「ふあ――」
澪は両目をうっすら開きながらあくびを漏らした。
カーテンからは朝陽が差し込み、小鳥たちの囀りが朝の訪れを主張している。
携帯から響くアラームを億劫そうに止めながらもそもそ、と布団から起き上がる。周囲を見回して、なぜか首をひねる。
乱雑に積まれた本棚、コンポ、スリープにしたままのパソコン。教科書がぎっしり入った鞄と、ハンガーにかかった制服。その隣には仕事着と愛刀の収められた皮筒。
なんの変哲もない自室だ。そのはずだ。
なのに。
「はて?」
一瞬、変な感じがした。
自分の部屋はもっと時代錯誤ではなかっただろうか。もっと古めかしくて、広くて……ああ、なんだ。
「夢か」
そもそも自分に姉弟はいない。義父はふたりいるけど血のつながりはない。
それでもふたりは優しいし、仕事はやりがいあるし、勉強は楽しい。充実していて、時々波瀾万丈なのが澪の人生で、世界だ。
ということは、死んだと思ったのも夢だったのか人騒がせな。まぁ、たまーに死にかかるような事件に遭遇したりもするので夢に出ても不思議ではない。
でも、結構楽しくて壮大で、突拍子のない夢だった。
「うー、ねむ~」
目元を擦りながら洗面所へ向かい、顔を洗う。幾分かしゃっきりした頭で居間に向かうと、義父その一が既に朝食を用意してくれていた。
もうひとりの義父はたぶん診療所の方に行っているのだろう。鍼灸医の朝は早い。
「おはよ。あ、和食だ!」
「おはよう。昨日まで洋風だったからね、召し上がれ」
相変わらず人という範疇を超越したような美貌で、似合わないエプロンを外しながら適当に挨拶を返してくる澪の義父。
「いただきまーす」
いつものことなので気にも留めず、おにぎりをもぐもぐやりながら今日見た夢を反芻する。白米うめぇ。
「今日ね、なんかすごい夢見た」
「へぇ、どんな?」
てきぱき緑茶を淹れながら、義父は相槌を打ってくれる。
ずずーっとお味噌汁をすすり、内容を思い出しながら。
「んとね、弟がふたりできたの。ムキムキの」
「ムキムキなんだ」
「うん、片方がすごい正義感強くって優しくって、もう片方はね、天の邪鬼でいじっぱりで、義理の弟なんだけどうちの家督を狙ってたんだ」
「朝から昼ドラなんて斬新だね」
相槌が適当すぎるがまぁいいか。
「それでふたりが喧々囂々してるのを仲裁してる間に大きくなって、立派になって、でもかたっぽの弟が人間やめちゃって、僕が死んだ」
「え、急展開すぎない?」
自分が死んだ、という言葉に義父が嫌そうに眉をしかめた。
「夢だし、そこに文句付けられても困る」
「それもそうか。夢で自分が死ぬのは吉夢っていうしね」
「うん、でも楽しかったよ。やたらリアルな感じで、女の子の友達もできたし、愛犬もいた」
「え、犬飼いたいの? 俺がいるのに?」
どういう意味だ。
「ううん、夢で満喫したから」
「ならいいや」
興味をなくしたように湯飲みを目の前に置いてくれる。相変わらず扱いがびみょうに難しい人である。
澪は和食を堪能してから飲み頃に冷めた緑茶を一気に喉に流し込み、席を立った。
「じゃあ、行ってきまーす」
「忘れ物は?」
「ない!」
元気よく返事をしてから鞄を掴んで玄関でローファーをつっかけ、ドアを開ける。
部活の朝練にはじゅうぶん間に合う時間だ。
空は晴天、気分がいい。
「よっし」
気合いを入れて、走り出す。
「今日も頑張るぞぉー!」
無意味に片手を突き上げたりしつつ、いつもの通学路を。
──自分では見えない肩胛骨の下辺り、見覚えのない小さな星型の痣に、気付くこともなく。
to be continued…?
これにてファントムブラッド編は終了です!
ご拝読ありがとうございました!
ちなみに、主人公が長女設定なのは同時進行で桃鳥姉シリーズを書いていたのでそこらへんを(何故か)統一したせいです(笑)。
三部まではすでに完結していますので、これから時限式にガンガン更新予定です。
次からは戦闘潮流編になります。
こちらも楽しんで頂ければ幸いです