元プロ野球ドラフト候補が何故か国見比呂の息子としてMAJOR 2ndの世界に転生して再びプロ野球選手を目指してみた   作:意思を継ぐ者

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中学1年生編
第1話 描いた夢とここにある今


僕の名前は国見悠太……。

私立風林学園中等部、通称・風林中に通う中学1年生だ。

極度の運動音痴に加え、身長もそこまで高くなければ、かと言って勉強が特別できるわけでもない。

ガリガリで腕っぷしも弱く、常にボソボソと小さい声で喋るからかクラスでは陰キャ扱いされている。

そんな僕は未だにプロ野球で現役を続け、レジェンドと呼ばれる国見比呂と元美人CAとしてテレビにも紹介されたことのある国見春華(旧姓は古賀)の長男として産まれた。

たが決して僕は父さんの全盛期を目に焼き付けたわけじゃない。

だけど国見比呂、茂野吾郎、佐藤寿也、橘英雄、眉村健の五人は日本を飛び越しあの野球人の憧れであるメジャーリーグで常にタイトルを争い、日本野球代表の侍ジャパンでも大活躍し日本野球黄金世代の代表格となったのは野球に興味のない僕でも知ってる。

母さんはお嬢様だったらしく、実家はかなりの大金持ちだし、プラスして国見比呂を父に持てば金銭的に不自由することが一切ない。

食べたい料理は食べれるし、好きなモノは買ってもらえる。

これだけ聞けば、何不自由のない生活をしているだろうと思うだろう。

でもそれ以上に国見比呂の二世という肩書きが重くのし掛かることが多々ある。

これも二世の宿命か……小・中と体育の授業なんかは地獄でしかなかった。

国見の息子だから野球が上手いとか運動神経がいいはずだという決めつけをされてきて、辛い思い出しかない。

まぁ同じ二世である茂野吾郎の息子の大吾や佐藤寿也の息子の光がいたから、中和されてあの程度で済んだのかもしれないけど……。

そんな事もあって小学生の時は全く楽しめなかった。

それは中学生になって丁度1ヶ月経ったけど未だに友達すらまともにできないし学生生活を楽しめてないのは変わっていない。

 

今日もきっと代わり映えのしない1日なんだろうなぁ……と思いながら朝食のフレンチトーストを食べていると母さんが俺の悩みの種を口にした為、食欲が失せる。

 

「悠太、そういえばもう5月だけど部活は決めたの?」

 

部活とか何の意味があるのか甚だ疑問だ。

授業で疲れた後に活動するし、下手すりゃ貴重な休日すら潰れる可能性もある。

本当なら帰宅部のまま3年間過ごせれば一番いいのだが、父さんは「好きなことやらせればいい」母さんは「できるなら野球をやってほしい」スタンスは違えど部活動に入ってほしいという意見は一致しているから厄介なのだ。

 

「あ、うん……いや、まだかな……」

 

「そっか……やっぱり悠太はやっぱり野球嫌い?……」

 

「野球が嫌いとかそういうわけじゃないんだけど、運動全般得意じゃないから……」

 

母さんには悪いけど僕が入るとしたら文化系になってくるだろう……。

まぁそれでも十中八九は幽霊部員になるだろうが……。

 

「ご馳走さま……」

 

まだ朝食を食べきってはないけど、箸を置いた。

 

「えっ? もういいの? 体調でも悪い?」

 

「いや……あんまり食べると1時限目から眠くなっちゃうから……」

 

と、いうかそんなのは建前で今は朝食という気分にならないのだ。

心配そうな母さんを無視するように僕は椅子の横に置いてあった鞄を手に取ると台所を後にする。

 

「行ってきます」

 

「気をつけてね」

 

「うん……」

 

僕は靴を履き、玄関から家の外に出ると深いため息をつく。

風林中まではバスで通学していて、バス停は家から歩いて数分しかかからない目と鼻の先だ……。

体も気分も重い。

学校なんて退屈だしダルいし休みたいなぁ……。

バスが来なければ休めるのになぁ……。

だけどいつも通りにバスは来る。

 

とここまでが毎日のセットだ。

僕は到着したバスに欠伸をしながら乗り込むと空いてる席がないか車内を見渡す。

 

「あっ! 悠太君! ここ空いてるよ!」

 

奥から2番目の席から大きな声で僕の名前を呼んでくれたのは小学生の時から一緒だった佐倉睦子さん。

華奢でくりっとした瞳にぱっつんの前髪プラスみつあみ、さらにかわいらしい顔立ちということもあって男子の人気も高い。

 

「睦子さん……ありがとう」

 

僕は睦子さんに感謝を述べると隣の椅子に座る。

 

「そういえば悠太君とこうしてまともに喋るの小学校以来だね」

 

「あぁ……そうだね……」

 

というか小学生の時からそこまで睦子さんと喋ったこともなかったけど……。

何故かって?……女子と話すの恥ずかしいし、そもそも僕みたいなポンコツと喋っても楽しくないだろうし周りから冷やかされたりしたら最悪だし……。

 

「ところでさ、悠太君は部活は何部に入ったの?」

 

「う~ん……それがまだ決めてなくて……」

 

「えっ? あれそろそろ決めないとヤバイよ もし良かったら野球部に入らない? 私も茂野君もいるし今、1年生の数も少ないから3年生になる頃にはレギュラーになれる確率高いし!」

 

あー……絶対に言われると思った。

睦子さんはこう見えて小学校から三船ドルフィンズに所属していた野球女子なのだ。

 

「いやいや、ちょっと待ってよ……睦子さんだって僕が運動神経悪いの知ってるでしょ……大体、野球本格的にやったことすらないんだよ? さすがに無理だよ……」

 

僕は慌てて、その勧誘を断る。

野球部なんて真っ平ごめんだ。

しかも風林中の野球部は何だかんだ地区内では結構強い。

そんなところに入るだなんて想像しただけで恐ろしい。

 

「大丈夫! ちゃんと手取り足取り教えてくれるから! そうだ!! 今日の放課後、紅白戦あるんだけど観に来ない!?」

 

もうこうなったら「観に来ない?」ではなくて「観に来なさい」と言ってるようなもの……。

なんか断りにくいし、テキトーに流し見して帰ればいいか……。

 

「まぁ……観に行くだけなら……その代わり野球部には入らないよ?」

 

「分かってるって!じゃあ約束だよ! 」

 

「う、うん……」

 

約束してしまった……。

今日なんて最後の科目が体育で疲れるから早く帰りたいのに萎える。

しかもよりによってソフトボール……。

何でも球技大会はうちのクラスはソフトボールで出場するらしく隣のクラスと今日は合同体育なので試合をするらしいのだ。

僕はその場で深いため息をついてから体育の授業までの記憶が全くない……。

一応、数学や国語の今日習った授業内容自体はノートには書いてあるのだが……。

体育の時間が嫌すぎてずっと鬱でしかなかったから頭に入ってこなかったのだろう。

 

そして今、僕はソフトボールの試合でライトを守っている。

何故、ライトかって?

ライトが一番打球が飛んでこないってどこかで聞いたことがあったから……。

回ってきた打席は全て三振……当たる気がしない……。

そんな僕に対するクラスの視線は冷ややかなものだった。

打撃では足を引っ張りまくったから守備では何とか迷惑をかけたくない。

どうか打球が飛んで来ませんように……。

 

しかし神様は無情だ……。

最終回、ランナー二塁三塁、一打逆転サヨナラ負けの可能性がある状況で打球は僕の方に飛んできた

 

ーゲッ!? 飛んできた!?ー

 

打球は強いわけじゃないし、ほぼ真正面だけど……。

 

ーうわっ!?ー

 

コツンと鈍い音がするとおでこに痛みが走る。

 

そこからのボールの行方はわからないが僕の珍プレーで僕らのクラスがサヨナラ負けしたことだけは確かだ。

 

ークッ!……ー

 

僕は唇を噛むと歯軋りして寝転んだままグローブを外して叩きつけた。

だからやりたくなかった。

こうなることは最初から分かっていたのだから……。

 

「あら大丈夫? こりゃまた派手にやったねぇ」

 

セカンドを守っていた野球部で同じクラスの沢弥生が僕に手を差し伸べるが僕はそれを拒絶し、自らの力で立ち上がると今度は投手をしていたこれまた野球部の相楽太鳳が落ち込む僕に追い討ちをかけてくる。

 

「悠太きゅんさぁ 初心者とはいえ、さすがに今のはないわ~ 真正面じゃん ホント、センスないよねぇ君」

 

「す、すいません……」

 

悔しい……。

悔しい……悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい……悔しい!!。

 

訳が分からなくなるほど心の中でそう叫んだ。

 

ー俺は……俺は!!……あれ?……俺?ー

 

いつもどこでも一人称は僕としか使ってこなかったのに心の声とはいえ「俺」と使ってしまった自分自身に違和感を感じたその時だった。

俺の身体の中で何かが爆発し、頭をハンマー殴られたような感覚に襲われた。

もちろん殴られた訳ではなくあくまで感覚なのだが。そこから俺の脳内にある映像が鮮明に映しだされる

そしてその映像は俺の記憶として雪崩れ込んできたのだ。

今の俺とは顔も体格も何もかもが違う……。

それでも自分には分かる。

 

ーこれは僕……いや、俺だ!ー

 

甲子園で躍動する自分の姿……。

そう言えば、俺は最速152キロの速球と落差の大きいフォーク、そしてカットボールとチェンジアップを駆使して3年春の選抜大会は準優勝、夏はベスト4。

さらに主将、打っては4番投手兼外野手として高校通算本塁打は55本をマーク。

夏の甲子園でも打率523を記録し190㎝と身長にも恵まれたこともあり上位指名間違いなしと言われた有力なドラフト候補だった。

 

ーでも……この後、プロには行けなかった……ー

 

そう……俺は投げすぎで肩はボロボロになってしまっていたのだ。

結局、夏の大会の準決勝の途中で肩がある悲鳴を上げ、途中降板しチームはあっさりと敗退した……。

野手としてドラフトを目指すも時既に遅し。

強打の野手としても注目されていたとは言え、肩に爆弾がある故障もち選手を貴重な支配下の枠を使って獲得する球団は現れなかった。

スカウトたちは恐らく、指名を見送って大学や社会人での回復具合見たかったのだと思う。

 

でも普通に考えたらおかしい……。

俺は中学生になったばかりのはずなのに何故、高校野球をやってるのだろう……。

年齢的に辻褄が合わないが俺の体験した記憶であるのだけは間違いはない……。

ソフトボールをおでこに当てておかしくなってしまったんだろうか……。

そして何より、野球がしたい……。

今まで全く興味なかったはずなのに野球への情熱と知識までもがアップデートされていく。

 

ー本当に俺はどうしちまったんだ?ー

 

とりあえず教室に戻って終礼をしなければ……。

もう他の奴らの姿は全くなく、きっと既に教室に戻ったのだろう。

 

しかし教室に戻ると、俺を待っていたのはクラス中からの冷たい視線だった。

 

「おい、国見! お前のせいで負けたんだから謝れよ!」

 

クラスメートの一人がそういうと、手拍子とともに「謝れ」コールが起こる。

ダセぇガキどもだ……相手するだけムダかとも思って無視しようかとも思ったが、クラス中にやられるとさすがにうるさい。

 

「クソガキ共がガタガタうるせぇなぁ! お前ら、人を戦犯にする前に相手も素人が混ざってるザル守備だったのに貧打戦になっちまった自分たちの責任は皆無だとでもいいてぇわけか? あ?……」

 

そもそも俺だけが戦犯のようになっているが、相手も素人がいるのにも関わらず、接戦になったのは「謝れ」とコールしてる奴らも大して打てなかったからだ。

その結果がサヨナラ負けなのだから、自分のことを棚に上げるとはまさしくこのことである。

 

「それと相楽太鳳だったか? 誰がセンスねぇって? 外角に投げたら流し打ちされる可能性高くなるに決まってんだろうが 人をバカにする前に俺のとこに打たれる可能性が高まるようなコースに投げるお前のクソ配球を何とかしたらどうだ?」

 

俺の思わぬ口擊でクラス中が静まり返る。

まぁそらそうだ。

今まで教室の片隅でひっそりとしていた陰キャだった俺がいきなりドスの効いた低音ボイスで一喝したのだから。

しかしこの「女」だけは違った。

 

「はぁ!? あんたさ、自分のエラーで負けたんでしょ!! 何なの、その態度!」

 

キッと目付きが鋭くなり、太鳳が俺に詰め寄る。

いい度胸だ……もちろん女を殴るなんてダセぇことはしないが口喧嘩程度なら罰も当たらないだろう。

俺はそんな自分の意見を堂々と言える奴が男女問わず嫌いじゃない。

一触即発……クラス中が俺と太鳳の言い合いの傍観者となっていたが弥生がこの言い合いに割って入る。

 

「ハイハイ、太鳳も悠太もその辺にしときな これが球技大会本番じゃなくて良かったね で、みんなもいいんじゃない?」

 

「でも弥生!……」

 

「あんたの気持ちも分かるけどさ、悠太だってやりたくてエラーしたわけじゃないし野球やソフトボール未経験なんだからそこは仕方ないんじゃない? バカにしてイジったのもこっちからなんだしさ……」

 

「そりゃそうだけどさぁ……」

 

「さぁみんなも早く席に着かないと先生そろそろ来るんじゃない?」

 

弥生がそう言うとクラス中がぞろぞろと着席しだす。

沢弥生か……あれだけの修羅場を波風立たずに仲裁したか……。

この女、ただ者ではないな……。

太鳳も明らかに不満そうな感じだったが、弥生の仲裁のおかげで渋々と着席して事なき事を得た。

俺も少し熱くなってしまった部分はある……弥生に迷惑をかけてしまったので後で機会があれば感謝の言葉でも伝えておくか……。

 

終礼が終わるとクラスのみんなは部活動に行く者、帰宅部としてそのまま帰る者の2パターンに別れる。

俺はそのどちらでもない……。

スマホを取り出し、「知らない 記憶」などで必死に検索をかけていた。

そこで気になるサイトを見つけ、タップする。

そこには前世の記憶について書かれていた。

そのサイトよると子供のうちは前世で強く関わりを持っていた物事を現世で行い、その過程で何かきっかけがあれば前世の記憶が蘇ることがあると書かれている……。

 

ー前世か……ー

 

前世で野球をやっていて、今日のソフトボールの試合でエラーしてバカにされた悔しさが引き金にでもなった…思い出したのだろうか……。

だが思い出したのは野球関連だけで例えば、名前とかどこでどう亡くなったとかは全くわからない。

 

俺は机の中に入っていた部活動の入部届けの用紙を取り出すと、希望欄に野球部と記入する。

投手でも野手でもなんでもいい……俺はもう一度、プロを目指したい。

そして何より野球がしたい。

 

ーどうやら俺の前世は相当な野球好きだったらしいー

 

そう言えば、すっかり忘れていたが野球部の紅白戦を見学しに行くと睦子と約束してたんだった。

まぁ試合後にでもこっそりと入部届けを提出するかな……。

とにかく急がないと時間的に紅白戦は始まっているはず。

俺は駆け足で野球部のグランドへと急ぐ……。

そしてバックネット裏に到着して戦況を確認する。

どうやら3年生主体のチームと1、2年生の合同チームで紅白戦をしているようだ。

俺が知っているメンツも試合に出場しているようで茂野大吾が9番捕手、睦子が8番右(ライト)、太鳳が7番(ショート)、弥生が6番二(セカンド)で名前を連ねている。

 

皆、頑張ってくれ……。

祈るような気持ちでジッと俺はグランドを見つめた。

 

「あれは……」

 

そして現在の戦況は7回の裏で弥生が二塁ランナー、そして太鳳が一塁ランナーか……。

 

ーん? 7回裏?……ー

 

もう最終回だと!?……これでは観戦もクソもないじゃないか。

スコアを見ると試合は2-0で3年生主体チームがリードしている。

そこそこ強いと評判の中学野球部の3年生主体チーム相手に接戦なら1、2年チームも中々健闘しているのではないだろうか。

でもここで次の打者は睦子か……。

睦子の打撃を見た事はないし、マウンドにいる投手の球も見たことがないから確かなことは言えないがさすがに上級生の球を打つのは厳しいだろうと予想していた時だった……。

ふと主審をしている男と目が合う。

 

「タイム!」

 

急に主審がタイムを取り、こちらを振り向いたのでグランド上の視線が俺に集まる。

そして主審はタイムを取ると杖を使ってヨタヨタしながら近づいて俺の目の前でピタリと立ち止まった。

 

「もしかして君が今日、野球部の見学に来る国見君かな? 話しを聞くところによると何でも初心者のようだね」

 

「はい……」

 

初心者か……。

まぁ確かに現世ではまともにプレーしたことはないしそういうことで良いだろう……。

 

「野球のルールは知っていますか?」

 

「はい それは把握しています」

 

「そうですか 私が監督の天野です 実は今、見ての通り紅白戦の最中でね せっかく来たわけだし、もし良ければ打席に立ってみませんか?」

 

睦子の代打というわけか……。

こっちは野球部に入る為に来たのだから良いアピールにはなるが睦子のアピールチャンスを削ることになりかねないからあまり乗り気になれない……。

「打席に立ってみませんか?」というよりは立ちなさいと言ってるようにしか聞こえないし、プレーも中断してるからあまり長引かせるのは迷惑になる。

 

「分かりました……」

 

渋々、了承した俺はグランドの中に入ると打席に向かうと睦子が俺にバットとヘルメットを渡し、バツが悪そうにしている俺に一言こう言った。

 

「何辛気くさい顔してんの! 打てなくても誰も文句言わないから、思いっきりバット振ってきなよ! 頑張って!」

 

初心者を代打に出されたら誰でもいい気分はしないだろうに睦子はそんな事を微塵も感じさせずに俺に渇を入れてくれたのは意外だった。

 

「分かった……任せておけ」

 

快く送り出してくれた睦子の分まで……。

俺は並々ならぬ闘志を燃やしながら右打席に立つ。

前世では左利きの左投げ左打ちだったが今は完全なる右利きの右投げ右打ちだ。

「お願いします!!」

 

右だろうが左だろうがわざわざフォームを変える必要性はない。

前世の時と同じようにバットを肩と顔の付近に立てて俺は構える。

 

相手投手は3年生、俺は1年生なうえに素人だと思っているということは変化球は捨てていい。

恐らくストレート三球勝負でくるだろうから、ブランクがあるとはいえ焦ることはないだろう。

 

ちなみに俺は前世の時は関西にある某球団の選手の打撃理論を参考にしていた。

名前は伏せるが、三振しない男で話題のあの選手だ。

耳から最短距離でバットを出せ……つまり上から叩く大根切りを推奨している指導者も多い中、俺はコースや球種によって3種類のスイング使い分けている。

3種類とは、『上から叩く』大根切り、『投球ラインに沿ってバットを入れる』レベルスイング、『下からバットを入れていく』アッパースイング。

これを使い分けれるようになってから飛躍的に打撃成績が向上したのだ。

 

投手が投球モーションに入ると俺はバットを握る手にギュッと力を入れる。

初球から打とうかと思っていたが、まずはどの程度の速さのボールなのか様子を見ることにしてみるか……。

 

綺麗なオーバースローから放たれた力強いボールがど真ん中を通過し、ストライクのコールがされるとベンチからは「振っていけ!」などと檄が飛ぶ。

 

まず思ったのは「純粋に速い……」。

初心者にも容赦なしか……。

しかし所詮は中学生だ。

高校野球を経験しドラフト候補にまで名前の挙がった俺なら苦戦するほどじゃないはず……。

だが、ブランクのせいかメチャクチャ速く感じる……。

とにかくタイミングを早めに取って始動しないと振り遅れてしまう……。

 

2球目は若干インコース寄りの高めのストレート。

 

本来はホームランボールのはずだが……。

 

 

ーよし! 打てる!ー

 

そう思って振り切ったものの一塁線にスライス気味に打球が飛んでいき外野の内野の境目あたりのファールゾーンギリギリにポトリと落ちる。

今度は「惜しい!」「当たる! 当たる!」とベンチから声が聞こえて来るが、今の俺はそれどころではなかった。

 

ーん?……振り遅れてるのか!?ー

 

確かに中学生にしてはスピードも球威もあるが少し早めにタイミング取ったのに詰まらされてしまった事に違和感を感じ始めていた……。

だが泣き言など言っている暇などない。

2ストライクに追い込まれてしまっているのだ……。

まぁいい……あれでも詰まるなら、さらにタイミングを早く取って思いっきりバットをフルスイングするだけ。

 

3球目は若干内角よりの低めのボールで見逃せばストライクとコールされてもおかしくはないボールだ。

 

俺はアッパー気味にバットを振り上げる。

 

ーよし! タイミングは完璧! しかも真芯だ!ー

 

完璧に捉えた打球の行方を俺は一塁に走りながら追いかけたのだった。

 

 

 

 

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