元プロ野球ドラフト候補が何故か国見比呂の息子としてMAJOR 2ndの世界に転生して再びプロ野球選手を目指してみた   作:意思を継ぐ者

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第2話 1からのスタート

もう日が暮れ始めていた……。

紅白戦が終わり、俺は自ら志願したボール磨きをしつつも悔しさ、もどかしさ、絶望感が入り交じった何とも言えない感情に支配される。

それもそのはず……結局、俺が捉えたと思った打球はショート後方へのフライになり背走で呆気なくキャッチされてしまったからだ。

 

ー完璧だったはずなんだがな……ー

 

前世であれば左中間真っ二つの打球になったはずなのに……。

その原因は最初はブランクにあると思っていたが、きっとそれだけじゃない。

まず今の俺はまともにスポーツをしてこなかったのもあって腕力や背筋力など圧倒的に筋力が不足している。

だからバットも重く感じてスイングが鈍くなり差し込まれた……。

そして身体のキレも体力もなければ、身長だって低いわけではないが高いというわけでもない。

今は前世の俺ではないのだと嫌でも思い知らされてしまったのだ……。

前世と同じ感覚で野球なんてやっていたらプロなんてまた夢の夢。

とにかく一から身体を鍛え直さなければ話しにならない。

 

「惜しかったねぇ まさかエースの江口先輩の球をジャストミートするとはね」

 

いつの間にいたのだろう……。

俺がふと顔を上げると弥生が立っていた。

他の1、2年生はトンボでグランド整備をしていたはずだが終わったのだろうか。

 

「そりゃどーも そんなことより今日はありがとな」

 

「ん? 別に感謝されるようなことした覚えはないけど?」

 

「いや、終礼前に太鳳やクラスの連中と喧嘩になりそうだったのを止めてくれたからな」

 

弥生がいなかったらと考えるとクラスメイトの男子には手が出ていたかもしれないし、そうでなくてもあの程度の口喧嘩で済んだのは仲裁してくれた弥生のおかげでしかない。

 

「あぁ 先生来てあれじゃめんどくさくなると思っただけ でも悠太が感謝するって言うんなら、そのお礼にあんたのこと教えてくれない? 誰にも言わないからさ」

 

この女、ちゃっかりしている……。

早かれ遅かれツッコまれるとは思っていたがそう来たか……。

とりあえずトボケておこうか。

 

「教える? 何のことだ?」

 

「ふ~ん 私や太鳳、2年生たちですら苦戦した江口先輩のボールをアウトになったとは言え、真芯で捉えるなんてマグレでもできないと思うけど? 経験者でしょ? 何で隠してるの?」

 

あの打席一回で経験者だと見抜かれたか……。

沢弥生の洞察力と観察力恐るべし……。

 

「親から教わった……お前も俺の親がプロ野球選手だってのは知ってるよな?」

 

「へぇ~ ほんの数時間前に素人が投げたソフトボールで無様な三振してた人間がいつ親から教わったのか教えてくれな~い?」

 

俺は暫く無言になり返答を考えたのだが、良い言い訳が見つからない……。

さて、どうやって乗り切ろうか……。

 

「ナメないでくれる? タイミングの取り方やアプローチの仕方、フォロースルー……はっきり言って野球をやったことないとは思えないんだけど?」

 

さてどうしたものか……。

ここは変に誤魔化すより、敢えて本当の事を言ってみるか?……。

取ってつけたような言い訳をしたところで弥生からは逃げ切れないだろう。

かなりリスキーな賭けではあるが、もしかしたら逃げ切れる可能性は本当の事を言ってみる方が高いかも知れない。

「頭のおかしい奴」で追求がなくなることを願って……。

 

「なら本当の事をお前だけに教える だだ誰にも言わないことが条件だ」

 

「はいはい いいから早く言いな そろそろ皆が戻ってくる頃だからさ」

 

「俺の前世は甲子園に出場してプロにも注目されるような奴だった……どうもその前世の時の記憶と人格が現世にも出てきちまったみたいでな 江口さんから打った打球……あれも前世なら間違いなく長打になってたはずだ 無様だよなぁ 今のこの身体じゃ鍛え直さねぇと外野まで飛ばすのすら一苦労みてぇだからな」

 

「ふ~ん……まぁ良かったんじゃない ゼロからのスタートじゃなくて」

 

弥生の反応が予想外すぎる……。

まさかこんな嘘みたいな話しを信じるというのか?。

俺が弥生の立場だったら絶対信じないし「頭がおかしい奴」だと思って近寄ることも躊躇うはず。

 

「とにかくこれが真実だ 誰にも言うなよ?」

 

「言う訳ないでしょ 言ったところでそんなこと誰も信じるわけないし まぁでもさ、口調くらい今の悠太のままにしといた方がいいんじゃない? いきなり人が変わりすぎて不自然だからね」

 

「そうですか 不自然で悪かったですね!」

 

口調か……。

そんな事言われてもなぁ……。

記憶だけ蘇ったならそれもできるかもしれないが、現世の人格まで現れてしまったのだから厄介だ。

まぁ確かに常に年上年下関係なく敬語使っていて、一人称が「僕」だった人間がいきなり「俺」に変わり、タメ口で接してきたら不自然だと感じるのも無理はない。

俺がタメ口で話せるのはこの中学に限ると大吾と睦子くらいしかいないわけだから。

まぁさすがに同い年や年下にも敬語も使うのは息苦しいのでやはり一人称くらいは僕にしといた方が無難か……。

そんなやり取りをしていると弥生の後ろから「悠太!! 」「悠太君!!」と名前が呼ばれ、何も悪いことをしていないのにドキッとしてしまう。

 

「俺も睦子も小学生時代の悠太のイメージしかなかったから正直ビックリしたよ!」

 

茂野大吾……彼もまたメジャーリーガーであった茂野吾郎という偉大すぎる父を持つ2世として小学校時代から何かとウマが合った。

こうして同じ部活で活動できるのは何かやはり特別な縁を感じてしまう。

 

「ホントだよ! 江口さんのストレートに合わせるなんて!」

 

まぁ大吾と睦子は小学生時代の運動ダメダメなイメージが強いのだろう。

バットに当てただけでここまで称えられるとは……。

ホントに今までの現世の自分は情けない……。

 

「いや……たまたま振ったらバットに当たっただけだよ」

 

ということにしておこう……。

そして大吾と睦子のその後ろでおもしろくなさそうな顔をしている二人が見える。

 

「そらそうだろ 結果が全て どんないい当たりでもヒットにならなけりゃ意味ない」

 

鼻にかかったような高い声で嫌味を言ってくるのは西尾佑介……。

同じ1年生で細身ながら身長は170後半の大男だ。

自信家で常にニタニタと笑みを浮かべ、中学生のくせに何故かスロットやパチンコなどに詳しいという謎多き男だ。

嫌味っぽいがまぁ一理ある……。

結局のところは「初心者」ということだけでチヤホヤされているにすぎない。

仮にガチガチの経験者だと思われていれば平凡なショートフライでした、で終わってるはず。

 

「おいおい佑介、そんな言い方……」

 

「そうだよ 江口さんのボールをまともに捉えたの2年生含めて最終回の太鳳と弥生くらいだったわけだし……」

 

「いや、いいんだ……西尾のいう通り、アウトはアウト そこに文句を言っても仕方がないんじゃないか? ……あ、と思うので……あの、とにかく! これからよろしくです!」

 

しかし同級生に気弱な感じを出しつつ敬語って使っていくって難しいな……。

よく現世での俺はこれで通してきたもんだ。

気を付けるようにはするが、これではボロが出るのも時間の問題だろう。

まさかこんな事に悩む事になるなんて思ってもみなかった。

前世と現世ではここまで性格が違ってるなんて、俺であることに間違いはないのだが最早別人に近いことを痛感する。

 

ー人間って環境一つでここまで変わるもんなのか……ー

 

そしてもう一人おもしろくなさそうな顔をしていた太鳳は鼻で笑うと、更衣室に入っていく。

まぁ「ソフトボール事件」もあり、俺に対して良い感情を持ってないのは当然か……。

とにもかくにも二人の心を開かせるには俺が実力を示していくしかなさそうだ……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして帰りのバスの中……。

 

俺は窓から大吾が自転車で帰ってるのを見つける……。

 

ー自転車かぁー

 

確かにあのキツイ坂道を自転車で上るのは体力や足腰を鍛えるにはうってつけ。

善は急げ。

明日から俺も自転車通学にしよう。

同じ1年の大吾、睦子、弥生、太鳳、西尾は全員経験者で今の俺は野球はおろかスポーツすら逃げていたせいで彼らよりも数段遅れている。

早くその遅れを取り返さなければ……。

正直、今の俺は焦りまくっている……。

目標はプロ野球選手……つまりスカウトたちに注目されなきゃ目標にはたどり着けない。

中学などでは目立たなくても高校や大学などで着実に力をつけて指名される場合もあるのだが、やはり中学生の時から目をつけられるような選手は指名されやすい。

あくまで順調に成長すればというのが前提にはなるのだが。

中学生の段階で注目されれば高校は正直、そこまで拘る必要性はない。

強豪校の方がプロのスカウトのが来る人数は多いかもしれないが、誰かしら密着マークしてくれるスカウトが現れる可能性が高いからだ。

打撃フォームまでは変える必要性は今のところ感じない。

ただ3年生になるまでに今の身体で野球への感覚をしっかりフィットさせたり、プレーのキレを出したりするには莫大な時間と根気が必要だ。

多少はオーバーワークするくらいじゃないと間に合わないかもしれない。

やることが山積みで先が思いやられる……。

 

ーこりゃ思ったより険しい道程だな……ー

 

とまぁ愚痴にも似た独り言を呟いていると、睦子がバスに急いで乗車してくるやすぐに俺に気づくと、スタスタと寄ってくる。

 

「お疲れ様~ ここ、いいかな?」

 

まぁ特段断る理由もないので、了承すると「はい これ」と小さい袋に入った飴を手渡してくる。

 

「ん? 何だこれは?」

 

「塩飴だよ 熱中症対策に持ってきたんだ」

 

「塩飴か……なら遠慮なく」

 

俺は袋を破り、塩飴を口に含むと甘じょっぱい味が口の中で染めていく。

 

「今日はすまなかった……睦子の……あ 睦子さんのアピール機会奪っちまって」

 

気になっていた……。

俺が出なければ睦子はチャンスで打席に立てる絶好のアピールの機会だったはず……。

 

「ううん 別に気にしてないよ! だって江口さんの球、色々凄すぎて打てそうになかったし!」

 

確かに江口さんの球は一級品でさすがは強豪風林のエースに相応しかった。

あれは中学1年では中々経験したことのないようなスピードと球のキレかもしれない。

しかし代打を送られていい気分な訳はないし、野球経験のない奴が代わりなんて尚更だ。

気にしていないわけはないわけがない……。

 

「だが僕も結局打てなかった 睦子さんの代わりに出たのに申し訳ない」

 

「えぇ!? そんな悠太君が謝る必要ないよ! むしろナイスバッティングだったよ!」

「そうか……ありがとな 野球部に誘ってくれて」

 

睦子はキョトンとして暫く俺の顔を不思議そうに見つめてくる。

 

「ん? 僕の顔にゴミでもついてるのか?」

 

「い、いや……なんか、あたしの知ってる悠太君じゃないみたい」

 

もう疑い始められたか……。

まぁ付き合いが浅い弥生ですら見破られるくらいだから睦子にはバレてもおかしくはない。

何とか上手く誤魔化さねぇと……。

 

「そ、それはまぁ中学生になってイメチェンをしようかと思ったりしてな! この喋り方はその……嫌か?……」

 

「ううん! あたしは前よりも男らしくて好きかな」

 

気を遣ったお世辞をだというのは反応を見ればすぐに分かる。

俺が傷つかないように言ってくれたのだろう。

まぁ前世から硬いだのオヤジくさいだの散々言われて来たからな……。

これは前世の父親譲りだから仕方ない。

面倒見の良い男気溢れる性格だった父の背中を見てきたから口調や性格までいつしか似てきてしまったようだ。

 

「なら良かった ただ好きとか言う言葉は大吾の為に取っておけ 軽々しく使わない方がいい」

 

ちょっと睦子をからかってみた。

睦子が大吾に好意があるのは小学生の時から多少なりとも関わった奴なら周知のこと。

悲しいかな、それを大吾本人が鈍感すぎるせいで全く気づいちゃいないというのが何とも……。

 

「へっ!? いや、大吾とはそ、そんなんじゃ!……」

 

明らかに動揺してソワソワしだす睦子は少しおもしろい。

そしてそうこうしているうちに俺の家の近くのバス停にバスが停車する。

 

「ちょっと聞いてる!?」

 

「あぁ まぁな それじゃ着いたからまた明日な」

 

まだ何か睦子が喋っているようだが、俺はスルーしてバスを降りる。

さて、帰ったら緊急の家族会議だ。

今日は試合ないから父さんがいるだろうし、野球部に入ることを伝えなければな。

グローブやスパイクなど色々と準備しなきゃいけないものもある。

風林中野球部から始まるんだ……。

もう一度、プロ野球選手を目指す戦いが。

ただ弥生が言ってくれたように俺は0からのスタートじゃない……。

前世の経験が1になってくれるから。

1を100、いや200に積み重ねて何があろうともあの舞台に絶対にたどり着いてみせる。

 

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