元プロ野球ドラフト候補が何故か国見比呂の息子としてMAJOR 2ndの世界に転生して再びプロ野球選手を目指してみた   作:意思を継ぐ者

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第6話 橘姉弟

今日は名池一中との練習試合の日……

あれから俺は練習後も家で素振りや筋トレを深夜までやったりと最低限、やれることはやってきた。

この数日じゃ実力が大きくは変化しないことは分かってはいるが、ホームランは無理でもせめて外野くらいには飛ばしてヒットを打てるようにしないと、とてもじゃないが話しにならないと思ったからだ。

俺に出番が来る可能性は限りなく低いと思うが、それでもこの自主連は今後に繋がるはず……。

転生する前は自信しかなかったから楽しみな気持ちしかなかったが、今は正直に言うと不安や緊張の並みが押し寄せている。

俺は玄関で靴紐を結びながら、大きく深呼吸をして自分を何とか落ち着かせようとしたが、どうも無理らしい……。

 

「悠太、ちょっと待って!! お弁当!!」

 

出掛けようとした俺を目掛けて、母さんが慌てながら俺に弁当を差し出した。

そう言えば、バッグにお弁当を入れるのを忘れていたのを思い出すとそれを受け取る。

 

「悠太の初試合勝利を願って豪華なお弁当にしてみたから早く開けてみて!」

 

ー豪華?……ー

 

嫌な予感しかしないが、まぁとりあえずお弁当を開けてみたが、中身を見た瞬間、俺は案の定、絶句してしまった。

 

ーカ、カツしか入ってない……ー

 

そう弁当にはギュウギュウに豚カツが詰められていたのだ。

軽くトラウマになるくらいに……。

 

「母さん……俺の見間違いじゃなければ、弁当の中身が豚カツしか入ってないように見えるんだが……」

 

「見間違いじゃなくて、全部豚カツだよ! 悠太、豚カツ好きでしょ?」

 

ーえェ……豚カツは好きだがそういう問題では……ー

 

せめてカツ丼とかにしてほしかった……。

ソースすらかかってないし……。

これは最早、弁当とすら呼べるのか怪しい。

転生前の記憶だが、試合の時って大体の奴はおにぎりとかサンドイッチとか炭水化物を軽く取る感じだったと思うから違和感しか感じない……。

 

「あ、あぁ……そうだな……ありがとう……」

 

「それはそうとお父さんは試合で行けないけど、試合は皆で応援に行くからね!」

 

「えっ!? いや、別に大会でもないし出れるかも分からないからそんな大事にしなくても……」

 

そんな俺の声はもう母さんには聞こえない……。

どんな服を着て行こうかとルンルンと謎の鼻歌まで歌い出す始末に俺は頭を抱える。

何故なら俺の親族たちは非常に変わり者でドンチャン騒ぎが大好きなメンツが揃っている……。

国見家の太郎爺ちゃんに信子婆ちゃんは絶対に来るとして古賀家の富士夫叔父さんと慶子叔母さんも来そう……。。

後、可能性があるのは家族ぐるみの付き合いの橘家の英雄さんとひかりさん、由美子おばさんと吾朗おじさん、雨宮家の太一おじさんくらいか……。

この中でまともなのは英雄さんとひかりさん……いや、元メジャーリーガーである英雄さんにこういうこと言いたかないが少し怪しいか……。

常識的なのはひかりさんのみ……。

中学生の練習試合でドンチャンするとか恥ずかしすぎて試合に集中なんかできない……。

想像するだけで鳥肌が立ち、血の気が引いていく……。

 

ー頼むからマジで誰も来てくれるなー

 

俺は心の中でそう呟き、玄関を出ると自転車に跨がる。

正直、試合前にあの坂道を自転車で上りきるのは大変だが、どうせ俺たち1年生に出番などないだろう。

風林中に行く道でふと俺はある人物たちの事を考えていた……。

それは小さい頃よく遊んだ橘優也、橘茉莉姉弟のこと。

英雄さんとひかりさんの子供で二人ともリトルリーグに入ってからは練習が忙しくなり、会えてないから久しぶりに近況が気になる。

確か優也はリトルリーグの日本選抜にも選ばれたみたいな話しは聞いた事があるが……。

 

ー俺も野球を始めたことだし、試合が終わったら久しぶりに連絡を取ってみるかな……ー

 

風林中の坂道を一気に昇ると、自転車置き場に自転車を留める。

しかしこの坂道は文字通り心臓破りの坂だ……。

まだ5月だからいいが、夏場になったら地獄でしかない。

まぁおかけでいい体力作りにはなっているが。

俺はとりあえず水筒をバッグから取り出すと、冷たいスポーツドリンクで喉を潤す。

そして呼吸を整えた後、グラウンドに向かう途中で俺は見覚えのある顔を二人見かける。

 

ーうわぁ……まぁこの二人ならまだマシか……ー

 

どうやらその二人もすぐ俺の存在に気づいたらしく、手を振って寄ってきた。

多分、俺の応援にと母さんが呼んだのだろう。

 

「悠太君じゃん! 君のお父さんから聞いたよ 野球部入ったんだってな!」

 

「まぁ血は争えないってことね」

 

橘英雄さんとひかりさんだ。

優也と茉莉と疎遠になってから、英雄さんとひかりさんとも全く会っていなかったのあり、どう接すればいいのか悩む。

 

「英雄さんもひかりさんもお久しぶりです」

 

「硬いなぁ そんな気を遣わなくていいんだぞ?」

 

そう言われても……。

英雄さんは佐藤さんと並ぶ、日本人屈指のスラッガーだ。

メジャーリーグでも日本でも佐藤さんと常にタイトル争いをしていたレジェンドであり、父さんの親友であり好敵手。

そんな凄い人に気安く喋りかけられるわけがない。

 

「いい子じゃん どっかの誰かさんに似なくて良かった」

 

「おいおい、比呂が聞いてたら怒るぞ……」

 

てか、母さんは高々練習試合に英雄さんとひかりさんなんて呼ぶなよな……。

本当に二人には申し訳ない想いしか湧かない。

 

「本当にすいません わざわざこんな場所まで足を運んでもらって……母さんにお願いされたんですよね?」

 

「えっ? いや……実は名池一中の野球部に茉莉が入ってるんだよ 優也は別の中学の野球部だけど」

 

俺は言葉を失う……。

普通にシニアで野球を続けてると思っていたからだ。

特に優也なんてリトルリーグ選抜の主軸だったのに硬式じゃなく軟式の中学野球を選んだのか……。

 

「ゆ、優也はどこの中学に?」

 

「優也ね、海堂あれだけ行きたがってたのに何故か辻堂中に行っちゃったのよね……何、考えてんだか……」

 

辻堂中……。

現在、海堂中と並び神奈川有数の強豪だ……。

いやまぁ確かに日本選抜の主軸がシニアに行かずに普通の中学野球部を選択するのだとすればそうなるか……。

何なんだろう……この敗北感は。

もちろんそんな強豪中学に進学する実力以前に俺は野球をやってなかったのだから選択肢がないのは別に当たり前なのだが、置いて行かれた焦りが心を支配する。

 

「それじゃあ悠太君も頑張って!」

 

「茉莉だけじゃなくて悠太君もちゃんと応援するね!」

 

そう言って英雄さんとひかりさんはグラウンドの方に姿を消していく。

その二人の背中を見ながら、何故転生前の記憶が蘇ったのが今なのかと後悔の念にも似た気持ち

もう少し早く、小学生の段階でで思い出して入れば今頃もっと野球は上手かったはずなのに……。

そんなこと言っても現実は何も変わらないのは分かってはいるのだが……。

複雑な想いを抱きながら俺はグラウンドにトボトボと歩き出すと背中をポン!と叩かれる。

 

「悠太、おはよっ!」

 

振り返ると大吾と睦子の姿があった。

朝から夫婦で来たのか……仲がよろしいようで何よりでございますよ全く……。

 

「おはよ~」

 

「おう……」

 

心に出来た焦りから返事も素っ気なく返してしまう。

 

「あれ? もしかして今日初試合だから緊張してる?」

 

睦子の問いにどう答えていいのか分からず、俺は口ごもる。

緊張か……。

そうだよな……むしろ緊張しなきゃいけないのだ。

目の前の試合に集中するからこそ緊張感は生まれる。

今の俺は懐かしい知り合いの近況のことしか頭にない。

例え出番が来る可能性が低いとしても、それがプレーヤーとしてはあるまじき行為だということは自分でも理解しているつもりなのだが……。

 

「いや、まぁ……と、言うか今日は俺たちの出番はないんじゃないか? 3年生が大会近いわけだしな」

 

だが実際問題、夏の大会が近い。

つまり3年生が最後の大会ということもあり、試合に起用されるのは3年生が主だろう。

俺たち1年生と2年生の一部は主にボールボーイや塁審などの雑用担当だと予想される。

 

「えっ? 悠太、出番ないって何を言ってんだよ?」

 

何か俺はおかしいことを言っただろうか……。

大吾と睦子が顔を見合わせてから、俺の顔を呆れたような眼差しで見つめる。

 

「今日の最初の試合は3年生抜きの試合って言われたじゃないか」

 

ー!?ー

 

「何だと!? 大会が近いのに俺たちが試合するのか!?」

 

「午後からの試合は3年生主体だけど午前の第一試合は1、2年生を中心としたチームでの試合って昨日監督が言ってたじゃないか もしかして話し、聞いてなかった?」

 

ーそ、そうだったのか……ー

 

ハードな練習で疲れてたから脳死して最後の話しを流し聞いてたからか……。

こうなると話しは変わってくる。

3年生主体のチームじゃなければ出番が来る確率は必然的に上がることを意味するからだ。

2年生もレベルは高い人たちが揃っているから、スタメンは無理でも代打、代走、守備固めくらいの出番はあるかもしれない。

 

ーなら、無理にでも気合いを入れないと!ー

 

「よし そうとなれば大吾、睦子さん 絶対にこの試合勝つぞ!」

 

「どんよりしてたのに気合い入るの早っ!?」

 

睦子から正論でしかないツッコミが入るがそんなことは気にしないでスルーしておこう。

出番があるかもしれないなら、集中しなければなるまい。

悩むのはその後でも遅くはないだろう。

この切り替えの早さも前世からで、野球だけじゃなく日常生活でも役に立つこともあるから便利な性格だ。

俺と大吾と睦子がグラウンドに顔を出すと集合時間5分前ということもあり、大体のメンバーが揃っていた。

そして時を同じくして名池一中のメンバーたちも風林中のグラウンドに顔を見せ始める。

 

ーあの中に茉莉が……ー

 

負けてたまるか……。

今の実力じゃ優也には敵わないだろうが茉莉にならワンチャン……。

いや、名池一中のメンバーに「国見悠太」ここに在りというところを見せつけてやろうじゃないか。

ランニング、キャッチボール、軽い打撃練習を終えると天野監督から集合がかかる。

 

「では今から試合に臨むスタメンを発表します……」

 

1番中 沖

2番遊 相楽

3番左 西山

4番一 矢田

5番捕 木ノ内

6番二 沢

7番投 橋田

8番右 佐倉

9番三 丹波

 

天野監督からスタメンのメンバーが読み上げられるが俺の名前はそこにはなかった。

1、2年生のチームでもスタメンになれないか……。

そもそも今週、入部した素人を奴をいきなりスタメン使うわけはないというのは予想の範囲内ではあったから仕方ない。

しかし太鳳、弥生、睦子は2年生を差し置いてスタメンか……。

それに比べて、俺、大吾、西尾の男子勢三人は全員ベンチスタートという皮肉に何とも言えない気持ちになる……。

 

「この試合は3年生がいない中での試合です 今日はベンチ全員必ず起用するので1、2年生たちは思う存分アピールしてきてください」

 

【はい!!】

 

主審は風林中の教師でコーチでもある広田勝利。

コーチは北東京の名門である栄京高校出身で選抜大会でも優勝した経験のある凄い人らしい。

何でも父さんと浅からぬ因縁もあるようで、俺は入部した当初広田コーチには誰よりも厳しく接すると直接伝えられた。

何でも「国見比呂は文字通り化け物だった お前は父親みたいな化け物にはなれないかもしれないが、それと戦うスーパーマンレベルにはなれるかもしれない」と言ってもらったからその期待には何とか応えたい。

今日はその期待に応えられるチャンスでもあるのだ。

 

そして2年生投手の橋田さんがマウンドに立ち、名池一中のトップバッターが打席に入ると俺は名池一中のスタメン表を確認し橘茉莉の名前を探した。

 

ー4番ピッチャーだと!?ー

 

相手も2年生中心らしいが、2年生を差し置いて4番投手はさすがに驚いた。

神奈川の野球女子たちのレベルはいったいどうなってんだ……。

 

【プレイボール!!】

 

そしてついに風林中野球部と名池一中野球部との試合が遂に幕を開けたのだった。

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