星と水底のおとぎばなし   作:小日向ひより

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こちらは第一部になります


ファントムブラッド編
星と緋色の狂想曲─序幕─


 

 

 おや、これはと思ったら次の人生リスタート。

 

 斬った張ったの波瀾万丈、どんとこい超常現象な体験だってお腹いっぱい経験してきましたがこれはちょっとないと思うのです。

 

 どうもこんにちは、夕凪澪改め今生での名前はミオ・ジョースターと申します。

 

 家族はパパさんとひとつ年下のジョナサンと僕と愛犬のダニー、そして執事やらメイドさんと大きな屋敷と広大な庭が我が家です。

 ジョースター家はどうやら貴族階級のお方らしく、わりと前世において粗野な生活していた僕にとっては勉強が楽しくもしんどい。英語は幼児の特権的に覚えられたんだけど、作法とかきついです。

 とはいえ、自分の場合年の功と経験フル活用でなんとかこなせるけど、一方のジョナサンは年頃の少年らしく活発で作法やらはまだまだのご様子。

 

 でも、パパさんの血は立派に受け継いでいるのか紳士的な一面もちゃんと持っている優しく可愛い弟です。

 

 そんなジョナサンが擦り傷作って帰ってきました。今日はお客が来るって言っといたんだけどなぁ。

 

「お帰りジョナサン、またそんな擦り傷こさえてどうしたの?」

「ただいま姉さん。うん、ちょっとね」

 

 擦り傷を軽く擦り、苦笑するジョナサン。

 雰囲気的に追及されたくなさそうだから軽く頷くに留めた。

 

「そか、ちゃんと消毒してきなね。もうすぐお客さんくるし……て、ありゃ」

 

 ドカドカと馬の蹄の震動が足元から伝わり、タイムアップを悟る。残念、手当ては後だ。案の定馬車はうちの前に停まり、荒々しい音を立てて扉が開いた。バァーン、みたいな。

 続けて鞄が放り出され、最後に馬車から飛び降りてきたのは──なんとも綺麗な少年だった。

 まだ少年の幼さは抜け切れていないものの、均整の取れた肢体と端整な顔立ちは将来女性を虜にすること請け合いだろう。金糸の髪をなびかせ、深い琥珀の瞳でこちらを値踏みするような眼差しを向けている。

 

 ……ところでわざわざジャンプした意味を問いたい。鞄もほっぽり出していいのだろうか。

 

 そんな疑問を持ったのは僕だけだったらしく、ジョナサンは顔を輝かせて友好的に挨拶をした。そういうところは美点だと思う。

 

「君はディオ・ブランドーだね?」

「そういう君はジョナサン・ジョースター」

「ああ、みんなはジョジョって呼んでるよ。これからよろしく……」

 

 そう言って、ジョナサンが握手を求めようと手を出したところで、我が家の愛犬ダニーが吠えながらこちらに走り寄って来るのが見えた。

 

「紹介するよ、ダニーってんだ! ぼくらの愛犬でね、利口な猟犬なんだ」

 

 嬉々としてダニーの紹介を始めるジョナサンだけど、あ、これはまずいと直感が訴えてきた。

 だってディオの犬を見る目ヤバイ。忌々しいものを見る目だよ。あれ絶対犬嫌いだって。

 

「心配ないよ! 決して人は噛まないからすぐ仲良しになれるさ!」

 

 僕はそんなディオの様子に気付いていないジョナサンのダニー自慢をスルーしつつ、駆け寄ってきたダニーをひょいと抱き上げた。

 

「はいはい、だめだよダニー」

「え、姉さん?」

 

 突然の行動にジョナサンが首を傾げた瞬間、ディオの繰り出した鋭い蹴りが虚空を裂いた。もしダニーがあのままだったら直撃コースである。

 

「ッ!」

「わ」

 

 風圧で髪が浮き上がり、思わず短い声が出た。

 

 うわ、当たったらボギャアアとか効果音がつきそうな蹴りだったよセーフセーフ! やっぱり犬嫌い派だったか危ねぇ。

 しかしこれからお世話になろうという人ん家の犬いきなり蹴飛ばそうとするなんていい根性した奴である。心象悪くしていいことなんてなかろうに。

 

「い、今、ダニーを蹴ろうとしたな!」

 

 ダニーは助かったとはいえ、愛犬にディオが蹴りを食らわせそうとしたのは間違いないので激昂したジョナサンが食ってかかった。

 

「ああ。それがどうかしたのか?」

 

 しれっと答えるとはすごいな。僕にはとてもできない。

 

「キミって奴は……!」

 

 ディオの態度にいっそ感心すら覚える僕と怒りに拳を震わせるジョナサン。

 でもなー、ジョナサンもあんまよくないっちゃよくないんだよね。そんなワケで割って入ろう。

 

「蹴りはいかんと思うけど、ジョナサンもちゃんと確認しなきゃだめだよ」

「だって、姉さん……」

 

 これで本当にダニーが蹴り食らってたら、僕はこの先の関係なんか考えず問答無用でディオを蹴飛ばした。でも未遂だし、一応こういう人もいるということだけは教えておかねばジョナサンのためにならない。僕は神妙な顔でジョナサンを見上げる。

 

「世の中には犬派もいれば猫派もいるし、アレルギーで犬猫触れない不憫な人だっています。確認大事に」

 

 あと大型犬はダメだけど小型はありとかあるけど、めんどいので置いておく。

 そう諭すと、あからさまにジョナサンがしょんぼりした。

 

「そ、そうか……すまない、ディオ。犬は苦手だったんだね」

「ああ、ぼくは犬が大嫌いだ。その阿呆犬をぼくに近付けるなよ」

 

 おっと苦手じゃなくて嫌いときたか。こりゃ本当にディオには近寄らないように躾けておこう。

 決意も新たにそっとダニーを降ろすと、彼もディオの犬嫌いを察知したらしくそのまま向こうの木陰に戻っていった。偉いぞ。

 さて、僕も挨拶せねば。

 

 居住まいを正し、一応は淑女っぽい所作でカーテシーなんぞを披露する。

 

「申し遅れました。僕はジョナサンの姉でミオ・ジョースターです」

「姉? 妹じゃなくて?」

 

 おいこらどういう意味だ。今までジョナサンが姉さんと呼んでたじゃないか。

 

「姉さんはぼくのひとつ上だよ」

 

 ちゃんと訂正してくれるジョナサンはできた弟です。

 いや、まぁ僕の身長はとっくにジョナサンに追い越されてしまっているので仕方ないかもしれない。でもちょっと悔しい。ほぼ同じもの食べてるはずなんだけどね。

 

「それに……僕?」

 

 ディオの怪訝な顔に失敗に気付く。しまったまたやってしまった。

 

「私、ですね。すみませんお耳苦しいことを」

 

 実は、今生で一番きついのはこの一人称だ。

 

 父やばあやの前で口にするとレディの言葉遣いとして云々、とお説教されてしまうから頑張っているのだけど、長年これで通してきたからどうにもこうにも矯正が難しいのだ。

 ジョナサンは「ぼくと一緒にいるから移ったのかな?」なんて笑っているけども。ごめん、これ昔からなんだ。細かいことを気にしない性格な彼の前では今までの一人称で通しているので、時々こうしてボロが出てしまう。

 

「父から話は伺っています」

 

 なんでも恩人の息子さんで今日から家族になるのだそうだ。

 

「これから、よろしくお願いしますね」

 

 ディオへとぺっこりと頭を下げ、自然と笑った。だって多少根性曲がってそうでも家族が増えるのだ。嬉しいことである。

 

 すると、

 

 

――ズキュウウンンン!!!!

 

 

 なんか効果音が聞こえた気がした!?

 

「……ッ!」

 

 それまで高慢ちきな態度だったディオの表情が凍りつき、ぐらりと身体が揺れた。どうした貧血か?

 

「ディオ、どうしたんだい?」

 

 突然の変貌に驚いたのか、ジョナサンが不思議そうに声をかける。

 そんな言葉も耳に届いていないのか、ディオはなぜか僕を凝視し続けている。なんですかね。

 

 そしてようやく硬直から脱したらしいディオが開口一番。

 

「貴様のようなちんくしゃ始めて見たぞ!」

 

 ええーいきなりの罵倒!?

 

「お前如きちんちくりんがこのディオの眼前に立つんじゃない!」

「え、あ、はい、なんかすいません」

 

 更なる追撃にとりあえず謝ると、隣のジョナサンが再びヒートアップした。

 

「ディオ! ぼくの姉さんを侮辱するなんて許さんぞ!」

「ふん、チビをチビと称して何が悪い!」

 

 そのままぎゃんぎゃんと口喧嘩が続き、それはジョージパパが来てくれるまで続いたのだった。

 

 そして、いきなり罵倒されまくった僕は……

 

「……なんかおもろいな、ディオ」

 

 根性曲がってる具合が斜め上すぎたので一周回って興味が沸いてきたのだった。

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

「これから、よろしくお願いしますね」

 

 そう言ってふんわりと柔らかな笑みを浮かべたミオというジョナサンの姉(?)を見た瞬間、ディオは全身を貫くような衝撃を受けた。

 指の先まで痛痒めいた痺れが走り抜け、感じたことのない昂揚で血圧が一気に上がったような感覚すら覚える。

 色の脱けた初雪めいた髪に、細められた桜色の瞳。いとけない子鹿のように華奢な体躯その全てが彼の視線を掴んで離さない。

 

「――ッ!!」

 

 それはまさに恋の落雷、愛の激情。電撃的なまでの一目惚れだった。

 心なしか彼女の仕草ひとつひとつにまで花が散って見える。重症だ。

 

 しかし、初対面の人間に対して愛を囁くなど彼の矜持と少年特有の意地っ張りが許さなかった。

 

 僅か二秒で自分を立て直したディオは開口一番、思わずこうのたまってしまった。

 

「貴様のようなちんくしゃ始めて見たぞ!(貴様のような愛らしい生き物始めて見たわ! 天使か!)」

 

 しまった、と思ってしまったが口は止まらない。

 

「お前如きちんちくりんがこのディオの眼前に立つんじゃない!(これ以上目の前に立たれたら(俺が)何するか分からんから離れろ頼むから!)」

「え、あ、はい、なんかすいません」

 

 何がなんだかよく分からないけどとりあえず謝る声音すら可愛すぎか! このディオの動悸をこれ以上上げてどうするというのだこの小悪魔!

 100%冤罪かつ謎の罵倒を脳内で繰り広げていると、姉を貶されたと思ったジョナサンがディオに食ってかかった。

 

 正直助かったと思ってしまったのはディオ生涯の不覚である。

 

 

 

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