星と水底のおとぎばなし   作:小日向ひより

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32.焚き火→灯油→ガソリン→ニトロ→???

 

 

 結局、押しても引いてもリュックはダンの手ではどうにもならず、カツアゲすることには失敗した。

 中身だけ失敬しようと袋の中に手を突っ込んでも、謎の粘液みたいな怖気を催すどろげちょの感触が走って断念せざるを得なかったのだ。あれがなんだったのかはよく分からない。

 本人を問い質しても「食料品は漏れないはずなんですけど」という返答で要領を得なかった。

 

 承太郎たちが手を出せないのをいいことにダンは悠々と歩き始め、やがて公園のような場所に出た。

 

「堀か……」

 

 堀といってもそう幅はなく、大の大人だったら頑張れば飛び越えられるかどうかの距離だ。向こうには石造りの橋もある。

 

「この堀、飛び越えて渡ってもいいが……もし、つまずいて足でもくじいたら危険だな。向こうの橋まで行くのもめんどくせーし……」

 

 ダンはわざとらしく考え込むような素振りをして、承太郎に顔を向ける。

 

「おい承太郎、堀の間に横たわって橋になれ。その上を渡るからよ」

 

 ドヤ顔の提案に無表情の承太郎。

 あーあこれ以上怒らせたらこの人楽に死ねないな、と思うことしきりの澪である。

 ちなみに、自分では身長が足りないので普通に落ちるだろう。ジョセフの痛みを握られている現状、言うことを聞くしかないのだが承太郎の矜持と怒りがその動きをにぶらせている。

 

「どうだ? 橋になってくれないのか」

「テメェ、なにふざけてやがるんだ」

 

 悪辣な笑みを浮かべながらなおも強要するダンだったが、承太郎が微動だにしないことで頭に血が上ったらしい。

 

「橋になれと言ってるんだ!」

 

 形相が一変し、そのまま自らの足を思い切り振り上げる。

 

「このポンチ野郎がァーッ!」

 

 ダンの向こう臑が堀に据えられた石柱に激突しようとした──刹那、真後ろから倒れ込むようにして澪がその足を両手で思い切り掴んだ。

 ぐん、とダンの足が引かれ、石柱に接触するか否かのギリギリで勢いが止まる。

 

「な」

「せ、セーフ……」

 

 そのまま澪はダンの足を元の位置にまで引っ張って小さく息を吐く。

 『鋼入り』なんて鳴り物入りの二つ名はおそらくこの男、真性の被虐趣味か痛みの遠いタイプなのだ。

 向こう臑強打なんて絶対痛い。ジョセフが。

 

 そこまで考えた澪だったが、

 

「おっと足が滑った」

 

 無感動な声が聞こえ、倒れ込んだ澪の後頭部が容赦なく踏みつけられた。

 踏みおろす、という行為は見た目に反して人体で考え得る限りで最高の打撃力である。

 

「ッぐえ」

 

 衝撃で蛙が潰れたような苦鳴が漏れたが、一発では終わらなかった。

 

「あれ~、澪サマはどこに行ったのかな~?」

 

 靴裏で後頭部をぐりぐりされ、頬が地面で削られる。再び振り上げられる気配があった。

 

「やめろ!」

 

 承太郎の制止も遅く、重力とダンの体重のみならず筋肉の動きまでもが加算され、その破壊力が後頭部や首、肩に炸裂して呼吸が詰まり、激痛が走る。

 おそらくはさっきの溜飲を下げているのだろう。避けるわけにもいかないので意地と根性で気絶こそしなかったが、立ち上がる時に少しよろけてしまったのが我ながら悔しい。

 

「そこにおられたのですね! いやぁお小さくていらっしゃるから見失ってしまいました」

 

 周りがでかすぎるだけで自分の身長はそこまで低くない、はずだ。うちのテニス部期待のルーキーと同じくらいだもの。もう抜かれているかもしれないが。

 わざとらしいまでに清々しいダンの笑顔で怒りが募るが、承太郎はその比ではなさそうだった。

 

「澪」

「へいき」

 

 ジャージをはたいて土を落とし、頬の砂を袖で拭って血痰を吐き捨て、低い声で呟く。

 

「ジョセフが痛くないから、いい」

 

 その言葉を聞いた承太郎はしばらく澪を見つめ、それから忌々しそうに舌打ちをして大人しく橋になった。

 承太郎橋を嬉々として渡るダンは至極上機嫌である。背中で跳ねたり手の甲を踏みつけたりと嫌がらせも忘れない。

 

「さぁ、澪様もどうぞ」

「お気遣いなく」

 

 澪はにっこり笑い、ダンが言い募る前に普通に飛び越えた。

 マリ○ジャンプというか、ぴろりろりん♪ と音が聞こえそうなほど無意味に跳躍力があった。舌打ちが聞こえたが知りません。

 鼻歌なんぞを歌いながら歩き始めたダンの背中を見ながら、立ち上がって噴火直前の火山口の如き剣呑な気配を振りまいている承太郎に近付いて指先をぎゅっと握る。

 唯々諾々と従うことを断じて良しとしない承太郎の手は、これまで鬱屈している激憤をあらわすように熱い。

 

 逆に澪の手は末端まで冷え切っており、この時に限っては承太郎に煙草一本程度の落ち着きをもたらす冷却剤に等しかった。

 

「我慢してね」

「分かってる」

「もうちょっとだから」

「……?」

 

 瞳を眇め、ダンを見据えながら紡がれた不思議な台詞に承太郎が口を開くより早く、ダンが振り向いた。

 

「背中がかゆい、かけ」

 

 ここまでくると単純な嫌がらせというか、わがままな子供の駄々に近い。

 

 ダンは散々承太郎に注文をつけ蹴りつけ、殴り、その次はやれ靴を磨けだの自分は機嫌がいいだのとやかましい。

 承太郎も跪いて黙々と靴磨きをしているが、雰囲気がとても怖い。

 自分に向けられていないから近くにいられるが、よくここまで危険で致命的な空気を垂れ流している人間の皮を被った肉食獣相手にいちゃもんをつけたり手を出したりできるものである。

 

「……」

 

 澪としてもダンがご機嫌さまになればなるほど面白くない。

 人に迷惑かけない範囲で嫌がらせのひとつでもしたいが、何かないだろうか。

 

 で、思いついたのでやってみることにした。

 

「チキチキッ☆ DIOがたぶん今聞いたら悶死したくなるエピソード集~」

 

 突然響いた素っ頓狂な声に、ダンが不審そうに振り向いた。

 

「DIO様が……なんだ?」

「そう、あれはまだディオがくっそ生意気も盛りの少年だった頃に起こりました……」

 

 訝しむ声を無視して、澪はマイクでも持っているような風情でなぜか物語調でおもむろに語り出す。

 

「肌も色白ぴっちぴちで金髪くるんくるんの超絶美少年は、見た目と真逆で性根はひん曲がっており極度の負けず嫌い。ついでにやたらと矜持が高くて人に弱みを見せるなどもっての外です」

 

 今では澪のみが知りうるDIO=ディオ・ブランドーの物語。

 

 しかも、当時ご本人直々に早く忘れろと釘を刺された珠玉の赤っ恥エピソードである。

 

「さて、ある冬の日のこと。近年まれに見るドカ雪に見舞われた我が家は、使用人含め男手も必要だと揃って雪かきに駆り出され、途中から男の子特有の謎の張り合いでどっちが多く雪かきできるかとジョナサンと揉め始めたディオは……」

 

 バラしたところで自分は痛くも痒くもないし、本当にただの嫌がらせだ。

 この手の話なんか腐るほどあるから一晩くらいなら余裕で語れる。承太郎は無表情だがかなり興味深そうだった。

 

「ま、待て!」

 

 しかし、自分の主の恥部(推測)暴露という惨事を前にしてダンの表情が崩れる。

 

「えー、ここからが面白いんですよ?」

 

 くすくす、と笑う澪がダンの目には悪魔の笑みに見えた。

 

 ダンを含めたDIOの配下たちは、全員が全員DIOのことを超越的で不可侵かつ絶対の存在として認識し、心酔している。

 

 そんな崇敬すべき主のずっこけエピソードなど聞いてしまったら彼の存在がダンの中で揺らいでしまう。非常に聞きたいが聞いてはいけない、そんな煩悶がダンの中で渦巻いていた。

 DIOはあくまで悪のカリスマであり救世主なのである。

 えらく卑近で家庭的な話題を持ってこられても正直困るのだ。だが、ダンの待ったを聞いてやる義理などないので構わず澪は語り続ける。

 

「二人の雪かき競走はそりゃーもう白熱して、昼を過ぎる頃には家周りの雪かきは終わったのにまだ勝負は終わってない! とそのままディオはスコップ片手に」

「いいから止めろぉ!」

「ぶッ」

 

 黙らせるには実力行使しかなかったので、ダンは澪の顔面に張り手をかまして黙らせた。危ないところだった。

 

「く、靴磨きはもういい!」

 

 苛立ち紛れに靴磨きを続けていた承太郎の顔面を蹴り飛ばし、ダンは立ち上がった。

 すると、承太郎は内ポケットから手帳を取り出してさらさらと何やら書き込んでいる。

 

「コラァ貴様! 何書き込んでいる!?」

 

 それに気付いたダンが手帳をひったくった。

 澪の位置からは見えなかったが、その眉間にみるみる皺が寄っていくのが分かる。

 

「お前に貸してるツケさ、必ず払ってもらうぜ……」

 

 その低い声は地獄の底から響くようでぞっとしない。

 

「忘れっぽいんでな、メモってたんだ」

 

 怒りのあまり新種の脳内物質でも分泌しているのか薄笑いまで浮かべている承太郎は、ダンの焦りを煽るに十分だったようだ。

 手の甲でビンタを喰らわせ、ダンは手帳を放り投げる。

 それを危なげなくキャッチしてみると、先程から承太郎がダンに受けている屈辱の羅列だった。

 その中に『澪をふみつけにして顔面張り手』という記述を見付けてちょっと気恥ずかしくなったが、そこから離れた部分にあった一文に目が吸い寄せられた。

 

『澪がジジイの金玉にケリ』

 

 ですよね~~~~!!

 

 やたらあっさり引き下がったのは単に後回しにしただけだったらしい。

 これは仕方がない。目の前でやらかしたのだから言い訳の余地なしだ。甘んじて殴られるしかない。

 手帳を返すと、口元に垂れた血を拭っていた承太郎に軽く背中を叩かれる。

 

「あんまりヤツを煽るんじゃあねーぜ」

「うん、でもなるべく嫌がらせしたい。精神的なやつ」

 

 ぼそっと本音を漏らしたらおでこをはたかれた。地味に痛い。

 

 絶対的優位を疑わないからこそ強者をいたぶる悦楽に耽溺していると、一目でわかるその背中。

 

 澪はダンがこちらを見ていないのをいいことに、まるで子供が遊ぶかのように指鉄砲の形を作って、その背中に照準を合わせて──

 

 

「ば~ん☆」

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

「む?」

 

 最初にそれに気付いたのは、購入したテレビに『隠者の紫』を発動し、自分の脳内を映し出していたジョセフだった。

 画面一杯に映し出されている『肉の芽』の触手。

 ジョセフの脳細胞もろもろを滋養としてうぞうぞと育っていた肉色の束が、突如として動きを止めたのだ。

 

「なんじゃ? 『肉の芽』が……」

「え?」

「どうした!?」

 

 自分のスタンドに集中していた花京院とポルナレフがようやく視線を向けた──直後。

 

 『肉の芽』の至る箇所にぼんやりと淡い橙色の光が見えた。

 微かな燐光がまるで引かれた火薬の上を走るように触手の先まで走り抜け、やがて全容にまで輝きが行き渡ると、その尖端から根元へと向かって炭酸のようにぱちぱちと弾け始める。

 シャンパンの泡めいた甘い橙色の燐光が弾ける度に肉の芽は砂のように溶け、崩れ、そして消えて行く。

 

「やった! なんだかわかんねぇけど、とにかく『肉の芽』が消えたぜ!」

 

 ポルナレフが快哉を上げ、花京院は不可解な出来事に眉をしかめた。

 

「ジョースターさんですか?」

「いや、いくら儂でも今の状況では波紋とスタンドの同時進行はできん」

 

 だからこんなにも焦っていたというのに、どういうことなのだろう。

 DIOの細胞である『肉の芽』の弱点は陽光、もしくは酷似したエネルギーである波紋のみ。ジョセフの脳内という最強の日陰にいる以上、陽光の恩恵は期待できない。

 

 となると、

 

「ジョースターさんの他にその、波紋を使える人は……あ」

 

 ジョセフと花京院は同時に思い至った。

 

「澪か!」

「いや、でも一体いつ仕込んだんじゃ? 全く気付かなかったぞ」

 

 さっきまでなんてジョセフをこちょがしたり金的したり、物騒な提案をしていたくらいだ。

 

「それでも最大の問題は消えた! 行くぞポルナレフ!」

「おう!」

 

 タイムリミットという最大の懸念材料が消え、『恋人』殲滅のみに目的が絞られたのだから気合いも入る。彼女には後で尋ねればいいだけの話だ。

 花京院とポルナレフは、ジョセフの脳に潜む敵を掃滅すべく揚々と先へ進み始めた。

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

「澪様、宝石はお好きですか?」

 

 ダンのえらく唐突な質問に、澪はちょっと考えてから答えた。

 

「好きというより、持ち運びと隠しやすいのは利点ですね。ワインとかメロンとか銃器は気ぃ遣っちゃうし、重いしで」

 

 思わず当時の『仕事』を思い出してしみじみしてしまう澪だった。

 

 承太郎はもちろん同行している面子とて一切知る由もない、昔の話。

 重ねてきた経験やくぐり抜けて来た修羅場で培ってきたものは役立てられるから、それでいい。

 

「はぁ……?」

「一回、上にヤのつく自由業の方の隠し財産運んだ時なんか、ダイヤモンドをキャンディの包装紙に包んであって、あっ頭いいなぁとか思ったもんです」

「えっ」

「え?」

 

 うっかり過去に埋没していらんことまで言ってしまった。

 

「で、では、この場を動かないで下さい」

 

 ダンは聞かなかったことにしたらしく、承太郎を伴って宝石店へ入っていった。

 

 これは何かやらかすんだろうなぁ、と眺めていたら案の定である。

 承太郎はどうやら万引きを強要され、渋々従ったところをダンがチクり、店内から出てきた屈強な男衆によって承太郎はタコ殴りにされた。

 さすがに一般人をスタンドでのす、なんて真似もできないのか大人しく殴られっぱなしのやられっぱなしになっている承太郎は正直レアだ。

 見た感じ急所は守っているようだから重傷は負ってないだろうが、それでも辛い。

 

 店先から叩き出され、唾まで吐かれている承太郎の前でダンがせせら笑う。

 

「でかしたぜ、よーくやった。お前のおかげで、ドサクサに紛れてもっとでかいもの手に入れたからよ」

 

 ダンが手にしているのは、重たそうな金に装飾を施された首飾り。はっきり言って趣味はよくない。

 動くな、と言われた以上は駆け寄ることもできない。心配で目線をやると、なぜか承太郎がクツクツと虚ろに笑い始めた。

 

「承太郎ッ! 貴様何を笑っているッ、何がおかしいッ!?」

「いや、楽しみの笑いさ、これですごーく楽しみが倍増したってワクワクした笑いさ」

 

 帽子の隙間から見えた瞳は、血に餓えた肉食獣の如き獰猛な笑みに彩られている。

 

「テメーへのお仕置きターイムがやってくる楽しみがな」

「野郎ッ!」

 

 勝利を確信したかのような笑みに、ダンは承太郎の背中を蹴りつけ、ぐりぐりと靴裏をなすりつける。

 

「お前……何か勘違いしてやしないか。ジョースターのじじいはあと数十秒で死ぬ! そんな状況なんだぜ?」

「え、『肉の芽』もないのに?」

「……はぁっ!?」

 

 さらっと落とされた爆弾にダンが目を剥き、承太郎はまだ笑い続けている。

 

「ふ、いいや、貴様は俺たちのことをよく知らねぇ」

 

 そこには仲間への信頼と経験に裏打ちされた、絶対の確信がこもっていた。

 

「花京院のやつのことを知らねぇ」

 

 そう、承太郎が言った瞬間──狙い澄ましたかのようなタイミングで、ダンの額がばっくりと割れ、嘘かと思うほどの血液が噴出した。

 

「ぎ、ぃいあああああッッ!」

 

 ダンがのけぞり、苦悶の叫びを上げる。

 

 おそらく花京院が無事に解決策を見出し、『恋人』を叩いたのだろう。スタンドから受けたダメージは使用者にそのまま返ってくる。

 

「おやおやおやおや、そのダメージは花京院にやられているな……」

 

 承太郎は立ち上がり、冷たい憫笑を浮かべた。

 

「残るかな、俺のお仕置きの分がよ」

 

 そして、服を軽くはたきつつこちらを見た。

 

「おい、『肉の芽』がないってどういう事だ」

「あれ、ジョセフかシーザーに聞いてない? てか、この間『運命の車輪』の時に言ったと思うんだけど」

 

 いたずらっぽくぴん、と立てられた澪の指先から、淡い橙色の火花がぱちりと弾ける。

 それは紛れもない、太陽のエネルギーと酷似しているという、『肉の芽』の弱点でもある波紋の……。

 

「……そういうことかよ」

 

 頭の回転の速い承太郎は大体のことを看破したらしい。

 澪がジョセフに仕込んだのは、シーザーから習ったシャボンに波紋を込める方法の応用。

 全体に浸透してから効果をあらわすため、ちょっぴりの時間差で効いてくる波紋だ。

 当時自分の波紋が強くないことを自覚していた澪は、リサリサやシーザーの薫陶を受けてちょっとした小技というか、応用する術を色々学んでいた。

 

「じゃあ、あのろくでもねぇ提案だのなんだのは」

「あんなのほぼハッタリの大法螺ですわー」

 

 そう、あの時にかました爆弾発言の全てはほぼ口からの出任せだ。

 

 まぁ、男娼云々辺りはもしギリギリだったら七割方本気で突っ込む(意味深)しかないかな、くらいまでは考えていたけれど。

 敵を欺くならば味方も同様に。考えついたことをポンポン口に出してダンの精神的動揺を誘い、虎視眈々と機会を狙っていた。

 だから検証実験と称してジョセフをくすぐり、掻痒感で前後不覚に陥っているところで金的という男性の急所を突き、両者がスタンドを使うこともままならない精神混濁状態の瞬間を狙って波紋を流した。

 

 ジョセフの頭を叩いた、あの時だ。

 

 あとは、花京院たちが『恋人』を倒すまでの時間稼ぎをすればいい。

 適当にダンのご機嫌伺いをして、なるべく意識をスタンドから逸らすために派手なパフォーマンスも忘れずに。

 澪はダンの様子から動いてもいいだろう、と判断して承太郎の身体を支えてほんのりと笑う。

 

「仲間を守るためならなんでもするんだよ、僕ってば」

 

 ジョセフの命を守るためにできる手段全てを使って、たったひとつの目的を成し遂げた。

 

 これはただ、それだけの話なのだ。

 

 まぁ、きっとこのあとジョセフにはしこたま愚痴を言われるだろうし、他面子からお説教を喰らうだろうが、そんなの大した問題ではない。

 

「知らなかった?」

「……いいや」

 

 ぼすん、と承太郎は澪の頭に手を置いてぐりぐりと撫でた。口元には小さな笑み。

 

「よく知ってるぜ」

 

 

 

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