「ここ! これ……ここよ、ここ!」
青髪青年は親指で自分を指で示しながら、自信たっぷりに宣言した。
「ここにちゃんと俺がいるのを、見落とさないでほしいのよ~ん」
えらい軽薄そうな兄ちゃんなのに、なんとなく既視感を覚えたのはなんでだろう。
全体的にがっしりした体つきの蒼い髪の青年。仕草や口調も飄々としているけど、瞳には炯炯と闘志が宿っているのが分かった。
それはそれとして、僕はその青年にとても不可思議な感覚を覚えた。
なんだろう、まだ友人でもなんでもないただの他人だ。
それなのになんというか、目に映した途端、あ、この人ほっといちゃ駄目だ。みたいな。
何かあったらちゃんと守らないと、そんなおかしな庇護欲めいたものが沸いてきて、内心戸惑ってしまう。おかしいな。
「自己紹介させてもらおう! 俺の名はジョセフ・ジョースター。おめーらの仲間の一人を片付けさせてもらった男よ!」
え、ジョースター? そういえばさっきおじさんがジョジョって呼んでたな。
ああ、そっか。
いつか見た夢で似たような名前に関わってたから、思い入れみたいなのがあるのかもしれない。あだ名は同じだし。雰囲気は似てないけども。うちの弟はもっと可愛かった。
なんてしみじみしてると、ジョセフさんが取り出したのは鋼鉄製だというアメリカンクラッカーだった。懐かしいもの持ってるなぁ。
恰好つけるようにぶんぶん振り回し、なぜか頭部にぶつけて悶絶している。練習不足にもほどがある。
「ジョジョ! 何をやっているんだ! こんな時にふざけるんじゃあない!」
おじさんやシーザーさんも怒ってるけど概ね同意です。もっと頑張りましょう。
「俺は大マジだぜ!」
確かに本人の言う通り、やってることはアレだけど雰囲気はわりと真面目っぽい。
なんでもジョセフさんの波紋はシーザーさんの波紋より弱いらしく、それを鋼鉄製のクラッカーに波紋をこめて殴ることでカバーしようということらしい。
果敢にクラッカーで攻撃を仕掛けるジョセフさん。けどそれは吹っ飛ぶわ避けられるわ挙げ句の果てには敵に馬鹿にされると散々だった。
「ジョジョ! てめぇふざけやがって! ただ鉄の塊を投げただけじゃねぇか!」
「くそっ、どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって! おいコラ待ちなにーちゃん! 後ろからドつくぞ!?」
わぁジョセフさんただの粋がってるちんぴらにしか見えない。
しかし彼は新たなクラッカーを取り出すと、ワムウさんの目の前で消してみせるという芸当を披露して相手の油断を誘った。
どうやらジョセフさんは小技を効かせるというか、奇を衒ったり相手を翻弄したりすることに長けているらしい。ジョセフさんは俊敏な動きでワムウさん目がけて四本のクラッカーを投擲する!
けれどそこからが悲劇だった、ワムウさんは驚異的な動体視力と身体能力でそれらを軒並み回避してしまったのだ。げっ、人体にありえない曲がり方したんですけど!? あとサンタナって誰ですか。
ろくすっぽダメージにはならなかったが、その攻撃方法やアイデアが気に入ったらしいワムウさんはジョセフさんと一分だけまともに戦いに付き合ってくれるそうだ。ジョセフさんの手首を切り、それを命の砂時計として。
「小僧、飛ばされた武器を拾いに行け」
親指で武器を示すワムウさん。それは肉食獣の余裕である。こちらを脅威とも思っていないのだ。ついでに、この人さては武士道ってか侍気質だな。
自分の持てる力、相手の持っている力、その全てでお互いを磨り潰さないと気が済まないタイプ。
ということは、案外ジョセフさんに分があるかもしれない。
「はぁ、拾いに行けだって?」
耳に手を当て、まるで聞こえないフリのジョセフさん。腹立つポーズである。
「拾いに行く必要はぜんぜんねーのよ!」
声と同時、壁にめり込んでいたクラッカーがありえない速度で回転し、ジョセフさんの手に戻ると同時にワムウさんの頭部を切り裂いた。
切れる、どころかえぐれました。グロおおおお!! てかあれで死なないのか! 本当に人間じゃないな!
ジョセフさんはこれが好機とばかりにクラッカーで滅多打ちにする。
「人を馬鹿にしたてめーの態度を文字通り打ち砕いてやるぜ!波紋を傷口に流してやるのはそれからだ!」
「おいこらジョセフさん機を逃すんじゃない!」
思わず突っ込んでしまった。
こういうタイプはヤバいんだって! 早いとこやっとかないと後が怖いんだって!
「なんだよチビ! 俺はこういうお高くとまった奴がでぇっ嫌いなんだよ!」
「嫌いとかそういう問題じゃねぇよばか! あのね、ワムウさんみたいなゴリッゴリの戦士みたいな人は……」
思わず敬語が吹っ飛び、更に注進しようとしたが遅かった。
「もっと打てい! これまでこのワムウの顔に傷をつけたものはいないのだから。それが、お前にこのワムウが授ける死の前の栄誉……」
突如としてワムウさんの雰囲気が変わる。戦闘を楽しむだけの雰囲気が、今や相手の心臓を食いつくさんばかりの必殺の圧力に変化している。
「な、なんかヤバい雰囲気……」
ジョセフさんがようやく気付いたらしく慌てて飛び退いた。
「飛び退いたのはイイ勘だ。あえてお前に殴らせたのは、油断した自分を戒めるためでその教訓とするため……」
でも遅い。
「だが、それも終わりだ」
ワムウさんの構えが変わる。
めきめきと動く両腕にとてつもない力場が発生しているのを本能で理解してしまい、身が竦みそうだ。
さっきワムウさんは風を放ってシャボンを破裂させていた。頭を振っただけであれなのだ。
彼の身体は人間にはない柔軟性と敏捷性が備わっていることはさっきので理解している。
もし、その両腕で竜巻のような遠心力を発生させることができるなら、最悪だ。過剰なまでの破壊力でジョセフさんは文字通り全身が粉砕され、周囲の瓦礫と混ざってさながら挽肉になってしまうだろう。屍体も残らないかもしれない。
シーザーさんは動けない。おじさんは無理。マルクとやらは戦力外。何か手が出せるなら──
「闘技! 神砂嵐!!」
ワムウさんの声と同時に腕が凄まじい勢いで回転を始める。遠心力が地面を隆起させ、あらゆるものを破砕する悪意となってジョセフさんを強襲した。
「これは、マズい……ッ!?」
焦ったジョセフさんの呟きがかろうじて聞き取れた。
同時に、勝手に身体が動いていた。
「おい!?」
シーザーさんの声が聞こえたが無視だ。
あらゆるものを踏みにじる凶悪なまでの破壊の暴風。
だがそれは自動発生しているワケではなく、あくまでワムウさんの両腕で作り出しているものだ。
つまり指向性がある。ジョセフさんには手が届かないが、僕にできることがあるとすれば、それは。
僕は全力で床を蹴って疾走。勢いを利用して三角跳びの要領で柱を蹴って更に跳躍。宙を飛翔し、竜巻を飛び越え、風圧を利用してワムウさんの真上に。
「横槍御免!」
そのままワムウさんの顔面に僕はほどいていたマフラーをぐるんと巻き付け、肩車のように両足で喉と動脈を全力で締め上げる。
視界を塞ぎ、気道を締め上げ、竜巻の方向が少しでも逸れますように!
「むぅ!?」
願いが通じたのか、僅か、ワムウさんが動揺するのが分かった。
腕が震え、ほんの少しだが風の向きが変わる。柱が絞られた雑巾のように破壊され、超重量の瓦礫が周囲に拡散した。こえええ。
「おいチビスケ離れろ! そいつは人間を吸収する!」
ええっ!? そういうことは早く言って下さい!
「小僧、先程のことといい、その小さき身体に似合わぬ勇敢さと状況判断能力は賞賛に値する。だがな」
じわ、とワムウさんを絡め取っている足に違和感が走った。それは自分の身体が外部から侵略されるおぞましい感触だった。なんかすごい気持ち悪い!
離れるにはワムウさんに触れなければならず、それでは面積が増えるだけで意味がない。
なので、僕は咄嗟に。
「ひぃムシャムシャされるのはイヤです! これにてどろん!」
ぽんッ♪
「なッあ!?」
軽快な音と煙と共に狸へと変化。ワムウさんの頭の飾りに爪先を引っかけて思い切りジャンプしたのだった。あぶねー!
ワムウさんの驚愕も無理はない。狸に変身する人間なんて会った試しないでしょうよ。
変化と同時にマフラーも消えたのでワムウさんの視界も自由になったけど、神砂嵐もほぼ時を同じくして止んだ。連続使用はできないのかもしれない。
「さっきマルクを助けたのも、お前だったのか……」
シーザーさんのぼんやりしたような声に僕は頷いてみせる。どこまで通じてるかは分かりません。
なんとか距離を取り、ジョセフさんの方を見るとずたぼろでした。うわ、あんまり意味なかったのかもしれない。これは申し訳ない。あちこちの皮膚が裂け、痙攣しているところを見るとまだ息はあるようだけど。
「波紋ではないようだが、小癪な技を持つ者もいたものよ」
あ、僕の場合不可抗力です。なろうと思ってなったわけじゃありません。
「邪魔が入ったが柱の影ぐらいに逃れてもダメージは十分よ。くたばったか……」
ワムウさんはジョセフさんの方を一瞥し、シーザーさんたちの方に向き直る。
「ただの人間どもなどどうでもいいのだが……このワムウの屈辱の姿を見られたからには、貴様等も始末せねばならなくなった」
すいません、もしかしてその殺すリストに僕も入ってますか。半日しか人間になれないんでどうぶつの範囲に入れてくれませんか無理ですか。
そんなことを考えていると、ジョセフさんがむくっと起き上がった。よかった生きてた! と、思ったらまた倒れる。何かと思ったらワムウさんの前では死んだふりをしているのだ。
だるまさんが転んだの要領でワムウさんの視線が逸れるたびにずるずると地面を這いつくばり、さながらコントだった。志村うしろー! である。人間だったら吹きだしていたかもしれない。よかった表情出ない狸で。
シーザーさんとおじさんを見るとあんちくしょう逃げやがったな的な表情をしていた。気持ちは分からないではないけど、逃げられる人がいるなら逃げた方がいいと思う。
と、わりかしドライに思ったのだけど僕はジョセフさんという人間を随分みくびっていた。偶然とはいえジョースターの家名は伊達ではない。
彼はひとりトロッコに乗り、ワムウさんをおびき寄せるための囮になったのだ。当然、ワムウさんは怒りに震え猛然とジョセフさんを追跡に走った。
「ジョジョ……」
「ジョジョ! あの野郎、俺の怪我より重傷なくせして!」
二人もすぐにそれに気付き、すぐさまジョセフさんたちのあとを追った。
僕もなんとなくついていった。ジョセフさんの安否も気になるし。長い通路をてってけ走ると、やがて広い場所に出た。
そこにはなんとか起き上がろうとするジョセフさんと、それに手を貸しているシーザーさんの姿があった。ワムウさんはもういなかったので、危機は去ったと見ていいだろう。
なんでもワムウさんとエシディシという二人にジョセフさんは指輪を贈られたそうだ。内臓に。なにそれこわい。
しかも一ヶ月後には内部の毒薬が流れ出して頓死するから、それまでに強くなって倒しにこいということらしい。死のウェディングリングとか小洒落たこと言われたそうです。
「あ~、なんてこった! 勢いに任せてハッタリかます演出のつもりで一ヶ月って言ったのによぉ、あいつらマジに取りやがって!」
自分から言い出したのか。でもあの状況でハッタリかませるだけで凄いと思う。
「せめて一年って言うんだったクソッタレ! 不老不死の奴らなら百年って言ってもオーケーしてたかもな、惜しいことしたぜ!」
それ強くなる云々の前にたぶん老衰で死にます。
「だがそれでお前の命は延びたんだ。俺も波紋の修行に付き合ってやるから、頑張るしかないだろ」
「オーッノー! 俺の嫌いな言葉は一番が「努力」で、二番目が「ガンバル」なんだぜーッ!」
アメリカンなリアクションするジョセフさんである。わりと元気ですね。
止血だのなんだのしながら交わされる二人の会話を静観していると、シーザーさんがこちらに気付いた。
「ああ、改めてお礼を言わせてくれ。マルクや俺たちを助けてくれてありがとう」
「? おいおいシーザー、なにドーブツに喋りかけてるんだよ」
「そうか、ジョジョは見ていないんだったな」
まぁ、あんな必殺技喰らってる最中に見ろったって無茶だろう。
「?」
頭に疑問符を浮かべまくっているジョセフさん。さすがに喋らないといけないので、僕は一度ぱたりと尻尾を動かしてから人の姿に戻る。
ぎょ、とジョセフさんが目を見開いた。
「はぁ!? さっきのチビじゃねぇか! どんなマジックだよ。それとも何か、波紋ってのは極めると変幻自在なのかよ」
「そんな波紋ねぇよ」
「そもそも、僕は波紋って知らないです」
シーザーさんと僕の突っ込みが同時に入る。
「波紋を知らない?」
「はい。これは体質です」
「体質ぅ?」
二人が同時に怪訝そうな顔をする。仲良いですね。
「いつの間にかこうなっちゃったんです。半日くらいしか人の姿を保ってられないし、メリットもあるけどデメリットの方が大きいです」
「まさか、お前も柱の一族ってオチはねぇよな?」
こわごわ、といった感じで尋ねてくるジョセフさんだった。僕はちょっとだけ苦笑する。
「フツーに人間ですよ失敬な。まぁ、正直なところ僕はなんでここにいるかも分かんないんですけども」
「迷子かよ」
「ですね」
ごくまじめに頷くと、ジョセフさんが吹き出し、シーザーさんが眉を寄せた。
「なら、どうしてマルクや俺たちを助けてくれたんだ? ワムウにまで向かって行って、死ぬかもしれなかったんだぜ?」
「それは……よくわかんないです」
だって本当によく分からない。
ただ、思ったのは。
「ジョセフさんが死んだらやだなって、思って」
「なになに、俺に惚れちゃったとか~オチビちゃん♪」
にやにや笑いのジョセフさんに僕は首を振った。
「いや、そういうのじゃないと思うんですけど」
「案外冷静ね。ん、そういえば、んん~?」
肩を竦めたジョセフさんはしげしげとこちらを見つめて首を捻る。頭から足の先まで見られて、なんだか落ち着かない。
「な、なんでしょう」
思わずもじもじすると、ジョセフさんはぽつりと呟いた。
「……そっか。お前、似てるんだ」
「似てる?」
誰にだ。
ジョセフさんはひとり納得したようにうんうん頷いている。ワケが分からない。
「ああ。昔、おばあちゃんが話してくれた『ともだち』に。写真とかあんまねーから話だけだけど、そっくりだぜ」
「それは……光栄というかなんというか」
祖母の友人にそっくりと言われてもどうにも返答に困る。
「なんとなーくだけど、俺もあんたのことは他人って感じがしねぇし……なぁ、名前なんてんだ?」
「あ、ミオです」
「へぇえ、名前まで同じっつーのは運命としか思えねぇな。なぁ、今度エリナおばーちゃんに会ってやってくれよ」
ジョセフさんの祖母はエリナさんっていうんだ。どうにも今日はいつかの夢の符号が多い。
「はい、喜んで」
でも無邪気にねだられて悪い気はしない。
にっこり笑って頷くと、なぜかシーザーさんが戸惑いがちにこちらを見つめていた。
「待てよ、その名前……もしかして、君は女性なのか?」
「そうですよ?」
「こ、これはすまないことをしたシニョリーナ!」
普通に肯定したらいきなり謝罪された!?
「あんな恐ろしい場所でよく俺たちを助けてくれたね。怖かっただろうに」
な、なんだなんだいきなり態度が変わったぞ。なんだこの人。
シーザーさんの変わりようにじゃっかんびびっていると、ジョセフさんがぴらぴら手を振った。
「そいつ、オンナの前だとそーゆー態度になんだよ。てか、迷子ってんなら丁度いいから俺らと一緒に柱の男倒すの手伝ってくんね?」
すげぇ気楽に言ってくれるなおい。
「そもそも波紋を知らないから、戦力になれるかどうかが不明ですよ」
「波紋を知らねーくせにあんだけ動けたってこったろ? なら、波紋覚えられたらすげぇ戦力なるかもしれねーってことだ!」
ものすごい論法である。
とはいえ、ここで自分に目的があるかと言われれば否である。
あの柱の人たち放置しておくと何やら怖そうな気もするし、できることがあったら協力するのもやぶさかではない。それと、波紋を学ぶのはちょっと楽しそうだ。
「女性に戦わせるつもりはないが、君も俺の師匠に会ってみてくれないか?もしかしたら、その体質について何か分かることがあるかもしれない」
シーザーさんにも後押しされる形で、結局僕も彼らの一行に加わることになった。
「じゃあ、よろしくお願いします」
おう、と二人が笑ってこれからは敬語なんかいらねーよと言ってくれた。
その後でおじさんに合流し、スピードワゴンと名乗ったのでちょっとした悪戯心であなたもひょっとしてお節介焼きなんですかあはは、と言ったら突然泡吹いて倒れてしまってジョセフさんにすげぇ怒られました。
理不尽である。
戦闘潮流におけるオリ主スペック
・桃鳥連載では悪魔の実と交換されたがちょっとした異能持ち
・桃鳥以前に書いていたOPトリップ連載からトリップした設定のため、半日狸仕様でお送りいたします