別視点です
私立希望ヶ峰学園高等学校。
全国世界各地から超高校級と呼ばれる異常なレベルの才能の持ち主をスカウトした、天才の天才による天才のための学校。当然のように入学方法はスカウトが基本であり、例外として幸運枠という全国から毎年一人だけ無作為に選出される生徒が存在する。それ以外にも予備学科という才能がなくても入れてしまう学科もあるが、そんなものはあくまでも予備であったというオチでしかなく、やはり絶対的に周囲から隔絶された狭き門である。
予備学科も当初は、希望ヶ峰が凡人にも門戸を開いたと言われ、いかに耳障りの良い言葉であったのだが、現実に集まるものは才能という肯定感に飢えたた若者と異様に高い学費だけ。自ら望んで入学した身としてはなんだが、あまりにも愚かしい決断であったと思う。ただ金では才能は買えないという当たり前を、心身に沁みて解らされたからだ。
そうでなければ俺は今、松葉杖をついて階段を登るなんていう馬鹿な真似をしなくても良かったはずだ。いい加減にエレベーターくらい導入してほしい。エスカレーターでも構わないから。
嫌な春だと、柄にもなく舌打ちをした自分は思った。
去年、自分がこの予備になった、いや、親の金で金づるに成り下がった、去年のことが、新入生をみてフラッシュバックされたせいだ。なんなのだろうか、あの嫌な目は。諦めきれず、だがまだ腐らず。静かに嫉妬が揺らめいている。最悪の目だ。希望なんて冗談にしかならない、そんな目だ。
そうして腐った目をした俺が、まだ腐っていないやつらを見て辟易とするのも、少しおかしな話だが。
希望ヶ峰学園という才能に囚われた輩のモットーは、「才能こそ希望」というものだ。誰もが憧れ、焦がれ、焼かれてきた、才能という二文字。それにこの学園は囚われている。ただでさえ学校なんて閉ざされた空間が、また何かに囚われている。それは自分たち予備共が腐るには十分な温床たりえた。
聞くには、この希望ヶ峰の上層部とやらも脳の溶けた老害共という噂だ。人類が平等に持つ若さという才能。それすら持たない凡俗共が上だというのなら、案外この学園も元より期待できたものではないのかもしれない。もしくは、希望のあるものなんかでは。
ため息を付いて、僕は眠ったふりを解いて顔を上げた。ため息をついて鞄に教材をしまい、教室から出た。その日の僕はどこに行く気も起きず、けれど学校にいるのも窮屈で、適当にそこらを歩くことにしたのだった。
図書館では隣りに座った図書委員の、リストカットの傷跡が見えてしまって居た堪らず。体育館は部活中でも響く声に覇気がなくて、入学時に全国に行ったと自信満々に言い放ったやつは既に部活を辞めていた。何処にいっても、彼処もなにも、沈殿した諦めの空気感が漂っていて、そうでないものは壊れかかっていて。嫌気のさした自分は走り出す気力もなく、広場のベンチに座り込んで夜になるのを待っていた。
そこの広場の中央には大きく噴水があって、その周縁にベンチが置かれてある。周りの風景は開けていて、夏場なんかは暑苦しいが、まだ春のうららかな陽気では心地良くらいのもので過ごしやすい。一度だけここの公園で本科の生徒である、超高校級の生徒会長様を見てから、何度も通い詰めるようになった場所だ。
自分がそこで一、二時間程度本を読んだり、眠ろうとしていると、小さく足音が響いてきた。
その疲れ切った様子と、まだ腐りきれていない目から新入生だろうとあたりをつけた自分は、また読書に戻ろうとした。しかし、ドサリと、何か倒れ込むような音が聞こえてきて、もう一度見てみると、その生徒は花壇に頭をもたげて倒れていたのである。
その生徒は見るからにひ弱そうな雰囲気のする、痩せこけた本科の人間だった。
どうにも彼を起こしてみると、名前を御手洗クンというらしい。
「そうか、御手洗クン。次からは気をつけろよ。」
「え、あ、ありがとう、ございます。」
「そうか。」
「えっと、あの、名前聞いてもいいですか。」
「あー、逆木深夜だ。今は予備学科でテキトーに過ごしてる。用事があったらお前と同学年のかなみに聞いてくれ。」
「え、あ、はい。ありがとうございます。」
「うん。それじゃあ。」
「はい。それじゃあ。」
そういって、僕らは別れた。
放っておいたかなみを迎えに行くために、憂鬱な気持ちをぶら下げて。自分の折れた足に無理を聞かせて帰ることにした。
渇望