原作読み進めなきゃ(使命感)
ツッコミどころは気にせんといてもろて
新人戦モノリスコード決勝、一高対三高。
事故による出場選手の入れ替えやそれに伴う試合スケジュールの変更があったものの、観客は一高の繰り広げたレベルの高い試合展開に熱中していた。
そしてそれは、圧倒的な強さを見せつけてきた三高に対しても同じこと。
この二校による決戦に、観客たちのボルテージは最高潮に達していた。
その一方で、達也たち出場選手はというと。
「それにしても、達也の親父さんはいい人そうだったな」
「本当にそうだよね。ちょっと羨ましいかも……僕ももっと頑張れば、またお父様に認めて貰えるかな」
「幹比古なら近いうちに本調子に戻るだろうから、このまま鍛練を続ければ問題無いと思うぞ」
「そうなんだ……ありがとう。僕でもまだ原因を掴みきれていないのに改善の見通しが立つなんて、達也には敵わないよ。まるで年上の人と話してる気分だ」
「…そうか?達也は確かに凄い所も多いけど、言うほど遠いって感じじゃないだろ?ほら、さっきの達也の表情とかさ」
「あはは、あの顔は僕も初めて見たから驚いたよ」
「だよな!」
「………」
「おっ?達也、照れてるのか?」
「ふむ…心做しか頬が赤い……?」
「レオ、幹比古…もう着くぞ」
……およそ勝率の低い試合に挑む直前とは思えないほど和んでいた。
ただし、これは決して気が抜けている訳ではなく、程よく力みが取れている状態である。
士気は上々、勝利に対する意欲も十二分に高まっていた。
達也に引っ張られる形にはなったものの、気分の昂りは幹比古の自信不足をも塗り潰す程であった。しかし、そうでありながらも頭は冷静さを保っており、試合の開始が近付くにつれて感覚が研ぎ澄まされいく。
それは、過去最高のパフォーマンスを叩き出せると各々に確信させるものだった。
つまるところ。
3人とも、"負ける気がしなかった"のだ。
・・・・・・
達也たちが自陣のモノリスへと移動していたとき、九島烈は九校戦本部の来賓席に足を運んでいた。
軍部にも影響力を持つ烈は日本の要人であり、国内の魔法師からは敬意を持って"老師"と呼ばれている。
そんな烈には全競技を中継で観覧可能な専用の部屋が用意されているのだが、彼は「有望な若者をより近くで観るため」という理由でわざわざ来賓席に移ったのだ。
烈の突然の行動に九校戦の大会委員は困惑したが、自らの追及をやんわりと断るために彼らも諦めるしかなかった。
目の前に広がるフィールドを注視しながら、烈が来賓席に腰を下ろす。
部屋には誰も居らず、烈一人だけが最前列に座る静かな空間だ。
好試合への期待から膨らむ歓声がガラス越しに耳に入るものの、気になるほど騒々しい訳ではなかった。
ふと眼下の観客席を見やると、談笑する嘗ての教え子の姿が目に入った。
「(青年期には笑うことの少なかった彼女がああも心を開くとは、あの小生意気な童がよく成し遂げたものだ。……本当に、よくぞやってくれた)」
烈が心中でそう感慨に耽っていると、ひと席空けた隣に誰かの気配を感じた。
「遅くなったか?」
横からの問いかけに、烈は身動ぎもせず答えた。
声だけでわかるほど、よく知った人間だった。
「いいや、丁度始まるところだ」
「そうか」
「お主の方は、ひと通りは終わったのか?」
「ああ」
「そうか」
老齢であることを全く感じさせない男がどかっと座席に着く。
それ以降は、烈も男も口を開かなかった。
「………」
「………」
暫しの沈黙。
だがそれは、二人にとって心地の良い間であった。
烈の胸中に様々な感情が湧き上がるが、それらを抑えきれず直ちにぶつけてしまうほど烈も若くない。難無く気持ちを整えて、意識を競技に戻した。
男が徐に声を出したのは、選手がモノリスの傍に現れ始めたときだった。
「この試合、お前ならどう見る?」
「ふむ……順当に考えれば、三高が勝つだろうな」
「……で?」
「……ただし、夫々の様子を鑑みると、一高にやや分がある。三高側の油断を見逃さず短期決戦を仕掛けることが出来れば、勝ち目はあるだろう」
「それで勝つには一高選手に相当の技量が求められるが、そこはどうだ?彼らは二科生だぞ?」
「…………二科生とは言え、彼ら全員が実戦に弱いとは限らぬ。特に今回の出場選手は各々が特別な強みを持っておる上、司波選手の実力は最早高校生の域に留まらないように思える。あとは気の持ちようだが……それも問題は無いだろう」
「……ふはははっ!!やはり孫を褒められるのは気分が良いものだな!!」
「…元造よ、そう迄して私に言わせたかったのか?」
「当然!」
呆れる烈に対し、元造と呼ばれた男は豪快に声を上げて笑う。
久方ぶりに対面する友人の変わらない姿に、烈は安堵すると同時に少々の鬱陶しさを抱いた。
若い頃から散々聞かされてきた娘自慢が今度は孫自慢になったのだから、致し方の無いことである。
一方で、懐かしさが僅かながらに湧いたことも事実だった。ただまぁ、懐古の情を少しでも滲ませてしまうと隣の男が調子に乗って更に自慢してくるため、この気持ちは表に出さず秘めることにした烈だった。
一頻り笑った元造は、自身の娘とその婿に慈愛の眼差しを数瞬向けてからフィールドの孫を注視する。
丁度そのとき、試合開始を告げる笛が響き渡った。
・・・・・・
「レオ、幹比古、作戦通り俺は一条将輝を引き付ける。
「おうよ!!」
「うん、任せて」
試合が始まって直ぐ、将輝と達也による魔法の撃ち合いが繰り広げられた。
銃を模した特化型CADを相手に向けながら、互いが互いの陣地へと歩みを進める。
可視化処理の施された魔法式が宙に浮かんでは、光の粒子となってパラパラと散る様子がモニターに映し出される。
魔法が体系化されて久しい現代で、観客はその華やかで幻想的な光景に魅了されていた。
……程なくして、それを演じる彼らへの歓声が巻き起こった。
一高の天幕にいる面々は、この日何度目かもわからない驚嘆に包まれていた。
術式解体は真似出来ないとしても、魔法式を感知する感覚、それらを正確に照準する能力、圧倒的な相手に臆せず挑む精神力はどうだろうか。
幹部から聞く体術についてはどうか。
九校戦の代表として選ばれるのは、優れた魔法師だ。故に、それらは決して手の届かないものではない、ということに彼らは気付いた。
その上で。
「なんという胆力……」
「…一体どれだけの鍛練を積んできたというの……」
「あいつは……なのに、俺は、どうだ…っ」
「……かっこいい」
「!?」
………一人だけ違う何かに目覚めたようだが。
それはさておき、映像の中の達也に熱い視線を送る生徒を一瞥した真由美は、視線を戻して呟いた。
「……でも、どうして達也くんはもう一つの特化型CADを使わないのかしら。片手で魔法を撃ちながらもう片方の手で腕輪型のCADを操作するなんて……」
「距離が近付くにつれて防戦寄りになってしまいますから、それを打開する作戦があるのでしょう。私たちよりも余程"経験"があるようですし」
「………」
鈴音の推測を耳に入れながら、真由美は達也の実力に疑いを持ち始めた。
自分が幼い頃から龍郎は、弘一と会うために低くない頻度で七草の邸宅を訪れていた。
その度に遊んでもらったりプレゼントを貰ったり、時には悩みに乗ってくれたりと可愛がってくれたこともあって、当時のことはよく覚えている。
そして、龍郎の来訪があるときに決まって弘一から聞かされた昔話の内容も、記憶からは消えずにいる。
弘一と婚約していた真夜の誘拐を、傷を負いながらも未遂で阻止したこと。
真夜を巡って弘一からふっかけられた勝負に勝ったこと。
そこから何かと付き合いが続き、今でも弘一と友人関係であること。
そして、紆余曲折を経て真夜の姉の深夜と結婚したこと。
龍郎が離婚した、なんて話は聞いていないため、達也と深雪の母親は深夜で間違いはない。(先程の通話で確認済み)
であれば、達也と深雪が四葉の縁者であるということは確実だ。
なるほど、四葉の出なら恐らく実戦経験もあるだろう。深雪の並外れた魔法力も、魔法師の名家の出身で説明がつく。
……だが達也の魔法力はどうか。
四葉の名を冠するにはあまりにも力不足ではないか。
何かの事情で十全に力を発揮できないのだろうか。
それとも、本当に魔法力が弱いだけなのか。
一度芽生えた疑念は大きく膨れ、真由美の意識を埋めていく。
彼女が思考の海から浮かび上がったのは、試合が転機を迎えたあとのことだった。
将輝と達也の砲撃戦を目の当たりにした真紅郎は、戸惑いを隠せなかった。
「(汎用型CADでの攻撃……何を企んでいる?)」
達也の構える特化型CADからは
「(……どうして二丁拳銃ではないんだ?敢えて汎用型CADを選んだ理由は?苦手な系統魔法が無いというアピール?いや……特化型CADをもう一つ隠し持っている可能性だってある。もしそうだとしてそこにはどんな魔法が入っている?……一体何を狙っているんだ…っ!)」
考えれば考えるほど底のない深みに嵌ると感じた真紅郎は、一度考えることをやめて作戦通りに動くことにした。
将輝が達也の相手をしている間に、他の二人を制圧するための攻勢に出たのだ。
しかし、事前に決めていたこととはいえ、一高選手を格下と看做す無意識のうちの油断には終ぞ気付くことはなかった。
真紅郎が打って出たことを視界の隅で確認した達也は、それまでの歩みを早駆けに切り替えて将輝との距離を詰め始めた。
予想した通りの試合運びに気を引き締めつつ、龍郎からの助言を反芻する。
"効率良く"戦うこと。
それはより少ない労力でより良い結果を得ることを意味し、より高い技術と精度が求められるもの。
実戦を経験した将輝の意識を自分から離さない方法としては、彼に強い危機感や恐怖を与えることが挙げられる。
これを実現するには、達也の攻撃が自分に届きうると将輝に思わせなければならない。
勝利のために達也が選択した将輝の攻略方法は、絶えず接近し続けるというものであった。
非常に単純なことだが、中・遠距離での戦闘を得意とする人間は敵に接近されることを本能的に嫌う。
将輝はこのタイプの魔法師であるため、彼の放つ圧縮空気弾の一部は無意識に達也の足止めを目的とした牽制となっている。
ただし、牽制はあくまで牽制なので、体術を高い水準で扱う達也はこれを回避することができる。
また、十師族のうちの一族の直系という如何に優秀な魔法師といえど、齢15,6の青年が数百メートル離れて疾走する標的へと魔法を全て正確に直撃させることは難しいことだ。
視覚的に遠い座標の正確な把握に加え、対象の移動や魔法の向き、魔法発動までの僅かなラグを考慮した偏差射撃はそれほどに高度な技術である。
故に、そこに焦りを感じさせる隙が生じる。
「(くっ……厄介な…)」
事実、達也の目論みは成功し、将輝の視線は達也に固定されていた。
戦死を伴うような実戦を経験した将輝だからこそ、直接的な危険性の高い魔法式のみを破壊して走り続ける達也の姿を意識の外に追い出すことができなかった。
しかし、距離が近付くにつれて魔法の照準は正確になり、達也が撃ち落さなければならない数も増えていく。
このまま攻め続ければいずれ達也を撃破できると将輝は確信し、更に多くの魔法式を一度に展開した。
流石に捌ききれないと判断した達也は、彼我の距離が百メートルを下回ったあたりで
今回達也が使用している
これによって達也による魔法式の破壊速度は格段に速くなり、更なる接近を可能とした。
「(くそっ…やはり隠し持っていたか!)」
達也の威圧感に気圧されいよいよ後がないと悟った将輝は、達也を中心とした球面上に今展開できる最大数の魔法式を放った。
このとき、ほんの僅かでも気を抜いてしまったことが勝敗を分けることとなる。
「(お兄様っ……!)」
兄の窮地に、深雪はかつてない緊張感に見舞われた。
達也を逃がさんとばかりに配置された攻撃は密度が高く、仮に魔法式を吹き飛ばして抜け穴を作ったとしても、体術で切り抜けることが困難であった。
一発でも直撃を許せば反撃の隙も与えられず、勝ち目は無くなるだろう。
深雪の周囲からは悲鳴が漏れ、離れた観客席が盛り上がる。
天幕内の面々も険しい表情が崩れることはない。
会場の殆どの人間が達也の敗北を予感する一方で、唯一達也の勝利を疑わない者がいた。
「……………勝ったな」
「そうね……何せ私たちの子だもの」
「ああ……俺たちの誇りだ」
達也の、父と母である。
そこからは瞬きをする暇もないほど速い展開であった。
だが、達也に諦める気は毛頭ない。
魔法の座標変更ができなくなる瞬間と被せるように自己加速魔法を行使することで、将輝の魔法を無傷で潜り抜けたのだ。
普段から鍛練に励んで培った丈夫な肉体と体術への親しみがあるからこそ実現できる、負荷の大きい強引な加速。
数多の魔法式に紛れての発動と一投足で十メートルをも詰める急な接近には、観客のみならず将輝でさえ反応が遅れた。
「──っ!!!!!」
不意をつかれた将輝は、眼前に迫る達也とその気迫に押し負けてしまった。
彼が無意識に選択したのは、達也から距離を取る逃げの姿勢。
しかし、咄嗟に掛けた自己移動魔法は達也の
浮きかけた体が急激に沈んだことで、後ろへ数歩たたらを踏む将輝。
達也はそこへ更に魔法を叩き込むことで、将輝に尻もちをつかせた。
不安定な体勢の中で後方に倒れるよう地面を揺らされた将輝はこれに抗えず、大きな隙を晒してしまう。
将輝が反撃を試みようとしたとき、頭のヘルメットは既に達也の手中にあった。
「………………勝った、のよね」
「…………勝ったな」
「……勝ちましたね」
「ほう……」
「…やりおったな」
「お兄様!!!」
「達也ぁぁぁああああああ!!!!!よくやったぁああ!!!!!」
「ふふ、龍郎さんったら………達也さん、よく頑張りましたね」
…………会場全体を包むほどの大歓声が爆発した。
・・・・・・
代替出場を突然告げられたときはどうなることかと思ったが、なんとか勝てたな。レオと幹比古の活躍に感謝だ。
父さんの助言も的確だった……帰ったらささやかなお礼を渡すことにしよう。
三人揃って観客席まで歩いていると、レオが肩を組んできた。
「やっぱりお前はすげぇな!達也!」
「うん、達也のおかげで僕たちもなんとかなったしね」
「いや、あの
「いやいや、そんな「だろ?ほれ、幹比古ももっと自信持てよ!」……そう、だね」
「…幹比古、また困ったことがあればいつでも言ってくれ、力になるぞ」
「俺も手伝うぜ!」
「ありがとう、二人とも」
観客席に近付くと大きな歓声が再び上がった。
深雪は最前列で嬉し涙を流していたが、それに微笑み返すと満面の笑みを浮かべてくれた。
やはり深雪には笑顔が一番だ。
「達也ぁぁああああ!!!」
声の聞こえた方向を見ると、父さんは溢れそうな涙を母さんに拭かれ、周りからは暖かい眼差しを向けられていた。
悪い気はしないが……父さんも母さんも相変わらずだな。
期待に応えられたことへの安堵や達成感、喜びが心地よい。
俺と目が合ったことに気付いた父さんは、親指を立てた手を突き出した。
隣にいる母さんもそれを真似して、父さんと腕を組みながら左手を前に出す。
これには父さんも頬が緩み、二人で笑い合っていた。
本当に仲のいい……自慢の両親だよ。
珍しく高揚した気分が治まらなかった俺は、二人に応えるように腕を突き上げた。
龍郎・深夜: どっちもバカ。生暖かい視線も気にしない。強い(白目)。二人とも将輝の魔法に紛れていた達也の自己加速魔法に気付いた。強い()。なお、二人でのサムズアップポーズは深雪に撮られていたし、真由美にマルチスコープで見られていた。何してんのこいつら。
達也: パッパの激励で力んでしまっていたが、レオと幹比古の弄りで図らずして落ち着きを取り戻した。その勢いで将輝に競り勝った。あと電話の後に急いで術式解体のインストールを済ませた。さすおに。試合後には友好的な視線が増えてちょっと困惑する。かわいい。
深雪: お兄様の活躍に大感激。ただし我に返ったあと、自分のときはパッパから応援の電話が無かったことに気付いた(電話するなと伝えていたことは忘れている)。お兄様のことも好きだがこれには流石の深雪も嫉妬ぷんぷんである。やや不機嫌なところをエリカに追及されるまであと僅か。南無三。
レオ・幹比古: 将輝による横槍が入らなかったので快勝。吉祥寺を幹比古が、名も無きディフェンスをレオが倒した。実は、吹っ切れて魔法をガンガン使う幹比古の活躍を幹比古パッパは見ていた。家で密かに感涙するところを目撃されたらしい。お前も親バカ仲間だ。
真由美: 達也はもっと強いのでは?真由美は訝しんだ。その疑念が晴れるのはもうちょい先のことだが、取り敢えず龍郎に電話した。しかし追及は躱され、家族にならないと教えられないなぁとカウンターを食らった。乙女がしてはいけない顔になった。うぇへへへへ。龍郎と達也のどちらで妄想したかは秘密。もう手遅れです。
一科生のある二年生女子生徒: 達也にやられた。普段の凛々しい姿、期待に応えようと奮起する姿、家族絡みで見せた年相応の姿、競技中のかっこいい姿と立て続けに見せられて堕とされた。のちにファンクラブを立ち上げ、達也や二科生への悪評偏見の払拭に一役買うことになる。お前すげぇよ。