星と水底のおとぎばなし   作:小日向ひより

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11.放課後電磁波女

 

 

 ナイル河は中流の街、ルクソール。

 

 古代に於いては百門の都と謳われたテーベの都であり、その土地には未だ多くの建造物やピラミッドのような墳墓が散見している。

 歴史的に価値の高い古代の遺産が無造作に置かれている、と考えて差し支えないだろう。近くに見える村は、そんな王たちの眠る墓所を荒らす盗掘者たちの末裔が暮らしているそうだ。

 

 そんな説明をアヴドゥルから受けた澪は、近くにあった岩に足音軽く乗り上がると、手でひさしを作って遠くの王家の谷とやらを見つめる。

 周囲はゴツゴツとした岩肌ばかりで当然舗装もされていないので歩きにくいし、何よりヒマである。

 ジョセフがトイレに行くと言って工事現場とかによくあるプレハブの簡易トイレにイギーを伴って向かったので、現在はその帰り待ちだ。

 

「なんか見えるのかぁ?」

 

 ポルナレフの問いには答えず、澪はひょいと岩から下りて首を振った。

 

「ちょっと高さを変えたくらいじゃ見えませんね」

 

 そりゃあそうだろうな、とポルナレフが頷いた辺りでジョセフがじゃっかん顔色悪くしながら戻ってきた。

 

「トイレしてきたにしては、シケた顔してんね」

「いや、儂、ホテルまで我慢する……」

 

 げんなりしているのでさては出が悪かったのか、と勘ぐったところ、ここのトイレの説明を受けて納得した。

 そりゃあ、ジョセフみたいに育ちがよくて金持ちなひとがそんな地面に穴掘っただけみたいなトイレ、使いたくないだろう。自分でもイヤだ。

 

「あと二日ほどでカイロに行けますが、全員何らかの怪我をしています。今夜と明日はルクソールに滞在して、休息をとるのはどうですか」

 

 近くの喫茶店で水分補給がてらに休憩を取っていると、アヴドゥルがそう提案した。

 軽快にコーラの栓を抜き、喉を鳴らして呑み込むポルナレフが一も二もなく同意する。

 確かに、これまでほぼ強行軍でエジプトまで入ってきたからのだから、目に見える怪我だけに限らず、知らぬ間に疲労も溜まっているだろう。しっかりと体力回復に努めるのも手だ。

 

「さんせーです」

 

 炭酸があんまり好きではない澪はミネラルウォーターの瓶を片手に頷いて、席を立った。耳が良いためラジオの不協和音が辛いのだ。

 なぜかジョセフは義手をしげしげと見つめながら試すように動かしてみたり、と落ち着かないのが気になったが、さっきからガーガーとやかましくて聞いていられない。

 

 イギーもそうなのか肩を足場によじ登ってきたのでそのままにしつつ、承太郎の隣に並んで川向こうを眺め、波紋で器用に栓を抜いて水を飲む。

 

「承太郎も疲れてる?」

「それなりにな」

 

 ちっともそうは見えないが、自己申告しているということはそれなりに疲れているのは事実だろう。おそらくは心労もあるはずだ。

 三分の一ほど水を飲んだところで片手に水を受けてイギーにも分けて、承太郎から視線を感じたので瓶を差し出すと顔をしかめられた。違うらしい。

 

「濡れてるぞ」

「ああ、肩くらいすぐ乾くし、問題なしなし」

 

 軽く手を振ると、承太郎は小さく肩をすくめて「そうかよ」と呟き、瓶を取ってそのまま一気に飲み干した。

 

「二人も行くぞ!」

「うーす」

 

 ジョセフの声に軽く返事をして、澪は空になった瓶を改めて店に返そうと瓶をテーブルに置いた。

 すると、あれだけうるさかったラジオからは耳障りのよい音楽が流れていることに気がついた。さっきまで調子が悪かったのだろうか。

 内心首をひねったものの、大した問題ではないと捨て置いた。

 人の店の購入物にケチをつけるほどヒマではないので「ご馳走様でした」とだけ言ってジョセフたちの後を追う。

 

 すると、

 

「ん?」

 

 なんとなく、足が引っ張られた。

 風に押されたワケでもないのに、胸元や足周りが軽く引っ張られるような感覚で自然、とととと、と足が小走りになる。

 ぽす、とジョセフの背中にひっついたところで足が止まった。

 

「お? なんじゃ澪、甘えたさんかぁ?」

 

 ぺったり背中にひっつく澪をイヤがるでなく、むしろからかう口調のジョセフはその小さな頭をぐりぐり撫でる。

 どこから見ても祖父に甘える孫の図だが、本人の脳内には疑問符が浮かぶばかりだ。

 

「いや、そういうのじゃない、はず」

「ははは、そうしていると承太郎より孫らしく見えるぞ」

「まぁ、承太郎は孫って感じじゃあねーもんな」

「……ふん」

 

 アヴドゥルたちは微笑ましいものを見る目をしているばかりで、特に疑問を差し挟む雰囲気ではない。

 妙なことになっているのは澪だけだ。ぐっと身体を引き剥がすとジョセフから離れることは容易だったが、やっぱり軽く引っ張られるような感覚は消えない。

 むしろ油断すると、すぐジョセフの方へジョセフの方へ、と足が向いてしまう。なんだこりゃ。

 

「んー?」

 

 腕を組んで考えつつ歩いているので、また全員の背中を追いかける形になる。

 砂を見ながら歩いていたがふ、と顔を上げると、ジョセフの背中にいくつもの金属がくっついていることに気がついた。

 

 あれはコーラの栓だろうか、人数分くっついているので自分たちが注文したものに違いない。そういえば、さっきから義手の調子がよくないと言っていた。

 くいくい、と布を引っ張る感覚はまだ続いている。ぺた、とその部分に触れると、正確には布が動いているワケではないことが分かった。

 

 正確には胸の内ポケット、隠している折りたたみナイフが動いていたのだ。

 

「あ」

 

 そこでようやく、義父たちの敵情報()が脳裏に浮かぶ。

 確か次のチャートは二つ、『放課後電磁波彼女』と『汚いメルモちゃん(赤)』だった。

 後者はともかく放課後電磁波というとアレか、超懐かしいごっつえ○かんじのキャラクター。

 そこまで連想が働いたところで、澪は身体のあちこちに隠していた武器をまとめてリュックに突っ込んだ。すると、身体を引くような引力がなくなった。

 

 ビンゴ、かもしれない。

 

「あのさ承太郎」

「?」

 

 この中で唯一、純正日本育ちの承太郎の横に並んで、聞いてみる。

 

「『S極くん』『どうしたんだいN極くん』って、わかる?」

「わからん」

 

 即答でしたありがとうございます。

 

 そうか、承太郎はあんまりバラエティ番組見ないんだった。通じないネタほど辛いものはない。

 がっくり肩を落としつつ考えてみる。

 ジョセフが磁力を帯びているとしたら相当面倒なことになる。

 まず義手の動きがにぶるし、磁力がどんどん強くなるならその辺の金属製のものをくっつけまくって、最終的には身動きすら取れなくなるだろう。

 

「むぅ」

 

 口の端から変な息を漏らし、ジョセフの様子を観察してみるとまだ磁力は大した威力ではないらしく、瓶の蓋程度で済んでいる。なんであんなにくっつけて気付かないのかは疑問だが。

 下手人を捜そうにも、勝手にどこかへ行くのは止められてしまうに決まっているし、第一、犯人たるスタンド使いの顔が分からない。

 あっちが積極攻勢にでも出てくれればまた話も変わってくるだろうが、今のところ周囲にそんな気配は感じない。自分のスタンド(?)が働かないのは攻撃対象がジョセフで、おそらくはまだ命の危機に瀕するようなものではないからだ。

 

 言おうかどうか迷ったが、いたずらに混乱させても仕方がない。心当たりがあればジョセフはすぐに自己申告しただろう。

 

 ということは、まだ本人は攻撃を受けた自覚がない。

 

「……ここは本格的に相手が動くのを待つ方が吉、かな」

 

 ぽそり、呟くとイギーがぴくりと耳を動かした。

 

 

 

☓☓☓☓☓

 

 

 

 しかし澪の予想に反して、ホテルを取って夜になっても、スタンド攻撃をしてきた相手に動きはなかった。肩すかしもいいところだ。

 ベッドであぐらをかいて首を捻り、沈思黙考。

 せめて相手のツラさえ拝めれば、できることもあるのだろうけれど。

 

「……」

 

 なんとなく、本当になんとなく澪は洗面台へ向かった。

 奮発したホテルの部屋は全体的に小綺麗で、大きな鏡も磨き抜かれている。

 こんこんと指先でノックしてみるも、反応なし。まぁ、DIOだって四六時中こちらの様子を窺っているはずもなく、面と向かって「今、どんなスタンド使い送り込んでるの?」なんて尋ねたところでまともな返答がくるかどうかもわからない。

 

 あと、わからないから人に聞く、は基本中の基本だがそれをこの旅のラスボスに直で聞くのも卑怯というか、情緒がない気がする。

 

 軽く自省してベッドに戻って乗り上がろうとした、その時。

 

 こん、と窓から音がした。

 小さなノックのような、小石がぶつかってきたような。

 

「?」

 

 聞き逃してしまいそうなほど小さな音だったが、澪は方向転換してそのまま窓をガラッと開けた。

 すると、ヒュ、と何かが飛んできたので片手で受け止める。

 

 手を開いて確認してみると、にぶい銀色で突起のついた──

 

「ネジ?」

 

 工業用品がなぜ飛んでくるのだろうか、と視線を窓の向こうに目を凝らすと、そう遠くない場所にひとりの女性が立っていた。

 タイツで覆われたしなやかな太股も露わなミニスカートに、服越しでも分かるグラマラスな肢体。パーカーから覗く銀糸の髪と意志の強そうな瞳。くゆる紫煙は煙草のそれだろう。

 

 きれいな女のひとだ。でも誰だろう。

 

 そうは思うものの、男所帯では望むべくもない女性の登場に内心テンションが上がる。

 

 すい、と女性が指先を動かしてこちらを招いた。

 敵意は感じられないが、スタンド使いの可能性が高い。本来なら誰かに教えて迎撃するか、行かないという選択をするべきだ。

 

 しかし、澪はなんにも考えずベッド脇の椅子にかけていた上着を取って窓枠に足をかけてひょいっと飛び越えた。

 エジプトの夜は冷えるのでパーカーに袖を通しながらノコノコ女性のもとに歩くと、彼女は少々意外そうに目を瞠った。

 

「あら、来てくれるのね」

 

 色っぽくて可愛らしい、アルトの声。

 

「だって呼ばれました」

 

 招かれたから、行く。

 

 話を聞くくらいなら別段構わないだろう。

 ぽたんと目の前に立つ澪をどう思ったのか、女性は吸いさしの煙草を落とし、手袋越しに澪のほっぺたを指でふに、と押した。

 瞬間、ぱちっと静電気のようなものが走って澪はちょっぴり顔をしかめる。しかし変化といえばそれだけで、女性は何かに納得したように新しい煙草を取り出した。

 

「やっぱりね、あたしのスタンドが役に立たないわ」

「あ、ジョセフをS極くんにしたのお姉さんですか」

 

 N極くんかもしれないが、そんなのは些末である。

 女性はライターで火を点け、煙草の煙を肺腑の奥まで吸い込むとふう、とため息とともに紫煙を吐き出した。

 

「そうよ。あたしはマライア」

「えっと、僕は澪と申します」

 

 さらりと肯定され名前まで名乗られたので、反射的に名乗りを返しつつ頭を下げると「知ってるわ、DIO様のオネーサマなんでしょ。貧相なチビだけど」とマライアは吐き捨てるように言った。

 

「です。まぁ随分と昔の話ではあるんですけど……」

「そこよ」

 

 びし、とマライアは煙草の先でこちらを示してくる。そこ、とは。

 ジョセフが攻撃を受けているのだから、本来すぐ迎撃してしまうのが正しい反応なのだろうが、マライアはこちらに害意を持っているワケではなさそうなので、どうにも対応に困る。

 

「ねぇ、ちょっとあたしに付き合ってくれない?」

 

 そして、更にこんな申し出をされてしまった。

 しかもマライアはひっそりとした笑みを口の端に乗せ、とっても魅力的な上乗せをしてくる。

 

「美味しいハワイアンパンケーキを出してくれるお店を知ってるの」

「行きます!」

 

 即答してしまったのは、彼女の魅力のせいか久しく食べていないパンケーキの誘惑か。

 かくして、敵だと分かっているくせにノコノコマライアについていった澪は、本当にオシャレなバー兼喫茶店でハワイアンパンケーキをご馳走になった。

 何枚か重なり合ったパンケーキにたっぷりとした生クリーム。飾り切りされたフルーツが宝石のようだ。

 

「ミドラーって覚えてる?」

 

 どこから崩そうかフォークをさまよわせている澪に、ブラックコーヒーを啜っているマライアが口火を切った。

 

「覚えてます。綺麗なおねーさんでした」

 

 『女教皇』のスタンド使いで、澪は海で溺れて生死の境を彷徨ったが、なんとかなったので割愛する。

 ただ、総入れ歯になってしまったはずなので、あの美貌がどうなっているのかはちょっと分からない。

 

「あいつ、こないだあたしのとこに電話してきたの。そしたらさぁ、負けたくせにやったら嬉しそうにDIO様の話沢山聞けたって自慢してきたのよ……あのクソアマ」

 

 おっとこれは。

 

 今のマライアの愚痴っぽくも忌々しげな物言いで澪は大体を理解した。

 彼女らにとってDIOは崇敬すべき主であると同時に、手の届かないアイドル視している部分がある。

 ミドラーは澪との女子会()でDIOの昔話を聞き、それを誰かに自慢したかったのだろう。できれば羨んでくれる同姓に。なべて女性とはそういうものである。

 カットされたイチゴを口に運んで、甘酸っぱさを堪能してから呑み込んで、澪は苦笑した。

 

「んと、マライアさんはディオのどんな話をご所望で?」

「話が早くて助かるわ。そうね、ミドラーより沢山、可愛いエピソードをお願い」

「可愛い……」

 

 可愛げとは無縁のディオ・ブランドーなので、そういうエピソードを求められると結構困る。

 とはいえ、思い出話なら腐るほどあるので語るのに苦はない。

 

「可愛い、かどうかは判断に困るのでマライアさんにお願いしますけど、イースターの時の話なんてどうです?」

「いいわね、聞かせて」

「はい、あれはディオがまだうちに来たばっかりで……」

 

 それから、澪は時間が許す限りマライアにDIO、もといディオとの思い出話を思いつく端から語った。

 マライアは興味津々、加えて乙女心満載な瞳で聞いてくれた。

 それは澪がパンケーキを食べ尽くし、サービスに紅茶まで振る舞われるまで続いた。

 

「はぁあ……DIO様、最ッ高……!」

 

 恍惚のヤンデレポーズで話を反芻しているマライアは満足そうだ。

 澪も久々にディオとのアレコレを語れてなかなか楽しかったので満足である。

 

「満足してもらえてよかったです。それで、僕そろそろ……」

 

 これ以上長居すると、誰かに自分が部屋にいないことがバレないとも限らない。

 

「ああそうね。今日はありがとう、イケ好かない貧相なチビガキだと思ってたけど……案外可愛いし、ちょっと気に入ったわ」

「それは……光栄です」

 

 くすり、と笑ったマライアはくわえ煙草のまま立ち上がり、会計を済ませた。

 せめて半分出そうとしたのだが「いらないわよ」と突っぱねられてしまった。

 ホテル近くまで送ってくれるらしく歩き出すマライアのあとをついて行くと、ぽつりとマライアが呟いた。

 

「DIO様の話も聞かせてもらったし、結局あたしを倒そうともしなかったわね」

「パンケーキ頂いちゃいましたから」

 

 一飯の礼、というやつである。

 あそこで個別ワリカンだったら、再起不能まではいかなくてもしばらく動けないくらいの攻撃を加えたかもしれない。

 

「そういうお馬鹿ちゃんだから……ちょっとだけアドバイスしてあげるわ」

「あどばいす、ですか」

「そ、感謝してよね。あんたのスタンド? それ、ちゃんと制御できてないでしょ」

 

 貴重なスタンド使い(※敵)直々の助言である。澪は神妙に頷き、傾聴した。

 

「スタンド使いは自分の能力を把握するのが、何よりも大事」

 

 それは分かる。

 出来ることとできないことの見極めがつかなければ、ほんのちょっとの油断が命取りになってしまう。スタンドという超次元能力が相手なのだから尚更だ。

 

「それに、本人でもよくわかってないスタンドにちょっかい出すほど危ないことなんてないわ」

 

 そして、どうやらそれは相手も同様だったらしい。

 言われてみれば、自分のスタンドがよく分かっていない相手に、不用意に攻撃を仕掛けるのはなかなかリスクが高い。

 

「どこにどんな爆弾があるかもわからないし、ね」

 

 何がスイッチになるか分からないのだから、藪をつついて蛇を出すことになりかねないのだ。

 だからこそ、マライアの澪への攻撃もあれだけだったのだろう。

 

「なるほど、です」

「不確定要素ってこっちからしたら厄介極まりないのよ。まぁ、スタンド戦ってわりとそういうことが多いんだけどさ」

 

 最後は愚痴っぽくこぼすマライア。

 

 スタンド使いは本来自分の能力を秘するのが常であるという。

 他の面子は自分のスタンド能力をフル活用しているので、大体の把握はできているようだ。そういう意味ではジョースター一行はかなり与しやすい相手なのだろう。

 その分、まだまだ謎が多く行動も意味不明な澪へ対する警戒心は高いらしい。

 

「……DIO様は、あんたに会いたがってるわよ」

 

 ホテルにほど近い路地でマライアはそう言って軽く手を振った。

 

「連れて行こうとはしないんですか?」

「あんたとあたしのスタンドは相性が悪い。どうせあんたはひとりになってもDIO様のもとを目指すでしょ?」

「それは、はい」

 

 彼らに何かあってもなくても、澪はきっと彼のもとへ行く。

 彼らの内ひとりでも脱落してしまったら、尚更強く会おうと思うだろう。

 

「だったら、あたしは手を出さない。あたしにも手を出さないで欲しいけど」

「それは……時と場合によりますね」

 

 ジョセフたちがよっぽどのっぴきならない状況にあったら自分は加勢してしまうだろう。正直に告げるとマライアは予想していたのか、ふうと紫煙を吐き出すにとどめた。

 そしてぽってりとした唇に指先を当て、そっと呟く。

 

「でしょうね。でも、あんたがもしDIO様を殺そうとしたら──その前に、あたしが殺すわ」

 

 静かで、冷徹で、覚悟の滲む声音だった。

 DIOを心の底から信奉していると分かる、何よりの証左だ。澪はそんなマライアをじっくり見据え、ゆったりと笑って頭を下げた。

 

「ええ。どうかDIOのこと、よろしくお願いします」

 

 その、どこまでも義姉としての態度を崩さない澪をマライアは少しばかり怪訝そうな顔をして、それから身体の力を抜くように肩を竦めた。

 

「本当に、DIO様の『義姉』なのね」

 

 しみじみと言って、くるりと踵を返す。

 

「明日、あたしはあなたに会いたくないわ」

「──僕もです」

 

 背中にそう呟いて、澪もホテルへと方向転換。家路を急いだ。

 

「……あのド変態にも、会って欲しくないけどね」

 

 そんなマライアの独り言は、夜風に攫われ澪の耳に届くことはなかった。

 

 

 

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