元プロ野球ドラフト候補が何故か国見比呂の息子としてMAJOR 2ndの世界に転生して再びプロ野球選手を目指してみた 作:意思を継ぐ者
真夏の照りつける強い日差しの下……。
甲子園の打席に俺は立ってた……。
この試合に勝てば決勝戦。
春の選抜で惜敗した高校は一足先に決勝への進出を決めていた。
春の借りを返せる絶好の機会を賭けた戦いが待っている状況で気合いが入らないわけがない。
試合が始まり、1番打者がヒットで出塁し2番が犠打で送ると3番が四球で出塁。
いきなり初回から絶好のチャンスで俺に打席が回る。
相手投手はプロ注目の速球派サウスポーだが、立ち上がりに不安があるというデータがあるので攻めるならここしかない。
制球で苦しんでいて、初回から満塁にはしたくないだろう。
そう読んだ俺はストレート一本に絞る。
そして相手投手が投じたボールのスピードは150キロ弱……。
しかしど真ん中では現代野球においては通用しない!。
ー来たっ!!ー
振り抜いた打球は甲高い金属音を残し、高々と舞い上がると、そのままバックスクリーン一直線に消えていった。
スタンド中が沸き上がる中、俺はゆっくりとダイヤモンドを一周する。
俺の高校通算55本目の本塁打で、このスリーランは相手の出鼻を挫き決勝戦へ進むための最高の先取点になる……はずだった。
後はこの3点を守りきれば……。
しかしこの直後のイニングで悲劇は起こった。
ーん!?……ー
投球練習をしていて思ったところにボールが制球できない、変化球が曲がらない、ストレートのスピードも出ない……そして肩が上がらない。
夏の予選から感じていた肩の違和感が徐々に酷くなってきていたがこんな痛みを伴うのは今までなかった。
だが俺はエースで4番である前に主将であり、このチームの大黒柱だ。
俺が違和感だけでチームを離脱する訳にはいかない。
それにこのチームは打撃力のあるメンバーが多い強力打線ではあるが、俺以外の投手たちはレベルが低く甲子園に出るような高校にはとてもじゃないが通用しないだろう。
それに何よりこの先にはプロ野球の世界がある。
俺はこんなところで立ち止まっているわけにはいかないのだ。
夏の甲子園が終われば、国体までの間に少しだけ時間が空く。
違和感はその間に治せばいいし、万が一治らなくても国体には野手で出場すればいいと俺は安易な考えでいたがすぐこの選択が間違っていたことに気づく……。
後悔しても、もう二度とあの時間には戻れない……。
それは先頭打者に投じた初球に起きた出来事だった。
投球動作に入り、ボールをリリースしようとした瞬間、俺の左手からボールがポトリと地面に落下したのだ。
最初は何が起きたのか分からなかったが、徐々に肩に経験したことのない激痛が走り、嫌でも自分の状況を理解していく。
垂れさがった左肩はまともに機能しない……。
ーやっちまった……ー
何となくだが投手として再起するにはかなりの時間を必要とし、最悪、今までみたいなピッチングができなくなるかもしれないと俺は悟った……。
試合は後続で出た投手がことごとく打たれ、立ち直った相手投手を自慢の打線が攻略できずに俺たちの高校は大敗。
プロも甲子園の夢は儚く散り、俺は文字通り目の前が闇に覆われる。
絶望で下を俯く俺に一筋の光が射し込み、顔を上げるとそこには見覚えのある顔があった。
「大吾?……何でここに?」
「そんな事より、まだ諦めるには早いと思うよ」
大吾が何故、ここにいるのだろうか。
しかもその後ろには睦子、太鳳、弥生、西尾の姿も見える……。
ここは甲子園のはずなのに……。
「そうだよ! 諦めるなんて勿体ないよ!」
睦子……。
そうだ……彼女が風林中の野球部に入るきっかけを作ってくれたんだ。
確かに前世の記憶を思い出さなければ、野球部には入らなかったかもしれない。
それでも睦子が架け橋になってくれたのは間違いないこと。
「ウチらが目指せない高みに悠太ならいけると思うんだけどねぇ」
「そーそー イライラするんだよね アタシたちと違って男子だからいいとこまでいけるはずなのに」
掴みどころがない性格の弥生とお調子者の太鳳の仲良しコンビ……。
偶然の産物とはいえ、彼女たちの俺をバカにする言動が前世の記憶を覚醒させてくれたきっかけになった。
ちょっと前まで人を小バカにしてくる今時の女子中学生という印象しかなかったが、今ではむしろ感謝しているくらいだ。
「まぁ諦めなければプロになれるかもしれないだろぉ? 俺はお前じゃ無理だと思うが」
西尾……。
コイツに関しては特に何もない。
とりあえず大した実力もない割には何故か態度が大きいイヤミな奴という印象だけはあるが……。
「俺たちに、風林中に力を貸してくれ」
ー大吾……ー
そうだ……今の俺は風林中野球部の一員じゃないか。
この仲間たちと共に頂点、そしてプロをもう一度目指す為に入部したんだ。
前世ではプロはおろか野球を断念して普通に就職した。
しかし色々な仕事を経験したがどれも何が違うと感じてしまいあまり長続きしたことがない。
ー俺の人生はここで終るのか……ー
いつもそんな考えが頭を過ってしまっていた……。
きっと野球が天職でそれしか取り柄がなかったことに嫌でも気づかされる日々……。
あんな寂しい人生はもう経験したくはない。
きっとこれは神様がくれたラストチャンスだと思う。
確かに今の俺は前世程の才能や身体能力は低いのは否めない。
だがどんな過酷な棘のような道でも絶対に這い上がってやる。
「今の俺がどこまでやられるか分からない……だが俺やを誘ってくれたことは絶対に後悔させない こちらこそよろしくな」
その言葉の後、暗闇に覆われた世界に光が広がっていく……。
そして聞き覚えのあるチャイムの音……。
ハッとすると今日最後の授業の終わりをむかえていた。
ー夢?……か……ー
なんだか、何とも複雑な夢だった……。
というか開始そうそう居眠りをしてしまったようでノートが真っ白という……。
しょ……所詮は中学生レベルの授業だ。
一応、高校を出ているんだから何とかなるだろう……多分……。
「あら、朝練で疲れちゃった? 元プロ野球選手が情けないねぇ ヨダレ垂れてるよ?」
横の席から何やら良からぬ視線を感じていたが、やはりその主は弥生だった。
俺はヨダレを手で拭うと弥生に言い返す。
「ほっとけ てか、元どころかプロにすらいってねぇよ」
咄嗟に言い返したが、実際は弥生のいう通り。
この朝練して疲れて授業中は寝てしまう感覚……。
めちゃくちゃ懐かしく感じる。
だが本格的な練習はこの後、放課後に行われる。
朝練は体幹トレーニングとアップが主で体幹トレーニングが結構キツかったが、大吾曰く、放課後の練習の方が何倍もキツイらしい……。
終礼が終ると俺は一目散に部室へと急ぐ。
何故ならここの野球部は更衣室を使う順番が決まっていて最初に女子メンバー、それから1年生が着替え、その後に2年と3年生が使用する暗黙の了解が存在している。
2年生はともかく1年生はなるべく早く練習着に着替えて、色々と準備をしなければならない。
部室の前では大吾と西尾が既にいて女子メンバーの着替えが終わっているのを待っているようだった。
俺は遅れなかったことに少し安堵してホッと息をつく。
「悠太もいよいよ風林野球部としてデビューだね!」
「ん?……あぁまぁ、そうだな 」
午後からの練習は確かに初めてだが、デビューという程大層なもんでもないと思うが……。
「最初はキツイと思うから無理する必要ないから 俺たちもようやく慣れてきたとこだし」
「ほう そんなにキツイのか?……」
前世でもかなりキツイ練習を小・中・高と積んできたつもりだが、どれくらいのものなのだろう……。
楽しみと不安が俺の中で入り交じる。
「まぁキツイ 俺だけは最初から余裕だったがな」
コイツ、ホントかよ……。
また口だけなような気がするが……。
「えっ? 佑介 思いっきりしんどそうだったけど」
「ん? 気のせいやで」
案の定大吾のツッコミが入ると西尾は何故か笑いながら急な関西弁ではぐらかす。
ネタとして言ったのだろうが、西尾はナルシスト気質があるっぽいので本気で言ってるようにも聞こえる……。
そんな会話をしていると、どうやら女子メンバーたちの着替えが終わったらしい。
更衣室からぞろぞろと出てくる女子メンバーたち……。
その一人である睦子は大きなバッグを持っていた。
「お待たせ~ アタシたちヘルメット持って行くから茂野君たちはバットとキャッチャー用具お願い」
「うん、分かったよ!」
正直、準備したりするのは手間がかかるしダルい……俺も以前そう思いながら部活に出てたことを思い出す。
でも何故だろう……。
今はその準備して持っていくことに対して懐かしい、青春?を感じてしまいむしろワクワクする気持ちのが強い。
普通なら同じことをすると新鮮味がなくなるはずだが、これが新しい環境ということもあるのだろうか。
俺と大吾と西尾はすぐに着替えを終えると、分担してケースにバット詰め込み、部室を後にする。
この後、1年生はグラウンドに集まり上級生たちが来るまで各々、軽く身体をほぐしたりするそう。
そして暫くすると2、3年生がやってきた……。
俺は帽子を誰よりも早く取り、挨拶すると「新入り頑張れよ」と色んな先輩たちから言ってもらえて良い先輩たちにも恵まれたようだ。
「集合!!」
大きな声が響き、全員が駆け足でグラウンドの真ん中へと集まる。
その中心には天野監督と見慣れない大柄の男がいた……。
大柄の男の人は外部から来たコーチだろうか……。
「今日も怪我のないよう気をつけて声を出していきましょう それと今日から野球部に新たな仲間が加わります 国見君前へ出てみんなに挨拶を」
そうだ……挨拶がまだだったか……。
体育会系の部活では逃れられない宿命とは言え、何故挨拶するだけなのにこんなに緊張するのだろう。
とは言え、拒否権などあるけないので俺は前に出るとありったけの声を絞り出しす。
「1年、国見悠太です!! 野球経験は……えっと、ありませんが知識だけはあります! 先輩たちを見習って上手くなれるよう頑張ります!! よろしくお願いします!!」
大きな拍手が起こり、試合に勝った瞬間にも似た安堵感がそこにはあった。
しかし浸っている暇などない。
ここから本番であり、練習はまだ始まってすらいないのだから。