電車に揺られてもう何時間経っただろう。窓の外にはのどかな田園風景が広がり、少し開けた窓から心地よい風が吹き込んでくる。
ぼーっと外を眺めていると、横から視線を感じた。そちらを向くと、ぴったりとくっついたスズカが私をじーーっと見ていた。
「どうしたのかしら?」
「いえ、レイがそう眺めているの、絵になるなぁと思いまして」
「あら、うれしいわね」
そう言ってまた外を眺める。そしてそれを眺めるスズカ。列車が駅に着くまで、私たちはずっとそうしていた。
終着駅につき、キャリーバッグを持って列車から降りる。
「こう、のどかなのはいいけど、ローカル線って椅子硬いのが多いのよねぇ」
「まあそれも旅の醍醐味というやつではないですか?」
ぐいーっと伸ばして凝った体をほぐす。ここから更にバスに乗って、更に歩いてしばらく。そうすると、ある秘湯とその近くにある温泉宿にたどり着く。
ここが今日の目的地。
旅館に入り、部屋に行くとすぐに持ってきたノートパソコンを立ち上げる。そこから衛星回線に接続し、道中で撮影した写真のバックアップや、旅館までの道のりのレポートを書く。
スズカと私。二人ともウマ娘であり、走ることと私に執着するスズカと、走ること全般に興味があった私。とはいえ、年齢を重ねるたびに体は衰え、末期にはGIIIレースですら勝利が危ういものとなった。そこで私は自分の成績に泥がつかないくらいに引退を決め、またスズカはいくつもの白星や黒星を重ねるも、これ以上やってまた骨折などの重大なケガをする前にと大事をとって引退した。ちなみにスズカの引退の理由は対外的なもので、本音は私が辞めたならもう走る楽しみもないからとのこと。あ、一応書いておくと、最後の最後にスズカは私を超えた景色を見れ、私はスズカの後姿を見せつけられたわ。感想を聞いてみたけど
「秘密です♪」
と言われてしまったわ・・・。ちなみに私の感想は、めっちゃ悔しかった。拗ねたくなるくらい悔しかった。
まあそれはさておき。引退すると同時にトレセン学園からも去った私たちは、今後の生活について話し合った。今まではトレセン学園で衣食住のほとんどが保証されていたけども、卒業してしまえば生活費がかかる。今までのレースの賞金なんかも、これから増えることが無い以上、積極的に手を付けたくはない。働くにしても、私はまだしもスズカが一般企業に順応できるのかというと不安なところはあるし、レースの解説役なんかもスズカの場合感覚でしゃべりそうで、何とも不安だ。
色々考えたもののいい答えは出ず。そんな時、私のある伝手を使うことに成功し、私たちは旅行のリポートを書いてそれを雑誌に掲載。それをもって原稿料で収入を得るという方法で生活費を稼ぐことになった。
元ウマ娘ということで、ウマ娘視点でのレポートや、知名度もあり、更には美少女(これを自画自賛というのかしら?)など色々な要因が重なり合った結果、これが結構ヒットを重ねて。今では雑誌丸ごと私たちの記事なんてこともたまにあるくらい。
それで私たちは旅館に泊まっておいしいものを食べてのんびりして、周辺を観光したりもできてと結構メリットも多い。とはいえ、秘湯とか田舎のような床を回ることが多いから、移動が大変なのだけどもね・・・。
まあそれを補って余りあるだけの、さっき書かなかったメリットが一つだけある。というか、それができるから私たちはこの仕事を生業に選んだのよね。
そんなこんなで、その日は移動についてのレポートをまとめたところで夕食。郷土料理をいただいて、温泉に入る。夕食や温泉で食べさせ愛とか流し合いとか、スキンシップで存分にいちゃついたそのあと。私とスズカは、キャリーバッグの中からトレセン学園時代に使っていた勝負服や専用のシューズだし、身に着けて旅館の外へ。ウォーミングアップを兼ねて軽く流しながら、今回の旅行の、私たちにとっての一番の目的地へと向かった。
そしてランニングすること少し。息が乱れない程度に走り、体もあったまってちょうどいいころ合いというところ。私達がついた先には、何人ものウマ娘がストレッチをしたり、走り込みをしていた。
ウマ娘が出るレースは公式レースである。競バ場で執り行われ、開催には登録とか、さまざまな手続きが必要になる。基本的に出走するウマ娘もトレセン学園に所属するウマ娘になる。だが、日常人間と同じ生活を送っているウマ娘も多数いる。そしてみんなウマ娘である以上、大半の娘はレースや走ることを求める。その結果闘争本能を求める某ゲームが出たとかでないとかあるらしいけどそれはおいておいて、そんなウマ娘たちが出るのが、非公式レース。その地元において非合法に行われるレース。もちろん見つかったらただじゃすまされない。開催するほうも出走するほうも、色々社会的に死ぬことになるのではないかと思う。だから、たいていは人里離れた空き地でひっそりと開催されることが多い。バ場もあんまりよくない。下手したらダート。でも、その日のその時間だけ、そこはウマ娘が走るレース場になる。そんな場所にわざわざ出向くことになったとしても、走ることをやめられない、そんなレースジャンキーとでもいうべきウマ娘が多いのだ。そして、引退したウマ娘は、特にその傾向が強いらしい。だから、ここに二人。異次元の逃亡者と呼ばれたウマ娘と、紅の星光者と呼ばれたウマ娘が非合法レースの会場にたどり着いた。
「なんか、相変わらず私達って人気よね」
「まあそのおかげでこうして参加できるのですから、いいということで?」
こういう非合法レースでは、最初の頃はたいてい体操服なんかの動きやすい恰好で来るウマ娘が多い。かくいう私達も、最初は体操服にいつもと違うメンコやマスクをつけて参加していた。でも、ある程度慣れてくると、有名なウマ娘のレプリカの勝負服やウイッグをつけて参加するようになるのだ。やはり勝負服があるとないとでは、気合の入りが違うらしい。でも自作するのは大変だから、コスプレみたいに実在のウマ娘の勝負服のレプリカで挑むんだとか。ごくまれに自作の勝負服のウマ娘も居るけど、ほんとそういう人たちはすごいなって思うわ。
それで、私たちはまあなんだかんだで名前が知られているし、なんなら公式グッズもたくさん出た。そのおかげか、ある程度私たちのレプリカの勝負服を着てレースに挑むウマ娘がいて。木を隠すなら森の中というけれど、本物が隠れるならコスプレの中でいいのでは? という結論に至った私たちは、当時使っていて記念にとっておいた勝負服を再度身にまとい、非合法レースに参加している。さすがに本物が、しかもこんな辺鄙な場所にいるとは思われないようで、今のところまだ気づかれていない。本物に近いコスプレとみんなには認識されている。
「ではそろそろレースを開始します。参加するウマ娘は集合してください」
運営の声に従って、集合地点に。そこで並んだ順でレースの出走順や枠が適当に決められる。
非公式レースであるため、何回出てもいい。何回走ってもいい。とにかくここは競う場所。思いっきり走るための場所。
「さぁ、今日も思いっきり行くわよ、スズカ」
「今日も負けませんよ、レイ」
位置について、よーいどん。ゲートもなければ合図はスタート係りの声。そんな場所でも、どんな場所でも。私とスズカはこの先もずっと、走るためにいろんな所を回り、死ぬまで、体が動かなくなるまで走り続けるのだろう。
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クレナイとスズカ
トレセン学園にて多大な成績を残し、伝説を作った二人は引退後、ウマ娘視点での旅のレポートを雑誌に掲載。それが大ヒットし、日本中や世界各地に旅をしてはその場所のレポートを残すトリップライターとして引退後も名を広めた。噂では、いくつかの非公式レースに彼女たちの姿があったというが、都市伝説とか噂の域を出ない与太話である。歳によって体も衰え、満足に旅行ができなくなったころには、人のあまりいないのどかな田舎に小さいレース場付きの家を建て、そこで走ったり、また遊びに来た知り合いの娘のウマ娘に指導するなど、自由に過ごしていた。
そしてある日のこと、二人は同じベッドで仲良く並んで寝たまま、息を引き取った。
死因は老衰であり、笑顔で寝ているのかと勘違いするように安らかな最後であったそうだ。輝かしい功績を残し、引退後もウマ娘と関わり続け、後進の育成に当たるなど、最後の最後まで自由に走り続けた二人は称えられ、彼女たちが過ごした家は記念館として、彼女たちの功績をのちの世にまで語り継ぐことだろう。
ウマ娘 泡沫の安寧
二人の景色は譲らない(サイレンススズカ√) Fin
それぞれのエンドと他にいくつか、エンドを書きたいなと思っています。
結構リアル生活での疲労がすごいので、次をかけるようになるまで時間がかかると思いますがご容赦ください