鬼滅の波紋 On Every Street (鬼滅の刃 X ジョジョ1部) 作:ヨマザル
囲炉裏の火が、ぱちりと鳴った。
面を外す。
夜の空気が、頬に触れた。
昔は、目の周りに赤と黒色の隈取を描いていた。
鬼を斬る者として、迫力ある顔を作った。
敵に恐怖を感じさせるためだ。恐怖させ、即断即決で斬ることが、人々を守る事と思っていた。
隣の部屋に、彼女がいる。もう、1年以上も眠り続けている。
竈門禰豆子──弟子の妹。彼女は鬼だ。
だが、まだ斬られていない。
俺の手で斬るべきだった。そう思っていた。
今では、迷っている。昔と同じように。
……思い出す。迷いながら剣を振るっていたころを。
あれはずっと昔、俺が水柱に任命されてすぐのことだった。
あの子は、確かあの時、今の竈門禰豆子と同い年か、やや幼かったはず。
ひなたに出会ったのは、東北だ。雪が静かに降っていた。
細い体に、木綿の着物。袖口は擦り切れていたが、清潔だった。
髪は、後ろでふくらむように結われていて、左右に分かれていた。
手早く整えられたらしいその髪型に、乱れはなかった。
村の外れで、震えて俺を待っていた。
「鱗滝さん……もしかすると、鬼が来るのは、私のせいかもしれない」
ひなたの唇は震えていたが、声は凛としていた。しっかり俺を見て、話していた。
「どういうことだ?」
「わからない。でも、絶対に鬼は私を探している。だって、村に鬼が来るようになったのは、これを持ち始めてから」
俺は、紫色の香り袋を受け取った。
甘くて、焦げていて、どこか懐かしい匂い。
「捨てろ」
「嫌です。これは、親友との……まどかとの思い出の品なの」
ひなたは、まっすぐ俺を見た。
「捨てません」
「だが、捨てなかったら、村を鬼が襲い続ける可能性があるのだろう?」
「私がここに居なければ、鬼はきっとこない。だから私は村を出ます。村を、みんなを守らないと……鱗滝さん、すみません。私を貴方の探索に、連れて行ってくれませんか?」
「……危険だぞ」
「覚悟しています」
皆そう言う。覚悟があると。だが、実際に鬼と顔を突き合わせた時、その覚悟は簡単に失われることも多い。俺は知っていた。
ひなたの息が揺れた。
幼い少女が、なけなしの勇気を振り絞り、強がっている。
あの時、俺は香り袋を返した。
「わかった。その選択は正しい。ついて来るがいい……だが、道中はお前が想像しているよりも、ずっと過酷だ。心せよ」
ひなたは、うなずいていた。体をガクガク震わせながら。
火がまた、ぱちりと鳴った。
鬼の娘は、まだ眠りつづけている。
鬼でありながら、静かに。
俺は、面を戻した
ここは静かすぎる。そう思った。
その時、彼女の兄の足音が聞こえた。
一歩、一歩、しっかりと、歩いてくる。こちらに向かう足音が、聞こえた。
「ツェペリよ、良く聞くがいい──」
師は、俺の『物語の終わり』について話した。
それがいつか、どこかで訪れると。
師の予言では、俺の物語は、
もう、覚悟は済んでいる。父と仲間の仇を討つために必要ならば、俺は受け入れる。
だが、予言は地図みたいなものだ。
たとえゴールが同じでも、そこへ進む道は、自分で選べる。
父が石仮面によってバケモノになり、消滅した。
その日から、俺は道を選び続けてきた。失われた石仮面を探し出し、破壊する道を。
波紋を学び、仲間を失い、命を削って進んできた。
北の地に来たのは、偶然じゃぁない
探索の道が、北の地につながっていたからだ。
そして──
あの少女に出会った。
初めて彼女を見たとき、空は青く、風が強かった。
袴の裾は泥で重く、手足は傷だらけだった。
羽織は派手な柄の男物。 肩が少し落ちていたが、動きに支障はなかった。キビキビと動いていた。
髪は耳の後ろでざっと束ねられ、結い方は粗い。飾り気はない。
顔が隠れるほどの仮面を、髪に差していた。
こちらを見つめる目は、ギラギラしていた。
俺は、あの目を忘れない。
廃寺の門前には、柱が立っていた。そこに板がついていて、何やら張り紙がついていた。高札と言うモノらしい。
彼女は、それを見上げていた。
「新政府布告──夜間外出禁止。治安維持のため、武器の携帯を禁ず……はぁっ?」
彼女は髪にさしていた仮面を懐に入れた。そして、札の柱に足をかけた。一気に登り、札の板を引き剥がす。
バキン!
木が裂ける音。札が地面に落ちた。
彼女は、拾い上げると、膝で折った。
俺は、彼女の仮面の縁を見た。
それは、石製ではない。木でも骨でもないモノに見えた。とにかく、石仮面じゃあない。
「そんなことをしてどうする?目を付けられるぞ」
「そりゃぁ、やるでしょ」
彼女は、札の破片を足で払った。
「命令も、祈りも、制度も。守ってくれなかった物は、壊す。壊して、もっと良く作る。それが私のやり方」
そう言いながら、高札をバラバラにした。
俺は、言葉を飲んだ。 俺は、これ以上壊したくない。
守るものを守り、次代に渡す。それが、俺のやり方だ。
師が語った、俺の物語の終わり。
それは、俺の物語を継いだ誰かの、物語の始まりになるだろう。