ウマ娘が通う国内最高峰の学校、トレセン学園。今日も今日とて勉強にトレーニングにとウマ娘たちが励むこの学園で、どったんばったん大騒ぎが起こっていた。
「ダイヤちゃん、離してええぇぇぇ!!!」
「キタちゃんこそ、離してよぉ!!」
一人のウマ娘の手を掴み、左右に引っ張る二人のウマ娘。名はキタサンブラックとサトノダイヤモンド。
「こらこら、そんなにしてはレイが困ってしまうだろう? 二人とも早く手を放して。レイはこれから私とデートに行くのだからな」
「あらあら、レイはこれから私と並走の予定ですよ? 勝手に奪わないでくれませんか?」
引っ張られてるウマ娘の背後から抱き着く鹿毛のウマ娘と、前から抱き着くようにして牽制する栗毛のウマ娘。名前はシンボリルドルフとサイレンススズカ。
四人の目にはもはやハイライトなどは一切浮かんでおらず、瞳孔の開いた目で、キタサトは必至の表情で、ルドルフとスズカは顔に笑顔は浮かべているものの、その笑みはどちらかというと背後に龍やら虎やら阿修羅すら凌駕する存在なんかが浮かんでいるような笑みである。まさに重バ場、湿度100%超えというのが正しい状態であろう。
そしてその渦中にいる黒髪のウマ娘のクレナイは・・・。
(一体なんでこんなことに)と心の中で頭を抱えていた。
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さて、どうしてこうなったという前に、クレナイとそれを引く四人の関係を語っておこうと思う。
まず、クレナイとシンボリルドルフの出会いは古い。というのも、二人は幼馴染であった。同じ小学校に通い、同じ時期にトレセン学園に入り、そして同じように競い合った。デビューの年こそ違うものの、無敗の三冠をはじめとする数々の逸話を二人とも作り上げ、更に勉学の成績もトップクラス。更に生徒会活動においても、会長のシンボリルドルフと委員会総代のクレナイとして学園の地位向上や環境改善に取り組み、二人して学園生はもちろん、教員からの人気も高い。もちろんそんな二人であるから学園の顔としてともに行動することも多い。そして彼女たちの親密さを表すものに、二人とも互いを幼名で呼び合うというのがある。更にはルドルフがくだらない洒落を言ってはどこからか取り出したハリセンで突っ込んだり、時には洒落に乗ったり。そうして一緒に過ごす間に、ルドルフは、自分の片腕は、相棒は、一生一緒に過ごす相手にはクレナイしかいないと感じるに至ったのである。
次にクレナイとサイレンススズカの出会いは、クレナイがトレセン学園に入ってからとなる。ある時の模擬レースで出走し、当時から抜群のスピードを見せて最強との声もあったサイレンススズカだが、そのレースでは様子が違い、彼女の前をずっと一人のウマ娘が走っていた。それがクレナイであった。
その後、デビュー後もクレナイとスズカはよきライバルとして互いに切磋琢磨し続け、クレナイは最初にスズカと一緒に走ったときからずっとスズカの目標であり続けた。というのも、スズカの目標はクレナイに自分の後姿を見せつけること。そうして、クレナイの姿が目に入らないくらい先頭を走ること。実際のレースでは、何度かクレナイに土をつけてはいるものの、どれも僅差での勝利となり、クレナイに自分の後姿を見せつけるには至らず、未だ彼女の目標は達成しないままである。
そんな彼女がクレナイに好意を抱くに至ったのは二つのきっかけがあった。
まず一つはあるトレーニングの最中。長距離のタイムを二人で測っていた時、突然のゲリラ豪雨に見舞われ、ずぶぬれになりながらも二人で更衣室に戻った時であった。クレナイがスズカにタオルをかぶせ、髪をわしゃわしゃと拭き始めたのである。それまでスズカには誰かに頭を拭いてもらうとかをされたことは無く、結構気持ちよかったのもあって、それから毎日お風呂上りに髪を拭いてもらうようになった。またそうしているとクレナイも楽しくなってきて、スズカの髪をブラッシングしたり、果てにはスズカの頭を撫でるなんてこともするようになった。そうしてそれにはまったスズカが毎日の髪を拭いてもらうとか、朝ブラッシングしてもらうとか、トレーニング後や何かで頑張ったご褒美に頭をクレナイに撫でてもらうことをしてもらうようになったのである。
もう一つの出会いは、天皇賞秋。スズカが足の骨を折り、復活するまでの間の出来事。元々スズカと同室だったスペシャルウィークでは松葉杖で生活するスズカの介護が十分にできなかった。スペももとはただのウマ娘であることを考えると、決して責められることではない。だが、そのままではスズカが不便をするのも事実であったため、丁度人数の関係で一人部屋となっていて寮の1階に部屋を持っていたクレナイの部屋に転がり込むことになった。その時に人脈や自身の知識を生かしてスズカの介護をしたクレナイに、より一層スズカが無意識に惚れる結果となったのである。
そうこうしている間に、いつの間にかずっと一緒に居たい、一緒に走りたい、一緒に歩みたいという思いが芽生え、今に至るである。
クレナイと幼馴染で仲も良好なキタサトの二人との出会いは二人がまだ小学生の頃。ある世界線では、トウカイテイオーとメジロマックイーンの大ファンになっているぐらいの時である。
まずキタサンブラックとクレナイの出会いだが、あるレースにおいて、クレナイの走る姿をキタサンブラックが見たのがきっかけである。そのレースでクレナイは、ワールドレコードをたたき出すほどの熱い走りを見せ、キタサンはその瞬間クレナイに一目ぼれしたのである。また、勝負で勝つ姿はもちろん、負けたとしてもあきらめずに次のレースに臨むそのかっこいい姿はキタサンの心に深く刻み込まれた。その後トレセン学園への体験入学に行ったキタサンは、念願叶ってその日だけクレナイにトレーニングをつけてもらうことができ、その一日だけでも数秒のタイムを縮めるという才能の片鱗を見せつけたとともに、それだけ自分にトレーニングをつけられるクレナイに更に惚れ込み、いつかは自分のトレーナーになってもらって、彼女に三冠や多数のトロフィーを持って帰ったり、一緒にウイニングライブで踊りたい、更には生涯のトレーナーになってほしいという思いを抱くに至った。
最後にサトノダイヤモンドとクレナイの出会い。彼女とクレナイの出会いはウマ娘とはあまり関係ない場所であった。サトノ家で開かれたとあるパーティー。まだ小さかったダイヤは早々に詰まらなくなって、屋敷の庭でベンチに座ってのんびりとしていた。その時に休憩に来たクレナイと出会った。その時は現役のウマ娘との話で楽しく過ごすことができ、また会いたいとクレナイに告げ、また会いに来るとの返事をもらった。そうしたら次のパーティーにもクレナイが来て、ダイヤとお話ししたりダンスを踊ったりして過ごし、ダイヤの友人となったクレナイ。そうして彼女の優しいところや一緒に居て楽しいところに触れ、更にサトノ家の相談にも乗ってもらうなんてこともあり、その知識の深さや人脈。またそれを惜しげもなく自分や自分の家に使ってくれる。そしてレースでの成績や姿。そんなクレナイの優しいところ、強いところを見て育ち、自分もクレナイのようになりたいという思いと共に、彼女と一緒にサトノ家の名をもっと広げたい、サトノ家をもっと大きくしたい、一緒に家を作っていきたいという思いが芽生え、今に至る。
この四人、それぞれの関係は不良のようでとっても良好である。というのは、みんな普段は勉強を教えあうとか一緒にトレーニングするとか、談笑するとか仲の良い友達の関係である。特にキタサトにいたっては、互いのことをとっても大事なウマ娘と評することもあるくらいである。が、いざクレナイのこととなると相手を蹴落としてでもという勢いの独占力と差し、いや刺しを発揮する四人である。嘘情報の流布は常套手段に始まり、タキオンにお願いという名の脅しをかけてまでの化学戦なんてのも展開されることがしばしばあった。過去形なのは、お互いに薬を盛ったりしすぎて、互いに耐性がついてしまったため、最近ではあまり行われなくなったというものである。
そんなこんなであるので、毎食食堂で食事をクレナイが取っていると自然と周りに四人が集まるのだが、その風景や愛が重バ場とか、ハルウララすら走るのをあきらめるダートとか、あそこだけ重力と湿度が異常とか、触らぬウマ娘に祟りなしというのがほかの一般学園生からの評価である。アグネスデジタルだけは遠くから見守ってはいるが、彼女も普段以上に距離を取って観察しているだけに、そうとうやばい空間となっているようである。
何はともあれ、そんな五人の学園生活を見ていこうと思う。