元プロ野球ドラフト候補が何故か国見比呂の息子としてMAJOR 2ndの世界に転生して再びプロ野球選手を目指してみた 作:意思を継ぐ者
ーキ、キツイ……ー
アップとして全員列を組み、グラウンドを三周するのだが朝のランニング時より走るペースが格段に速い……。
速さでいえば、陸上部が中距離走を走るくらいじゃなかろうか……。
ゼェゼェと息を切らしながら、何とかみんなのペースについていくだけでやっとだ……。
一周しただけで、息が上がり足も中々前に進まない……。
今の俺のトレーニング不足もあるが、高校ですらここまで息が上がるようなアップをした経験がなく、驚きすら覚えた。
俺は必死に食らいつき、やっとの思いで三周走り終えると地面に膝をついたのだがそれは束の間。
「ストレッチング!!」
【はいっ!!】
主将である中岡先輩の大きな声が響き、部員たちの返事が木霊する。
ーマジか 全然、休む時間がない!?ー
俺以外の部員たちはそそくさと二人一組のペアを作っていく。
あんな激しいランニングをした後だというのにみんなよく、すぐに次の行動に移れるものだ……。
そして既に汗だくの俺に大吾が近づくとこう言った。
「ね? キツイって言ったろ? 最初にしてはよくついてきたと思うよ」
「そりゃ……どうも……」
最初……にしては、か……。
これを風林中の野球部は日常的にやっているとなると基礎体力や根性はかなり鍛えられそうだ。
俺の今の体の限界はまだ分からないが、このアップに慣れるまでには時間がかる。
少なくとも1日や2日……いや、1週間あったとしても難しいだろう。
俺は大吾が自分たちも最近ようやく慣れてきたと言っていた事を思い出す。
野球をやってた大吾たちですら最近ということは、その言葉通りに推測するなら1ヶ月は最低見積もった方がいいということか……。
「さっ ストレッチするよ!」
「あ、いや……大吾は睦子さんとやってくれ」
誘ってくれるのはありがたい……。
だけどどこからか睦子さんからの視線が突き刺さっているような気がする……。
「朝練の時からだけど、なんかやけに睦子と組ませたがってない?」
やはり睦子さんの想いにはまだ気がついてないか……。
そういう事に鈍感なのは小学生の頃からの付き合いだから分かってはいたが……。
まぁホントのことを言う訳にもいかないしテキトーに誤魔化しておくかな。
「そう言うわけじゃないんだが……その……もう約束してる人がいてな」
「約束って、今日から本格的な練習するのに誰と約束してるんだよ?」
そう来たか……。
大吾は乙女心には気づかないのにこういう事には意外と気づくという……。
この際、誰でもいい。
とりあえず、俺はまだペアに成りきってない人を目視で探す。
ーいた!!ー
まだペアになってなかった人を運良く、発見したが名前が分からない。
1年生ではないことは確かだが、2年生かそれとも3年生か……。
「あの人と約束してたんでな」
「丹波さんと?」
丹波と言う名前なのか……。
まだ入ったばかりと言うこともあり、1年生は全員分かるが3年生はキャプテンで捕手の中岡さんと副キャプテンで外野手の織田さん、それとエースの江口さんしか顔と名前が一致せず、2年生に至っては誰一人として分からないのが現状だ。
「まぁ約束あるんなら仕方ないけど……」
何かせっかく誘ってくれた大吾に申し訳なく思えてきた……。
というか、とっとと察してくれ。
俺はスッと大吾の元を離れ、丹波さんのところへと向かう。
「丹波さん、良かったら僕と組みませんか?」
この先輩の見た目は完全に野球部のテンプレ通りという感じだ。
ザッと見た中では一番典型的な野球少年っぽく、イメージでは4番サードを守っていそうだが果たして……。
「おぉ! 後輩よ! 今、相手を探していたところだったんだ! もちろん、一緒にやろう!」
「そ、そうですか……お願いします」
豪快な笑い方に加えて喋り方を見るに爽やかを通り越して最早暑苦しいくらいの熱血漢タイプくさいな……。
まぁ前世でもこんなムードメーカーが小中高で一人はいたか。
少し苦手なタイプではあるが、たぶん人間的にはめちゃくちゃ良い人なんだろうと言うのは伝わってくる。
「よし じゃあそこに座って ゆっくり伸ばしていくぞ」
と、言いながら荒い鼻息が聞こえ、俺の背中が悲鳴を上げ情けない声を発してしまう。
「はい ……ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
は、話しが違う……。
ストレッチはゆっくり伸ばしながら体を柔くしてケガなどを防止していくものであり急にあんな伸ばされ方をしたら逆にケガをしてしまいそうだ……。
「おう すまん 痛かったか? ちょっと強すぎたか」
「い、いえ……大丈夫です……もうちょっとゆっくりやって頂けるとありがたいですが」
話しを聞いているのかいないのか……。
それからは地獄の時間だった。
わざとやっているのかと思う程、強く押したり引いたりするから何度も情けない声を出してしまいめちゃくちゃ恥ずかしい……。
これならまだ大吾とやった方がマシだったかもとも思う。
そして丹波さんとの地獄のストレッチを終えると、非常に満足そうな表情でこう言い放つ。
「いやぁ これてバッチリだな!次はキャッチボールか……君は確か野球経験はなかったと言ってたね?」
ー何がバッチリで誰判断でバッチリなんだよ……ー
「まぁ本格的には……」
「心配はいらない! この2年生丹波広夢が手取り足取り教えてあげるからな!」
またもやガハハと笑い飛ばす丹波さん……。
というか3年生じゃなくて2年生か……。
やはり人は見た目で判断してはいけないなとつくづく思う。
キャッチボールが始まり、俺は右手にグローブをはめてボールを握る。
前世では左投げだったし、久しぶりの軟式球ということもあってやはり違和感を凄く感じてしまう。
「いいか? キャッチボールは相手の胸を狙って投げるんだぞ!」
いや、そんなこと分かってますよ……なんて言えるはずもない。
まぁ丹波さんなりに一応、良かれと思って言ってくれてることは伝わるし。
そして俺は丹波さんのグローブを目掛けてとりあえず軽く放ってみた。
「おっ! 初めてにしちゃいいボール投げるじゃないか!」
何だろうか……理由は定かではないが、何か少しイラッとする。
その後、徐々に投げる距離を遠くしていき大体50~60メートルくらい離れただろうか。
今の俺ではこの距離では山なりのボールを投げて何とか届かせるのに必死だ。
しかしここで驚いたのは丹波さんの肩の強さ。
ノーステップなのに俺のグローブに力強いボールが次々と吸い込まれていき、俗にいう強肩というワードがピッタリと当てはまる。
その後もキャッチボールが終わるとベースランニング、フリー打撃、ケース打撃の順番に練習が行われて、俺はさらに丹波さんに驚ろかされた。
全くバットにボールが当たらないのだ。
肩以外は素人並みの実……いや、皆まで言わないでおこう。
さてさて最後はノックで締めるらしいが、他の部員たちがそれぞれ自分のポジションに散らばる中、俺は一人取り残される。
「あの……僕はどこのポジションを守れば?」
そう……俺のポジションはまだ決まってない。
とりあえず素人が自分のやりたいポジションを最初から守らせてもらえるわけがないだろうし、ここは監督やコーチの判断を仰ごう。
「そうだな……監督、彼はどうしますか?」
「う~む……まぁ今日はライトにでも入れて、本格的な適性を見るのはまた後日にしましょうか」
「そういう事だ ライトに入ってくれ ちなみにライトというのは外野の一番右側のことだからな」
ライトか……。
まぁ無難なとこだ。
投手は勿論、捕手や内野手に比べてサインプレーなどの特殊な動きがあまりない外野手は確かに初心者を置くのは理に適っている。
そもそも前世でも投手に加えて外野手もしてたし、不安はない。
「はい!」
ライトには睦子とそれ以外に先輩が2人いた。
俺は睦子の後ろに並ぶとノックの順番を待つ。
「悠太君もライトかぁ ライバル現るって感じだなぁ」
「よろしく 指導頼むな 睦子先輩」
「もぉ先輩っていわれる程、多分差はないよー」
気丈には振る舞っているが新しいライバルがきたら心穏やかではいられないだろうなぁ……。
正直、睦子とはできたら争いたくはない気持ちもある。
ムカつく奴なら遠慮なく奪い取るのだが、睦子は謂わば俺を風林中野球部に導いてくれた人だ。
本来はそんな事ではダメなのだが、俺は経験として女子と野球を本格的にプレーする機会がなかったので心のどこかで知らず知らずのうちに「男」「女」を分けてしまっていたのかもしれない。
しかし、俺のこんなナメ腐った気持ちはすぐに吹っ飛んだ。
【ショート!!】
太鳳が三遊間の深い打球を横っ飛びで捕球すると、すぐに起き上がると一塁にワンバウンドで正確な送球を送る。
【ナイスショート!!】
弥生の前にボテボテの打球が転がるが、チャージをかけて難しいバウンドを捕球すると、スナップスローで一塁に矢のような送球を放つ。
ーう、上手いじゃないか……ー
確かに太鳳は肩が強いかと言われたら、強くない部類かもしれないがあの広い守備範囲と送球の正確性、捕ってからのスローイングの速さは中学レベルでは滅多にお目にかかれないし、逆に弥生は守備範囲はそこまで広くはないものの、柔らかなハンドリングに加えて投手顔負けのスナップスローで矢のような送球を送る。
「お願いします!!」
そして睦子は正面後方の打球を左右に切り返しながら後方に走り、左右にリズム良く切り返しながらバックして難なくキャッチ。
勘違いする人も多いが、意外と正面後方の打球は距離感が掴みにくく、難しい。
だがそれを簡単に落下地点に素早く入り、キャッチしてるところに俺は驚愕した。
ーな、なんだコイツらは!?ー
正直言って、ビックリした。
ここの部員の女子は全員野球センスの塊で下手な男子より明らかに実力がある。
先輩たちの実力もハイレベルだし、ウカウカしてたら今の俺ではレギュラーを取れないかもしれない……。
それくらい中学生にしては質の高いメンバーが揃っていることは予想外だったが嬉しくもある。
俺は野球において日本一になったことがない。
前世は小、中と全国大会に進みはしたものの初戦敗退。
高校では甲子園準優勝が最高だし、そもそも今の人生に限っていえば野球すらしてこなかった。
もしかしてこのメンバーなら全国の頂点も夢じゃないかもしれない。
そして俺はもう睦子、弥生、太鳳のことを女子としては見ないことにする。
と、いうかあんなプレーができるなら手加減なんか必要ないだろう。
ーよし、俺もいいとこ見せないとな!ー
モチベーションも上がり、意気揚々としているところに俺がノックを受ける番が回ってきた。
そしてコーチが俺に向けて放った打球はさっきの睦子と同じ角度。
俺は背走の体勢に入ったのだが……。
ーヤバっ!? 意外と伸びない!?ー
俺は慌てて前進してダイビングキャッチを試みて何とかグローブには当てたものの、ボールはグローブに収まらずに落球してしまう。
【ヘイヘイ!! ドンマイ!!】【惜しい、惜しい!!】という声が至るところから聞こえて来るが、素人だということでかなり気を遣われている。
ーダメだ……普通のフライだったのにー。
完全に打球感を失ってしまっている……。
これは目測を完全に誤った俺のミスだ。
たぶんコーチは手加減してくれた分、打球が失速したのだろう。
「そんなんじゃまたドラフトかかんないよ~!」
顔を上げるとセカンドの弥生が邪悪な笑みを浮かべて俺の前世をイジる……。
ーむ、ムカつく……弥生め、今に見てろ……ー
3年になる頃には絶対に前世並みの野球の実力を取り戻して俺をバカにしてた奴ら全員ギャフンと言わせてやる。
それまでバカにでも何でもするがいい。
こうして俺は新たなモチベーションを獲得し、初の風林中での練習を終えたのだった。