星と水底のおとぎばなし   作:小日向ひより

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22.再会のおとむらい

 

 

 目を見開くと、そこは病室だった。

 

 身体は重く気怠くて、意識もぼやぼやと霞がかっていて上手く頭が働かない。

 目を開くのも面倒だったけど、なんとか自分の周りを見回せば僕が先日担ぎ込まれた病室よりもやたらと豪華というか、天井も高くて広い。病室、という重苦しさを感じさせない調度品や間取り全てに気が遣われていて、いかにもVIPルームといった体だった。

 

 カーテンからは薄い日差しが差し込んで、どうやら曇っているらしい。漂っている薬品臭だけが病院ということを教えてくれる。

 

「ん、う」

 

 声を出してみると、びっくりするほど掠れていた。自分の声じゃないみたいだ。

 腕からは何本ものチューブが繋がっていて、点滴の雫が一定の間隔で絶えず落ちている。右手の違和感に視線を動かすとギプスで固定されていて、まだ身体のあちこちに包帯が目立つ。

 動かそうとすると腹の辺りからじくじくと鈍痛が走って、その辺でようやく色々と思い出した。

 

「あー……」

 

 柱の男たちとの連続戦闘。カーズの超生物化。あの野郎、僕の手首折りやがってくそ。後悔とかはないけど腹立つ。

 それでも足止めのためにできること全部やって、ジョセフの声が聞こえた気がして……それ以降の記憶はない。おそらくは誰かが回収してくれて、治療してくれたのだと思う。

 

 カーズはどうなったんだろう。みんなは無事だろうか。リサリサ先生、メッシーナ先生、シーザーなんかハリネズミみたいになってたし、ジョセフとシュトロハイム大佐の安否も気になる。

 シュトロハイム大佐に関してはなにがあっても生き残ってる気がするけども。

 

 ……ところで、今日は何月何日なのか。

 

 寝過ぎて時間の感覚も捕まえられない。部屋には誰もいないけど、真新しい花束や果物の籠があるから、お見舞いの人は来てくれているみたいでちょっと嬉しい。

 

 しばらくそんな風にぼんやり点滴の雫やら窓を眺めていると、しなやかな気配が戸口に立って、ドアの開く音がした。

 

「……ッ!?」

 

 シーザーだった。彼にしては珍しい黒で統一した衣服を纏って、目を見開いて硬直している。彼もなんとか生きていたのだ。傷も目立たないし、動けている。

 それが何よりも嬉しくて、へにゃ、と口元が緩んだ。

 

「おはようシーザー。生きててよかった。みんなは無事?」

 

 心のままに伝えると、シーザーの肩が一瞬跳ねて、呆れたような顔をしてからくしゃりと笑った。泣きそうな笑顔だった。

 雲でも踏むような頼りない足つきでこちらへ歩み寄り、そっと両腕が伸びてくる。飴細工でも扱うように柔らかく抱き締められて、くすぐったい気がした。

 

「……お寝坊さんにも程があるぜ、このスカタン」

 

 こんなに優しい罵倒の言葉、生まれて始めて聞いた。

 僕も動ける方の手を伸ばして抱き締め返せば、シーザーの心臓の音が聞こえた。あったかい。生きてる。

 

「ごめん。そんなに寝てた?」

「ああ、眠り姫みたいにな」

 

 茶化すように言ってくれているが、実際結構やばかったらしい。

 昏睡状態で何度か生死の境を彷徨い、ギリギリで命が繋がったという綱渡り状態だったみたいだ。

 波紋を練れる程度に回復していたロギンス先生たちが、少しずつ波紋を注いでくれていたそうだけど、それでも回復速度はとても遅かったらしい。

 

 まぁ、あんな短時間で戦闘しまくって波紋ドーピングで切り回していた分のツケが一気に来たのだろう。

 

 ともあれ命冥加に生き延びた、ということである。ありがたいですね。

 

「あの、みんなは無事?」

「リサリサ先生と、ロギンズ師範代、メッシーナ師範代と俺はもう退院した。シュトロハイムも無事だ。ジョジョは……」

 

 事務的に呟いていたシーザーが言い淀み、眉を寄せて自分の服装に視線を向ける。

 

「あ」

 

 洒落者のシーザーが全身を黒で仕立てて、瞳にちらつく底知れない深い悲しみの色。親しいひとへの哀悼を示す装束に、理解してしまった。

 俯いたら頭ががんがんした。呼吸の仕方も一瞬忘れた。瞬きってどうやるんだっけ。

 石のように凍り付いていたら、シーザーが僕の肩に手を乗せる。いたわりが込もっているのが痛いほど分かった。

 ぎゅ、と目を閉じたら眼球にまぶたが張りついているみたいだった。目の奥が熱くて、喉の奥がひきつった。信じたくなんかなかった。それでも、これから始まる儀式がある。

 

 ジョセフの人生最後の舞台が。

 

「ぼくも、いく」

 

 震える声でそれだけ言って、痛みをこらえて起き上がろうとしたら柔らかく肩を押された。

 

「まだ、つらいだろう?」

 

 辛そうなのに笑うシーザーに胸が痛い。でも譲れない。

 意固地に首を振って、子供のようにわがままを言う。

 

「立つのはいけると思うけど、歩くのはどうかな。でもいかなきゃ」

 

 気持ちはぐちゃぐちゃで、おなかの奥に涙が溜まったまま詰まってるみたいだった。この目で確かめるのも出席するのもしんどいけど、行かなきゃもっと辛い。

 

 じっと見つめると、根負けしたようにシーザーが軽く両手を上げた。

 

「……松葉杖か、車椅子を借りてくる。その間に準備しておけよ」

「ありがとう。あ、でもお式の時間……」

「いいさそれくらい。ジョジョは許してくれる。……きっと、ミオにも来て欲しいだろうしな」

 

 シーザーはそう言って、駆け出しかねない早足でドアを開けて廊下へ出た。

 僕は慌ただしくナースコールに外出許可の連絡を入れてから、左手でぎゅうっと胸をおさえた。

 

 この手じゃ、祈ることもできない。

 

「ジョセフ」

 

 痛い。傷なんかよりずっと痛くて、でもぽっかり空いた喪失感。

 

 きっと、この痛みになれる日なんて永遠に来ないだろう。

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

 意地と根性で外出許可をもぎ取り、無茶をしないこととシーザーから離れないことを条件にミオはなんとか墓地へと行くことができた。

 

 怪我は大分よくなっているのだが、長期間の昏睡状態のせいで身体が萎えてしまってあまり長い時間は歩けなかった。

 松葉杖より危険は少ないだろうという判断で車椅子になって、シーザーが押してくれている。もどかしく、悔しいが、それはこれから取り戻せばいい話だ。話を聞くと一度も狸に変化していないらしいから、それも体力的な問題なのだろう。野垂れ死にしたくはないのでそこらはありがたい。

 

 空は薄曇りで、細かい、絹糸のような小雨が降っている。傘を叩く音すらなく落ちる雨は誰かの涙のようだった。

 

 黒い服はなんとか調達できたが、包帯まではそうもいかない。かなり減ってはいたものの、存在を主張する湿布と包帯の目に痛いほどの白と喪服のコントラストは際立っていた。

 

「やっぱりちょっと時間過ぎちゃったね、ごめん」

「いいさ、女性の支度には時間がかかる……と?」

 

 ミオとシーザーは同時に顔を上げた。

 

 本来ならば静謐な空気の中、粛々と葬儀が行われているはずだ。なのに、どうしたことかやたらと騒がしい。

 ぎゃあぎゃあと言い争っている声まで聞こえて、これでは葬儀の雰囲気が台無しである。

 

「なんだ?」

「なんか、誰かいるみたいだけど」

 

 言いかけて、ようやく暴れ回ってる人間を確認して──二人揃って愕然とした。

 

 喪服姿の集団の中で一際目立つ、普段着バリバリのジョセフが墓地を所狭しと暴れ回って、お洒落をしているスージーQを追いかけ回していた。

 激おこらしいのと超元気なのは表情と動きから分かったけど、ええと、なんだこれ。

 

 ミオは完全に思考停止した頭で、とりあえず目の前の情景に感想を漏らす。

 

「ジョセフ、ピンピンしてんじゃん……」

 

 しかも、自分より元気そうだ。さっきの悲しみを返せと言いたくなる。どういうことだ。波紋効果なのだろうか。すごいな。

 回らない思考で適当なことを考えているとぐん、と車椅子のスピードが上がった。あっという間に仲間たちの前へと到着し、息せき切ったシーザーが叫んだ。

 

「先生、師範代! どういうことですか!?」

「シーザー、それにミオ、目が覚めたのですね。よかった」

 

 リサリサはミオにそっと微笑み、まだギャースカやってる二人を指差して呆れたようなため息をひとつ。

 

「あの通りですよ。ジョジョは生きていたのです」

 

 それはまぁ、見れば分かるが。

 

「二週間前にな、運良く船に回収されてそのままヴェネツィアで入院してたそうだ」

「そして、スージーQがジョジョの看病をしていて、安否確認の電報をこちらに送るのを……うっかり忘れていたそうです」

 

 スージーQらしいというかなんというか。

 ミオは曖昧に頷いて少し考えてから、

 

「……そうですか」

 

 と、言った。他に言いようがなかった。

 

 リサリサとメッシーナによる交互の説明で大体は分かったが、なんとも言い難い虚脱感があった。

 生還したのは素直に嬉しいしよかった、と思うのだが再会が本人の墓前ってどういうことなの。

 ミオは椅子に座ったままでも身体の力が抜けることもあるのだなぁ、と他人事のように思う。ていうか船ってどういうことだ。

 

「お、ミオ! お前も無事だったのか! よかったなぁ!」

 

 謎が謎呼ぶ展開にぐらぐらしていると、やっとこちらに気付いたジョセフがズンズンとミオの前に歩み寄り、怪我を気遣っているのかそっと頭を撫でてくれた。

 

 その笑顔は雨の中なのに、お日様みたいに眩しかった。

 

「カーズの野郎は今頃宇宙のどっかだ! 安心しろよ」

「う、宇宙?」

 

 それはまたスケールの大きい話である。

 詳しい話を聞こうとしたところ、それよりシーザーがジョセフの頭を鷲掴みにする方が早かった。

 

「テメェ、ジョジョ! 心配ばっかかけさせるんじゃねぇよ! スージーQならしょうがねぇけど!」

 

 さすがイタリア男。女性のミスは寛恕する方向のようだ。

 

「悪かったってシーザーちゃん! でも俺も大変だったのよ? さすがに死ぬかと思ったんだぜ?」

 

 いつもの彼らしく身振り手振りで懸命に弁明するジョセフを剣呑に睨み付けていたシーザーだったが、それもすぐに霧散した。

 

 息を吐いて、つくづくと呟く。

 

「……分かってるさ、それくらい」

 

 そして、そのままシーザーはジョセフをぎゅっと抱き締めた。友愛の籠もった抱擁だった。

 心底安堵していると分かる口調で、シーザーが言った。

 

「よく帰ってきたな、ジョジョ。おかえり」

 

 ジョセフもまた、普段の剽げた雰囲気をおさめてゆっくりと腕を回してシーザーの背中を叩く。

 

「……ただいま、シーザー。生きてまた会えて、よかった」

 

 真摯な声はじんわりと染み渡り、ミオもそっと笑った。写真撮ったらボロ儲けという思考は頭の隅に追いやった。

 改めて思い返せば、誰が死んでもおかしくはなかった。修行をともにしてきた仲間が欠けることなくこうして集まれて、本当によかったと思う。

 

 ほっこりしつつそんな二人を眺めていると、唐突にグリッとジョセフがこちらを向いた。

 

「そーだ、ミオ」

 

 傍目から見てもジョセフはなんだかうきうきしていて、ミオは軽く首を傾げた。なんだろう。

 

「?」

「いつか会わせるっつったろ?」

 

 言って、シーザーから離れたジョセフはひとりの喪服の婦人の背中に周り、両肩にぽんと手を置いた。

 

「俺の自慢の、エリナおばぁちゃんだ!」

 

 傘を少し動かして確認すると、喪服を纏って椅子に座る姿勢は矍鑠としており、厳格な人物であることを窺わせる。

 綺麗な老婦人だった。彼女がジョセフを育てたという祖母なのだろう。

 

 ただ、今は何故か表情を強ばらせてこちらを凝視しているのが黒い眼鏡越しでもよく分かった。

 

 不快な感じはなかった。けれどただただ驚いているようだった。

 なんだろう、まるで信じられないものを見たような。遠くに行った友人と、思いもかけず再会したような、そんな。

 

「ばぁちゃん、こいつがミオな!」

 

 ジョセフの明るい声に送り出されるようにエリナがおそるおそる、といった風に唇を動かした。

 

「ミオ……?」

 

 文字を確かめるような、つたない言い方だった。

 対応をじゃっかん決めかねたが、相手は戦友の祖母である。ミオは小さく頭を下げて、とりあえずはと挨拶した。

 

「こんにちは、お見苦しい姿で失礼致します。ミオと申します」

「……」

 

 エリナが無言で自分を凝視し続けているので、反応に困った。

 視線をうろうろさせながら、言葉を探す。

 

「その、ええと、ジョセフとは仲良しです」

「おう!」

 

 元気よく返事するジョセフに目もくれず、エリナは唐突にガタンと椅子から立ち上がると、ふらふらとミオの前へと歩み寄り──そのまま地面にぺたんと座ってしまった。

 ご婦人が目の前で膝をつくという状況にミオは慌てた。彼女の横で傘を差し掛けていたスピードワゴンも慌てていた。

 

「え、エリナさん! 服、濡れちゃいますよ!?」

 

 持っていた傘でなんとかエリナも雨から守ろうと試行錯誤していると、エリナがぽつりと呟く声が耳に届いた。

 

 

「ミオ」

 

 

 今度は、はっきり聞こえた。

 

 震える手が、ミオの傘を握る左手を確かめるように包み込む。ミオは半ば無意識に傘から手を離して、皺の目立つ手を握り返していた。

 そうするのが自然だと、なぜだか思った。

 のろのろと顔が上がって、眼鏡越しに瞳を合わせると、その色がみるみる透き通っていった。

 

 なんてきれいなひとなんだろう。

 

 見た目など問題ではない、瞳から伝わる心のありように感嘆すら覚えた。ジョセフが祖母を慕う理由がよく分かる。

 

 だってこんな人を嫌うなんてできるはずがない。一目で自分だって好きになってしまった。

 

 そんな風に考えてくす、と笑みがこぼれ、それを見たエリナの唇がわなないた。何かを堪えるように俯き、顔が見えなくなってしまう。

 

 重なった手の平の上、小さな感触がその甲を滑り落ちる。

 いつの間にかミオの手の甲にぽたり、ぽたり、と雨以外の水滴が落ちてきた。

 

「これが夢でも、幻でもいいの……」

 

 か細くて、震えていて、泣くのを懸命に堪えているのが分かる声だった。

 

「わたし、私ね、あなたにもう一度、会いたいって、ずっと、ずぅっと……!」

 

 それ以上は言葉にならず、エリナはほろほろと涙をこぼした。あふれた感情は熱く、手の甲の上をあたたかく流れていく。時折嗚咽が漏れ、けれど周囲も状況を理解できず横槍を入れることもできなかった。

 

 あまりにも大切そうに、エリナがミオの手を握っているから。

 

 あまりにも嬉しそうに、エリナが泣いているから。

 

「……」

 

 目の前で落涙する女性は年経た老女で、ミオの覚えている──夢で友達になったエリナとは似ても似つかない。同名の他人と考えるのが普通だろう。

 

 けれど──なぜだろう。

 

 その泣き姿が、あまりにも『エリナ』と同じだったからかもしれない。

 

 いつか、迷子になった彼女を探しに行って、見付けた時にパァッと明るくなった顔を今でも思い出せる。

 親を見付けた子鹿みたいに駆け寄ってきて、確かめるみたいに何度も手を握って、安心したように息を吐いて、ぽろりと涙をこぼした。

 涙声で会えてよかった、さみしかったの、すごく怖かったのよ、でももう大丈夫ね、見つけてくれてありがとうと、泣き笑いの表情でミオを抱き締めて、それからわんわん泣きじゃくって、歩き疲れた彼女を背負ってうちに送った。

 

 あの時みたいに、エリナちゃんが泣いている。

 

 だったら、すべきことはひとつだけ。

 

 ミオは握りしめられた手を何度か強く握って、とても優しい、甘い声音で言葉を紡いだ。

 

 お互いだけが聞こえるくらいの、小さな声で。

 

 

「なかないで、エリナちゃん」

 

 

 弾かれたようにエリナが顔を上げる。

 

 ミオは苦労してギプスの嵌まった方の手を持ち上げて伸ばし、指先で皺の目立つ頬に触れ、あの時みたいに涙を拭って、故意か偶然か、同じ言葉を。

 

「可愛い、僕らの未来のレディ」

 

 そして可愛くてしょうがない妹を愛でる姉のように、微笑んだ。

 

「あなたが泣くと──ジョナサンが泣いちゃうよ」

 

 その言葉は、彼女にどのように響いたのだろうか。

 

 彼女の中でさまざまな感情が揺れ動いているような気がした。悲嘆、歓喜、悔恨、懐古、そのどれとも違うような、同じなような。

 

「……あ、ああ」

 

 もう触れられないと諦めていた届かないものにようやく手が届いたような、安堵めいた吐息だった。

 エリナの細い指先に力が籠もる。痛いほど強く握られる指先から伝わる、ひたすらにあたたかいもの。

 

「ありがとう」

 

 何に対しての感謝なのか、ミオには分からなかった。

 

 けれど、エリナはほんの少しだけ微笑んで──それから顔をくしゃくしゃに歪めて、今度こそ声を上げて泣いた。

 

 ジョセフが見たこともない、それはまるで少女そのものの嗚咽だった。

 

 わけが分からないジョセフだったが、祖母が大好きな孫としては当然怒った。

 

「おい! なにエリナおばぁちゃん泣かせてんだよ! いくらミオでもしばくぞ!?」

「ぼ、僕なんにもしてない! 冤罪!」

 

 ぶんぶん首を振って無罪を主張するミオである。こちらにしてみれば、初対面の戦友の祖母にめっちゃ泣かれているのだ。それこそどうしたらいいのか分からない。

 

 おろおろしていると、顔を上げたエリナがジョセフをキッと睨み付けた。

 

「ジョジョ、いくらあなたでもミオをいじめたら許しませんよ」

「えっ!?」

 

 ジョセフはすごくびっくりしたし、ミオはきょとんとした。

 

「い、今、ばぁちゃんがいじめられてたんじゃあねぇのかッ!?」

「違います」

 

 すっくと立ち上がったエリナの顔にもう憂いはなく、靴音高く歩み寄ると慣れた手つきでジョセフの頭を一発はたいた。

 

「あだッ、うう、さっぱりわかんねぇ……」

「安心しろ、俺にもさっぱりだ」

「ミオちゃーん! また会えたのは嬉しいけど私よりひどい怪我じゃないのーッ!」

「わぷ、スージーQ?」

 

 頭を抱えるジョセフとシーザーが首を捻っている間に、ミオへと駆け寄ったスージーQが傘を放り出してぎゅむぎゅむとミオを抱き締めた。

 

「もう、ただでさえ細かったのにガリガリじゃない!」

「点滴だけじゃ太れないかなーさすがに」

 

 ぼやぼやと事実を述べたら更に怒る気配がした。

 

「そういうことじゃないわよ馬鹿ぁ! 無茶ばっかりして! ジョジョもだけど!」

 

 ぷりぷり怒りながらもスージーQの腕の力は緩まない。むしろ強くなってきてガクガク揺さぶられているものだから、ちょっと傷に響く。

 しかし心配させた身の義務であると青い顔で耐え続けた。やばい胃が空だから気持ち悪くなってきた。

 

「ともあれ、場所を移さないか」

 

 そろそろ涅槃が見えそうになったところで、スピードワゴンがようやく仲裁に入った。

 

「ミオさんは早く病院に戻った方がいいだろうし、この雨だ。エリナさんも身体が冷えてしまう」

 

 しごくもっともなご意見だったので、全員はひとまず移動したのだった。

 

 

 

 

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