また後で来るから!」

「はーい! ヒバリさんもバイバイです!」

「はいはい。……バイバイ」

 

 先輩に引っ張られながら、小学生に……ヤタノ・ショウコに挨拶してゲームセンターを去る。

 部室に戻るの気まず……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつと決闘するから!」

「は?」

 

 部室に戻って早々、オオノがそんなことを言った。

 あいつとは、アリエスのスカウトしに来たあいつらしい。

 ……馬鹿じゃないのか、こいつ。

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