鬼滅の波紋 On Every Street (鬼滅の刃 X ジョジョ1部) 作:ヨマザル
独白
ヒュゥゥゥゥゥ──
コォォォオオォ──
「水の呼吸、捌ノ型──
「震え、そして燃え尽きるぞッ 太陽の波紋──
ガジャァアッッ!
瓦が砕け、黒霧が爆ぜる。
刀と拳が、同時に貫いた。
六本の腕が、ばらばらに砕ける。 三つの顔が、別々の方向を向いたまま、 ゆっくりと、沈んでいった。
ツェペリと鱗滝は、二人とも、膝をつき、荒く息をついた。
そして
彼らが薄れる意識の中、最後に見たのは、城下に広がる、焔に燃えた函館の街であった。
「美しい」と思えた。
景色がぼやけ、周囲は漆黒の闇に包まれた。
もうすでに、体の感覚もない。
モラーノ・レヴカースの意識は、消えかかっていた。
二つの雲が、風に吹かれてつながる。その雲が強い風に吹かれ、また分かれる。
そんな雲のように、それぞれの意識が強くなり……
そして、彼らは
……風が変わったな。
お前の爪、いいな。気に入ったよ。切れ味がヤバい。
爪を振り回す、あの鋭さもいい。
でも、俺は……足から行く。踏み込みが大事だ。地面をたたく音がするぐらい、踏み込む。
そこからすべてが始まる。そういうのがいいんだ。
あの夜のこと、覚えてるよ。初めて目覚めた時。
思いと動きがズレる。
体がぶれる。視界も、音も、二重に聞こえる。
呼吸が、一定のリズムでできない。
右手を動かそうとすると、左手が動く。
たまに、思ってもみないことを口にしてしまう。
考えが、ぶれる。
まるで二つの心と体があるように。
俺たちは、一つなのに。
どうして、こうなった?
思い出せ……
土の中で、俺たちは目覚めた。壁の眼……とあの方は言った。
パニックになった俺が大声を上げると、土が崩れ、俺の口の中に土が詰まる。
岩の脈動が、肌を通じて流れ込んでくる。
モラーノ……だった俺の、血への渇望。過去の風と海の記憶。
返垢だった俺が受けていた、血の支配。
それらが、俺の中で交差し、溶けあう。
そして、一つの肉体に収束していく……
体が熱かった。
俺たちに触れるモスキーノ様の手は冷たく、青白く、とても滑らかだった。
彼が、俺たちを埋めた。
そして、今、俺を……俺たちを掘り出した。
俺は、
俺たちは、
……誰だ?
手を見る?この手は……見覚えがある。いやない。
ある……
悩んでいると、声をかけられた。
「目覚めたか。気分はどうかね?」
わが
振り返ると、良く知っている
そうだ、彼は俺たちを作りかえた
「おれおれ……なななにににぃぃい」
俺たちは戸惑った。口がうまく動かない。
俺が、お前が、困惑するのも感じた。
「はい……ふ……ふつう……す」
かろうじて、意味のある言葉を絞り出す。
モスキーノ様は、うんうんとうなずき、訳の分からないことを言いはじめる。嬉しそうではある。
「素晴らしい!それぞれの事を、覚えているかね?君の記憶は、素材だ。君の動きは、記録されているかね?」
しばらく訳の分からないことを浮かれた口調で言った後で、モスキーノ様は俺たちに名前をくれた。
「モラーノ・レヴカース……君の名前だ。大事にするがいい」
「あ……りがと……ご ゴザイまマす……」
俺は混乱しながらも、
でも、
俺の口から出た声。
そこに俺の声は……俺たち……の声は
どこにも、なかった。
モスキーノ様は言った。
「融合は統合ではないよ。つまり、君たちは一つだけど、一つじゃない……でもバラバラでもない。この世に他にいない、素晴らしい素材だ」
そう言って、モスキーノ様は俺たちを鏡に映した。
そこにいたのは、お前だった。俺だった。いや、お前じゃない。俺でもない……
だが、俺達だ……
とても、醜く歪んでいた。俺……お前……俺たち、けっこう見た目に自信があったのに……
お前は……俺たちは、しばらく動かずに鏡に映った姿を見ていた。
一つの体。バラバラの、でも少し溶けかかっている二つの心……
悲しんでいる顔。驚いている顔。
どちらもひどく醜く溶けかかっている。
そんな俺たちが
そこにいた。
俺は頭を抱えようとした。その手が、俺……自分の目をえぐる。
視界が一瞬暗くなり、すぐにまた見えるようになった。
自分の目が、急速に再生されていく。
……こんな事、昔は出来なかった……
……なぜか、再生速度が遅い気がする……
俺は……俺達は、ただの素材だった。
でも、素材にも、痛みはある。
俺は、泣いた。
俺は、笑った。
俺たちは、ただただ泣いた。
それから……突然恐怖が襲った。
返垢の底に潜んでいた血が……何か黒い物。恐怖そのものが、俺たちを攻撃した。
そうとしか言えなかった。
ぶちゅぅうッ!
俺の体が弾けた。
まだ少し残っていた返垢だけの、混じりけのない血が噴き出す。
血が固まり、形を成す。それは酷く不気味な黒い腕となった。黒い腕が、俺の胸から生えてきた。
そして、弾けた俺たちの体に、その拳を叩きつけた。
ぷぅちゅっ!
俺たちの腸が潰れた。
黒い腕は、今度は俺たちの頭をつぶそうとし……背後で見ていたモスキーノ様に気が付いた。
黒い腕が動きを止める。
そして、姿を変える。
手が潰れ、代わりに小さな、血だらけの、黒髪の男の『人形』が現れた。
異常にリアルな、五月人形のように見えた。
だがその時、俺たちはその体が徐々に蒸発しつつある事に、気が付いた。
きっと、残されたモスキーノ様の血が……屍生人のエキスが、『人形』を喰っている……そう思った。
黒髪の男の体が、少しづつ崩れていく……
崩れゆく黒髪の男は、モスキーノ様に向かって、口を開いた。
「これは……興味深い。西洋の鬼……さんですか?」
英語だった。
「私の名は鬼OO無O……鬼の王です……あなた、私のモノを盗ろうとしていますね……許しませんよ……」
そこまで言って、男の体は完全に崩れた。
俺は、意識を失った。
気が付くと、俺は独りだった。
傷は、治っていた。
俺は、立ち上がった。
屋敷には、廃墟のような雰囲気を感じた。
モスキーノ様は、いなかった。
あの男は、俺たちを置いて、逃げた。そう思った。
俺は、屋敷を出た。
村を一つ、喰った。
腹いせだった。
誰かの記憶を喰っても、 俺の中は埋まらなかった。
旅の途中、昔の『俺の一部』と同じ、
青白くて、口が裂けた男……テルと名乗っていた。そいつと、そいつが連れてきた二人の
だが、もうモスキーノ様は、すでにこの国を出ていた。『鬼の王』に会いたくないと、怯えていたからだ。
逃げたのだろう。
奴らは、この国にモスキーノ様がいないとわかると、取り乱して、俺にすがった。
俺を、 “かつての主”だと思いたかったのだろう。
でも、俺は彼らの名を呼ばなかった。
呼ぶ価値がなかった。
彼らは、ただ、生前の自分の残響に引き寄せられただけの、抜け殻だった。
俺は、以前屋敷を訪ねてきた、まどかとかいう小娘を思い出していた。
小娘は、『鬼』と呼ばれるものを何体か連れていた。『鬼』は小娘よりはるかに強いのに、なぜか喜んで小娘に仕えているように見えた。
モスキーノ様は、大喜びでその『鬼』の血を吸った。そして
小娘は、
小娘は数か月屋敷に滞在し、
……生意気な『鬼』が俺たちを襲い、返り討ちにしてやった……
……我が主の命で、生意気な『異国の鬼』を見つけ、襲ってやった……だがやられた……
その後で、モスキーノ様は『魔法の土地』を見つけ出し、そこに俺たちを埋めた。
あの女も、二重だった。
音程が跳ねる声で、感情の起伏が激しい、美味そうな小娘。
音程が安定していて、 感情の起伏が浅い。マズそうな仮面。
二つが、重なっていた。
仮面が独りで奏でる“賛歌”は、 他人の感情を歌うだけで、 自分の感情を持っていなかった。
だから、操ることはできても、共鳴はしなかった。
そこに、小娘の感情が乗ることで、”賛歌”が共鳴する。
『鬼』にムリヤリ言う事を聞かせ、
当時、俺はモラーノだった。一つだった。
だから、彼女の事が良くわからなかった。
今の俺は、俺たちは、小娘と同じ『二重』。
今なら分かり合えるかもしれない……
だから、殺そうと思った。
俺は抜け殻どもに、函館にいるマドカという少女に出会い、指示を仰げ……と伝えた。
自分も、こっそり跡を追った。
マドカを、始末するために
函館には、榊という若造がいた。
若造の中に、 まどかの記憶があった。
だから、入ってやった。
器としては、 不快だった。
肉体の反応が鈍く、 体も未熟。精神の抵抗力は弱いくせに、 妙に感情が濃く、押さえつけるのに手を焼いた。
マドカの記憶に触れた瞬間、 彼は泣いた。
その涙は、 俺の中で、 ただの雑音だった。
そういえば、そのとき、小さなガキがいた。
ガキは、 俺の中の“マドカ”を見抜いた。
生意気に、俺に抵抗しようとしやがった。
だから、喰ってやった。
それでも、 空っぽだった。
だから……
俺は、榊に入ったまま、奴の体と心を借りた。
俺は、“誰かの残響”でできていた。
そりゃそうだ。
俺の声は、
どこにも、なかった。
……Beat、止まったか。
熱い。
痛い。
……太陽の熱が、俺の体を内側から溶かしている。
俺たちは、どうなっている?
これで、終わりなのか?
……終われるのか?
モスキーノ様の声が、
まだ耳の奥に残っている。
「融合は、統合ではない」
でも、
俺たちは、
混ざりたかった。
……いや、違う。
最初は、違った。
融合したのは、
自分たちの意思じゃぁなかった。
岩の中で、
肉体が重なり、
記憶が流れ込み、
俺たちは、
互いを必死に拒んだ。
でも、混ざってしまった。
お前の声がうるさかった。
お前の沈黙が、
息苦しかった。
でも、
それでも、
一緒に立ち、
一緒に喰い、
一緒に剣を振った。
そのうち、
視界のずれが、聴覚のずれが……
思考の乱れが、
少しずつ、
馴染んでいった。
もしかしたら──
最後のあの瞬間、
俺たちは、
本当に、
一つに、
溶けかけていたのかもしれない。
返垢でもなく、
モラーノでもなく、
ただ、
“俺”だった。
それが、
どんな姿だったのかは、
もう思い出せない。
でも、
あの一歩だけは──
確かに、
俺たちのものだった。
そう思った。俺は、俺たちは、俺たちが二つに分かれていくのを感じていた。
ひどく、眠かった。
……暗い。
目が、開いているのか、閉じているのか、わからない。
肩が、重い。
足が、沈む。
さっきまで感じていた気配が、
遠ざかっていく。
光が、
二つ、
瞬き、
消える。
そして、
別々の場所から──
二つの意識が、
ゆっくりと、
浮かび上がる。
「……ここは……」
「……ツェペリ……」
自分の声が、
自分のものとして、
戻ってくる。
名残 灯弥。
モラーノ・ビート。
それぞれの名が、
それぞれの胸に、
静かに浮かび上がっていた。
もう、混ざっていない。
もう、返すものもない。
ただ、
それぞれの終わりが、
それぞれの形で、
いちど浮かび上がりかけたそれが、
ゆっくりと──
沈んでいく。
……思い出した。俺は、名残 灯弥。
そう呼ばれていた。
でも、誰も、俺の名前を呼ばなかった。
家では、父はずっと黙っていた。
母とは、目を合わせることもなかった。
弟が笑うと、
俺も笑った。
弟が転ぶと、
同じ場所で転んだ。
そうすれば、
何かが伝わると思った。
声は、届かない。
でも、動きなら、
きっと、伝わる。
そう思って、
誰かの歩き方を真似た。
寺で、
参道で、
夜の道で。
何百人分の歩幅を記録した。
でも、誰も振り向かなかった。
俺は、誰にもなれなかった。
ある日、いつもの通り誰かの真似をしていると、背後から声がした。夜だった。
「君は特別だなんだね。人の動きをそっくりそのまま残せる。面白いね。いつか僕の真似をすることも、できるようになるのかな?」
その人は、恐ろしかった
「ご褒美に、僕の血をあげようか。受け入れれば、君は永遠になる……僕を裏切らなければ……。いつか、ほんのチョッピリでも僕をまねることが出来たら、もっと血をあげようね」
俺は、血を受け入れた。
そうすれば、
誰かの中に、俺が残ると思った。
その人に、殺されずに済むと思った。
その人の血が、欲しかった。
でも、
俺の中に残ったのは、
誰かの声ばかりだった。
俺の声は、どこにもなかった。
俺は、
誰かの刀を真似て、
誰かの呼吸を写して、
誰かの癖をなぞって、
それで、ようやく立っていた。
でも、
それは、俺じゃなかった。名前も、いつの間にか無くしていた。
だから、新しい名前を頂いた。
返垢。
俺は、その名を誇りに思った。
“返す垢”──
残ったものを、
返すだけの存在。
俺は、
誰かの残り香を、
返していただけだった。
それが、俺の“声”だった。
でも、
最後に気づいた。
模倣は、それだけじゃオリジナルに近づけない。むしろ、遠ざかるかもしれない。
俺は、誰にもなれなかった。
俺の拳は、
いつも一拍、遅れていた。
俺の踏み込みは、
いつも逆足だった。
俺の呼吸は、
誰のものでもなかった。
だから、
俺は、俺のまま、終わる。
模倣じゃない、
最後の一歩をふむ……
それが、
俺の“本当の動き”だ。
俺は、崩れかかった体を必死に起こし、足を前に出した。
足が、しっかり地面を踏みしめた感触がある。地面が、温かい……
次の瞬間、目の前が暗くなった。
モラーノは、再び、ほんのひと時、浮かび上がった。
目の前は暗いままだ。だが、近くに、懐かしい「友だったもの」の血の匂いがする。
悲し気に、こちらを見ているのが、わかる。
……風が変わったな。
そう言うと、ツェペリはいつも笑っていた。
「またかよ、モラーノ。お前の読む“風”の方向は、気まぐれすぎる。あてずっぽうだろ?」
ツェペリ、お前はそう言う。でも、俺にはわかるんだ。心の目で、見えてたんだ。
船の軋み、帆の張り、波の音。
それが少しでも変わると、胸の奥がざわつく。方向を読むなんて、簡単だ・
あいつは、俺の“勘”を信じてくれた。
俺は、あいつの“地図”を信じた。
それで、どこまでも行けると思ってた。
下らないことも、沢山したな。
モスキーノ博士は、変わった人だった。
博識で、優しくて、でもどこか、遠くを見てた。
紅茶を淹れる手つきが、やけに丁寧でさ。
俺たちが甲板で騒いでると、
「静かに。茶葉が怒る。怒った茶葉から抽出した茶は『辛い』」って、真顔で言うんだ。
ツェペリの親父さんとも、よく話してた。
二人で夜通し、生命の不思議、人間の脳の真の可能性の話をしてた。
変なことを話している、変な人だと思った。
「正しく使えば、救えるはずだ」
「人間は、もっと強くなれる」
彼はそう言ってた。
俺には、難しいことはわからなかったけど──
あの人の目は、嘘をついてなかった。
だから、信じてた。
あの夜までは。
嵐だった。
船が傾いて、灯りが消えて、
甲板が裂けて、
モスキーノ博士が、仮面をかぶった。
俺は、止めようとした。
でも、間に合わなかった。
彼は笑ってた。
「これで、皆を救える」って。
そして──
ツェペリの親父さんにも、仮面を押しつけた。
叫び声が、風に消えた。
俺は、動けなかった。
そして、喰われた。
石仮面は、人に力を与え、そして怪物にする……
それを、初めて理解できた。
遠くでツェペリが、見てた。
目が合った。
あいつは、逃げた。
それでいい。
あれは、奴が自分の命を捨てて、俺を選べるような夜じゃなかった。
俺は、死んだ。
……はずだった。
目が覚めたら、
モスキーノ様がいた。
「君は、船乗りとしても、素材としても、大変優秀だ」
そう言われた。
俺は、もう人間じゃなかった。
でも、あの人の声は、変わってなかった。
「研究しよう。太陽も、血の衝動も、克服できるはずだ……」
彼はまだ希望を持っていた。紅茶の香りも、まだ覚えてた。
だから、従った。
モスキーノ様について、世界を回った。
アフリカのサバンナ、中東の砂漠と市場、インドの密林、中国の街……一度などは、こっそり故郷に帰った事もある。
懐かしい母を探し、見つけて……そして美味しく食べたこともある……
その後、こうやって日本に来て、
いろんなものを喰った。
鬼狩り。
村人。
俺は、記憶を喰った。
でも、どれも俺のものじゃなかった。
俺の中には、誰かの声ばかりが響いてた。
返垢と融合させられたとき、
頭が割れるかと思った。
俺たちは、混ざらなかった。
でも、混ざれと言われた。
“完全体”になるために。
俺は、誰かの技を真似て、
誰かの声を喰って、
誰かの顔で笑って、
それで、ようやく立ってた。
でも、
それは、俺じゃなかった。
俺は、
何人分の命を喰った?
何人分の記憶を、踏みにじった?
ツェペリ。
お前の拳、効いたゼ。
だが、あったかい。
昔何度も殴りあった。あの頃よりも効いたし、熱い……
俺の中に残ってたのは、
あの夜の恐怖じゃない。
お前と見た星空。
お前の笑い声。
それだけが、
俺の“本物”だった。
Beat……止まったか。
なら、これでいい。
風も……やっと、止まったな。
……錨を下ろそう……
……