「ええっ、じゃあシュトロハイムさんは!? 僕の心のアイドルシュトロハイム大佐は!?」
「お前のそのシュトロハイムに対する無駄な好意はなんなんだよ、昔からだけど……あー、非常に残念なお知らせだけどあいつ戦死したぞ」
ジョセフの言葉に澪は文字通り意気消沈した。
シュトロハイムとは筋骨隆々サイボーグ00なんとか、みたいなドイツ軍人である。
やたらとテンションが高くて常に怒鳴ってるような印象ばかりが残っている。
澪が出会った時は既に身体の半分くらいは機械化しており、更にその後マシンスペックを上げて再登場するという不死身ぶりを見せてくれた。柱の男たちとの対決時にある意味もっとも頼りになり、もっともいらんことをしでかしてくれた人だ。
そして、よく分からないけど澪はシュトロハイムが大好きだった。
「そっか……そうだよね、誇り高き軍人さんだもんね。名誉の殉職……お疲れさまでございました」
あれだけ殺しても死ななそうな大佐が戦死したというなら、よっぽどの激戦区に行ったのだろう。最後の最後までドイツに身を捧げた軍人魂。さすがである。
空白の数十年を補完するため、というよりは純粋な安否確認のために澪は少しジョセフとシーザーと話をした。リサリサのこと、彼女の召使いのこと、スピードワゴンのこと……。
承太郎や花京院、アヴドゥルは話に参加できないので申し訳なかったが、気になってしまったのだから仕方がない。
「ジョセフよりシーザーのが若く見えるのは、やっぱりリサリサ先生みたいに波紋?」
「ああ、波紋を覚えた時期の違いもあるだろうけどな。基本的にこいつの波紋は雑だからよ」
「うるさいのう」
無意識に覚えていた、というのと意識的に操作する、では随分な違いである。なるほど、と頷いた。
すると、横から承太郎が口を挟んだ。
「じいさん、澪のことをさっきクソ狸と呼んでたな」
一連のやり取りのあとジョセフと澪が話し込んでいる間に、シーザーが承太郎たちに当時の澪のことを簡単にだが話して聞かせていた。
「? おお、儂らと一緒の時は半日しか人でおれんくてな、狸でへばってるとスージーQが嬉々として……」
「うわああ! やめて! よして! 僕の黒歴史!」
ぶんぶん手を振って阻止する澪だった。
「ええじゃろが、別に。毛並みつやつやでしっぽふかふか。むしろ今なれないのが残念なくらいなのに、どこに不満があったんじゃ」
そういえばジョセフはしっぽがお気に入りだったことを思い出してげんなりした。
「何もかもに決まってるでしょうが!」
そもそも望んでなったワケではないのだ、とんだ縛り仕様で大変だったのだ。知ってるくせにコンニャロー。
「写真とかねぇのか」
「ぼくも気になります」
「承太郎も典明くんもどこが気になってるの!? てか、あそこで写真撮った覚えなんて……」
「あるぞ」
「あんのかよ!」
ごんッ、と澪が机に頭を叩き付けた。横でシーザーがぎょっとして新しい濡れタオルを用意した。
「えーなんで!? いつ!?」
「いや、お前さんが寝こけてる時にスージーのやつが『チャンス到来ですぅ☆』とか言って」
「スージーQぅうう!!」
ばしばし机を叩きながらここにいないジョセフの嫁に文句を垂れる澪だった。
「見せろ」
「ぐいぐい来るのう、まぁ待っとれ。あとでスージーQに連絡して写真を……」
「もうやだ、もう、なんで残ってるの……。好きで小動物やってたワケじゃないのに、違うのに」
「よしよし、悲しまないでバンビーナ。俺はちゃんと分かってるから、な」
「シーザー……スージーQにジョセフより先に電話して焚書して下さい」
「すまないが可愛い澪の頼みでもそれはできない」
「シーザーにもうらぎられた!?」
なぜか真顔で首を振ったシーザーに絶望顔をする澪だった。
密かにシーザーも狸の毛並みとか好きだったし、もう変身できないのはちょっぴり残念だなぁとか思っていたが不興を買わないために黙っていた。
なかなかカオスな現状だが、一段落したところで花京院が片手を上げた。
「澪、言っておきたいことがあるんだけど」
「ん?」
その顔には先程にはない憂いと、心配のそれが滲んでいる。
「ぼくがDIOに肉の芽を植えられて、空条承太郎を倒しに来たことはさっき話したよね」
「……、うん」
義弟の所行に改めてグサッとくるが、いちいちショックを受けていても仕方がないので澪は軽く頷くに留めた。
「それからもうひとつ、受けていた命令がある」
す、と花京院が指先を一本立て、澪へと示す。
「それは、きみを連れてくることだ」
「は……」
それは、澪にとって完全に寝耳に水だった。
周りが訳知り顔なのは、澪が空条家を訪れる前に花京院が伝えていたのだろう。
「え、えー、なんでだ」
「理由まではぼくも聞かされてないけど、今までの話を聞く限りだと……」
そこから先は、花京院も言い淀んだ。
まぁ、自分に記憶があるのだからDIOにだって当然記憶がある。むしろ鮮明なくらいだろう。
どこで澪のことを知ったのは分からないが、自分の腕の中で死んだ姉がぴんしゃんしてたら一目会うくらいのことは人情的にも望んでもおかしくない。
相手が問題といえば問題だが。
「いや、会うのはいいけどなんで攫う必要が……タウ○ページかなんかで電話してくれりゃいいのに」
残念ながらDIOの能力を以てしても電話番号は出ないのだった。
いまいちどころかいま三くらい危機感の足りない澪の言葉に、花京院は苦笑するしかない。
「感動の再会、くらいの手伝いならぼくだって喜んでするけどね」
小さく肩を竦め、続ける。
「問題なのは、DIOがぼく以外にも澪を攫う刺客が何人も送り込んでいたことだ」
「そ、そうなの?」
記憶を検索してみるが、特に思い当たらない。強いて挙げるならさっきの不良集団だろうか。
花京院の口ぶりから察するに、随分前から刺客は放たれているらしい。
「ああ。そしてぼくが失敗した今、DIOはおそらく新しいスタンド使いを送ってくるだろう」
吸血鬼の宿命として太陽光線の前に身体を晒せないDIOは今や筋金入りの引きこもり(昼限定)である。
そうなると時間的な側面から自分で迎えに行けないので、誰かに連れて来させるしかない。
「それが心配でならない。スタンド使いではない澪では彼らに対抗する術が……」
「ああ、そのことだがな」
と、そこで承太郎が腰を上げながら指先をくいっと動かした。
「おい、澪」
その合図に、澪も立ち上がる。
「はいはい?」
『オラァッ!』
突然現れた承太郎の青いムキムキスタンドが、前振りナシで澪の腹辺りを全力でぶん殴った。
『承太郎(ジョジョ)!?』
一同が驚愕するなか、必殺の圧力を込められた渾身の一撃が砲弾の如き勢いで澪の腹に当たる──刹那。
ぱふッ☆、と笑○のラッパみたいな音を立てて大輪の向日葵が花開いた。
もちろん、澪には傷一つない。
「……お、う?」
相手が相手だったので完全に無防備だった澪も、きょとんとしたまま動けなかった。
スタンドの腕は澪のおなか辺りで完全に消失して、攻撃の証のような大きな向日葵が床にぽたんと落ちる。
しばらくすると、向日葵はふわりと煙のように消えた。
「……やっぱりな」
承太郎は帽子のひさしを指先でいじりながらスタンドを引っ込めた。
「なんと、彼女にもスタンドが……」
驚愕の表情で呟くアヴドゥルに、澪はぺたぺた、と殴られた部分を確かめてみたりしつつ疑問を口にする。
「あの、これ、スタンドですか? 自分では何の操作もしてないんですけども」
「奇妙ではあるが、おそらくは」
「承太郎、いつ澪のスタンドに気付いたんだ?」
シーザーの問いかけに承太郎は少し考えてから答えた。
「ついさっきだ。花京院のスタンド攻撃の流れ弾が当たりそうになった時、弾が葉っぱになった。それとも、テメーの攻撃が葉っぱになることなんてあるのか?」
「エメラルドスプラッシュのことを言ってるなら、そんな能力はないよ」
「だとしたら、残ってるのは澪の能力だ」
そう言われても正直ぴんと来ない。意識してみても、特に何か変化があるとは思えなかった。
DIOがスタンド能力に目覚めた時、彼の身体がジョナサンのものということもあってジョースターの血族にはみんなスタンド能力が発現したらしい。そういう意味で考えるなら、ジョナサンの姉である澪は最も血統が近いのだから、何らかの影響があってもおかしくはない。
しかし、記憶と魂はそうであっても肉体はそうではない。DNAの段階で話をするなら関係はゼロだ。
どういうこと、なのだろう。
内容は分かるのに飲み込めない状態の澪に、ジョセフが首を捻った。
「ん? だが、さっき儂が澪を捕まえろと言った時、承太郎のスタンドに捕まったじゃろ」
確かに、じたばたしていたがあのスタンドにがっしり掴まれた足はびくともしなかった。
能力にムラがあるのか、それとも違う理由があるのか。
能力の把握ができなければ、何ができるのかも分からない。澪を含めた全員が頭を悩ませる中、またもや承太郎が口を開いた。
「アヴドゥル、あんたの『
「!? それは……」
どうやら彼にもスタンド能力があるらしい。字面だけだと楽しそうだが、周囲の反応を見る限りではかなり物騒な能力のような気がする。
「危険だ! もしスタンドじゃなかったら彼女は……」
「俺はさっき殺す気でやったぜ」
「確かに殺気はすごかったね」
「きみはもうちょっと自分を大事にしなさい!」
なぜかアヴドゥルに叱られる澪だった。やったのは承太郎なのに。