星と水底のおとぎばなし   作:小日向ひより

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23.今日から毎日家を壊そうぜ!

 

 

「……む?」

 

 それに気付いたのは、吸血鬼ゆえの敏感な聴覚ゆえだろうか。

 僅かな空気の震えと微細な振動。おそらくはどこかを爆破したのだろうというのは、すぐに見当がついた。

 そして、そんな破天荒な馬鹿をやらかす犯人にも。

 

「来たか」

 

 暗闇の中、麗人は満足げな嘆息を漏らす。

 ジョースター一行のような覚悟とは比肩するのも馬鹿馬鹿しいほどに、ちっぽけな約束ひとつを大事に抱えて辿り着いた。待ち焦がれた存在の来訪である。

 

 自分の差し向けた刺客を全てはね除けて、自分の足で。それは少しばかり忌々しいが、同時に賞賛すべきことだ。

 

 薄暗い室内でも蠱惑的に煌めく金髪をかきあげ、紡がれる声音には陶然の色。

 

「このDIOを待たせるとは……勝手気ままなのは変わらんな」

 

 思えば、あの少女が自分の思い通りにいった試しなど一度もない。

 それが面白く、また少しばかり気にくわない。

 

「お迎えにあがりましょうか」

 

 暗闇からもう一つの声。

 彼の忠臣であり、魂すら既に捧げている狂信の徒。

 

「いや、その必要はない。ただ、そうだな」

 

 ふと、意地の悪い発想が浮かんだ。

 この自分に忠実すぎるほど忠実な部下は、この下知をどう解釈するだろうか。

 

「私の館に少々おいたをしているようだから……ヤツらのついでで構わん、見つけたら()()()()()やってくれないか?」

「DIO様の御心のままに」

 

 思った通りの返答をして、部下は主の部屋を辞した。

 彼は何事もなかったかのように、手元の厚い本を再び開いた。

 

 口元にはうっすらとした微笑。

 

「さて……私の花嫁殿は、どこまで喪わずにいられるかな」

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

 一方その頃、意気揚々と屋敷への潜入を果たした澪は、端的に言えばヒャッハーしていた。

 

 館の内部は土地の広さとあまりにも噛み合わない迷宮と化しており、シーザーは一瞬当惑したのだが、当の澪は「やっべー広い! 壊しがいがあるぅーッひゅー!」と余計にはしゃいでしまいなんの意味もなさなかった。

 そんなワケで、自重なにそれ美味しいの? と言わんばかりにその辺の窓を見つければ割り砕き、外壁は自慢の刀剣で八つ裂き。超局所的な台風でも来ているかのような有様である。

 

「どんだけ稼いでんだよ! DIOすごいな!?」

 

 どれだけ高いブツがあったとしても、どうせ壊すからあんまり関係ない。我が家の恨みを思い知れ。

 いちおう、後ろから援護の体勢でシーザーがついているのだが、砕かれた調度品やズタズタにされているカーテンを見ながら「そうだ、こんな感じだったな……」とか呟いて完全に思い出に浸っていた。

 

 癇癪を起こした子供そのものの感情で、しかし動きだけは野生の獣のそれだ。

 姿勢は低く、黒の輝線が閃けばガラガラと太い柱が大根のように輪切りにされ、窓は一瞬でただの枠と化し、壁には大穴が空いた。

 

 砕かれた外壁の隙間からは容赦なく燦燦と日光が差し込み、割れた鏡が陽光を反射して煌めいている。

 

「階段発見! 降下しまーす」

「あっ、少しは警戒しやがれ! DIOの館ってこと忘れてんじゃあねぇだろうな!?」

 

 言うや否や、階段の手すりに飛び乗ってシューッと降りてしまったので、シーザーも慌てて追いかける。なんだろう、悪ガキの面倒を見る親とはこんな気持ちなのだろうか。

 というか、敵の首魁の館でなにをやっているのだろう。悪ガキのレベルが桁違いで目眩がしそうだった。

 

「はしゃぎすぎだろ! どこにスタンド使いが潜んでるかも知れねぇんだぞ!?」

「物理攻撃が効くならなんでも斬ってみせるから問題ない!」

 

 だめだこいつ。

 

 どうしたことか、これまでになくテンションハイになっている澪を止める術を、シーザーは思いつかなかった。

 それでもこれだけは言わねばなるまい、と持ち前の兄貴気質で説教をしようと口を開いた。

 

「あのな、猪突猛進も大概に──」

 

 その時だった。

 

 眼前に広がっていた新たな迷宮が霞の如く消え、(先程に比べればだが)館に見合った間取りへと変化を遂げたのだ。

 それはまさに一瞬の出来事で、さしもの澪も怯むかと思ったのだが、

 

「む? アヴドゥルさんたちがスタンド使いをやっつけたのかな? まぁいいや! ぶっ壊せばみんな同じだもんな! むしろ壁探す必要なくなってラッキーッ!」

 

 なんと意にも介していなかった。

 それどころか壁だなんだが近くなって斬りやすくなったぜ、と敵よりよっぽどゲスい顔つきでにやにやしている。

 冷静に考えるなら、スタンドで迷わされていたにも関わらず澪のスタンド(?)が発動しなかったのは、相手が『迷わせよう』という目的意識しか持っていなかったからだろう。

 

 しかし、とシーザーはこいつこんなアグレッシブだったっけと考え、そういえばこういうヤツだったと思い出して、なんか色々諦めた。どれだけ自宅を壊されたことを根に持っているんだ。

 

「そういえばさぁ」

 

 そこら辺で見つけた花瓶と置物をてきとうにお手玉しつつ澪はぼやいた。

 

「あん?」

「ジョセフは火を放てって言ってたじゃん?」

 

 軽い素材なのかひょいひょいひょい、とジャグリングしている。

 

「言ってたな」

「この館ほぼほぼ石造りだから、火放ってもたぶんろくに燃えなかったよね」

 

 壊しまくってる本人がついでに確認してるようなものなのだから、そうなのだろう。

 

「だな」

 

 ある意味、火を放つより被害を拡大させている戦犯が言うべき台詞ではないのだった。

 澪はお手玉していた花瓶と置物を、それぞれてきとうな所作で放り投げた。がっしゃん、と壊れる音がした。

 

「RPGでもぶち込んだら話は変わってただろうけどー」

 

 もしあったとして、ロケットランチャーを館にぶち込む気だったのだろうか。

 それ以上思考を巡らせることを脳が放棄したので、シーザーは考えるのをやめた。

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

「なんか、すごい破壊音が聞こえるのですが……」

 

 無事にテレンスを打倒し、幻術の空間から抜け出した花京院が僅かに眉をしかめた。

 しばらく目を使わない生活をしていたせいか、彼の聴覚は少しばかり鋭敏になったようだ。

 そんな鼓膜を打撃する破砕音。がしゃんばきんどかん、とひっきりなしに聴覚を刺激してくるので、気が休まるヒマがない。

 

「あー、たぶん澪じゃろ」

 

 ジョセフは考えることもせず、こともなげに片手を振った。

 

「サンモリッツでもそうじゃったけど、敵地だと遠慮なしに暴れるからのう」

 

 若かりし頃、澪が退場してから改めて突入した柱の男のアジトは、それはもうひどいものだった。

 まぁ相手の弱点が陽光、という点もあったのだろう。そこら中のものがぶっ壊され壁も穴だらけで、当時の澪の気概が窺えるものではあったのだがいかんせん派手だった。シュトロハイムの火力支援も相まってぼっこぼこだった。

 

「よっぽど腹に据えかねてたんだな」

 

 承太郎も普通に頷いた。

 自宅を破壊されたのだから、やられたらやり返す脳筋な澪が暴れないはずがないという、ろくでもない信頼があった。

 

「ああ……」

 

 少し考えてから花京院も頷いた。

 普段は穏やかでのんびり屋なので忘れがちだが、澪の戦闘力はスタンドを除いてジョースター一行では随一である。

 そんな彼女が自宅をぶっ壊され恨み骨髄に徹して館に突入したのだから、それはやり返すだろう。

 

「ま、今回は爆弾持ってないから半壊にはせんじゃろ」

 

 それは逆を言えば、爆薬があれば躊躇なく館を爆破していた、という意味ではないだろうか。

 とはいえ、誰にとってもこの館は憎むべき敵のアジト以上のなにものでもないので、特に澪を止めなくてはとは考えない。

 

 むしろ心情的にはいいぞもっとやれ、である。

 

「それに今回は、手榴弾がないから自爆もせんしな!」

 

 ……案外に、ジョセフも柱の男との一件はトラウマになっていたのかもしれない。

 

 

 

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