ガンダムビルドファイターズ AMBITIOUS   作:大ちゃんネオ

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戦いの備え

 夜、レイカはいつも通りに机に向かい勉強をしていると机の上に置いていたスマホが鳴った。

 通話アプリの着信で送信者の名前を確認すると、思わず口角が上がった。

 

「やあ、こんばんは。何の用……と聞くまでもないな。いいよ、そちらの指定する日付でいい。来週の土曜日か、了解した。あ、そういえば……。君が良ければなんだけど、ぜひ相手してもらいたい子達がいるんだ。ああ、そうだよ。相手は中等部の新人……。そう怒らないでくれ、きっと君を楽しませてくれると思うからさ。ああ、保証するよ。ああ、ああ、それじゃあ」

 

 来週の土曜日。

 今日は金曜日なので丸っと一週間後。

 それまでに、彼等には準備をしてもらいたい。

 この東北ブロックでも有数の強者と戦うための……。

 

「ちょっとレイちゃん」

「……母さん。部屋に入る時はノックを……」

「レイちゃんあなた勉強かガンプラしかしてないでしょう」

「まあ、そうだけど」

「たまには友達と遊びなさいね。明日お休みなんだから」 

「それならガン……」

「ガンプラ以外でよ~」

 

 母さんは度々私にガンプラ以外の趣味を持てと言ってくる。今回もそういう話である。

 

「別にいいじゃないか。熱中出来るものがあるだけ」

「そうなんだけどもうちょっと他の事にもねぇ?」

「分かったからほら部屋から出て。集中したいんだ私は」

 

 母の背を押し部屋から追い出す。

 勉強を終わらせてガンプラをいじる予定なのだ、集中したい。

 そうして再び机に向かいペンを走らせる。

 数式を解いていくなか、ふと思い付いた。

 ユナに連絡を取り、色々と確認して。

 

「よし」

 

 思わず溢れた一言。

 明日が楽しみで仕方ない。

 そうとなれば課題も早めに終わらせて今日は早く寝よう。

 

 

 

 

 

 

 寝る子は育つという言葉を信じて数年。

 牛乳もたくさん飲むし、ニボシもあんまり好きじゃないけどおやつ代わりに食べてる。

 その成果は……いや、気にしない。

 身長180cm以上になるためには小さいことを気にしないのだ。

 大きな人間になるのだと誓ったのだ。

 まずは目先の目標である160cmに到達するために寝る。

 たまに夢中になって夜更かししてしまうが基本的には8時間睡眠を心掛けるようにしている。

 そういうわけなので布団の中に潜り込んで……。

 ん……スマホが鳴った。

 顔を出してスマホを見ると眩しくて目を細める。 

 先輩からのメッセージ?

 アプリを開いてメッセージを確認すると……。

 眠気が、吹っ飛んだ。

 

 

 

 夜、眠る前に弟の部屋を覗き見る。

 たまにガンプラに夢中になり過ぎて遅くまで、というか朝まで起きていることがあるからだ。

 成長期の子がそんなことをしていては大きくなれない。

 さて、こっそりとドアを開ける。すると、光が漏れた。

 またガンプラに夢中になって。

 

「ヒバリもう遅いから寝ないとダメ……どうしたのヒバリ!?」

 

 部屋に入るとそこにはガンプラを弄る弟の姿ではなく、手持ちの服を床に広げ、力なく項垂れる弟の姿が。

 これには思わず目を見開いてしまった。

 

「す、スズメ姉さん……」

「どうしたのこんなに服並べて。デート前の女の子じゃあるまいし」

「……うだよ」

「え?」

「だから、そうだって……」

 

 顔を少し赤くし、目を逸らしながらそう言ったヒバリ。

 そして自分のスマホを私に見せてきた。

 送ってきたのは部活の先輩とのこと。

 そして文面は……。

 

『明日レイカがデートしようだって(。-∀-)』

 

 このあとヒバリから聞き取りを行い、学生時代ぶりに頭を働かせ、あれやこれやとしていたら気付けば夜中の2時。

 結局弟と夜更かしすることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 休日ということもあり、駅前は人が多かった。

 ようやく春らしい暖かい陽気の日になったのもあるかもしれない。

 集合場所は駅前、滝の公園。時間は10時。

 駅前までは姉さんが送ってくれたけど気が気ではなかった。

 姉さんもからかってくるし。  

 さて、現在時刻は9時55分。

 あと5分……。

 一分、一秒が、長い。

 時間が何倍にも引き伸ばされているかのようだ。

 時計を確認しても1分も経っていない。

 近くにある人工の滝の音も耳に入ってこない。

 水の音はリラックスさせる効果があると前に何かで見たけれどきっと嘘だろう。

 人はいつか時間さえ支配出来るようになるらしいけど頼むからそのいつかは今であってほしい……。

 

「やあ」 

「うぇっ!?」

 

 びっくりして、思わず変な声が出てしまった。

 は、恥ずかしい……。

 

「レ、レイカさん……。おはようございます……」

「おはよう、ヒバリ。すまない、驚かせてしまったね。何か考え事でもしてたのかな?」

「えっと、その、考え事っていうかなんていうか……。と、とにかく大丈夫ですから!」

 

 あまり今のことを蒸し返したくないので話題を終わらせる。

 それにしても、私服のレイカさん……。

 

「? どうした?」

「いえ、その、シンプルだなって思って」

 

 バレエネックの白いTシャツに青いスキニーデニム。

 あとは少し大きな手提げの鞄。

 シンプルな出で立ちだけど、長身でスタイルのいいレイカさんが着ているのでとても似合っている。

 

「同年代と比べるとあまりファッションというものに興味がなくてね。そういう君はなかなかオシャレだね」

「その……えっと、ありがとう、ございます……」

 

 言えない。

 夜中の2時まで姉さんとファッションショーしてたなんて。

 結局姉さんのパーカーまで借りることになったりした。

 ちょっとだぼっとしてるのが可愛い……。

 しまった、今気付いた!

 姉さんめ、カッコよくじゃなくて可愛いコーディネートして……!

 

「スズメ姉さんめ……。スズメ姉さんはこういうことしないって信じてたのに……」

 

 帰ったらスズメ姉さんに怒ろう。

 コーディネートしてもらったお礼で怒ろう。

 

「さて、ここで話すのもなんだし行こうか。今日は私に付き合ってもらうよ」

「は、はい!」

「ふふ。よし、行こう」

 

 歩き出したレイカさんを追って歩く。

 戦いはまだ始まったばかりだ……!

 

 

 

 

 

「こちらファルコン1。ファルコン1応答せよ」

「ファ、ファルコン1。こちら異常なし。ファルコン1ど、どうぞ」

「はいはいこちらファルコン1……って、全員ファルコン1じゃ分かんねえだろ!」

 

 滝の公園の茂みの中に隠れていた3人。

 ユナ、メイ、ケンユウがスマホの通話アプリをトランシーバー代わりにして通話していた。

 わざわざ別々の場所から監視していたので一旦通話を切り集合。ケンユウがユナに文句を言うために。

 

「大体なんだよ急に集合って言うから来たのにただダイモンと部長が遊びに行ってるだけじゃねえか」

「違うわよケンユウ君。あれは遊びに行ってるんじゃなくて……デートよッ!」

「デッ!? だ、駄目だろそんな! デートは大人になってからするものだって母ちゃんが!」

「そうよ大人になってから……。つまり、大人の階段を昇ろうとしてるのよヒバリ君は!」

 

 ユナの言葉に絶句したケンユウの頭脳はショートした。

 ケンユウには少し早かったようだ。

 そんなケンユウの反応を見て楽しむユナ。

 今日はとにかく楽しむ、もとい愉しむために来たのだ。

 

(帰りたい……。お姉ちゃんのお見舞い行こうかな……)

 

 二人のやり取りの最中、メイは帰りたくて仕方なかった。

 部活関係だと思って来たのにまったく関係ない内容での呼び出し。

 確かに面白そうではあるけれど、休みをこれで潰されるのはいかがなものかと思わざるを得なかった。

 

「あ、お姉ちゃんから……。もしもし?」

『あ、メイ。今日はお休み? 何かしてたの?』 

「う、うん……。えっと、友達が先輩とデートするからみんなで観察しようって。本当はお姉ちゃんのお見舞い行きたいんだけど……」 

『メイ』

 

 いきなり、姉の声色が真剣なものに変わり、メイも身構える。

 いつもの優しい姉の声とは違ったからだ。

 

「な、なに?」

『逐一状況を詳しくお姉ちゃんに教えてね。夏の新刊のネタに使えそうだから。あ、写真もあったら送ってくれると嬉しいな。それじゃあお願いね』

 

 通話終了。

 

「えぇ……」

 

 まさか、姉の心に火をつけてしまうとは。

 というか夏の新刊出せるのか。

 出す気なのかと思わずにいられない。

 しかし大好きな姉のためにも……。

 

「よーしそれじゃあ行くわよぉ!」

「お、おー」

「だってデートは大人になってからしなきゃいけないケンユウには早いものだって母ちゃん言ってたしけどダイモンは……。けど、ダイモンがいけるならオレだって……。オレも大人に……」

 

 こうして、三人のヒバリ追跡が開始されようとしていた。

 ユナは愉しむために。

 メイは姉のために。

 ケンユウは……大人の階段を少しでも昇るために。

 

「そういえば、レイカとヒバリ君どっち行ったか二人は見てた?」

「え、クレハシ先輩は見てなかったんですか?」

「公園出るとこまでは見てたけどそっからは見てない!」

 

 ヒバリのデート観察は、早速座礁していた。

 

 

 

 

 

 

 

 午後3時。

 レイカさんおすすめの甘味処に休憩ということで入った。

 これまでのことは、覚えていないというか、一瞬だったというか。

 ランチに何を食べたかすらも最早彼方の記憶。

 テレビで何度も紹介されたというクリームあんみつの味も、よく分からないでいる。

 

「今日は付き合わせて悪かったね」

「い、いえ。その、楽しかったです」

「それは良かった。私も男の子と出かけるということをしたことがなくてね。新鮮だったよ。男子とガンプラバトルはしょっちゅうしていたけどね。女性ファイターも増えてきたとはいえ、やはり男性の方が多いからね」

「それは、まあ……」

 

 ガンプラバトルの競技人口は年々増えて女性ファイターも増えているが、やはり男性には及ばないのが現実。

 それゆえに強い女性ファイターというのは話題になりやすく、レイカさんはテレビで紹介されているのをよく見た。

 

「これまで散々女がガンプラバトルするんじゃないと男子に言われてきてね。それが悔しくてね、気付いたらここまで来ていた……。だけどまだだ。まだ足りない。もっと高く、更なる高みを目指す……」

 

 そう語るレイカさんの顔は真剣、というよりももっと怖いものだった。

 戦いたい、そういう顔だと悟った。

 

「おっと、すまない。つい自分の世界に入ってしまった。私の話はしたから次は君の話をしてほしいな」

「ボクの……?」

「ああ。例えば、チームのこと。上手くやっているか?」

 

 チームのこと……。

 オオノとマトバさんと先輩……はしばらく面倒見るってだけの話だったか。

 

「まあ、上手くやってると思います」

「そうだね。チーム発足その日の内に格上チームに勝つとは大したものだ。まあ、君達の場合はそれぞれ得意な分野に特化した人達で構成されているからね。噛み合えば強いチームになると思っている」

 

 確かにマトバさんは射撃が得意だし、オオノは近接戦闘に特化……とはいえまだまだだけど。だけど、伸び代はあるし、オオノのこれまでを考えるとちゃんとした指導者がつけば化ける可能性だってある。

 そしてボクは……。

 ボクは……。

 

「ファンネルミサイルの扱い、苦手だそうだね」

「なんでそのことを……。いや、先輩か……」

「その通り。ユナから逐一連絡を貰ってるよ君達のことは」

「じゃあわざわざボクに聞かなくたって」

「直接話を聞きたかったというのもある。あと、個人的に話したかった」

 

 個人的に?

 個人的に、とは……。

 

()()()()()()()()?」

 

 その言葉に、胸が重くなった。

 

「あの時、君は車イスだったからね。だからこそ印象的というのもあるんだけど」

 

 あの時、三年前。

 ボクがレイカさんのバトルを見て燃えた時。

 ボクは、自分の足で立つことが出来なかった。

 あの頃のボクはガンプラバトルの存在は知っていたけど興味がなかった。

 毎日サッカーをしていて、自分で言うのもなんだけど同年代の中でも上手くて、トレセンにも選ばれていたし。

 けど、試合中の怪我でボクは……。

 

「もう走れません、ボクは」

「そう、か」

 

 沈黙。

 何か、この重い空気をどうにかしようと思っても、うまい言葉が見つからない。

 なんて駄目な人間なんだろうボクは。

 

「……あの日の君の目、脳裏に焼き付いてるんだ」

「え……」 

 

 沈黙を切り裂いて、レイカさんがぽつぽつと語り始めた。

 穏やかなに、大切な思い出を振り返るように。

 

「実を言うと、君が私に話しかけてくる前に、大会の前だったか、その時に君を見かけていてね。他の観客達は楽しそうにしているなか、君は暗い顔をしていた」

「そう、でしたね。もう、サッカーは出来ないって言われて、落ち込んでましたから」

「だけど大会が終わったあとの君の目はまっすぐで、キラキラと光っていて、燃えていた。そして君は言ったんだ。見ていてとっても楽しかったです。いつか、ボクと戦ってくださいって」

 

 よく、覚えているなというのがまず最初の感想であった。

 まるで本当にレイカさんの脳裏にはあの時の光景が焼き付いているのかもしれない。

 それはボクも同じだけれど、もっと、こう……。

 

「あの頃の私は勝てばいい。勝つことにのみ執着していた。だけどヒバリの言葉で目が覚めたんだよ。楽しくなきゃ、意味がないんだって。見ている者の心を打つような戦いが出来るファイターこそ真の、理想のファイターだと。君がいたから私は更に強くなれた。そして君は私を追ってきてくれた。これを運命と言わずしてなんと言おうか」

「運命だなんてそんな大袈裟な……」

「いいや、大袈裟じゃないよヒバリ。君は私と戦いたいと言ったね。それじゃあ、しよう。君に見てほしいんだ、私を」

 

 まっすぐとこちらを見据えるレイカさんの瞳に飲み込まれてしまいそうだ。

 いや、飲み込まれてしまった。

 メドゥーサの瞳を見て、石にされてしまったかのようだ。

 そして、レイカさんは妖しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 近くの家電量販店の模型コーナーの一角にあるバトルブースには人が殺到していた。

 普段からガンプラやその他のプラモデルを求める客、ガンプラバトルをしに来た客で賑わっているが、特に今回はあのシンヤ・レイカのバトルとあって観戦しようという集団が出来たのだ。

 

「ガンプラを持ち歩いていてくれて助かった。レンタルのガンプラで戦ってもいいけれど意味がなくなってしまうからね」

 

 鞄の中からレイカさんはガンプラを取り出しGPベースにセットする。

 前年度全国高校ガンプラバトル大会ベスト4に至ったガンプラ……。

 

「フルアーマーガンダムMk-V(マークファイブ)……」

「そう。今の私の最高傑作だ」

 

 白いガンダムMk-Vに更に追加武装。そしてダークグレーの追加装甲を施したガンプラ。

 他の1/144のガンプラと比べても大きな体躯が更にデカブツ感を増しており、威圧感が半端ない。

 ネオ・ペーネロペーの方が大きいはずなのに、向こうの方が大きく感じてしまうほどだ。

 

「始めようか。今の君の力を見せてほしい」

「……はい。ネオ・ペーネロペー出る!」

「シンヤ・レイカ。フルアーマーガンダムMk-V、出るぞ」 

 

 二機のガンプラが戦場へと赴く。

 フィールドは月面。

 周囲の障害物など気にしなくていいが、それは向こうも同じこと。

 早速、前方から二本のビームがこちらに迫っていた   

 FAMk-Vのダブル・ビームライフルによる射撃。

 高度を上げて回避するが読まれていたのか更なるビームが襲いかかってくる。

 

「心理的に、ペーネロペーの高度を下げたくないことは読めていたのでね」

 

 余裕そうな声音。

 相手は格上なんて安い言葉では足りないほど実力差が離れているだろう相手。

 だけど、だとしても、やられるわけにはいかない!

 フルアーマーガンダムMk-Vのことは知っている。

 豊富な武装により相手を圧倒し、制圧する。

 だったらそれら全てを掻い潜って接近して白兵戦に持ち込めば……!

 メガ粒子砲の砲撃で牽制しながら加速。

 ネオ・ペーネロペーの機動性なら、いける。

 

「やはり君も、多くのファイターと同じことを考えるんだね。だが、その策を成功させたファイターは……いないッ!!!」

 

 Mk-Vの肩部マイクロミサイルポッド、8連装ミサイルポッド、そしてシールド裏の大型ミサイルが放たれる。

 白い尾を引きながらネオ・ペーネロペーに迫るミサイルの大群。

 ヒバリはメガ粒子砲とビームライフルでミサイルを迎撃する。

 しかし、爆煙を突っ切ってミサイルがネオ・ペーネロペーを狙う。

 

「数が多いッ!?」

 

 後退しながらミサイルの迎撃を続け、フライトユニット先端に装備されたバルカン砲やサンドバレルを駆使してミサイルを撃ち落としていく。

 その最中、アラートが響く。

 ミサイルの大群に加え、ビームの雨が降り注ぐ。

 ミサイルの迎撃、ビームを回避すること、ネオ・ペーネロペーの立ち回り、この状況を打破するための策の思考、考えること、やるべきことが多すぎる。

 だが、やらなければ、負ける……!

 

(予想よりは耐える。だが、まだまだだ)

 

 最後のミサイルを迎撃し、再度ネオ・ペーネロペーはFAMk-Vに向かっていく。

 だが、FAMk-Vは何もせず仁王立ちでいるだけ。

 嫌な予感がする。

 だけど、もう遅かった。

 突如、後方からの攻撃を伝えるアラートが悲鳴を上げた。

 スタビライザーに被弾、続いて左脚部、ビームライフル、頭部。

 あらゆる方向から攻撃を食らい、ネオ・ペーネロペーは翼を失い月面に墜落した。

 

「なに、が……」

「君はもう、籠の鳥だったということさ」

 

 籠の、鳥……。

 そういう、ことか……。

 ネオ・ペーネロペーの周囲を囲むように張り巡らされた小さな円柱。

 

 インコム。

 宇宙世紀、ビットやファンネルといったサイコミュ兵器はニュータイプか強化人間でないと扱うことが出来なかった。

 しかし、一般兵でも扱うことの出来るオールレンジ攻撃可能な兵装が登場する。

 それがインコム。

 そしてそのインコムを初めて搭載したのがあのガンダムMk-V。

 

「してやられた……」

「してやったとも」

 

 地に堕ちたネオ・ペーネロペーの前に立つFAMk-Vはダブル・ビームライフルの銃口を突きつける。

 そして、光が放たれ……。

 

【BATTLE ENDED】

 

 

 

 

 

 負けた。

 何も出来ず、負けた。

 やはり、実力差がありすぎる。

 筐体の上には、倒れたネオ・ペーネロペーとダブル・ビームライフルを構えるFAMk-Vが立っている。

 

「同年代と比べても平均以上の実力は持っている。これからも励めば全国も狙えるファイターになれるさ」

「……フォロー、ですか」

「いいや、事実さ」

「けどボクは何も出来なくて……」

「大抵のファイターなら、あの弾幕で墜ちているよ」

 

 そうだと、しても。

 そうだとしても。

 ボクは何も出来なかった……。

 

「言っておくが、今の君と何回やっても結果は変わらない。万に一つも今の君では私には勝てない」

「ッ……!」

 

 勝てない。

 分かっている。

 分かっているんだ、そんなことは。

 だけど、だけど……。

 ボクは心のどこかで、勝てると思っていた……。

 

「ちょうど来週、福音女学院と交流戦を行う予定だ」

 

 筐体のFAMk-Vを回収しながら、レイカさんは唐突にそんなことを言い始めた。

 福音女学院というと、いわゆるお嬢様学校。

 県大会では星涼と優勝争いを繰り広げるライバル校である。

 

「そこで君達ピスケスは福音女学院のキャプテン率いるAチームと戦ってもらう」

「は……? いや、そんな無茶な」

「勝てる確率はほぼない。だが、どんな負け方をするのか。それこそが重要ということだ。……今日は楽しかったよ。それじゃあ、また」

「え……。あ、待ってください!」

 

 足早に去るレイカさんを追いかけるがバトルを観ていたギャラリーに阻まれなかなか前に進めず、ようやっと人混みを抜け出した頃にはもうレイカさんの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 駅へ向かう道を歩いていると、目の前に親友が立ち塞がった。

 

「やあユナ。頑張って尾行してたようだったじゃないか」

「面白そうなもの見れると思ったからね~。それで、ヒバリ君をボコってスッキリして帰る途中だったと」

 

 珍しく、険しい顔で私に詰め寄る彼女に私は内心驚いていた。

 まさか、ここまで怒り心頭に達するとは。

 

「人聞きが悪いな。ユキノと戦う前にどの程度の強さか教えただけだよ」

「だとしてもそれは説明すべきじゃないの。ヒバリ君負けたショックで福女と戦うとかそれどころじゃ……」

「ユナ。私は君より彼のことを知ってるつもりだよ。ヒバリは……この程度で折れる子じゃないよ」

 

 親友と睨み合う。

 こうなると、決まって最後に折れるのはユナの方である。

 だが、今日の睨み合いは第三者の介入により終結したのだ。

 

「へえ、そんなにお熱なんだあの子に」

「アヤネ……」

 

 クサナギ・アヤネ。

 高等部一年にして先日チームアリエスにメンバー入りを果たしたファイター。

 

「たまたま見ちゃってね、バトルを。惜しかったねあの……ヒバリ、だっけ? けど、私だったらああはならない、成功させる。部長を倒すのはこの私だよ」

 

 私を倒して部長になると言ってはばからないこの帰国子女は常に私を狙っている。

 ユナからも狙われ、アヤネからも狙われて。

 人気者は辛いものだ。

 

「……私は信じてるよ、ヒバリ」

「なんか言った?」

「いや、なんでもない。さて、油売ってないで帰ろうか」

「ちょっと! まだ話は終わってないわよレイカ!」

「部長! このあと私とバトルを!」

 

 ユナとアヤネが追い掛けてくる。

 なんとも愉快で楽しいものだ。

 しばらくは退屈しなくてよさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 ギャラリーはいなくなり、外のベンチで一人。

 ネオ・ペーネロペーを見つめ、さっきのバトルを振り返る。

 振り返ることしか出来なかった。

 勝てるはずはない。

 だけど、勝てるはずと思っている自分もいた。

 それはきっと、最近の戦績のせいで慢心していたのだろう。

 勝ち続きで、この調子だったらレイカさんにも勝てるかもなんてことを心の片隅で思っていた。

 だけど、やっぱり勝てなかった……。

 

「ヒバリちゃん」

 

 急に名前を呼ばれたので顔を上げるとそこには知った顔が二人並んでいた。

 

「……マトバさん。オオノも、なんで」

「その、たまたま偶然というかガンプラ見に来たらケンユウ君と会って……ね?」

「あ、ああそうだようん」

 

 なんとなく、嘘っぽいということは分かった。

 

「部長さんとバトルしてたの見たよ。その、すごかったよ! ね、ケンユウ君もそう思うでしょ?」

「いや! オレなら勝ってた」

「ケンユウ君」

「す、すごかったぜ。うん。すごかった」

 

 ……この二人、何しに来たんだ。

 

「フォローのつもり?」

「まあ、そうだわな」

 

 オオノが馬鹿正直に言った。

 マトバさんがオオノを叱り始め、意外とマトバさんに頭が上がらないんだなと思った。

 いや、ボクも頭が上がらないと思う。

 なんか、色々と怖いし。

 ふと、気付いた。

 だいぶ、気が楽になっている。

 

「……ありがとう」

「何か言った?」

「べ、別に。……そういえば、レイカさんが来週福音女学院と交流戦するって」

「へえ、福女と……」

「それで、ボク達はAチームと試合するんだって」

「え。……えぇ!?」

 

 レイカさんが言っていたことを伝えるとマトバさんはとても驚いていたがオオノはいまいち何のことやらさっぱりといった顔をしていた。

 話についていけてないようだけど、このまま話を進める。

 

「それで、レイカさん曰くどんな負け方をするのかが重要だってさ」

「は? なんで負ける前提なんだよ。オレは勝つぞ! 絶対勝つからな!」

「それはいくらなんでも無茶じゃ……」

「うっせ。最初から負ける気で行くのは負け犬のやることだって母ちゃんが言ってたんだよ! それに、負けるのは嫌だ! だから勝つ!」 

 

 なんて、単純な奴。

 だけど、うん、そうだな、そうかも。

 やっぱり、負けるのは悔しいことだし、負けるのは嫌だ。

 どうせなら、勝ちたい。

 勝ちたいって思うのは自然なことのはずだ。

 

「はぁー。ネオ・ペーネロペーの改修用に何か買お」

「私もちょっと見てこうかな……。ケンユウ君も行くでしょ?」

「え、いや、オレは……」

「行くよね……?」

「う……。しゃーねえな。行くよ」

 

 やっぱり、オオノはマトバさんに頭が上がらない。

 これからオオノが何かしでかした時はマトバさんを頼ろう。

 そんなことを二人を見ながら考えて歩いていたら人とぶつかってしまった。

 

「あ、すいません」

「いえ、大丈夫ですから」

 

 ぶつかった相手は同年代の女子。

 長い明るい茶髪と長い……アホ毛?が特徴的な女子。

 ひどく淡白な感じでボクの謝罪を受けると足早に去って行った。

 

「……ガンプラ、買ってた」

 

 彼女の手に持つ袋がそれを物語っていた。

 もしかしたら、バトルする機会があるかもなんてつまらないことを考え、ボクらはガンプラコーナーを目指したのだ。

 まだ見ぬ、ネオ・ペーネロペーの新たな姿を描きながら。




メイ「そういえばデート中、すごい緊張してて可愛かったよ」

ヒバリ「うっ!?」(今日一番のダメージ)
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