ガンダムビルドファイターズ AMBITIOUS 作:大ちゃんネオ
ピスケスの三人はここ最近、チームアリエスとの実戦練習でほぼ毎日対戦させられている。そして、ほぼ毎回負けている。
100回戦えば99回負けるだろう相手。個人戦であれば上回る面もあるが、チームとしての地力の差が大きい。まさにあの時のバトルは100回のうちの1回をもぎ取ったようなもの。それも、様々な要素が上手いこと噛み合わさってだ。本来であればウツミとケンユウ君のバトルだったところが乱入に次ぐ乱入でイレギュラーもいいところ。フラットなチーム戦となると、チームの差が浮き彫りになっていった。
コンビネーションの練度など大きな差があるが、これは先輩であるアリエスの方がチームとして経験値が多いだけのこと。ピスケスも時間をかければ今のアリエスと同等のレベルにはいずれなるだろう。
問題はやはり、個人の総合力。
全員の実力が上がれば、ピスケスはもっとすごいチームになる……。
「……あの頃みたい……」
脳裏に浮かぶ、一人の男。あの頃も、あの三人のように……。
いいや、あの三人のようには、なれなかった。
「あーダメダメ! 集中!」
頬を叩き目の前のノートに向き合う。
真っ白なノート。
これはアイデア出し、ざっくりとしたラフスケッチを描いたりするノート。
今まで考えていたピスケスのことも大事だけれど、それ以上の壁が私の前に立ち塞がっていた。
「第52回アーティスティックガンプラコンテスト……」
ノートから視線を上げ、壁に貼り付けていたポスターと向き合う。
ガンプラバトルではなく、昔からある模型としてのガンプラのコンテスト。
「な〜〜〜んも思い浮かばん…………」
締切まで時間もないというのに、コンテスト用のガンプラのアイデアがまるで降りてこないのだ。
部活が終わってもまだ明るい。日が長くなってきて、こうまだ明るいと家に帰るのがもったいない気がしてくる。
「あー! 今日も負けた負けた!」
「わたしは一機撃墜したよ……!」
「負けてちゃ意味ないだろ!」
「う……ごめんなさい……」
前を歩くオオノとマトバさんの会話をラジオ代わりにする。
今日も今日とてアリエスとバトルをして、負けた。
内容はそう悪くないし、惜しいところまでいくが、いまいち勝ち切れない。
やはりチームとしての成熟度が違う。個人の力量差も、やはりある。ボクがウツミ相手にしっかり勝てれば試合の流れを掴めるのだろうけど、ウツミとの戦いは時間がかかり、その間にチーム壊滅というのが定番化している。
試合毎にミーティングして、次はああしようこうしようと試行錯誤しているのだけど、なかなか上手くいかない。
福音女学院のユキノさんの言葉が今になって、より重さを増す。
「どんな逆境だろうとはね除け、チームに勝利という希望を見せる。それがエースというもの」
自分のことをエースとは思ってはいないが、逆境をはね除けるだけの強さがあればボクは……。
「イツキ・リナ……あいつにだって……」
目下のところ、ボクが強く意識する相手はあの岩山中の女子。ウイングゼロオーバーのイツキ・リナだ。
あの実力なら県大会にも出てくるだろう。また戦いたい。次こそは勝ちたい。
こんなにも対抗心を持った相手は初めてだ。高機動戦闘を得意とする者同士、勝手にライバル視してしまっている。
そのためにもネオ・ペーネロペーの完成度を更に高めることは急務。今日のバトル後の手入れも早めにしたいが、ガンプラの完成度も大事なのは当然としてボク自身が強くなることも大切。
今日はまだ余力もあるし、先輩から借りてるフリーダムでバトルするか……。
「……モン、ダイモン!」
「……なに?」
「話聞いとけよ。なにボケっとしてんだ」
「別に。ただの考え事。で、なに」
「今日のユナ先輩、変じゃなかった?」
「……先輩が変なのはいつものことじゃん」
「そうだけど! そうじゃないの!」
「いつも変な先輩が今日はいつにも増して変だった! 上の空ってやつ? 気の抜けた顔してたぜ?」
そういえば……と思い返すと、なんとも身の入っていないというか、魂が抜けてるというか。
前にSNSで見た舌を出して人間を嘲笑うような顔をした馬のようなことになっていた。先輩は変だが、あれは流石に変が過ぎる。
「心ここに在らずって感じだったよね……。何かあったのかなぁ」
「先輩がおかしい今、オレ達がしっかりしないとな」
なんにせよ先輩は頼りにはなるし、しっかりしてはいるからそう心配なことにはならないだろう。変だけど。
「ま、先輩のことだから大丈夫でしょ。じゃあボクはゲーセン行くから」
「あ、おい! 寄り道しちゃダメなんだぞ!」
せっかく日が長くなってきたのだ。真っ直ぐ家に帰るのはもったいない。それに、とにかくバトルがしたい。
部室で模型部のスケジュールを詰めていた時のことだった。
左目を前髪で隠し、銀のフレームの眼鏡をかけた男子生徒が部室の扉を勢いよく開けて入ってきた。彼の名は「ヒムロ・ケイゴ」。高等部チームアリエスのNo2、つまりはレイカとも並ぶ星涼トップクラスの実力者の一人。冷静沈着な男で、レイカも厚い信頼を置くヒムロが切羽詰まった様子で現れたのを見てレイカは驚きを隠せなかった。
「レイカ、聞いたか。奴が戻ってきたらしい。近隣のガンプラバトルが出来る施設で、奴の被害に遭った人達が出ているという話だ」
ヒムロの言葉の意味をレイカはすぐに理解すると同時に目を細める。
奴。その一言で、当該の人物の姿がレイカの脳裏に浮かぶ。
瞬時に様々な可能性を考慮し、レイカはヒムロに指示を出した。
「グループチャットで全体連絡。全部員には学外でのガンプラバトルを行わないように通達」
指示を出したレイカは急いで荷物を纏めて部室を出る素ぶりを見せる。
「レイカ、まさか」
「ああ、探してくるよ。奴の狙いは私だろうからね。今はさしずめ私と戦う前の準備期間といったところか。出鼻を挫いてやれば、またおとなしくするだろうさ」
鞄を肩にかけ、レイカは部室を後にした。
扉を閉めることも忘れるほどに。
ヒバリちゃんがゲームセンターに行くと言って別れてからはケンユウ君とヒバリちゃんの話で持ちきりになった。
「アイツ、ゲーセン行ってガンプラバトルすんのか……」
「あんなにアリエスとバトルしたのにね……」
「……オレも行こっかな。一回ウチに帰ったら」
ヒバリちゃんに触発されて、ケンユウ君もゲームセンターに行こうとしている。それならわたしも行って、三人で練習がしたい。
ヒバリちゃんはわたし達が来たら嫌そうな、めんどくさそうな顔をするかもしれないけど同じチームだから。一緒に自主練することは何も不自然なことじゃない。
「それじゃあわたしも……」
言いかけて、スマホの通知音が鳴った。
普段はあまり使われない模型部全体のグループチャットだった。
副部長のヒムロさんが重要事項と題してメッセージを発信しており、なんだろうとケンユウ君と顔を見合わせる。
そして本題の連絡事項を確認する。
「当面の間、学外でのガンプラバトルは禁止とする……!? はあ!? なんだよこれ!」
「どうして……」
グループ内も少々荒れた。
理由もなくガンプラバトルを禁じられてしまって、みんな理由を知りたがっている。
「なんでこんな時に限ってガンプラバトル禁止とか意味分かんねーよ!」
「そうだけど……ヒバリちゃん、気付いてるかな……」
試しにピスケスのグループにメッセージを送信する。既読は1。ケンユウ君しかつかない。
「あいつ、ガンプラバトルに夢中で気付いてないんじゃないか」
「多分……通話してみるね」
念のためヒバリちゃんに電話するも応答がない。
これだとやっぱりガンプラバトルに夢中で……。
「ったく、オレ行ってくるわ!」
「え!? ま、待ってケンユウ君!」
走り出すケンユウ君を追いかける。
体力とか全然ないのに……!
ゲームセンターのガンプラバトルコーナーは初心者から猛者まで様々な層が集う。そのため、相手の強さにムラがあるけれど、腕試しにはちょうどいい場なので重宝している。
ここ最近はアリエスとのバトル続きでこっちに来る余裕がなかったけれど。
「フリーダム……」
先輩が作ったフリーダム。古いガンプラだけれど、先輩が作ったことで高い性能を誇る。貸してもらっているガンプラだからあまり無茶なことはさせられないけれど、このフリーダムで出来る動きをネオ・ペーネロペーでも出来るようになれば……!
「あれ、ヒバリ君?」
声のした方向を見ると、目を丸くした先輩がいた。
「先輩……。なんでここに」
「うーん……まあ、気晴らし?」
気晴らし。やはり先輩は何かしらの悩みがあるらしい。
マトバさんの推測が正しければコンテスト用のガンプラについて悩んでいるらしいけど。
……ボクが踏み込んでいい話題なのだろうか。
まあ、ガンプラの話題だし話についていけはするけど。そもそも本当にコンテストのことで悩んでいるのか。まったく違うことで悩んでいたら? 一人で考えたいことだったら?
こういう時、どうするべきかはいつも悩む。
とりあえず何か当たり障りのないことを口にしようとして、先輩に先手を取られた。
「あ、私のフリーダム。また練習?」
「え、ええ……。先輩の作ったこのフリーダム、古いキットとは思えないぐらい動きもいいので、勉強になってます」
「そっか……。じゃ、今日は私も付き合おうかな。私のフリーダムが動いてるところ、ちゃんと見たいし」
さいですか。断る理由もなく、先輩と共にガンプラバトルコーナーへと入っていく。
……入ったのだが、様子がおかしいことに気がついた。
「人がいない……?」
やけに人が少ない。いつも対戦してる人達も見かけない。
一体どうしたというのか。
「あ! ヒバリさん!」
振り向くと、このゲームセンターのオーナーの子だというヤタノ・ショウコが切羽詰まった顔で現れた。
「お願いヒバリさん! うちの店を助けて!」
「助けてって……なに? 潰れるの?」
「潰れはしないけど……嫌な奴がここ最近うちに来るようになって、酷いバトルをして……それでお客さん来なくなっちゃって! バトルで負かして追い払ってよ!」
そんなアニメみたいな。第一負けたら素直に出ていくとも限らないし、暴力で来られたらどうしようもないぞ。自慢じゃないけど腕っぷしには自信がない。
普通に警察に相談するとかの方が良くない?
「なにその展開! 面白そうじゃない!」
面白そう!?
なんだこの先輩、店側からしたら非常事態を面白がって。それに先輩が不良のこと苦手なのボクは知ってるんだぞ。
こんなの十中八九、ガンプラヤンキーとかいう輩に決まってる。
「それで、嫌な奴って?」
先輩が尋ねた瞬間だった。
「おい、そこのお前ら。相手しろよ」
背後からの声。
若い男の声だ。いの一番に先輩が振り返り、男へと啖呵を切って……。
「あ! あの人だよ!」
「あんたねゲーセン荒らし、は……」
何か、先輩の様子がおかしかった。
ボクも男をじっくりと見据える。想像していたより若い。見慣れない紺のブレザーの制服。少し長めの襟足が首筋にかかり、人を食ったような性格が目から滲んでいる。第一印象からして、嫌な奴。
そんな奴が、驚くことを言った。
「誰かと思えば、ユナじゃねえか」
「ソウジ……」
こいつは先輩のことを知っている。先輩もこいつのことを知っている。なんだ、どういう関係だ?
「お知り合いさん、なんですか……?」
ショウコが恐る恐る先輩へと問うと、先輩はゆっくりと首を縦に振る。
どういう知り合いだ? 先輩が関わるようなタイプには見えないけど……。訝しんでいると、奴はボクの様子に気付いて聞いてもいないのにペラペラと語り出す。
「俺はかつて星涼の模型部にいたんだ。そんで俺とユナは組んでたんだ。ファイターとビルダーとしてな」
「先輩が……」
こいつが元星涼だということにも驚いたが、一番の驚きは先輩がかつてバトル用のガンプラを、こいつのために作っていたということだった。
先輩はどこか後ろめたそうに奴から視線を逸らしている。
知られたくないこと、だったのだろう。
「お前、チームは?」
「……ピスケス」
聞かれたので親切に答えてやると失礼にも奴は吹き出して笑い始めた。いや、いい。ピスケスは最下位チーム。こいつの認識はそれで止まっているのだろうから。
「はっ! なんだ、まさかチームの後輩だったとは。可愛がってやってもいいぜ」
「チームの後輩……?」
先輩は苦虫を噛み潰したような顔をして、絞り出すように言葉を発した。
「……彼は、マナベ・ソウジ。私と同期でチームピスケスだった」
「えっ……」
それこそ驚きで、先輩を見上げる。
先輩はたしか、チームに所属はしてないって言ってた。だけど、かつてはピスケスだった……?
「なんだユナ。後輩に俺達のこと聞かせてやらなかったのか? いくら俺のことでも黒歴史にされるのは悲しいな。楽しかったよなぁ。俺とお前が組めば最強だった。俺達を見下してきた上のチームの奴等だって敵じゃなかった……」
なんだ、それ。
それじゃあ、まるで……。
「だがお前は俺を裏切った。同類だったのに、いい子ちゃんぶってな。レイカの野郎について、星涼に残って満足か?」
「それは……! だって、ソウジが」
「俺がなんだよ。俺とお前は同じ穴の狢だろうが。お前も望んでたことだったろ。見下してきた連中を見返したいってな。そんで生まれたのがこいつだ」
ソウジという男が取り出したのは、ガンプラだった。
ガンダムデスサイズヘルEW版の改造機。
機体各部のディテールは精細で、暗い赤色の差し色が各部に施され、パッと見でも武装の追加が行われていることが分かる。敗者達の栄光のデスサイズヘルの方に近いのではないだろうか。
それにしても……ただのガンプラじゃない。見ただけで分かる。あれは先輩の作品だ。だけど、借りてるフリーダムとはまるで雰囲気が違う。凶暴さ、禍々しさとでも言えばいいのだろうか。ガンプラがプレッシャーを放っているかのような恐ろしさ。それと同時に作品としての美しさも感じる。妖しげな、見るものを魅了して目を奪う危険な美しさ。
「すごい……」
ガンプラバトル素人のショウコにも伝わるほど。あのデスサイズヘルには、オーラというか雰囲気がある。
「分かるだろ、後輩。こいつは本当にイカすガンプラなんだ。神の手と呼ばれるビルダーが魂こめて作った傑作だからな」
「あんたそのガンプラ!? それはレイカとのバトルで……」
「覚えてないのかよユナ。レイカがやったのは胸部だけだ。それでもまあ、苦労したぜ。俺の腕でこいつを直すのはな。今も完全に満足してるってわけじゃないが……」
この人、レイカさんとバトルをして負けたのか。
それでも、レイカさんとバトルして傷ついたのが胸部だけというのはこの人の腕前ゆえか、それとも……。
「そんで、今はその後輩君と組んでんのか? なんかちっこいのもいるが、ちっちゃいもの倶楽部でも作ったのか?」
カチンと来たが、今はそれについて食ってかかる状況じゃない。ショウコも不服そうな顔をしつつも堪えている。
「組んでるわけじゃない。……今更なんで現れたのか知らないけど、面倒なこと起こすつもりなら……」
「面倒? バトルするのが面倒なことなのか? なあ、後輩君?」
視線がこちらに向く。ファイターは君だろう? と目が語っている。
「ヒバリ君、駄目よ。あいつと関わっちゃ……」
「ヒバリっていうのか。なあヒバリ。お前、俺と戦いたいだろ。目がそう言ってる」
「ちょっ! ヒバリ君、そうなの!?」
そうなの、と聞かれても。
ああいや、この人はどことなくレイカさんに近しい部分がある。人の深層心理を読み取る鋭さを持っている。
この人は、強い。
強い人とは、戦いたい。
「ヒバリ君……! ダメ! ダメだから!」
「ははっ、いいねぇ。昔の俺を見てるみたいだ」
ネオ・ペーネロペーでどこまで出来る?
あの、神の手と呼ばれるクレハシ・ユナがガンプラバトル用に製作したガンプラ。そしてそんな機体を操り、強豪ひしめく星涼で勝ち上がっていったファイター。
こんな相手と戦える機会は、そうそうない。
「ビルダーのお前には分からないか。ファイターの性ってやつが」
「っ……! ヒバリ君、バトルするのはこの際いい。でも、ネオ・ペーネロペーを使うのはやめて」
「先輩、それじゃあどうしろって」
「私のフリーダムで戦って。大会も近いのに、ネオ・ペーネロペーをこんなところで消耗するような真似は避けるべきよ」
「でもあれは先輩からの借り物で……」
「はははっ! そいつは面白そうだ。神の手が作ったガンプラ同士のバトルってのは、なかなか刺激的だろうとも」
……たしかに、それはそうだ。
先輩の言う事も、奴の言う事も、どちらも理解出来る。
「……セコンドに入るわ。あいつとガンプラについての情報は全部頭に入ってる」
「先輩……」
「いいぜ。ハンデにちょうどいい」
ハンデ、か。仕方ない、受け入れよう。少なくとも、相手の方が格上なことは確かだ。
技量の面でも、ガンプラの面でも。
「がんばってねヒバリさん! 先輩さん!」
「……ええ」
「……なんとか解決出来たら1ヶ月ぐらいここでのバトル、タダにしてよ」
バトルシステムの筐体を挟み、マナベと向き合う。隣には先輩。筐体の横にはショウコが店の行く末を見守ろうとする一方、観戦気分がどこか漏れ出ている。
「ヒバリくん、あいつがかつて何て呼ばれてたか教えてあげるわ」
「……死神とかじゃないんですか」
「死神なら可愛げがあったわね……。あいつの異名は、破壊神。あいつとバトルしたら、修復不可能なレベルでガンプラを破壊されるわ」
「それはまた……物騒な」
「ええ。あまりに酷いからまだ部長になる前のレイカがバトルで負かしてなんとかしたのよ。それで、あいつは部を辞めて高校も他所に行ったわ」
なるほど……。つまるところペナルティを与えられたわけか。
……じゃあ、そんなマナベとビルダーとして組んでいた先輩は。ファイターであるマナベの戦闘スタイルの問題ではあるが、マナベにガンプラを提供していた先輩だって、風当たりが強かったはずだ。
「……だから、先輩はチームに所属してないって……」
「……ええ、そうよ。ごめんなさい、黙ってて」
「先輩がボクに謝る必要はないです。ボクは迷惑を被ってないので」
仮に迷惑を被るのだとしたら、これからだ。
先輩の過去のことについてボクが何かをとやかく言う権利はない。
「話が終わったついでに、ひとつ賭けをしないか」
「賭け?」
「ああ、俺が勝ったら……ユナ、こいつを完全な状態に直してくれ」
「ッ……」
「俺が負けたら、そうだな。そのうちやろうと思ってたレイカへのリベンジをやめてやるよ」
……こいつ。
「乗った」
「ヒバリ君!?」
「いいねぇ。思い切りの良さは大事だもんな」
先輩だけでなく、レイカさんへのリベンジ?
そんなことさせてたまるか。レイカさんに辿り着かせる前に、ボクが決着をつけてやる。
「よし、それじゃあ始めようか」
筐体からプラフスキー粒子が溢れ、フィールドとコンソールを形成する。
フィールドは宇宙。アステロイドベルトというわけでもない、だだっ広い宙域だ。
ベースにフリーダムを置き、稼働。
フリーダムの瞳が輝き、発進スタンバイ。
「フリーダム、いくわよ!」
「出る!」
マナベもまた、同じようにガンプラをベースへとセット。
デスサイズヘルのカスタム機が目覚め、出撃体勢を取る。
「マナベ・ソウジ。ガンダムデスサイズヘル・クルーゼ、いくぞ」
漆黒の翼を広げ、デスサイズヘル・クルーゼが宇宙の闇に放たれる。
「先輩、あのガンプラの特徴は」
「基本的にはデスサイズヘル同様に白兵戦に強いガンプラよ。白兵戦は避けて。ただ、中距離への攻撃手段も装備しているし、ドラグーンを装備しているから距離を選ばず戦えるわ」
「ドラグーン? ああ、だからクルーゼ」
「ええ、そう。プロヴィデンスガンダムの要素を取り入れてるのよ。他にもあるけど……」
先輩の説明に耳を傾けていると、アラートが響く。
速い。もう接近してきている。
デスサイズヘルがベースの割に、ステルスを使わずに突っ込んでくるなんて。
「来た……!」
「距離を取って!」
黒い蝙蝠のような巨大な翼、アクティブクロークを広げ、死神の鎌ビームシザースを携え接近する様は正に死神。特に、ヘル・クルーゼは機体各部に暗い赤が差し色に使われ、ビームシザースの刃も鮮血の色をしている。
接近を許せば、あの血染めの鎌に刈り取られる。
距離を取りつつ、ルプス・ビームライフルの銃口を向けて牽制。だが、本命も織り込む。緑の光線が数条、ヘル・クルーゼへと向けて迸る。
避けても、牽制で撃ったビームが狙っている。
避けなければ当然、撃墜。
どうする?
「いい射撃だな」
マナベは、余裕だった。
ヘル・クルーゼは進路を変えず、ビームへと正面衝突しに行くかのように加速。
避けるつもりがないのか!?
「とにかくなんでもいいから撃ち続けて!」
「ッ!」
先輩の助言を受けて、トリガーを弾き続ける。
ヘル・クルーゼは広げていたアクティブクロークを閉ざし、ボディを覆う。ビームは、アクティブクロークによって弾かれてしまった。
「なんてビーム耐性……!」
「耐ビームコーティングは当たり前だろ!」
「ごめん、説明遅れたけどガンプラの表面に特殊加工を施してるのよ……。プラフスキー粒子を変位させる……」
「そういうのは早く言ってくださいよ……!」
普通のライフルでは駄目だ。なら……!
ビームの雨をものともせず突撃してくるヘル・クルーゼへ変わらずライフルを撃ち続けながら距離を取る。
機動性は恐らく互角。だったら、変わらず逃げ続けていれば早々追いつかれることはない。
ヒバリ達がバトルを始めた頃、ケンユウとメイはゲームセンターの前にいた。
「はあ……はあ……着いた……」
「早く中行こうぜ!」
運動が苦手で体力もないメイは肩で息をしていた。そんなメイを急かすケンユウだったが、二人の前に思いがけない人物が現れる。
星涼学園模型部部長、レイカだ。
「君達……どうしてここに。あの連絡を見なかったのか?」
「いや、その……」
今のレイカはいつもより剣呑な雰囲気を纏い、言葉にも圧があった。その迫力にケンユウは押され、言葉が上手く出てこない。
そんなケンユウの様子を察してではなかったが、メイが息を整えてからレイカに答えた。
「連絡来る前にヒバリちゃんがゲームセンターに行ってしまって……。わたし達からも連絡したんですけど、既読がつかなくて……」
「そ、それでおれ達で知らせに行こうって来たんです!」
「そうか……嫌な予感がするな……」
レイカはそう口にすると二人を置いてゲームセンターへと入っていってしまった。取り残された二人は顔を見合わせてレイカの後を置い、ガンプラバトルのブースへと向かう。
そこでは、一台の筐体のみが稼働しバトルが行われており、立ち止まっていたレイカに並んで二人はバトルの様子を眺める。
対戦者の一人は、二人が思っていたとおりヒバリ。
「ダイモン!」
「対戦相手は……」
ヒバリの対戦相手に目を向けるメイとケンユウ。対戦相手は二人にとっては見知らぬ高校生。
だが……。
「マナベ・ソウジ……!」
レイカがどこか忌々しげに呟いたのを、二人は聞き逃さなかった。
「部長、あの人は……」
「マナベ・ソウジ。うちの模型部に所属していた男で、ユナと組んで一時は模型部のトップに君臨したほどのファイターだ。そして、かつての模型部の悪しき文化が生んだモンスターでもある……」
「モンスター……」
そして、レイカの口から二人の知らない星涼学園模型部の過去が語られる————。
ガンダムデスサイズヘル・クルーゼ
ビルダー クレハシ・ユナ
ファイター マナベ・ソウジ
ガンダムデスサイズヘルカスタムの改造機。
近接戦闘はもちろん、あらゆる距離に対応出来る万能機となっている。
アクティブクロークの防御力は高く、生半可な攻撃では突破は不可能。
背面から見るとアクティブクロークにクルーゼのマスクの意匠が施されているのが分かる。