ガンダムビルドファイターズ AMBITIOUS 作:大ちゃんネオ
強い日差しが眩しい砂漠。
砂漠であるがガンプラバトルのフィールドなので別に暑くもなんともないが。
「おりゃあぁぁぁぁぁ!!!!!」
裂帛と共に迫る対艦刀エクスカリバー。
右側のウェポンユニットから発生させたビームサーベルで受け止めるがここはオオノが得意とする距離である。
「へへ! この勝負はいただきだぜ!」
調子づいたオオノは勝利を確信している。
なんとも詰めがあまい。
左腕のウェポンユニットのメガ粒子砲を零距離で叩き込んで終了と。
「あー負けた!!! くっそ今のは勝ったと思ったのにぃ!」
「詰めがあまいんだよ。あと読まれやすいし」
バトル後の会話は大体いつもこんな感じ。
これでオオノ戦での連勝記録は……10を越えたあたりから数えていない。
「まったく。毎回同じ戦い方じゃ駄目って分からないの。分からないか単細胞生物だものね」
「誰が単細胞だ!」
「単細胞はともかく、先輩の言う通りだよオオノ。戦い方がパターン化してもう何回も戦ってるボクやマトバさんには楽勝過ぎるんだ」
「楽勝だと……!」
楽勝という言葉が頭にきたのか詰め寄ってくるオオノ。
身長差があるので見下ろされる形で睨まれるがボクも見上げてまっすぐと見つめ返す。
「ちょっと二人共やめなさい」
先輩が諌めて一触即発の事態はなんとかなったが怒りっぽいのは考えものだ。
「ヒバリ君は言葉を考えて選びなさい。あと、ファンネルミサイルを満足に扱えないでケンユウ君に近付かれたでしょう。甘いとか言ってる場合じゃない。ケンユウ君も少しは冷静になりなさい。二人共もっと考えて動くように」
むう、喧嘩両成敗されてしまった。
口は災いのもとだ、慎むべし慎むべし。
「ちぇ。……そういえば、マトバは?」
「マトバさんなら図書当番で遅れるって。部活始まる前に言ったでしょ」
「はあ? 聞いてないぞ。つまり言われてねえ」
「言った」
「言ってない」
「言った!」
「言ってない!」
「あーもううるさい! なんですぐ喧嘩するの二人は!」
オオノが突っ掛かってくるから。
ダイモンが生意気言うから。
それが互いの口から同時に出たので再び睨み合う。
やはりこいつとは……。
「まったく。次喧嘩したらケンユウ君は腕立て、ヒバリ君は私の友達のショタコンのところに送りつけるから!」
ショタコンの友達……。
ともかくそれは嫌なのでもう喧嘩はしない。
が、向こうが吹っ掛けてくるかもしれないしそういう時は正当防衛成立という形で蹴っ飛ばしてやろう。
「はあ。メイちゃんの一件で仲良くなったかと思えば……。男の子同士仲良くしなさい」
先輩、まるで母親のよう。
それにしても、男の子か……。
「おいなにニヤニヤしてんだよ気持ち悪いな」
「は? ニヤニヤなんてしてな……」
「二人共?」
「「喧嘩なんてしてません!」」
危ない危ない。
危うくショタコンのところに発送されてしまうところだった。
ひとまず今日はおとなしくすることに決め、時間が過ぎていった。
その日の夜。
「ヒバリ~。ちょっとお買い物頼みたいんだけど」
部屋で課題に取り組んでいるとスズメ姉さんからおつかいを頼まれたので近所のスーパーへ向かう。
そしてスーパーでばったりオオノと遭遇した。
「わ」
「マジか」
しばらく無言で見つめあう。
別に威嚇とか牽制しあってるとかそういうのではない。
「その、オオノも買い物?」
「あ、ああ。卵安いから行ってこいって」
「じゃあウチと同じだ」
目的が同じとなれば自然と行動を共にすることになる。
オオノと共に卵のコーナーへ。
無事に卵を購入してエコバッグに詰める。
そしてスーパーを出ようと思ったのだが、小さな本のコーナーに毎月買っているホビー誌の『ホビーワールド』が置かれているのを見つけた。
「そういえば今月号まだ買ってなかった」
ちょうどいいのであれも買って帰ろうと思ったのだが、オオノが驚くべきことを言ったのだ。
「なんだそれ?」
「え、知らないの? ガンプラやってるのに? 嘘でしょ」
ホビーワールドはかなり外せない雑誌だと個人的に思っている。
有名モデラーの作例や有名ファイターの戦闘技術についてのコラムなど載っているからだ。
あと、たまにオリジナル武装とかのガンプラが付録につく。
「んだこれ高っ!」
「高いって、大体のガンプラよりは安いでしょ」
「金使うなら本よりガンプラに使うわ。うち貧乏だから」
貧乏だからって……。
いや、けれども……。
何か、胸がモヤモヤする。
そんなモヤモヤしたものを抱えながら、再びレジに行きホビーワールドを購入。
オオノと途中までの帰路を同じくした。
「そんじゃオレここだから」
無言で歩いていたが、オオノがそう言ったので立ち止まる。
ここだからと指差すのはオオノの家。
平屋で、お世辞にも綺麗な家とは言えない。
それじゃあとオオノと分かれ、今度は一人歩く。
静かな夜の道。
こういう時ほど、頭の中で何かを考えてしまう。
オオノの言った貧乏というのは、恐らく本当のことなんだろう。
自虐的な使い方ではなく、単に事実を言ったのだ。
自分のところ、ダイモン家の経済状況は他の家よりは少し豊かな方だというのは実感がある。
父さんはボクが幼い頃に亡くなったけれど母さんはバリバリ働いているし、じいちゃんとばあちゃんからの援助もあるし、姉さんも働いていて収入あるし、最近知ったことだけど実は不動産収入があったり(スズメ姉さんが管理人をしているあそこ、ミドリ荘もそのひとつ)と母子家庭ということで大変そうみたいに思われてきたけどその実そんなことはなかったのだ。
ボクがガンプラバトルを始めた時も結構物を揃えてもらったり出来たし……。多分、退院して新しく何かを始めるということをサポートしたいとか思ってくれたんだろうか。
だけど、もしもお金に余裕がなかったら……。
『え、知らないの? ガンプラやってるのに? 嘘でしょ』
『高いって、大体のガンプラよりは安いでしょ』
さっきの自分の発言は迂闊なものだったのではないかと思わずにいられない。
気にしすぎなのかもしれない。
だけど、引っ掛かる。
気にしてしまう。
頭の中がぐるぐるとこのことをループしていたら、いつの間にか家に到着していた。
案外、オオノの家からミドリ荘は近かった。
「ただいま」
「おかえり。おつかいありがとうね。お風呂入っちゃって」
「うん……」
「何かあった?」
「いや……。お風呂入る」
「はーい。……我が弟ながら分かりやすいんだから。ま、自分で解決するでしょ」
そうしてお風呂の中でも、自室で宿題したり、ガンプラを弄ってる時も胸のモヤモヤしたものは取れずにいた。
布団の中に潜っても眠れずそのことを考える。
あの発言はオオノに失礼だったんじゃないのか……。
いや、やはり気にしすぎかもしれない。
けどやっぱり……。
でも、しかし……。
「……眠気がどこかにいった」
布団の中から顔を出し、何か眠気を誘うものはないかと暗い部屋の中を見渡すと本棚に目がいった。
……暗いところで本を読んだら視力が落ちるな。
……ん。
本を見て、なんか、思い付いたかも、しれない。
翌日。
「わーホビーワールドじゃん。しかもこんなにどしたのヒバリン」
「引っ越しの時に持ってきましたけど部屋が狭かったんで。あとなんですかヒバリンて」
先輩から変なあだ名で呼ばれながら説明する。
朝、持ってくるのにだいぶ苦労した、三年分のホビーワールド。
「む? ちょっとヒバリンこのえっちなフィギュアのページなんか読み込まれてる気がする! ヒバリン!!!」
「知りません。あと急になんなんですか本当にヒバリン、ヒバリンって」
「んーさっき思い付いた。いいでしょ」
「別に良くは……」
先輩と駄弁っているとマトバさんとオオノが部室に揃ってやって来た。
そして早速マトバさんもホビーワールドに反応して早速一冊手に取り読み始めた。
「なんだ、昨日の雑誌こんなにあったのか」
「ん、三年分。……はい、読めば」
「え?」
「これもう部活の備品扱いだから好きに読んでいい。昨日買ったのももう読んだし……」
そう言いながら差し出す。
恐らく、これまでこういう雑誌とかに触れず独学でガンプラを作り、ガンプラバトルをやってきたのだろう。
先輩の指導でガンプラ作りの方は少しはマシになったけれどまだまだ知るべきことは多いはず。
自分で学ぶことも大切だろうし。
うちで積まれるのではホビーワールドももったいないのでここでまた誰かに読まれた方がいいはず。
「ありがと」
差し出したホビーワールドを手に取り、ペラペラとページを捲り読み始めた。
これで昨日の件はチャラになったりは……。
そもそもオオノは昨日のボクの発言を気にしているだろうか?
あまり、そんな気配を感じさせないが……。
「なあ、ダイモン」
オオノは低く、落ち着いた声でボクを読んだ。
やはり、昨日のことを怒っていたのだろうか。
だとすればもう謝るぐらいしか出来ないが……。
「……こ、こんなえっちなフィギュアが載ってるなんてこの雑誌いけない雑誌だろ!」
「は?」
ボクにだけ聞こえるようにそんなことを宣うオオノ。
恐らく、女子二人に配慮したのだろうが先輩はむしろ興味津々に見てたぞそういうページを。
いや、そうではなくて……。
「ガンプラのページを見ろ!」
ボクの叫びが部室棟に木霊する。
このことで分かったのだが、オオノは意外とその手のことへの耐性がチームの中で一番ないことが判明した。
よってホビーワールドはしばらく禁書扱いされるようになってしまい、運んできたボクの苦労は泡と消えたのだった。
思春期って、些細なことを色々と気にしますよね。