瑠璃色のフリージア   作:雨魂

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瑠璃色との再会

 

 

 

 ◇

 

 

 部室に忘れ物を取りに行き、そこで待っていた姫乃ちゃんとひと悶着あった帰り道。今日はバイトも休みで、特にやることもなかったので昼飯ついでに駅前のカフェに入り、俺はそこで()()()()の勉強をすることにした。

 

 

「うーん…………」

 

 

 イヤホンを両耳に付け、スマートフォンの画面を眺めながら小さく唸る。

 

 そのディスプレイに映るのは、名前の知らないとあるスクールアイドルグループ。そんなものをアイスコーヒーを飲みながら真剣に見ているのにはもちろん理由がある。

 

 ダイバーフェスで三校のスクールアイドルを撮影して再認識したことは、彼女たちを魅力的に撮るのはかなりの技術を必要とするということ。それは最初から分かっていたことだったが、やってみて分かることも沢山あった。

 

 最大の収穫は、確かに難しいけれどやってみればそれなりにできるかもしれない、と思えたこと。

 

 姫乃ちゃんがせっかく与えてくれたリベンジのチャンスを無駄にするわけにはいかない。だからこそ、こうしてアイドルのステージ映像を見て、彼女たちを撮る時のイメージトレーニングをしていた。

 

 

「振付とかを暗記すればいいのか?」

 

 

 そうすれば、撮ろうとするアイドルがどのタイミングでどんなポーズを撮るのかなんかを予測できる。しかし、すべてを覚えるのはそれこそめちゃくちゃ労力がいる。それくらいやらなければ最高の写真は撮れない、と言われればやるが、型にはまり過ぎてもよくはない気もする。けど、まったく知らないよりかはある程度知っている方がいいのかもしれない。

 

 

「よし。なら」

 

 

 動画アプリの検索エンジンに目的の文字を入力し、検索をかけると無数のサムネイルが表示される。

 

 ここまで来たらとことんスクールアイドルの動画を見て研究する他ない。姫乃ちゃんは次のライブは虹ヶ咲学園が主催だと言っていた。ならば、まずはそこのスクールアイドルの映像を見て彼女たちのことを覚えるところから始めてみよう。

 

 そうして、虹ヶ咲学園のスクールアイドルたちのPVをカメラマン目線で一人ずつ見ていく。どうやらあの学校のスクールアイドルは部ではなく同好会らしい。具体的に何が違うのかは他校の俺には分からないが、その辺は重要ではないので流しておこう。

 

 彼女たちの動画をアップしているチャンネルを見ると、どうやら虹ヶ咲学園には九人のアイドルがいるらしい。それなりにスクールアイドルのことは理解している気でいたが、あの優木せつ菜がここの学校の生徒だったとは知らなかった。有名なスクールアイドルの写真も撮れると分かった途端、また少し気合いが入った。

 

 次のライブで求められるのは俺個人ではなく、写真部全体の活動。そこで良い結果を残せなければ、この間のリベンジをすることはできない。

 

 ただ、綾小路姫乃が星光という人間に期待しているのは、たった一人の女の子を撮ること。面と向かって言われたわけではないけれど、きっとあの子は信じている。その事実だけは忘れてはならない。

 

 

「……………………」

 

 

 画面に映るのは、あの夜のアーカイブ。

 

 正直、この映像だけはアップされた日から数えきれないほど見返している。曲の歌詞も、振り付けも、今ではほぼすべて頭にインプットされていた。これは完全に予想だけれど、すでに十万回を越えているこの動画の再生数の百分の一は、俺ともう一人の女の子で稼いでいると思う。

 

 撮らなければならないのは──じゃない。俺が撮りたいのは、いま見つめている瑠璃色のスクールアイドル。

 

 あの日は動揺して一枚しか撮れなかったからこそ、今度はちゃんと集中した状態で撮影したい。これだけあの子のスクールアイドルの姿を目に焼き付けておけば、たぶん大丈夫。生で見たらまた固まってしまう可能性も拭い切れないけれど、次こそはこの身体も動いてくれるはずだ。

 

 

「ん?」

 

 

 そうして五百回目くらいの再生をしようと、動画をリピートさせようと思った時、後ろから誰かに肩をちょんちょんと叩かれた。なんだよ。宗教の勧誘なら間に合ってんぞ。そういうのは数年前、知り合いに紹介されてミ〇プルーンにドハマりしたうちの母ちゃんに言ってくれ。残念ながらあのエキスを摂取するだけでは肩こりは治らんのだよ。それに気づいた瞬間、怒り散らしながら家に残ってた瓶を全部庭に埋めてたけど。

 

 なんて悪態を心の中で吐きながら片耳だけイヤホンを外し、首だけを後ろに向ける。普通に考えれば知り合いなんだろうが、今はスクールアイドルの動画に集中しなきゃいけないから、話をするのは今度にしてもらおう。

 

 

「って…………え?」

 

「ああ、やっぱり当たってた。よかったわ。似ている人だったらどうしようかと思って、声かけるかどうか迷っちゃった」

 

 

 しかし、そこに立っていた人物を認識して身体と思考回路は同時に活動を停止する。

 

 瑠璃色の髪に、あの時とは違う夏用の制服。

 

 イヤホンをしている右耳から聴こえてくる歌声と、数秒前に左耳から聞こえてきた声は何故かよく似ていた。

 

 というか、それそのものだった。

 

 

「朝香、果林」

 

「こんにちは。久しぶりね、星光くん」

 

 




次話/朝香果林とは
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