「こんぴ、なに……?」
澪の言い出した奇妙奇天烈なゲームに聞き覚えのなかったらしいダービーが、怪訝そうに眉をしかめた。
周囲の反応も似たようなものだ。アヴドゥルが承太郎に「知っているか?」とか聞いているが「俺にもようわからん」とばっさり返していた。
「金比羅船々。お座敷遊びの一種ですよ」
金比羅船々、とは簡単に言えば、敷居の高い高級料亭でお座敷と呼ばれるところで芸者(芸舞妓)さんとするゲームのひとつで、他にもとらとら、おひらきさん、陣取りなどその種類は多岐に渡る。
ジョセフなら一回くらい、接待で受けたことがあるかもしれない。文字通りの座興の戯れなので、まかり間違っても人の命がかかったりすることはない。
転じて言えば、日本伝統の『おもてなし』のひとつなので、いくらダービーがその道のプロであっても──否、むしろプロであるからこそ、仮に日本人が相手であってもチョイスする可能性が限りなく低いゲームなのだ。
あくまでお遊びの範疇を出ない──むしろ出てしまうと場がしらけて興ざめになってしまう──純粋に楽しむためだけにのみ存在するゲーム。
そこには互いの命をすり減らすようなスリルもなければ、相手を出し抜くために策を巡らす必要性すらない。
だからこそ、ダービーの虚を突くにじゅうぶんな一手だと澪は踏んだ。
「ルールは簡単ですよ。あ、みなさんには手拍子をお願いしようかな?」
そんなことを言いながら、澪はバーテンの元へ行くと何やら相談してからラジカセを借りて戻ってきた。
周囲の興味の視線を受け流し、慣れた手つきでテープを外すと自分のリュックを探ってミニレコーダーからテープを取り出して交換。
再生ボタンを押すと、三味線独特のオリエンタルなメロディと、唄いの声が流れ出した。
「この唄と三味線に合わせて、ビールの袴をとりっこするゲームです」
説明をしながらゴトゴトと小さなテーブルを引っ張って場所作りをする。
向かい合ったお互いの手がビールの袴に届かないと成立しないゲームなので、ダービーのテーブルでは使えないのだ。
テープは趣味で録音していたので持っていて助かった。いや、持っていないゲームならそもそも提案していないのだが。
途中で承太郎が手伝ってくれたので、存外に早く準備ができた。
「私にも馴染みのない……聞いたことすらないゲームだ」
ダービーが黙っていたのは脳内検索していたらしい。
自分でもよく知らないゲームが存在したことが悔しいのだろうか。
「あ、じゃあデモンストレーションしますよ。さーびすさーびす」
「おい」
大サービスっぷりにさすがに承太郎が渋面を作ったが、澪はお構いなしだ。
「丁度いいから承太郎、相手役ね」
「あ?」
「いいからいいから」
何が良いのかもわからないが、謎の気迫に押し切られて承太郎はすごい仏頂面で了承した。
向かい合った二人が席に座り、ちょうど真ん中辺りにビールの袴。
「唄に合わせて、こーやってビールの袴の上に手の平を乗せて引っ込めるの」
澪は適当にリズムよく手をひょい、ひょい、と動かしてビールの袴の上を行ったり来たり。
「で、袴の上に手を乗っけた時にどっちが袴をとってもいい。取ったひとは次に戻す。そんで、台の上にそれが有るときは手を開いて、ないときは握った手を出す」
手を握ったり開いたり、と身振り手振りを交えて説明する。
「あ、曲は次第に早くなりますから。唄に合わせて取ったり取られたり、取ると見せかけて取らなかったり……なんてのを繰り返して、手を出し間違えた方が負けです」
簡単でしょ? と澪はダービーに向かって笑う。
彼はひたすらに何かを考えているらしく、返事らしい返事をしなかった。
実は、考えてもあんまり意味はない。
そもそも、思考をフル回転させないとできないようなゲームじゃないからだ。
むしろ酔いが回ったオッサンとかが主にするゲームなので、簡単じゃないとクレームがくる。
「ま、口で説明してもいまいち分からないでしょうから、デモンストレーションスタートしましょう。承太郎、いい?」
「おう」
アヴドゥルに頼んでテープを巻き戻してもらい、少し経つと再び同じ曲が流れ出した。
「こーんぴーらふーねふーね」
デモンストレーションなので、澪も口ずさみつつゆっくりと手を動かす。
承太郎も引かれるように動き出し、ぎこちないながらもビールの袴がお互いの間を行ったり来たり。
彼は一度コツを掴むと覚えが早いので、曲がスピードアップしても早くも対応している。
始まってしまえば、アヴドゥルや酔客たちも興味深そうにこちらを見始めた。
ゲームを見続けるにつれ、ダービーの表情が変わり始める。困惑のそれだ。どうやら気付いたらしい。
そう、ここにはイカサマをする隙間がない。
どこにでもある道具で気軽にできること、がお座敷遊びの真骨頂。
用意が単純すぎて、イカサマをするにしてもどこにすればいいのか澪にだって分からない。
なんせ
イカサマなんて無粋の極みをするような輩は即座に出禁だろうし、もしやらかせば周囲の白い目は免れない。
そんなことを考えていたせいだろう、承太郎のフェイントにまんまと釣られてしまった。
「あちゃあ、これで僕の負けです。承太郎めっちゃ上達早いね」
「簡単だからな」
心なしドヤ顔をしているのは気のせいだろうか。
しかし、これで自分でも容易に勝てるかもしれない、とダービーに思わせることができれば一儲けなのでよしとする。
「こんなゲームです。理解できました?」
「ああ、理解はしましたよ。理解はね」
ダービーはゆっくりと立ち上がり、すいっと指先をビールの袴へと向けた。
「ですが、これはどこで終わりなのです? 一回勝負とでも言うつもりですか?」
「やだなぁ、お座敷遊びの負けって言ったら決まってますよ」
ひらっと澪が手を振り、タイミングよくバーテンがテーブルへとやってくる。
手には小さなグラスがふたつと、もう片方の手にはまだ蓋の開いていない、某会社のロゴマークが刻まれたボトルが一本。
バーテンが目の前で蓋を開け、グラスの中へなみなみと注がれる琥珀色の液体。
「『負けたら飲む』のが原則ルール」
にぃ、と澪が口の端を引き上げると、ダービーの頬が引きつった。
「負けがこむほど酔いが回るのが、お座敷遊びです」
さきほどラジカセと一緒に注文した酒の名前はバカルディ。
その度数、実に四十度。
ダービーはともかく、未成年だから当然未経験の澪がストレートで飲み干せば一発でひっくり返ってもおかしくない度数だ。
ぎょ、とアヴドゥルと承太郎が目を瞠った。
「まぁ、酔い潰れるまでやるのはこっちも時間が惜しい。ましてボーナスゲームですからね……だから、十分でいかがですか?」
十分の間に空けたグラスが少ない方の勝ち。そういうことだ。
「澪! いいかげんにしないか!」
先に痺れを切らしたのはアヴドゥルだった。
年長者として、澪の愚行ともいえる所行に耐えかねたのだろう。そういう優しいところが大好きだ。
「きみは未成年でアルコールに強いかどうかも分からない。一杯で倒れたらどうするつもりだッ!?」
「その時は僕の負けで構いません」
それはもう仕方がない。
自分の肝臓の分解機能に期待するしかない。がんばれ肝機能。
「提案したのが僕なんですから、それくらいの責任は織り込み済みです」
「だからといって、」
「──覚悟、ですか。なるほど」
言い募ろうとしたアヴドゥルを遮るように、ダービーがいつの間にか向かいの席に腰を下ろしていた。
「いいでしょう。ルールはおおむね理解しました。その賭け、受けましょう」
博徒特有のひりつくような緊張感がダービーから伝わってきた。
うっすらと眇められた瞳がこちらを促してくる。
賭けるのならば、言うべき事があるだろうと。
澪は胸元に手を当て、堂々と宣言した。
「このゲームに、僕は『魂以外の』すべてを賭ける」
「──Good!」
宣誓した瞬間、びりっと澪の首筋にも痺れが走った。
口にしてしまえば、もはや誰にも邪魔はできない。
スタンドで手助けしようにも、逆に下手をこいてしまう要因になりかねないからだ。
澪も改めて椅子に座り直し、目の前のダービーを素直に見据える。
ここはダービーの用意した、ダービーの場所だ。
彼が待ち構えていたのだから、そう考えるのが自然である。
仮にこの場にいる人間、どころか見渡す限りの人間全てにダービーの息がかかっていたとしても、何ら不思議はない。
だからこそ、澪は余人が口を挟む余地のないゲームを提案する必要があった。
「では、始めましょう」
カチリ、とボタンの音がする。
ほどなく流れ出す澪にとっては聞き慣れた、耳障りのよい三味線の音色。
勝とうと思う必要はない。リズムに合わせ、間違えなければそれでいい。
シュラシュシュシュ
違えられない前提がある。
澪はDIOの『排除』の対象になっていないから、彼の刺客たちは頭を捻らなければならない。
まわれば 四国は
ジョースター一行に手を出させず、いかに効率良く、傷を少なく、無力化するか。
一度まわれ、ば
「おや……これは、しまった。まだ慣れないようだ」
「一杯目、どうぞ」
金毘羅船々
追手に 帆かけて
シュラシュシュシュ
たまさかジョースター一行を倒す算段がついても、『澪を敵に回さないように』という但し書きがつくと、それは途端に無理ゲーになってしまう。
回れば 四国は
讃州 那珂郡
象頭山 金毘羅大権現
いちど まわれば
澪は自分の身内を傷つけた人間を決して許さない。
ジョースター一行を倒した暁には、敵と定めて牙を剥く澪を相手に四苦八苦する運命が待っている。
それでは意味がない。どれだけ強大無比なスタンド使いであっても、澪のスタンド(?)の前では意味をなさない。
金毘羅石段 桜の
キララララ
振袖島田が サッと上がる
裾には降りくる 花の雲
いちど まわれば
「あ」
「これで互いにいっぱい、だ。面白くなってきましたね」
金毘羅み山の 青葉のかげから
キララララ
金の
「……やりますね」
「取り戻したまでです。二杯目、どうぞ」
そして、澪のそれをかいくぐって攻撃をなしてしまったとしても、それはそれでまずい。
もし澪が死亡してしまえば、それはDIOに自分が殺されると同義だ。
「残り二分だ」
「単純だからこそ、私にも承太郎にも手が出せん」
「ああ、だが……」
いちど まわれば
「ッ、これで三杯、か」
「この気候だと、日本より回りが早そうですね」
お宮は金毘羅 船神さまだよ
キララララ
だから、これは敵スタンド使いにとって絶好の機会といえる。
なぜなら──
いちど まわれば
「うっわ、あー……」
「ふ、ふふふ。このゲームは私の負けです。それは認めましょう」
負けたくせにさほど残念そうな顔もせず、にやりと笑ったダービーはグラスへなみなみと琥珀色の液体を注いだ。
時間は僅か一秒足らず、最後の最後でやられてしまった。
ダービーが三杯。澪が二杯。
澪の勝利だ、それは揺るぎない。
「けれど、ルールはルール。きっちりと飲み干して頂きましょう」
澪は暫し俯き、ほんのりと赤らんだ頬でも覚悟を決めてグラスをガッと掴んだ。
「……もちろんです」
そのまま片手を腰に当て、ぐいっと一気に煽る。
喉が動き、最後の一滴まで飲み干した。
「ごち、そう、さま、でした!」
ダン! とグラスをテーブルに叩き付け、最後に男らしく拳で口元を拭って椅子から立ち上がりながらダービーへ手を差し出す。
「お見事」
ダービーの言葉と同時、あちらのテーブルに散らばっていたコインのひとつが音を立てて盛り上がり、煙のようにシーザーの姿が沸き立った。
それは転がっていたシーザーの身体へ掃除機のように吸い込まれ、やがて血色が死人のそれから賦活する。
「……う」
「ツェペリさん!」
僅かに身じろぎしたことを確認して、アヴドゥルが快哉を上げた。
それらを見届けた澪はダービーに向き直って、
「お付き合い頂き、ありがとうございました」
「なかなか興味深かったですよ、澪様」
頭を下げて、そのまま前のめりにぶっ倒れた。
頭部がテーブルにつく寸前で承太郎が『星の白金』で支え、そのまま抱き上げて移動すると、承太郎が受け取める。
「酒くせぇ……」
吐息に混じる酒精の匂いに承太郎は眉をしかめた。
そう、澪はアルコールが回って完全に目を回していた。
ゆであがったタコみたいな赤ら顔で「世界がめっちゃまわってる~すげー」とかぼそぼそ呟いているが、意識があるかどうか。
まぁ、未成年が始めてバカルディを、しかもストレートで一気に二杯も飲めばこうなるのもむべなるかな。むしろ、シーザーの魂が戻るまでを見届けられただけで奇跡的、である。
しかし、一連のやり取りを見届けた承太郎はある確信を得た。
「テメェ」
ぎん、と承太郎の瞳に怒気がこもる。
「目的は、『これ』か」
「ご明察」
ダービーの笑みがゆるりと深まった。
「承太郎、どういうことだ!」
アヴドゥルのきつい詰問の口調にも、承太郎は揺るがない。
「どうもこうもねぇよ。ダービーは澪を
「私が好むゲームにはスリルが必要だ。互いの身命を賭けた、剃刀の上を渡るようなスリルがね」
澪が言い出したボーナスゲームにはそれがない。
ダービーにも経験のない、言ってしまえば興味の沸かないゲームだ。
だからこそ──ダービーにとって、澪の提案した『ボーナスゲーム』そのものが渡りに船だったのだ。
「そして、キミたちを倒したら、私は澪様をDIO様のもとへ運ばねばならない」
それはDIO配下たちにとって義務のようなもので、違えたらどんなことになるか分からない。
とはいえ、これまでの情報から澪本人にも相当腕に覚えがあることは分かっている。なりふり構わず抵抗されたらダービーはまず無傷ではいられないだろう。
そしてダービーにはもうひとつ危惧があった。それは澪の持つスタンド(?)である。
相手の害意に反応して自分へ向けられるスタンドを無効化してしまう能力を持つ澪が、もし何かのきっかけで成長して『誰かへの害意』にも反応して無効化してしまったら?
それはジョースター一行の魂どころか、これまで彼が蒐集してきた全てのコレクションを一瞬で喪う脅威となる。
だから、ダービーは澪の提案したボーナスゲームを受け入れた瞬間から、このゲームにおける自分の勝利条件を変更した。
経験のない、スリルの存在しない、慣れぬゲームの勝敗ではなく──澪を酔いつぶすことへと。
「澪様がお休みになっている間にお連れできれば、最高じゃあないですか。ミスタ・ツェペリの魂は、私が倒せばそれで済む」
事実、シーザーの魂を取り戻したという安堵と回りに回ったアルコールで、澪は見事にダウンした。事実上の無力化である。
その点において、ダービーは完全に勝利をおさめたのだ。
「ああ、言い忘れていたが」
そこで、ダービーはくるりと指先を回し、ついでのように付け足した。
「私はね、確かにこんぴらふねふね? なるゲームは未経験だったが──」
この可能性を考慮に入れなかったのが、澪の敗因である。
「『飲み勝負』をしたことがない、と言った覚えは……ないんだがね?」
『こんぴらふねふね』で策を弄することはできずとも、『飲み勝負』で相手を潰すことはできる。
澪は──試合に勝って、勝負に負けた。
そんな表現がぴったりだった。
「お、俺は一体……そうだ、JOJOは!」
承太郎はようやく正気に返ったらしいシーザーの声に振り向き、
「ジジイならまだコインだ。動けるならコイツを頼む」
真っ赤な顔で「あんま、う、うごかさないで、あう」と見ただけでヤバい感じの澪を差し出すと、シーザーは慌ててそーっと受け取った。
「澪!? おま、うっ、酒くさっ! どういうことだ!?」
「あんたを助けるのに結構な無理をしちまってな。酒が抜けるまで面倒見てやってくれ」
その言葉で大体を理解したらしい、シーザーはやれやれとばかりに首を振り、柔らかく苦笑した。
「このスカタン。相変わらず無茶ばっかしやがって」
「ご、ごめん、しーざ、ちょ、うぷ、といれ……」
いつのまにか真っ青になった顔をそむけて、両手で口を押さえながらいやなげっぷをしている澪である。
さすがに緊急を要すると判断したらしいシーザーは、くるっと反転するとそこらにいたバーテンに場所を聞き、「悪ぃ! もうちょっと我慢だ!」「あの、あんまゆすると……うぶぅッ」とかなりギリギリな会話をしながらトイレに直行した。あれではしばらく戻れまい。
「──いいだろう、ダービー」
(ある意味では)邪魔のなくなったところで、承太郎はゆらりと指先を上げた。
示す先は、先程までジョセフたちが雌雄を決していたテーブル、その横の小さな箱だ。
「そのトランプカードを取りな、ポーカーでカタをつけてやる」
瞳には、憤怒と覚悟の籠もる怪気炎。
それを受けたダービーは余裕も露わに笑ってみせた。
「面白い! ポーカーは私の最も得意とするゲームのひとつだ!」
負けなどありえないと言わんばかりの確固たる自負を以て、ダービーはその勝負を受けた。
☓☓☓☓☓
トイレで散々醜態を晒し、胃の中が空っぽになった僕はシーザーにおんぶしてもらいながら先程の場所に戻った。お酒ってこわい。
「もう二度とのまない……」
「酒はそんなに怖いもんじゃあないぜ?」
吐いてる間中背中をさすってくれたり、水を飲ませてくれたりと諸々のお世話をしてくれたシーザーはそんな風に慰めてくれるが、そういう問題じゃないのだ。
恥ずかしいし頭ぐらぐらするし、気持ち悪いし足元もおぼつかないし、最悪である。
「勝負、どーなったかな」
「さーな、行きゃあわかるさ」
「せやな」
もう何か言う気力もなく、ぐったりとシーザーに身体を預けて大人しくするしかない。
僕に気を遣ってくれているのだろう、ゆったりとした足取りで戻ると──
「ッ!?」
「なにこれ」
予想外の光景が広がっていた。
ジョセフとポルナレフが復活しているのはまだ分かる。
おそらくは承太郎が勝負をしかけて勝ったのだろう。
だが、不思議なのはダービーが床にひっくり返って泡吹いていることだ。
目の焦点は合ってないし時々痙攣してるし、ついでに「ほぉーらバカラもあるよぉ~? ふひゃ、ひ、ひひひ」と明らかにヤバい言葉を垂れ流している。
それを呆れたような顔つきで見下ろしていたポルナレフが、そこでようやく僕らに気付いたらしい。
「よう、随分と遅かったじゃあねぇか」
「うっせー。こちとら今日の朝ご飯と昼ご飯とアイスティーまで全部お返し(意味深)してきたんですぅ。言わせんなー」
いちおう返事してみたけど、声にも力が入らなかった。くそう。
「はっはー、そりゃいい! これで俺とお仲間だな!」
ポルナレフさんがご機嫌で笑っているのが憎たらしいやら、嬉しいやら。
「バカルディを二杯もストレートで一気飲みするからだ。やれやれだぜ」
「ウォッカよりマシだと思っといて。んで、なんでダービーさんぶっ倒れてんの?」
「ああ、ちぃと脅しが効きすぎたようでな。このザマだ」
聞いてみたところ、承太郎はポーカーで勝負を挑んで勝ったらしい。
しかもブタのカードを、あたかもスゲーカードだと思わせるためにハッタリにハッタリを重ね、とんでもないレイズまでしたらしい。
そして、とどめに凄んだところでダービーはついに戦意喪失。意識ごとスタンドで捕まえていた魂すら逃がしてしまったそうだ。
「あーあ……」
精神崩壊レベルまで追い詰めるなんて、どんなハッタリをしたのかまでは分からないがご愁傷様である。
しかもこれでは何の情報も得られない。
骨折り損のくたびれもうけ、である。
「儂ら、いいとこなしじゃったな」
「昔っから慢心はすんなって言っただろ。ったく」
結局、有効な情報は聞き出すことができないまま、僕らは喫茶店をあとにしたのだった。
『金毘羅船々』は香川県・金刀比羅宮(ことひらぐう)を題材とした日本の古い民謡で、お座敷遊び・お茶屋遊びで有名な曲です