星と水底のおとぎばなし   作:小日向ひより

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6.はい、説明します

 

 

 その後、なんとか場を収めて席につき、お互いの自己紹介諸々を話し終えた頃にジョセフがぽつりと呟いた。

 

「迷子というのは、そういうことじゃったか……」

 

 記憶にあるジョセフから随分と口調も変わっている。重ねた年のおかげなのだろう。

 シーザーがジョセフの言葉を引き継ぐ。

 

「つまり、澪は俺たちがいた時分に迷い込み、一緒に戦って、その後は……」

 

 ちなみに、二人の発音は直してもらいました。

 

 澪はジョセフとシーザーがまだ若い時分に彼らと出会い、その後柱の男たちを倒すべく共に奮闘した戦友とも言うべき間柄である。

 その当時、ミオは別世界に移動したせいか、弊害とも言うべきある特性を備えていた。

 それは半日以上が経過すると狸になってしまう、という厄介なもので当時はその辺の諸々で苦労したが──さておき。

 

 ともあれ、無事に全ての柱の男たちを倒し終え、しばらくの時が経った頃──ミオは忽然と姿を消してしまったのだ。

 

「そう、いつの間にか元の場所に戻ってたってわけ。結婚式とかはホントごめん」

 

 頷き、それからぺこりと頭を下げる澪だった。

 

「ちょっと待て、澪とじいさんが共闘したってんなら年齢が合わねぇだろ」

「それに、彼女はぼくらと成長してきたんです。過去も現在も同じ姿、というのは奇妙ではありませんか」

 

 承太郎と花京院の当然の疑問に、ジョセフは渋い顔で澪を見つめる。

 

「それについてなんじゃが……澪、正直に答えてくれ」

「……?」

 

 その時ばかりは、ジョセフの瞳に真摯な色が混じる。逸らすこと許さぬ圧力で、知らずに身が引き締まる。

 

「お前さんは──()()()()()()()()なのか?」

「──!」

 

 その言葉が糸となり、たぐるようにとある記憶が回帰される。

 

 自分では夢だと思っていた、奇妙で数奇な人生の追体験。

 ジョナサンのこと、ジョージのこと、ダニーのこと、エリナのこと──ディオのこと。

 目を見開いたまま硬直している澪に、ジョセフは淡々と続けた。

 

「公式にはジョナサンの姉、ミオ・ジョースターは嫁にも行かず、若くして結核で亡くなったということになっておる」

 

 だが、とジョセフは続ける。

 

「実際は違う。エリナおばーちゃんに聞いた。ミオはディオに殺された最初の犠牲者だ、と」

 

 周囲の視線が一気に澪へと集まる。

 巻き戻された夢が、記憶が濁流のように脳内に溢れ、澪は硬直したまま操られているような動きでぎくしゃくと首を振った。

 

「ちがう」

 

 もう一度、振る。

 

「違う。ディオは僕の前に警官さんを何人も殺してた。最初じゃない」

「ああ、スピードワゴンのおっさんはそう言ってたぜ」

 

 びき、と澪の顔が引き攣り、ジョセフがにやりと笑う。

 

「次の澪のセリフは、『エリナちゃんまでダシに使って信憑実験したな!』だ!」

「え、エリナちゃんまでダシに使って信憑実験したな! ……あう」

 

 してやったり、の表情をするジョセフ。こういう顔は若い時そっくりだ。

 しかし、これまで夢だと思い込んでいた人生は『本物』だったという事実が澪の中に重くのし掛かってくる。

 

 同時に納得もした。昔、スピードワゴンが泡吹いてぶっ倒れたのは、目の前で惨殺されたはずの死人が生前の姿のままけろっと生きていたから。そりゃ驚く。

 

 そして、お葬式の時にエリナさんが泣いたのは……。

 

「夢だけど、夢じゃなかった……て、やつか」

 

 ひとりごちると、ジョセフが苦笑いのようなものを浮かべた。

 

「スピードワゴンのじーさんが言ってたぜ。『たったひとりだけディオを恨むことも、恐れることも、嫌うこともせず、ただ叱って、死の直前まで弟たちの行く末を心配した、姉の鏡のような人だった』ってな」

「すげぇ過大評価だなぁ」

 

 だいぶ投げやりな感想である。

 

「……ミオ・ジョースターは、ディオが仲間に引き入れようとして石仮面をかぶせ、失敗して即死したって聞いたけど」

 

 話していると精神年齢が引っ張られるのか、ジョセフからは時々当時の口調が漏れる。

 幼馴染みの死、という恐ろしい単語に花京院と承太郎が顔を歪ませた。

 

「ああ、それは合ってるよ」

 

 けれど、本人はといえばこともなげに返事をして、出されたお茶を啜る。

 

「まぁ、結核ってのはホントだったから、ディオに石仮面装着されなくてもそう長くは生きられなかっただろうけどね」

「──その石仮面、失敗ではなかったかもしれんぞ」

 

 神妙に呟かれたジョセフの言葉にはどこか悲しみのような色があった。

 

「……どういう意味?」

「これは憶測にすぎんが。石仮面がお主に与えたのは脳ではなく、魂だったのかもしれん」

「魂……」

 

 その言葉は世迷い言のはずなのに、無視できない重みがあった。

 今でも思い出すと怖い石仮面の感触。あの、棘のようなものが脳髄を越えて自分の魂にすら何かを残していたのならば……ぞっとしない考えだ。

 だが、ディオを吸血鬼へと変え、カーズのような超生物を作り出した石仮面の内包していた力が、澪に何らかの影響を与えたとしても不思議な話ではない。ただ死んだ、というよりよほど信憑性がある。

 

「肉体ではなく、精神の連結……。魂が何らかの因縁に絡み取られて顕現してるってこと?」

「おそらくはディオか、ジョースター家そのものか……澪には星型の痣はあるか?」

 

 唐突な質問に澪は軽く首を傾げた。

 

「痣?」

「ああ。首の後ろか、もしくはその辺りじゃな」

「あるぜ」

 

 なぜか答えたのは承太郎だった。そのまま言うが早いか澪の制服に手をかけ、がばっとめくる。

 

「うぉう!?」

「肩胛骨の下だ。自分じゃ見えねぇだろうけどな」

「……本当だ」

 

 横から思わず、という感じで覗いた花京院が頷いた。

 ジョセフは更に話を続ける。

 

「SPW財団の医療班からの報告では、澪のDNAはジョースター家とは一致せんかった」

 

 そういえば、澪の誕生日に承太郎と手合わせという名のガチ喧嘩して搬送されたのがSPW財団保有の病院だった。手回しのいいことだが、その時にでも調べていたのだろう。

 

「にも関わらず、その痣があるということは……澪はおそらく、儂らジョースター家の因縁に魂が喚起されるのじゃろう」

 

 ジョースター家の危機に駆けつける、という意味ではヒーローみたいなものなのかもしれない。あんまり役に立たない気もするが。

 

「或いは、それが彼女の『幽波紋(スタンド)』なのかもしれません」

 

 と、それまで口を挟まなかったアヴドゥルが私見を述べた。

 スタンドとは、本人の半身とも言える存在で様々な能力を有しているそうだ。承太郎然り、花京院然り。

 

「時を越えるスタンドなんてありますかね?」

「私は会ったことはないが……どのような能力でもあり得るのがスタンドだ。あくまで可能性の話だがな」

 

 ジョナサンたちと過ごし、死んで──けれど、魂は記憶を保持したまま肉体へと戻り、彼らの因縁に反応して時を越える。時には肉体すら縮んで。

 考えている内に頭が痛くなってきた。大体トリップだの時間遡行なんて非現実的なことに理論をつけようたって無理な話だ。

 

「……あの」

 

 それなら、一番大事なことをまず伝えよう。

 それなら、だいじょうぶだ。

 

「僕にとってジョナサンとディオは大事な家族で、ジョセフとシーザーは大切な戦友で、承太郎と典明くんは大好きな幼馴染みなの」

 

 澪は顔を上げて、全員の顔を見つめた。

 

「だからジョナサンとディオと過ごした時は楽しかったし、ジョセフとシーザーに会えて嬉しいし、承太郎たちと過ごしてる今は、すごく幸せ」

 

 自分にできることは、思い出を大切に抱き締めて、目の前にいる人を大事にすることだ。

 

 それならできる。

 

「それじゃ、ダメかな」

 

 全員が澪を見つめ返し、やがて小さな笑いが漏れた。

 

「無敵だな、お前」

「ホントにな」

 

 くつくつ笑っているのがジョセフとシーザーで、

 

「ぼくも澪が大事だよ」

「……今更、変わるもんもねぇしな」

 

 微笑んだ花京院と、帽子を下げた承太郎も満更ではなさそうだった。

 

 それで、じゅうぶんだった。

 

「てか系譜通りで考えると僕ってば、ジョセフの大叔母で承太郎の曾祖伯母(そうそはくぼ)か……すごいな」

 

 ひのふの、と数えてひとりで驚く澪である。

 

「……テメェみたいなババァがいるか」

「身体は違うから厳密には違うけどね。あーでも、精神年齢的には上になるはず」

「その、最初の記憶はどういう形で残ってるんだい?」

「んと、体感型の映画っていうか明晰夢の極大バージョン、が近いかも。ちゃんと覚えてるんだけど、感覚的には少しだけ遠いのね。それで……」

 

 承太郎と花京院に身振り手振りで試行錯誤していると、ジョセフが小さな咳払いをした。

 

「あー、それで」

 

 柔らかくなった雰囲気をぶち壊すように、遠慮しいしい片手を上げる。

 ちょっぴりおどけたような、昔の口調で。

 

「その、澪ちゃんにとっては大事な家族ことディオとジョナサンについて、かーなーりバッドなニュースがあるのよねン……」

 

 よく見ると、周りの全員が澪を気の毒そうなものを見る目でこちらを注視していた。

 

「……え?」

 

 

 

 

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