鬼滅の波紋 On Every Street (鬼滅の刃 X ジョジョ1部)   作:ヨマザル

1 / 11
二人(プロローグ)

 囲炉裏の火が、ぱちりと鳴った。

 

 面を外す。

 夜の空気が、頬に触れた。

 昔は、目の周りに赤と黒色の隈取を描いていた。

 鬼を斬る者として、迫力ある顔を作った。

 敵に恐怖を感じさせるためだ。恐怖させ、即断即決で斬ることが、人々を守る事と思っていた。

 

 隣の部屋に、彼女がいる。もう、1年以上も眠り続けている。

 竈門禰豆子──弟子の妹。彼女は鬼だ。

 だが、まだ斬られていない。

 俺の手で斬るべきだった。そう思っていた。

 今では、迷っている。昔と同じように。

 

 ……思い出す。迷いながら剣を振るっていたころを。

 あれはずっと昔、俺が水柱に任命されてすぐのことだった。

 あの子は、確かあの時、今の竈門禰豆子と同い年か、やや幼かったはず。

 

 ひなたに出会ったのは、東北だ。雪が静かに降っていた。

 細い体に、木綿の着物。袖口は擦り切れていたが、清潔だった。

 髪は、後ろでふくらむように結われていて、左右に分かれていた。

 手早く整えられたらしいその髪型に、乱れはなかった。

 村の外れで、震えて俺を待っていた。

 

「鱗滝さん……もしかすると、鬼が来るのは、私のせいかもしれない」

 ひなたの唇は震えていたが、声は凛としていた。しっかり俺を見て、話していた。

「どういうことだ?」

「わからない。でも、絶対に鬼は私を探している。だって、村に鬼が来るようになったのは、これを持ち始めてから」

 俺は、紫色の香り袋を受け取った。

 甘くて、焦げていて、どこか懐かしい匂い。

「捨てろ」

「嫌です。これは、親友との……まどかとの思い出の品なの」

 ひなたは、まっすぐ俺を見た。

「捨てません」

「だが、捨てなかったら、村を鬼が襲い続ける可能性があるのだろう?」

「私がここに居なければ、鬼はきっとこない。だから私は村を出ます。村を、みんなを守らないと……鱗滝さん、すみません。私を貴方の探索に、連れて行ってくれませんか?」

「……危険だぞ」

「覚悟しています」

 皆そう言う。覚悟があると。だが、実際に鬼と顔を突き合わせた時、その覚悟は簡単に失われることも多い。俺は知っていた。

 

 ひなたの息が揺れた。

 幼い少女が、なけなしの勇気を振り絞り、強がっている。

 

 あの時、俺は香り袋を返した。

「わかった。その選択は正しい。ついて来るがいい……だが、道中はお前が想像しているよりも、ずっと過酷だ。心せよ」

 ひなたは、うなずいていた。体をガクガク震わせながら。

 

 火がまた、ぱちりと鳴った。

 

 鬼の娘は、まだ眠りつづけている。

 鬼でありながら、静かに。

 俺は、面を戻した

 ここは静かすぎる。そう思った。

 その時、彼女の兄の足音が聞こえた。

 一歩、一歩、しっかりと、歩いてくる。こちらに向かう足音が、聞こえた。

 

────────────

 

「ツェペリよ、良く聞くがいい──」

 師は、俺の『物語の終わり』について話した。

 それがいつか、どこかで訪れると。

 師の予言では、俺の物語は、()()()()()()()()()()()()()()()()ために、むごたらしく終わるらしい。

 もう、覚悟は済んでいる。父と仲間の仇を討つために必要ならば、俺は受け入れる。

 だが、予言は地図みたいなものだ。

 たとえゴールが同じでも、そこへ進む道は、自分で選べる。

 父が石仮面によってバケモノになり、消滅した。

 その日から、俺は道を選び続けてきた。失われた石仮面を探し出し、破壊する道を。

 波紋を学び、仲間を失い、命を削って進んできた。

 北の地に来たのは、偶然じゃぁない

 探索の道が、北の地につながっていたからだ。

 

 そして──

 あの少女に出会った。

 

 初めて彼女を見たとき、空は青く、風が強かった。

 袴の裾は泥で重く、手足は傷だらけだった。

 羽織は派手な柄の男物。 肩が少し落ちていたが、動きに支障はなかった。キビキビと動いていた。

 髪は耳の後ろでざっと束ねられ、結い方は粗い。飾り気はない。

 顔が隠れるほどの仮面を、髪に差していた。

 こちらを見つめる目は、ギラギラしていた。

 俺は、あの目を忘れない。

 

 廃寺の門前には、柱が立っていた。そこに板がついていて、何やら張り紙がついていた。高札と言うモノらしい。

 彼女は、それを見上げていた。

「新政府布告──夜間外出禁止。治安維持のため、武器の携帯を禁ず……はぁっ?」

 彼女は髪にさしていた仮面を懐に入れた。そして、札の柱に足をかけた。一気に登り、札の板を引き剥がす。

 

 バキン!

 

 木が裂ける音。札が地面に落ちた。

 彼女は、拾い上げると、膝で折った。

 俺は、彼女の仮面の縁を見た。

 それは、石製ではない。木でも骨でもないモノに見えた。とにかく、石仮面じゃあない。

「そんなことをしてどうする?目を付けられるぞ」

「そりゃぁ、やるでしょ」

 彼女は、札の破片を足で払った。

「命令も、祈りも、制度も。守ってくれなかった物は、壊す。壊して、もっと良く作る。それが私のやり方」

 そう言いながら、高札をバラバラにした。

 

 俺は、言葉を飲んだ。 俺は、これ以上壊したくない。

 守るものを守り、次代に渡す。それが、俺のやり方だ。

 

 師が語った、俺の物語の終わり。

 それは、俺の物語を継いだ誰かの、物語の始まりになるだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。