一晩明けて、澪はいつもより少し遅れて起床した。
カーテンを開けてジリジリとした朝陽を浴びて全身を強制的に叩き起こし、軽くのびをする。
洗面台でささっと準備を整えて、『昨夜の準備』を着替えた服に仕込んでいく。
リュックから抜いた小狐丸を街中で持ち歩けるよう、黒い円筒形の皮筒に入れて肩にひっかけた。
「……よしッ!」
確かめるようにぽん、と胸の辺りを叩いて部屋を出る。
今日も暑くなりそうだ。
「え、警察行っちゃったの?」
身支度を調えてジョセフたちの部屋に行ったら、アヴドゥルからポルナレフと承太郎が既に出かけているということを聞かされた。
「ああ、じゃがポルナレフのことだから……どこぞで寄り道している可能性もあるがな」
「そっかー、むぅ」
澪はちょっとだけ顎に指先を当てて考えてから、ポケットからコーヒーガムを出してイギーに視線を向けた。
「親分、ちょっと手伝ってくれません? ポルナレフさん……というか、あの剣に用があるので」
「……フン」
寝そべっていたイギーは澪を暫く見つめてからくあ、とあくびをしてから「やれやれ」という感じで起き上がった。
「随分イギーと仲良くなったものだな」
アヴドゥルの感心するような言葉に苦笑する。
「なんせ僕は親分の子分? 舎弟? のようなものなので」
たはは、と笑うと彼も小さく笑みをこぼした。
ジョセフが怪訝そうに眉をひそめた。
「あの剣に何かあるのか?」
「あるかもしれないから、確認に行くの」
答えていると、イギーが視線でまだかと促してきたので慌てて足を踏み出す。
「じゃ、ちょっと行ってきまーす」
さっさと部屋をあとにする澪に手なんぞ振ってみたりしつつ、ジョセフはぽつりと呟いた。
「のう、アヴドゥル」
「はい、ジョースターさん」
「儂は目が悪くなったのかもしれん」
真剣な表情で呟くジョセフに、アヴドゥルは神妙な様子で頷いた。
「……私にも同じものが見えていたので、たぶんそれはないかと」
「そうか」
なんとも言えない沈黙ののち、ジョセフはなんとなく可哀想なものを見る目で呟いた。
「Dに憧れとったのか……澪」
☓☓☓☓☓
凄まじい衝撃とともに床屋の窓ガラスが粉砕され、中から店主と思しき大柄な男が吹っ飛ばされた。
その片手には装飾も禍々しい刀が一振り握られており、ただの床屋の店主とは思えない。
道路に仰臥した店主は胸に大きな傷を負い、しかしその手は刀を握ったまま離そうとしない。
「やっ、やったかッ!」
ポルナレフが拾った例の剣は、やはりただの凶器ではなかった。
剣がスタンド本体として人間を操り、意のままに自身を振るわせるスタンド使い。
たった今、操られていた床屋の店主を『星の白金』でぶっ飛ばした承太郎は、確かめるように拳を握り歯噛みする。
「いや、全然浅い……。とりあえず当てるのが精一杯だった」
しかも、『アヌビス神』の暗示を持つというこのスタンドは優れた学習能力を持ち、一度攻撃されてしまえば相手の太刀筋を覚えて更なる速度と俊敏さで獲物を狙う。
「やばい、こいつは強いぜ」
現にポルナレフは昨日の戦闘でアヌビス神に『銀の戦車』の太刀筋を学習され、倒せなくなってしまった。
「久々に登場した策や術を使わない……『正統派スタンド』だ」
承太郎が冷や汗を拭っている間に『アヌビス神』に全身を乗っ取られているに等しい床屋の店主はむっくりと起き上がり、青黒く腫れ上がった頬でにやりと笑った。
「さすが『星の白金』……噂通りの相当素早い動きだ」
男の瞳が禍々しい紫電を帯びる。
「しかしその動き……、今ので覚えた……」
ゆらりと立ち上がった店主の変貌ぶりに、ご近所さんらしい男が声をかけるが、今の彼は気のいい床屋の店主ではない。
下手をすれば一般人も巻き込まれかねないため、ポルナレフは必死で声を張った。
「近寄るなッ! そいつは操られているんだ! 切りつけられたくなかったら、建物の中に隠れてろッ!」
「ヒィッ!?」
店主の異様な雰囲気に勘付いたせいか、近所の人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
異様な動きで店主が構え、承太郎たちへとじりじりと近付いていく。
これまでの戦闘で承太郎の動きを学んだ『アヌビス神』の次の攻撃は、おそらく今までのうちで最大の速度と最大の強さと最大の技で繰り出されることだろう。
鬼気迫る殺気を纏い付かせた『アヌビス神』は突如として獣のように身を低め、大きく跳躍すると、
「死ねぇええええッ!」
必殺の咆吼を放ち、承太郎の脳天にめがけそのまま刀を振り下ろした。
だが──
『オラァッ!』
『星の白金』の精密さと素早さ、そして承太郎の判断力を甘く見てはいけなかった。
『星の白金』は『アヌビス神』の刃を白刃取りの要領で両手でぴったりと受け止め、なんとその膂力で刀を半ばからへし折ってしまった。
「まさか……白刃取りをやるとは。なるほど、スタープラチナの強さとは、その素早さと正確さだけでなく承太郎の冷静な判断力のせいだったのか……」
細かな金属片が舞い、残った刀身があっけなく地面へと転がった。
薄暗い、不穏な煙が立ち上る。
「確かに、覚えた……ぞ」
膝を折った店主はそれきり倒れ込み、ぴくりとも動かない。どうやら失神しているらしい。
荒事の気配は去ったがまだ怯えているのか、近所の者は誰も出てこない。
奇妙な静寂の中、承太郎の荒い息づかいだけが響いている。額には珍しく汗の粒が浮き、これがどれだけの接戦だったかを実感させる。
「死んだか……」
「いや! 床屋は気を失っただけだ!」
咄嗟に剣をおさめていた鞘を持って店内から出てきたポルナレフは、今まさに刀へ触れようとした承太郎に待ったをかける。
「承太郎、その剣に触るなよッ! ブチ折ったとはいえスタンドの魔力が生きているかもしれんッ!」
ポルナレフは折れた刀の前にしゃがみ込むと、鞘だけを器用に使って納刀し始めた。
「抜いた剣に触ったヤツが操られるんだ。柄に触らんように鞘におさめよう」
なんとか刀を収め終えたポルナレフと承太郎は剣の扱いに迷い、結局、承太郎の提案でナイル河の川底に投棄するということになった。
しかし、騒ぎを聞きつけてきたらしい警察官の登場で状況は一変する。
肩をいからせた警官が凄むようにポルナレフへ突っかかった。
「その刀を渡しなさい!」
彼は、あろうことか掴みやすい鞘の部分を両手で握って引っ張り始めた。
「なに!? おいッ、やめろぉッ!」
鞘からみるみる刀身が姿を現し、柄の部分を握っていた持ち主は当然──ポルナレフだ。
刃紋を目にしたポルナレフの瞳がみるみると淀み、ドス黒い殺気が充満する。承太郎の背筋がざわりと粟立つ。
考える限り、最悪の展開だった。
承太郎はポルナレフ──『アヌビス神』によって切り裂かれそうになった警官を蹴り飛ばしながら黙考する。
普通の人間ならば、再起不能にしたところで仕方がない。運が悪かったのだ、と諦めることができる。
しかし、ポルナレフは旅をする仲間である。彼を再起不能にするような攻撃を叩き込むには当然躊躇が生まれるし、大前提として殺せない。
「ふふふ……この『アヌビス神』、お前のスタープラチナの動きはもう覚えたのを忘れるな」
常のポルナレフではしない表情、目つき、ぬかるむような殺意が承太郎を射抜く。
「一度戦った相手にはもう絶対……絶ッッ対に、負けんのだァァァァ──ッ!!!」
勝利を確信したものが上げる獅子吼を放ち、ポルナレフが突貫する。
そこへ──
「じゃあ、僕とは初対面ですね!」
呑気な声を裏切るような、まるで猟犬の如き動きで迫っていた澪が承太郎とポルナレフの間に割り込み、間一髪、抜き払っていた小狐丸で『アヌビス神』を受け止めた。
鐘撞く音色が昼間の屋外に響き渡る。
「なにッ!?」
「澪!」
刀剣同士が擦れ合う金属音の中、澪は一目で状況を看破したらしくため息を吐く。
「ふぅん、へぇー、名刀電光丸(妖)ってそーゆーことね。妖刀か。ふんふん、ふーん」
その口調は平坦で、なぜか承太郎は背筋に悪寒を感じる。
「しかもうちの大事なポルナレフさんを乗っ取って? 承太郎を襲ってる?」
きゅ、と澪の眉間に皺が寄る。
「──
そう吐き捨て、まるで磁石を弾くように両者の距離が開く。
ポルナレフの口を借りた『アヌビス神』が剣呑な目つきで澪を睨め付けた。
「貴様が澪だな。DIO様より聞いているが……剣技も身に付けているとは思わなかったぞ」
「そりゃ、ご披露する機会なんてそうそうありませんから」
肩を竦めてみせる澪に、けれど『アヌビス神』は瞳を細めながら哄笑を響かせた。
「ッははは! だが、聞いているぞ! 貴様はスタンド攻撃を無効化できるが、体重が消失するとな!」
そう、今回の戦闘においてそれが最大のネックである。
妖刀でも相手がスタンドなら自動反応して無効化してしまうかもしれない。
それは服や障害物を透過する不可視の斬撃を回避できるということだが、体重が消失してしまうということだ。
スタンドの有無がなくとも、相手は物理的な質量を伴った刀剣である。下手をすれば押し負けてしまう。
現に、澪の体重は軽くなり始めていた。
不可視の斬撃でなくとも、攻撃意思さえあれば発動してしまうのだろう。
でかければ強い。重ければ強い。それは常識だ。
体格差を補うために覚えるのが体技や格闘法なのだが、澪に限ってはそんな範疇にすら収まらない。
「それでこの『アヌビス神』に勝つことができると思うなよ! 大人しく引っ込んでいれば、承太郎を倒したあとでDIO様のもとへ連れて行ってやろう」
せせら笑うような『アヌビス神』の言葉に、澪は剣呑な目つきでぶつりと言った。
「なんか、ポルナレフさんに言われるとむっちゃむちゃ腹立つな……」
「寝言抜かしてる場合か」
なんと承太郎がツッコミを入れるという異常事態である。
しかし澪は怯む様子など欠片も見せず、むしろ普段は押し込めている剣気と殺気を漲らせ、目前の『アヌビス神』を睨め付ける
「僕の刃は虎姫仕込み。流派と言えば夢想源流……ほか、いろいろ」
曖昧なことを言って、けれど気配と瞳だけは氷結の殺気を漲らせながら、不敵な笑みを見せる。
「天つ狗から伝わったとされる剣技──とくとご覧じろ♪」
あくまで退く気がないと悟ったのだろう、『アヌビス神』はにやりと笑った。
「ふん、承太郎の前菜代わりに貴様を戦闘不能にしてやろう」
ちき、と『アヌビス神』が刀剣を構える。
澪も応えるように腰に差した小狐丸の鯉口を切り、居合いの構えを作った。
「ほほう、その剣気……さぞ鍛錬を積んできたのだろう」
桜色の眼光には見たことがないほどの殺意が炯々と漲り、孕む闘気で髪さえ逆立っているようだ。
「馬鹿野郎! 真っ向勝負するな! 押し負けてぇのか!」
咄嗟に承太郎が怒号を放つ。
「おまけにそいつは相手の攻撃を『学習』する! とっとと退がれ!」
だが、もはやそんな声が戦闘へとスイッチが切り替わった澪には届かない。
双眸は敵へ、全身は刃を抜き放ち、敵を屠るための精密装置へと化している。
「だが、この俺にはそれさえ無意味! 喰らえええいッッ!」
『アヌビス神』によって殺意に漂白された瞳が澪を見据え、奇妙な構えで突貫する!
澪は柄に手をかけ今にも抜き払おうと──
「いざ、尋常に勝負……なーんてね♪」
しようともせず、既に手の中に用意してあったひとつかみのビー玉を「ぽい」とバラまいた。
「ッ!?」
ここまで緊迫した真剣勝負のような場面で、よもやそんな奇妙奇天烈な手段で走行阻害されるとは夢にも思っていなかったのか、『アヌビス神』は地面に広がったビー玉をまともに踏んづけてしまい、それまでの全力疾走も相まって盛大に転倒してしまった。これは剣技など関係ないので、学びようがない。
「ざまぁー」
たまらず尻餅をついた『アヌビス神』に向かって既に跳躍していた澪は無表情で嘲りながら、小狐丸を振り上げる。
「正々堂々勝負なんてするワケないじゃないですかやだー」
自分は対人戦闘は得意でも、対刀用の戦闘経験などない。
相手に敬意を持つからこそ、一対一で戦うのだ。まして相手はポルナレフの意識を乗っ取っている人外のもの。卑怯な手段上等である。
体重が極限まで軽くなった澪の滞空時間は長く、けれど周囲のビー玉が邪魔をして『アヌビス神』は体勢を整えることができない。
「ぐ、くそぉッ!!」
半身を起こして闇雲に振るわれる『銀の戦車』のサーベルと半ばから折れた『アヌビス神』。
だが、『銀の戦車』の刺突は澪に触れるか否かの距離で次々と剣の花とも呼ばれる鋸草の花弁へと姿を変え、ひらひらと宙を舞うばかり。
「ばーか」
澪はべぇ、と舌を出してその刃の上に柔らかく片足を乗せ、『アヌビス神』に肉薄する。
「な、ぁッ!?」
ぴったりと吸い付くような軽やかさに『アヌビス神』が驚愕の声を上げた。
師匠から身体に教え込まれた夢想源流の極意──
本来、打ち込んできた相手の太刀を踏み落とすという離れ業なのだが、現在の自分の体重では難しい。
だからこそ、更なる距離を稼ぐための手段として使ったのだが、そこで誤算があった。
「ッ!」
風で巻き上がった澪のスタンド(?)の花弁が澪の視覚を遮り──
「馬鹿め!」
既に『銀の戦車』の刺突と『星の白金』のスピードと精密さを兼ね備えていた『アヌビス神』は、澪の足が刃から離れるや否や、返す刀で澪の右胸を深々と貫いた。
「か、ふッ」
澪が痛みに息を詰まらせ、ぶつ、と布が切れる音と共にねっとりとした赤黒い液体が刀身を伝う。
「澪ッ!?」
承太郎が焦り、『アヌビス神』が身体を起こしながらにやりと笑う。
「く、くく……その胸のおかげで致命傷にはなるまいが、戦闘不能にするには十分よ」
『アヌビス神』の言葉でふと、承太郎は我に返る。
「……胸?」
『アヌビス神』最大の誤算は、澪の体型を知らなかったということだろう。
ぶっつりと貫かれている刃の先はふたつの丸い膨らみ。サイズといえばDカップくらいだろうか。
しかし、その片方からはどろりと赤錆色の液体を垂れ流しながらしぼんでいるので、なんともコメントに困る。
承太郎が疑問符を浮かべている間に、べっとりと赤黒く濡れた刃を前にした澪が顔を上げ、猫のように笑った。
「だぁいせーこー♪」
そのまま澪は着ていたパーカーを器用に脱ぎ、そのままぐいっと思い切り引っ張った。
すると、刃に引っ張られたようにポルナレフの手にあった『アヌビス神』がすっぽ抜ける。
「よっしゃ、回収成功!」
空中で布越しに『アヌビス神』をキャッチする。
「どういうことだ、説明しやがれ」
片手でガッツポーズを作る澪に、承太郎はヌシヌシと詰め寄った。
その間にポルナレフは、頭痛を堪えるように額に手を当てている。
「俺は、そうか、『アヌビス神』の野郎に……おい、大丈夫なのか!?」
慌てて駆け寄ってくるポルナレフに澪はからりと笑う。
「ぜーんぜんです。まぁネタばらしをすると……これです」
パーカーを脱いだ澪の姿に二人は目を剥いた。
シャツの上から大きなブラジャー(外人用)を装着し、今刺された右側には赤、反対側には白い液体が透明のナイロンパックのようなものに詰まっていた。
片方がしぼんでいなければ紅白饅頭みたいだったことだろう。
「こっちはネズミ取り用の捕獲用粘着シートと溶剤と、最期に血糊を混ぜた超協力な接着剤になります」
作戦は簡単だった。
澪は最初から相手に攻撃させることを狙い、仕掛けた。
刃で穴が空いた接着剤は空気に触れるとその速乾性を遺憾なく発揮し、パーカーと刀が完全にくっついた。それを思い切り引っ張れば動揺している『アヌビス神』を引っこ抜けると踏んだのだ。
「お前、ホント無茶苦茶考えるな……」
「だってポルナレフさんに怪我させられませんし。あーさすがに怖かった」
「だろうな」
普通は考えても実行しない。
「そうだ。承太郎、さっきぶち折った刀ってどこ?」
言われて、承太郎はさっき吹っ飛ばした刀身を探しに行った。
「今度は澪が取り憑かれたりしねぇよな?」
「接着剤まみれで切れ味死んでますし、ないと思いますけど……」
澪はブラのフロントホックを外して、白い液体が詰まっているパックだけを手にとって、赤い袋ごとパーカーとブラジャーで『アヌビス神』をぐるぐる巻きにする。
そのパックは澪の手の上でもた~ん、もた~ん、と揺れていた。
「あったぜ」
そこへ、澪の方へ刀身を蹴っ飛ばす、というとても雑なことをしながら承太郎が戻ってきた。
それをやっぱり足先で止めて、その禍々しい刀身の横にパーカーから『アヌビス神』をごろりと転がした。
「で、そっちの白いのはなんだ?」
「これ? これはねー」
ようやっと抜かれた小狐丸の先っちょでぷつ、と穴を開けて、パックの中身を『アヌビス神』にじょろじょろと零しながらこともなげに液体の名前を口にする。
「キッチンハ○ター。塩水とかより早く鉄が錆びる」
キッチン○イターの主な成分は塩素系の次亜塩素酸ナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムの界面活性剤、アルカリ剤の水酸化ナトリウムである。
この次亜塩素酸ナトリウムは、分解して塩素を発生させ、その作用は食塩よりも早く鉄の酸化を促進させる。
昨夜、洗面所で準備していたのはこれだった。
下手な場所でやると揮発性が高いので悪酔いしてしまう。ちなみに、換気扇全開でやっていたのだが朝フロントの人に注意を受けた。
「で、さ~ら~に~」
パックが空になるまで刀剣へハ○ターをぶっかけた澪は、指先をぴんと立てる。日中だから見難いが、その爪先にはぱちりと火花のようなものが煌めいた。
その爪先をちょん、と妖刀の端っこに押し当てると、まるでそこが着火点になったかのように火花が弾け、刀剣に紫電が奔り抜ける。
『ぎゃああああッ!?』
触れていれば意思疎通が可能なのか、澪の脳内に『アヌビス神』の絶叫が響いた。
『おい、さては俺を錆びさせるつもりだな!?』
「他の何をしてるように見えるんですか」
びりびり~、とかふざけて呟いているがやっていることは悪辣である。
電気を流すと、腐食というのは促進できるのだ。
「やっぱり錆が弱点みたいですよ」
ポルナレフたちに顔を上げて言いながらも、電気は流し続ける。
すると、早くも刀剣のあちこちから錆のようなものが浮き始めた。
「この前も思ったけどよ、澪のそれはスタンドじゃねぇんだよな?」
「できの悪い手品とでも思っておいて下さると、ありがたいです。僕、あんまりこれ好きじゃないので」
「ふーん?」
よしなし会話をしつつ、電流は続行中である。
『……』
いつの間にか、『アヌビス神』は完全に沈黙していた。
それを感じ取った澪は電気を流すお仕事を止めて、改めてパーカーで『アヌビス神』をぐるぐるに巻いた。
「で、これは申し訳ないですけど、そこの河に投棄しましょう」
「ああ、それがいいだろうな」
念のため、三人で河に向かい承太郎の『星の白金』で『アヌビス神』を河の真ん中辺りにぶん投げてもらった。
で、途中の服屋で新しい服を買ってからホテルに戻ったら、ジョセフがドヤ顔で寄せて上げるブラをプレゼントしてくれたので、ありがたく一発殴っておいた。
文法がおかしい? 気のせいです。