コメディに振り切れてないのは許して
超能力が世界の表舞台に現れてから、それらが魔法という技術に落とし込まれた時代。兵器としての魔法が国家存続に必要となり、魔法を扱える魔法師の存在が重要となっていた。
この魔法師の育成機関として日本全国に設置されたのが、魔法科高校だ。
2095年の8月10日、全てで9つある魔法科高校の生徒たちが富士演習場に集い、魔法競技で競い合う九校戦が開催されていた。
この日は、今年に入学した一年生のみで競われる新人戦の最終日。
3対3の実戦形式で行われるモノリスコードは全種目の中でも最も人気であり、魔法と関わりの薄い一般人の観客も多く訪れていた。
「達也ー!いけぇー!!」
「龍郎さん、いくら叫んでも達也さんには届きませんよ」
「あっ…す、すまん、つい」
「ふふふ、本当にかわいらしい人ね」
観客が空中に投影されたビジョンを注視する中、観客席の隅ではこのような遣り取りが行われていた。
誰もが息を飲むような美貌を持つ美女と、精悍な顔付きながら子供のようにはしゃぐ偉丈夫。
一つの日傘の下で肩を寄せ合う姿は、非常に仲睦まじいと言えるだろう。
龍郎と呼ばれた男が恥ずかしさを紛らわそうと喉を潤わせたとき、試合終了を知らせるサイレンが鳴り響いた。
ビジョンには、一高の勝利が表示されていた。
「ぃよっっし!」
息子の活躍を見届けた男は、思わずガッツポーズを取った。
隣から向けられる微笑みに気付き我に返ったが、幸い周囲の観客も一高の勝利に喜んでいたため誰も男を見ていなかった。
そのことに安堵した男は九校戦のパンフレットを開きつつ、心中の喜びを表に出さないように努めた。
・・・・・・
ようやくだ……ようやくここまで来た…!!
愛する妻と共に子の活躍を見ることができた!
実家とその周りとの関係は微妙だけど、家庭の雰囲気は良好、義妹との確執も無い。
本当に長かった……ここまで苦節45年、前世と併せれば60年を超える。
我がことながら、よく頑張ったものだと褒め讃えたい。
俺は産まれたときから意識があった。転生だとか憑依だとかをしたんだろう。男女関係の縺れに巻き込まれて死んだことは覚えている。
アニメやラノベの作品に対する解釈違いでよく喧嘩してた親友………いや悪友だな、その悪友が女性関係で救いようのないクズだったことも覚えている。人当たりだけは良かった分、なおのこと質が悪い。
他人の気持ちを弄んでおいて純愛悲恋もので泣いていたもんだから、ムカついて殴ったこともある。
こいつはいつか滅多刺しにされて死ぬだろうなと確信もしていたな。
それで、ある日奴は俺の住むマンションに逃げ込んできたんだ。ここなら誰も住所を知らないから大丈夫とか言ってたかな。
嫌な予感がして家から叩き出そうと思ったんだが、俺でも引くほどのガチ泣きが始まって諦めざるを得なかった。ガチ泣きするくらいならその屑っぷりを直せと言いたかったが、鬼気迫る圧に負けてしまったのだ。
……もうオチは読めたな?
俺を恋敵認定した女が乗り込んできて殺されました。はは。
あいつ許すまじ。語り合う時間は楽しかったが、許すことは決して無いだろう。因果応報である。
死ぬ直前に見た光景は、その女があいつの首を大切そうに抱えている姿だった。滅多刺しにもされていた。ざまあ。
あいつ、二度目の人生でもNice boatされねえかな。
まあ前世の話なんてさておき……自分の名前を知った時には、外聞も気にせず泣き散らかしたものだ。その時は泣くことが仕事の赤ん坊だったけどさ。
自分はサイオン保有量だけが取り柄で、CADの台頭、利便化とともにその優位性を失う男だ。潜在能力に期待されていたが、それを発揮出来ない未来を迎える予定の人間だった。
この世界で死なないだけまだマシだということもわかる。何も考えずに過ごせば、最終的には四葉とあまり関わりなくそこそこの生活ができることも知っていた。
しかしここは二周目の人生、それじゃあつまらない。魔法を使いこなしてみたいという下心も確かにあった。
それでも、何より俺は前世から
────家族らしく過ごす四葉家を焦がれていた
勿論、『四葉』である以上は一般家庭と同様の生活は無理だろう。
しかし、司波深夜を喪わず、更に司波達也と司波深雪に高校生らしい生活を過ごしてもらう……のは厳しいかもしれないが、彼らにとって心休まる居場所を作ることであれば、不可能ではないはずだ。
何せ自分は、深夜の夫となり、達也と深雪の父親となり、魔法師としての素質も無い訳ではなく、既知の物語を捻じ曲げることができる人間だ。可能性が少しでもあるのならば、実行するしかないだろう。(原作通りのことが起こるかずっと不安だったことは内緒だ)
今考えるとあの時の自分やべーやつだったな……オタクくん妄想乙とか思い込みの狂気とか言われたら返す言葉もない。物語の世界とはいえここは現実だし、やべーやつだった自覚はあったわけだし。
二度目というのもあって無駄に行動力があったわけだが、結果として今の生活を手にすることができたんだ。感無量である。何度目かわからない感動の涙が……
…………あー、ふとした瞬間に昔のことを思い出すのは、もしかして年のせいか?
確かに精神年齢は肉体年齢より上だけどさ…涙脆くなったのも年??
年上のはずの弘一に情緒不安定だなって言われたときはちょっと悲しくなったけど、俺まだ45だぞ??まだ現役の魔法師だぞ??
……もしやこういう感じがダメなのか??え、ちょっと恥ずかしくなってきたんだけど。
たまに厳しいことを言う深雪も、照れたように顔を背ける達也も思春期だからだと思っていたが、まさか……いや、無いと信じたいが………深雪には鬱陶しがられ、達也には気まずいと思われていた…?
そんな……(絶望)
「……さん、龍郎さん」
「…っ!?」
「龍郎さん、どうしました?」
「え、あ…」
深夜が俺の顔を覗き込んでいた。
昔から変わらず綺麗だな……あ、眉が顰められた。
「い、いや、何でもないよ、大丈夫」
「そう?それにしては深刻そうな表情をしていたけれど」
「そこまでだったか?」
深夜は、ええ、と答えながら肩を寄せ、悪戯っぽい笑みを俺に向けた。
まってやめて、その表情は俺に刺さる。美人なのにかわいいってお前最強じゃんこんなん勝てるわけないやろ(真理)
「あなたのことだもの、また何かを思い出して、達也さんと深雪さんに嫌われていないか不安になったのでしょう?」
えっなんでわかるん?
「ふふっ、今回も図星だったようね」
ああ、その漏れ出た笑みも良い……
驚きが表情に出ないように顔に力を入れる。
「……俺はそんなにわかりやすいか?」
「それもあるけれど……私はずっと、あなただけを見てきたのよ?」
「………」
「それに、あなたも私のことがわかるでしょう?」
「…………深夜」
何年経っても、暗に込められた好意には慣れないな。
気恥ずかしさに負けて、名前を呼ぶことしかできなかった。白旗だ。
「はーい」
やや拗ねた雰囲気の込められた返事だ。
……こいつはっ!本当に…!!あああああああああああ!!!(かわいい)
深夜は自分の美貌を理解してこういうことをやっている、ということを俺は知っている。
このようなギャップを狙った言葉は深夜本来の性格によるところもあるが、実は俺に対してだけは狙っているわけではなく本気で思って言っているのも知っている。
達也と深雪を弄ることもあるが、2人には母親として振舞うし、仕事には相応の態度で臨むのも知っている。
つまり深夜は、もっと俺に好いてほしいと思っているのだ!!!
まってまって石投げないで!!これは本人から聞いたことだから!!嘘じゃないから!!
あの時の深夜といったら照れた顔がもう本当にかわいらしくてもう………尊かった。
愛しさが天元突破して死にそう
年増じゃんとか言ったやつは絶許。特にあいつはもう10回Nice boatされろ。
・・・・・・
新人戦モノリスコードの三位決定戦が終わり、決勝戦のフィールドが発表された。
場所は『草原』、相手は一条家の御曹司『一条将輝』と、仮説上の存在であった基本コードのひとつを発見した『吉祥寺真紅郎』を擁する三高だ。
国内最強の魔法師と謳われる十師族の、その一角を担う『一条』の名は伊達ではない。事実、三校は決勝戦までの試合では他校を圧倒し、準決勝では一人で相手の魔法を防ぎ切り真正面から制圧している。
また、基本コードである加重系統プラスコードを利用した
更に、一条将輝も吉祥寺真紅郎も中・遠距離からの砲撃戦が得意な魔法師であるため、遮蔽物のない草原ステージは一校にとって不利である。
……以上のこともあって、自校から出場するメンバーの実力を高く評価する一高の幹部も、天幕で険しい表情を浮かべていた。
実際に三校と競うことになる吉田幹比古と西城レオンハルトもどこか顔が強張っており、兄の実力と事情を把握している深雪の表情にも不安が滲んでいた。
「これは……」
「……厳しい戦いになりましたね、お兄様」
思わず漏れ出した悲観的な言葉を七草真由美がぐっと飲み込んだものの、続く深雪の言葉はその場にいた面々の意見を代弁していた。
これには達也自身も同意見だったが、現状では活路が全くないというわけでもなかった。
「そうだね、深雪……」
「司波、策はないのか?」
自信なさげな達也の受け答えを塗りつぶすように、二年生の服部が言葉を被せた。
先輩の心中を察した達也は、努めて冷静に言葉を返そうと口を開いた。
その時、機械的な音声が天幕内に鳴り響いた。
「あっ…も、申し訳ありません!失礼します!」
それは深雪の持つスクリーン型携帯端末からの着信音だった。
場を乱してしまったこともあり深雪は足早に天幕から出ようとしたが、真由美がそれを制した。
「深雪さん、気にしないで頂戴。…そうね、他のみんなも、少し休憩しましょうか。まだ時間はあるし、今から気を張っていても仕方ないものね」
「……七草に同意だ。司波、吉田、西城、お前たちも少し息を抜くといい」
それまでの重苦しい空気をなんとかしたかった真由美の提案に、十文字克人が乗る形で僅かな自由時間となった。
幹部の面々の表情はまだ硬いものの、他の上級生は一息入れることができて安堵していた。彼らはまだ学生であり、場の圧力に慣れていないのだから当然のことである。
内心真由美に感謝した深雪は、スクリーンに表示されている名前を見て頭を抱えそうになっていた。
そんな妹の表情の変化に達也は気付いた。
「深雪……もしかして父さんからか?」
「はい……」
「そうか…間がいいのか悪いのか……」
苦笑を漏らす達也と何とも言えない表情の深雪が会話する間も、携帯端末からの着信音は鳴り続けている。
これには周りの生徒も疑問に思ったようで、二人が中々通話に出ないことを不思議に思った幹比古とレオが達也に声をかけた。
「達也、出ないのかい?」
「そうだぜ達也、親父さんからなんだろ?それともなんだ?仲が悪いのか?」
「いや、そういうことではないんだが…」
「じゃあいいじゃねえか!このタイミングでってことは多分激励だろ?」
「…十中八九そうだろうな」
「………??」
達也の煮え切らない反応に幹比古が首を傾げる一方で、携帯端末を手にした深雪は羞恥心で我慢の限界を迎えていた。
普段の振る舞いからはあまり想像のつかない深雪の大声に、幹部も含めた生徒たちが驚いて深雪に視線を投げた。
『やぁみゆ「お父様!試合前の通話はお控えくださいと伝えたはずです!!」…それは……すまない…でもどうしても直接応援したかったんだ』
「そのお気持ちは嬉しいのですがっ……でしたらお兄様の方に直接ご連絡すれば良いではないですか!」
『いや、達也は出場選手だから端末が手元にないと思ってな……』
「た、確かにそうかもしれませんが……それに!音声通話ならまだしもどうしてビデオ通話なのですか!いえ、そもそも!外部の人間から各出場校への連絡は認められていないはずでは!?」
『……二人の顔が見たかったし、大会委員の監視下でなら許可が出ると深夜から聞い「お母様が!?お母様……一体何をなさったのですか……!?」…あら、私は何もしていないわよ?私はね』
妙に静まる先輩と同輩たちを見回すと、どうやら皆が聞き耳を立てているらしい。
他人に聞かせるものでもないのだがな…と思いながらも、達也は携帯端末のカメラに収まるよう深雪の後ろに移動した。
途中、端末からの男性の声に反応して深雪ににじり寄る真由美の存在に気付いた達也だったが、気にせずとも良いと判断して放っておくことにしたのだった。
真由美と同級の渡辺摩利が、新しい玩具を見つけたような眼差しを真由美に移したのだから、摩利によるからかいに巻き込まれないための賢明な判断である。
「父さんに母さん、あまり深雪を困らせないでやってくれ…」
「お兄様……」
『そんなつもりは全くなかったわよ?ちょーっと驚かせようと思っただけで、困らせるだなんて……達也さんは私の事を、そういう風に捉えていたのね…悲しいわ……』
スクリーンに映る龍郎が悪びれている傍ら、深夜はよよよと泣く振りをしていた。
龍郎はともかく、深夜の反応に達也は慣れてしまっているため、軽くあしらうことにした。
尚、悪いと思ってしまうのなら通話は試合後でも良かっただろうにと龍郎に対して思わないでもない達也だったが、実のところ満更でもなかった。
「悲しいと言われても、事実は事実だからな」
『つれないわねぇ……』
「はぁ…それで、要件は?」
『あ、そういえばそうね、それは……龍郎さん?──……あ、ああ。いや、改まって言うことでもないんだがな……
────次の試合、勝って来い、達也』
瞬間、深雪に喚起された達也の闘志が、更に強く奮い立った。
幼い頃からずっと守ってくれ、ずっと支えてくれ、ずっと見守ってくれた、自分の敬愛する人の言葉。
力強い声に乗った、たった一言の、実にシンプルな激励。
だがしかし、それは確かに、達也の心の奥底まで響いた。
胸の底から幸福感が湧き上がり、込み上げる感情に瞳が潤いかけるも、達也はそれを抑えて強く父親を見つめ返した。
愛情を残し、愛情を教えてくれたこの人の期待に応えたい。
愛する妹と、厳しくも優しい母親からの信頼にも応えたい。
だから達也は、本気で戦うことを短く宣言する。
「ああ、勝って来るよ、父さん」
────だから、見ていてくれ
────勿論だ
「……お兄様ばかり、ずるいわ」
「…………私も言われたいのに」
……深雪と真由美から漏れた呟きは、不思議と全員の耳にはっきりと届いた。
「………え?」
それは誰が発したものだったか。
天幕内から突き刺さる視線に気付いてあまりの恥ずかしさに頭がパンクしていた2人は、この瞬間に再起した。
頬を真っ赤に染めながら、本心を誤魔化すように慌ただしく動き出す。
「でで、ででは!!そろそろ作戦会議を始めたいので通話を切りますねお父様!!!」
『ちょ、ちょっと待て!達也!相手が相手だから、効率良く対お──』
「ふぅ、ふぅ……」
「深雪……」
「お、お兄様…?そんな目で見ないで下さい……よ、吉田くんと西城くんまで…や、やめてください!!」
「ほう……ほーう…?」
「な、なにかしら」
「いやなに、真由美も良い趣味をしているのだなぁと、ね」
「ち、ちがうわ!!ちがうの摩利!!あの人はそういうのじゃなくって!!」
「大丈夫ですよ、会長。誤解はしていません」
「リンちゃん……」
「しかし……会長にも微笑ましい一面があるのですね」
「リンちゃん!?」
「会長……」
「あ、あーちゃんはわかってくれるわよね……?」
「詳しくお聞きしたいです!!!」
「あーちゃんまでっ!?そんな………あああああもうっ!!さ、作戦会議を始めるわよ!!!だから摩利!!その顔をやめなさい!!」
龍郎: 家族が好きすぎる男。家族の幸せの為なら何でもやる。九校戦の前に親バカ仲間に娘を自慢されて、うるせー!俺の娘と息子の方がすげーんだよ!と不毛な争いを繰り広げたらしい。いつものことである。通話を切られた後は、深雪が久しぶりにデレてくれたと大喜びだったそうな。
深夜: 見た目も愛も衰えないスーパーウーマン。お分かりだと思うが、龍郎のために大会委員に圧力をかけた人。四葉の力をそんなことに使うな。夫がああなら妻もこうである。龍郎のことなら何でもわかるらしい。ひぇ。達也と深雪のことも愛している。
達也: 物心ついた時から父の背を見て育った。愛情をトリガーとする衝動は発生するらしい。これも愛だね。達也のやり取りを見て、幹比古とレオの士気も爆上がりした。どんまい三高。このときに天幕にいた生徒は、内心で二科生を見下していたことを恥じたとかなんとか。
深雪: 思春期な女の子。あまりにもあまりな態度で上級生を男女ともにノックダウンさせた。パッパのことは嫌いではないが、時間と場所は選んで欲しいと思っている。幹比古とレオは口が堅いので、いつものメンバーには広まらず安堵した。ただし、知られないとは言っていない。
真由美: 幼少期から実の父親より父親されていた。そりゃ懐くよね。弘一くんどんまい。入学式で苗字を知ったときからもしやと思っていたものの、結局このときまで聞けず終いだったらしい。このヘタレっぷりも摩利にはバレている。合掌。
大会委員: 突然の上からの圧力に振り回された人。監視ということで近くにいた。何を見せられているのかわからないまま脳を破壊された独身男性。ちなみに某組織の影響は受けていない。君は怒っていい。