星と水底のおとぎばなし   作:小日向ひより

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28.DIOの世界

 

 

 ああ、そうかと澪は思う。

 

 花京院と話して、自分の言葉に教えられた気分だった。

 

 したいこと、すべきこと。

 

 意味のない欠片がより合わさって、意味のある形になる。

 すとん、と胸の奥にそれはおさまって、視界が広くなって、身体が軽い。

 

 それはいい。いいのだが……。

 

 あんな啖呵を切ってしまった手前、花京院ペアとも承太郎ペアとも行動しづらくなってしまった。

 というか、端的に表せば置いていかれた。気付いたら誰もいなかったのだ。無情である。

 

「ひでー……」

 

 おそらくはジョセフかシーザー発案で、元々澪を口八丁で遠ざけるつもりだったのだろう。

 花京院との会話は彼の本心だと分かるが、足止めも兼ねてのものだったのだと、今なら分かる。

 

 しかしまぁ、どうしたものか。

 

 こんな最終決戦で、まさか途方に暮れる羽目になるなんて人生とはままならないものである。

 

 漆黒の中にぶちまけられた、宝石のような星々。

 

 それは目を奪われるほどにうつくしいが、同時にジョースター一行にとっては忌まわしい時間帯を意味する。

 乾いた風はつめたくて、馴染んだ異国の香りがした。

 

 今夜ですべてが終わる。

 

 そんな確信があった。その結末が良きにすれ悪しきにすれ、必ずそうなってしまう。

 

 承太郎はDIOを倒すだろう。そうするだけの因縁がある。

 

 ジョセフはホリィを助けるだろう。そうするだけの動機がある。

 

 花京院は誇りを取り戻すだろう。そうするだけの理由がある。

 

 ポルナレフは立ち上がるだろう。そうするだけの屈辱がある。

 

 アヴドゥルは、イギーは、シーザーは……。

 

 そして、澪は。

 

「……」

 

──それは、きっと百年前から決まっていた。

 

 だからこわくない。百年前に果たすべきだったことが、今になっただけだ。

 

 だから後悔しない。たとえどんな結末を招くことになっても、受け入れる。

 

 だから迷わない。それがどんなに罪深いことなのか、澪はもう知っている。

 

 でも、たったひとつ、あるとすれば。

 

「ごめん」

 

 胸元に手を当てて全天を仰ぎ、呟いて。

 

「ごめんね」

 

 花京院に告げたように、謝罪のそれを口の中で転がした。

 

 理解は求めない。秘密のままでいい。

 

 ただわがままに、こころのままに。

 

 でも、そう、祈るとすれば。

 

「ゆるさなくて、いいから」

 

 そうして澪も動き出す。

 誰も彼もがよってたかってDIOを打倒してしまう、その前に。

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

 轟音を上げて道路を駆け抜ける一台の軽トラック。

 

 札束にモノを言わせて買い上げたその車、運転席に座るジョセフは助手席の花京院を見やる。

 彼の両手からは血が流れ出し、いくつもの傷に表情を歪めている。

 

「気を付けろ花京院! ヤツに近付きすぎじゃぞ!」

「す、すみません、つい……」

 

 後方から感じ取れるドス黒い空気は、花京院の『法皇の緑』の攻撃も全く効果がなかったのか、依然として猛追してくる。

 どこから入手したのかは分からないが、DIOを搭載した車が自分たちを追撃してくると理解できたのがついさっき。

 威力偵察のつもりで花京院の放った『法皇の緑』によるエメラルドスプラッシュは、DIOの文字通り人間離れした動体視力によって彼の髪一筋を傷つけることすらできなかった。

 

 だが、収穫がなかったかと問われれば、否。

 

「やつのスタンドは澪の言っていた能力のほか、『接近パワー型』ということが確実にわかりました」

 

 澪の口にしたDIOの能力も脅威的だったが、スタンド本体のパワーは未知数だった。

 だからこそ、花京院はその射程範囲を計るために『法皇の緑』を飛ばしたのだ。痛みに脂汗を流し、それでも花京院は得た情報をジョセフと共有するべく言葉を繋ぐ。

 

「つまり承太郎の『星の白金』のような感じでした。だから、ぼくの『法皇の緑』や『隠者の紫』のように遠くまではいけない……」

「ふむ……能力発動の射程範囲も、その程度と考えていいじゃろうな」

「ええ、それに拳での攻撃でしたから、ぼくのように飛び道具も持っていないはずです」

 

 つまり、約半径10m以内に気配を悟らせることなく接近し、DIOが能力を発動する前に攻撃を叩き込むことができればいい。

 だが、そのハードルは絶望的なまでに高い。

 攻撃は少なくともDIOが一撃で昏倒、ないしは戦闘不能に陥るほどの強力さが求められる。しかしDIOのスタンドどころかその回復力は化け物だ。

 

「難題じゃな……隙を誘うにもリスクが高すぎる」

 

 こちらの存在を知られ、時間を停止させられてしまえばその時点で詰む。

 陽光という、吸血鬼にとっての致命的な弱点は封じられている現状、打てる手は少ない。

 

「こちらがDIOの能力を把握している事実を、ヤツは知らない。それを有効に使えればあるいは……」

 

 澪が口にした、DIOのスタンド能力。

 『時を止める』という人知の及ばない、むしろスタンドを知っているからこそ想像の外にある凄まじい能力。花京院は彼女の言を疑っていない。

 それは澪の人となりを知っているという事も勿論だが、単に義父に伝え聞いたことをそのまま伝えた、というだけでは説明のつかない確信を伴ったものだった。

 

 自分どころか、おそらくはDIO以外すべての人類が認識すること叶わない『時の止まった世界』を知覚できる術があるとは思えないが、少なくとも澪自身は欠片も疑っていない。

 

 ならば花京院もそれを信じる。

 前提として考え、最悪の事態を避けるために行動する。

 

「おかしい……」

 

 この時、花京院は自分の思考に埋没していた。

 

「ヤツの車が止まったぞ」

 

 だから、ジョセフがバックミラーを確認してから呟かれた言葉で我に返った瞬間、戦慄していた。

 咄嗟に身を乗り出し、危機を促すしかない。

 

「気を付けて! 何か飛んでくるッ!」

 

 花京院の叫びと、物言わぬ死体が前方から正面衝突したのはほぼ同時だった。

 凄まじい衝撃とともに小太りの男が苦悶の表情で、全身血達磨で窓いっぱいに映る、というのはジョセフたちに驚愕を与えるに十分だった。

 

「うおおッ!?」

 

 スプラッタホラーそのものの絵面を叩き付けられた混乱のあまり、力任せにきられたハンドルに従った鉄の車が激しく揺れ動き、そのまま民家へと激突した。

 煉瓦の壁へとめり込んだ車はあちこちがへしゃげ、歪み、ガソリンに引火したのか破壊と灼熱が車をただの鉄塊へと変わる。もちろん、ジョセフと花京院は鍛えられた反射神経を駆使して己のスタンドを使って既に脱出している。

 同じビルの鉄柵にスタンドを這わせ、屋上へとそのまま身体を引っ張り上げる──すると。

 

「おいッ、JOJO!! 花京院! 無事か!?」

「シーザー!?」

「ツェペリさん!」

 

 そこには、双眼鏡を片手に自分たちを探していたらしいシーザーがいた。

 さすがに両腕を失っているアヴドゥルの姿はないが、背には波紋で痛みを和らげているのかイギーの姿もある。

 

「──ッ!」

 

 瞬間、花京院の脳裏に電撃めいた閃きが駆け抜けた。

 

「DIOの野郎は!?」

「下じゃ! ここにいると狙われるぞ! とにかく……花京院!?」

 

 いつの間にか、花京院はサングラスを外し、静かに眼下に小さく映るDIOを睥睨していた。

 

「──思いつきました」

 

 自分の能力だけでは無理でも、リスクを最小限におさえることができる策。それで危険がなくなるワケではないが、やるだけの価値はある。

 ここに彼らがいたことは、僥倖以外の何物でもない。

 

「DIOに攻撃を叩き込む方法を」

 

 そして顔を上げた花京院の視線の先にはシーザ──―否、正確には彼の背負う小さなスタンド使いへと向けられていた。

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

『花京院さん、お宅の典明くんは友達を全く作ろうとしません。そう、嫌われているというよりまったく人と打ち解けないのです。担任教師としてとても心配です』

『それが、恥ずかしいことですが、親である私にも……何が原因なのか……』

 

 澪と出会う少し前、面談の席で親と担任がそんな風に話していたことを覚えている。

 

 花京院にとってそれは、至極当たり前のことだった。

 

 だってそうだろう、『法皇の緑』が見えないひとと、どうやって心を通い合わせればいいのだろうか。

 だから、偶然と奇跡がまじった小さな子共との出会いは、花京院の世界を広げるきっかけで、狭める原因となった。

 

 この世に自分以外で『法皇の緑』を理解できる人間は存在する。

 本人にスタンドがなくとも、目視できるというだけで、それは花京院にとって何物にも代え難い宝物だった。

 

 けれどそれはとても稀で、澪以外にいるかどうかは分からない。

 

 他にいるかいないかも分からない人間をあてどなく探すより、花京院は目の前にいる理解者を大事にすることを選んだ。

 だから、花京院にとって自分を理解できると信じる人間は、長く澪のみだったのだ。

 

 そして必然ともいうべき運命を辿り、花京院の世界は劇的に広がることとなる。

 

 ジョセフ・ジョースター、承太郎、ポルナレフ、アヴドゥル、イギー、そしてシーザー。

 

 スタンドを持ち、理解することのできる魂の同志。

 黄金に輝くような、己の正義を疑わずに戦える尊い仲間たち。

 

 それまで過ごしてきた人生の中では短く、しかして濃密な日々は花京院の心に深く刻まれていく。仲間との日々がDIOに蹂躙し尽くされた花京院の精神を支え、立ち上がるだけの力を与えた。

 

 息を吹き返した矜持はより強く彼の中で根を張り、頑健になり、決意は揺るぎなくここにある。

 

 そう、こうして相対するだけで反射的に浮かぶ恐怖をねじ伏せることができるほどに。

 

 轟音。

 

「『法皇』の『結界』ッ!」

 

 身じろぎする度に発射される翠玉の(つぶて)を苦もなく弾きながら、DIOがその正体を看破する。

 建物の隙間を縫うように張り巡らせた蜘蛛の糸。目を凝らせばエメラルドに煌めくそれは、花京院の触覚の延長も同義だ。

 

 DIOが触れればそれと分かるし、反射的に発射されるエメラルドスプラッシュは確実にDIOのみを狙い撃つ。

 

 カイロの街でも比較的背の高い建物が建ち並ぶ、鉄塔のてっぺん。

 夜陰の中で煌めく恒星が地上でも炸裂する。翠の輝石が無数に弾け、ひととき火花を散らして消えていく。

 

 長い旅路の果て、花京院はDIOを迎え撃った。

 

 自分を睨み付ける吸血鬼の眼光は鋭く、重い。

 殺気はやすやすと彼の心を蝕もうとするが、こみ上げる吐き気とともに飲み下す。

 一朝一夕で払拭できるほど、DIOの影響は少なくない。

 

──だが、

 

「触れれば発射される『法皇』の『結界』は──!」

 

 それでも、花京院は獅子吼を放つ。

 

 堂々とDIOに相対し、花京院は己の人生を歪めた不倶戴天の敵を、遂に捉えたのだ。

 

「すでにお前の周り半径20m! お前の動きも『世界』の動きも、手に取るように探知できるッ!」

 

 吸血鬼が攻撃されるまで知覚できぬほどの隠密性を持ち、弾丸にも等しい攻撃を速射できる。

 しかも仮にDIOが逃れようとしても、逃さない程度の範囲を網羅できる中近距離戦に長けた能力。

 ここまで汎用性の高いスタンドは仲間たちの中でも花京院の『法皇の緑』しかいない。

 

「くらえッ! DIOッ!!」

 

 策は練った。

 

 迷いはない。

 

 ここで迷ってしまえば、澪との約束を反故にしてしまう。それは花京院自身が許せない。だから全力で臨む。

 あとのことなど考えない。今、この時、すべてを捧げて勝負に出る。

 

──後悔はない。

 

 DIOをここで打ち倒せればそれでよし。

 

 倒しきれなくても、能力の一端を解明できればそれでいい。

 

 やけくそではなく真実、花京院の本心だ。もう、彼はひとりではないのだから。

 

──けれど、もし、不安があるとすれば。

 

「半径20mッ!」

 

──それは──

 

「エメラルドスプラッシュを──ッ!!」

 

 最後の会話で見せた、柔らかな笑顔に含まれたひとさじの──

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

 世界は止まる。

 

 裂帛の決意を込めた表情も、今にも必殺技を発射しようとするスタンドも、ちぎれ飛ぶDIOを捉えていた触脚も、崩れそうな建物も瓦礫も大気も、僅かな砂粒の動きすら──

 

 停止。

 

 完全な停止が──『世界』を覆う。

 

 この空間で唯一動ける男は、かつて支配下に置いた赤毛の青年の決意も覚悟も、ようやく芽吹いた淡い想いすら嘲弄して──

 

「これが、『世界』だ」

 

 彼に付き従うスタンドが無造作に振り上げた拳は、己の主のように人外めいた膂力で青年の薄い腹をあっさりと貫通した。

 

「花京院」

 

 そして、硬直していた時間が動き出す。

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

 星のかけらが落ちてくる。

 

 きらきらと淡く、まぶしく、それは散り際を悟った花のように儚かった。

 

 けれど、それは萌える若木のような生命力が放つ雄叫びだった。

 

 

 世界でいちばんうつくしいひかりだと、思った。

 

 

 それは誰かの思いで、誰かのこころで、きっと誰かの願い。

 

「      」

 

 ほんのひととき目を奪われて、ふるえた唇は自然と誰かを呼んでいた。

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

 基本、DIOは自分以外のすべてを見下している。

 

 それは強者の余裕であり、人知を越えた力持つ存在としてごく当たり前のことだ。

 

 『世界』の名の通り、不可逆のものを支配せしめる絶対的なちから。それがDIOのスタンド能力だ。

 とりわけ近接戦において絶対の優位性を誇り、打ち破れるものなど皆無。言うなれば、徒競走にステルス戦闘機を持ち込むような()()の最北端。

 

 だから彼は己以外のすべてを侮り、玩弄し、鼻歌交じりに叩き潰す。

 

 それができるからこその吸血鬼であり、スタンドで、DIOだ。

 

 だが、そういう強者の驕りはたまに思いもよらぬ展開を引き寄せる。

 

 まぁ、端的に言えば──

 

「むッ!?」

 

 調子こいてすぐ油断して、足元をすくわれるのがDIOの悪いくせである。

 

 違和感は『世界』を解除した瞬間だった。

 

 確かに貫いた花京院の腹から、噴出するはずの血しぶきなど欠片も散らすことなく、どころかスタンドの腕がずしりとにぶくなる。

 

「なんだ、これ、は……」

 

 動きが遅くなり、さしものDIOも動揺を隠せない。

 捕らえていた花京院が、唐突ににやりと嗤う。

 それは花京院らしからぬ、犬歯を剥き出しにした、そう、まるで野生の獣が獲物の喉元に前肢をかけたような──

 

「! きさ、」

 

 DIOがその正体を看破するより早く、花京院『だったもの』が崩れ落ちる。

 ばしゃり、とまるで水でもぶちまけたように、カイロで暮らしていればいやでも目に付く、質量を伴った極小の粒の集まり。

 

 砂だ。

 

「『愚者』!」

 

 砂の重石から逃れるために咄嗟にスタンドを解除した瞬間、燃え落ちるように散華していたはずの『法皇の緑』が数本を残して姿を消した。

 それは生命力を喪ったものの嘆きではなく、明らかに戦略的な動きだ。

 あんな目立つ場所でDIOを待ち受けていたのも、さぁこいとでも言わんばかりに構えていたのも、縦横無尽に張り巡らされた『結界』すら。

 

 壮大なブラフだったのだ。

 

「──ッ!!」

 

 悟り、DIOの優秀な脳髄が瞬間湯沸かし器よろしく煮えたぎる。皮膚を日光で炙られるような強烈な怒りだった。

 のうのうと自ら罠に突っ込んだ己のミスに、そしてそんな姑息な手段を取った『奴等』に!

 

 では、ここは花京院とDIOが雌雄を決する地などではなく、むしろ──

 

「足止めとしては十分だ、イギー!」

「イギッ!」

「覚悟しやがれDIO! お前の因縁はここで! 終わりだッ!」

 

 束ねた『法皇の緑』を伸縮自在の縄として影が飛来する。

 

 そしてDIOは見る。

 

 小さな犬ころを背負った大柄な金髪の男を抱えるようにして、某蜘蛛男映画よろしく迫る花京院の姿を。

 見覚えのない金髪の男の双眸には、忌々しいジョースターの血統に似た光が宿り、合わせた両手はDIOが最も厭う太陽の力を模した黄金の火花が散っている。

 

 そのてのひらが奇術師めいた動きで閃き、闇夜の中に浮かび上がる無数の淡い球体。

 

「いくぞ、DIOッ!」

「奥義・シャボンカッターぁあああッッ!!」

 

 限界まで籠められたと分かる波紋がシャボンのあぶくと化して、振り子の動きと同時に発射されたエメラルドスプラッシュを加速装置とした、亜音速の弾丸がDIOを強襲した。

 

 タイミングは完璧だった。

 

 孤高で頂点に立つ男には絶対に真似できぬ、まさしく三位一体で繰り出される渾身の一撃。喰らえば吸血鬼の身として致命傷は避けられまい。

 

 そう、スタンドを持たぬ『ただの吸血鬼』ディオ・ブランドーであったなら。

 

「小癪な真似をするではないか」

 

──だが、

 

「脆弱な輩が徒党を組んで何をするかと思えば……ふん、くだらん」

 

 腕を組み、超然と佇むDIOの背後に現れるのは金のスタンド。

 あの僅かな間に自分のスタンド能力を推測し、対策を練ったことは褒めてやってもいい。

 おそらくはスタンド発動におけるタイムラグを狙っての攻撃だったのだろう。

 

 だから、攻撃直後の『今』を選んだ。

 

 しかし、

 

「無駄だ」

 

 発動されたDIOの『世界』は再びすべてを停止させる。

 

 それは波紋だろうがスタンド攻撃だろうが、同じこと。

 なにもかもが動きを止めた世界でDIOは悠々と動き、邪魔なシャボンを試しにひとつ指先で弾く。

 

 じゅう、と肉の焦げる音が響き、いやな臭いと薄い煙が上がった。わずかな痛みに眉を顰める。

 

「チッ、波紋は健在か」

 

 攻撃と同時に花京院たちを取り巻くシャボンが防護壁のように彼らを取り囲み、拳を叩き込むのは難しい。

 

 けれど、それは攻撃できないこととイコールではない。

 

 拳で殴れないなら、()()()()で殴ればいいだけの話だ。

 

 DIOはその辺りで再び停止していた瓦礫を無造作に掴み、ホッムランバッターよろしく思い切り振り上げ、団子状になっている奴等へと叩き付けた。

 同時にスタンドを解除。

 

「げ、ぇッ!?」

「ッぎ、ぐ……!!」

 

 花京院たちは、突如として現れた瓦礫の山に思い切りぶん殴られ、大型トラックが激突したような衝撃と勢いでまとめて吹っ飛ばされた。

 錐揉み回転しながら建物へと全身を叩き付けられ、指先一本動かすことすらままならない。意識を喪失しないようにするだけで精一杯だ。

 

 これ以上ないほどの、敗北だった。

 

「花京院! シーザー! イギー! ば、馬鹿な……!」

 

 残るは、機動力に一歩劣るため、策に加わらなかったジョセフのみ。

 練った策を圧倒的な暴力と能力で吹き飛ばされた衝撃と惑乱が、胸中を支配して思考がまともに動かない。

 

 こんな人外の能力を、どう攻略しろというのだ。

 

 DIOのスタンド能力の開示はこの上ない情報だったはずなのに、今では絶望をもたらす悪意めいてジョセフの心を千々に乱す。

 

「ジョセフ……次はお前だ」

 

 破壊と暴威の化身が、王者の威圧でこちらを定めた。

 

 折り重なった因果の糸が、ジョースターの血統へと牙を剥こうとしていた。

 

 

 

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