貞操逆転あべこべ世界TS転生男の娘ヒロイン精神的BLもの 作:後ろに敵が
1.
――
高校1年 15歳 女子 ちょっとしたチート持ち。
私の今のプロフィールについて軽く並べてみた。
最後を除けばごく普通の女子高生といったところ。
で、私のちょっとしたチートっていうのは私が転生者であるってこと。前世がどういう人間で、どういう名前かすら既にかすんだ記憶にしかないのだが。
前世の覚えていることを同じように並べるならば、社会人 20代 男 チートなしと言ったところだ。オタク知識でいうならばTS転生者というやつ。
うん、簡潔な言葉だ。わかりやすくていい。
さて、話を現在の私に戻すと、只今は平凡な平日の朝。
私という一人の女子高生は学校へ向かう準備中。制服に着替え少し身なりを整える。いきなり女子高生になったのならば、このあたりでドキドキ☆イベントとでもいえるところではあるのだが、すでに15年にわたり付き合ってきた身体だ。
いまさらそいった感情はわいてこない。もっともこれは自分だけでなく同級生の女子高生相手にも言えてしまうことだけど。
これについては前世の自分からすれば残念なことに、だ。
せっかく合法的に女子更衣室にはいれるとて、そこに意味なんてものは今の私にはない。
――だからといって、男の体をみても何も思わない。
男女ともに同性をみるような感情で見れてしまう私を、親しい友人は枯れているなんて言うけれど、もうどうしようもない話な気はしてしまう。
そんなこんなと前世の記憶がある人間らしくこの先のことを深く考えながら私は朝の食卓に着く。
「おはよう、こよりちゃん」
「うん、おはよう父さん」
リビングにいた父に挨拶をし、父の作った料理を食べる。
軽く家族構成を紹介すると私には両親と中学2年の妹がいる。
ただ、すでに母は会社に妹は部活の朝練に向かったようだ。帰宅部の私と専業主夫の父の二人でとる朝食は、我が家的に言えばそれほど珍しくはない。
ニュースを見ながら平凡に過ごす朝。今日の授業は面倒だったか面倒でなかったかなんて、そんなことを頭に浮かべる朝。
「うん、今日のニュースもいつも通り、特に変わったことはなし、か」
「どうしたのこよりちゃん?何もないことはいいことだよ、きっと」
「まあ、そうかもね」
――そう、今日は私がいつも通りであるようにニュースの内容もいつも通り。
内容自体は違うけれど、何度か見たような内容のニュースを流す。世間で起きた事件も事故も、芸能界の結婚やら不祥事やらも、様々な特集すらも。
見出しを並べてみたところで大したニュースは出ていない。
【電車で痴姦。30代女性サラリーマン逮捕】
【山本環境大臣 男性差別発言を謝罪】
【男性アイドル 宮坂賢樹 週刊少女サタデーで水着姿】
【今男性に人気のスイーツ店特集!】などなどetc.
……うん、特に変化はない。
私がこの世界に生まれ、育っていく中で聞いたことがあるようなニュースばかりだ。
――前世と男女があべこべであるということを除けば、だけど。
前世の私の価値観からすればごちゃごちゃした世界だ。
この世界において男女の価値観がおおよそ逆転している。
社会に進出するのは女性の役割で、男性が家を守る。で、それはいかがなものかと男女平等を今世間は目指している。
性的に異性を襲うのは基本的には女性が多く、身体能力も女性のほうが基本的に上。
異性に好まれる男性は私の前世の価値観からすれば女性らしく、逆に異性に好まれる女性は私の価値観からすれば男性らしい。
とはいえこれもあくまでおおよそだ。
異性に好まれる特徴というのもあくまで性格であったりというところだ。
見た目は割と前世と同じ価値観でイケメン、美女が決まっている。
完璧に違う、というわけでもない。
まさしく、あべこべだ。
しかし、前世の記憶のある私からすればもっとあべこべなものだってある。
もし、これが、この世界が。異世界に転生をした私を主人公とした物語だとするならばという話だが――
――TS転生男女あべこべ世界、なんて設定のほうがよっぽどあべこべだと思う。
2.
「おはよう」
朝、高校、教室。
3つ言葉を上げれば説明しきれてしまうぐらいには今はいつも通りの日常。
自分のクラスに入り、挨拶をつぶやくように言葉にすれば教室のドアの横にいた友人が「おはよう」と反応した。
ふ、とクラスを見渡せばクラスメイトはすでにほとんどが教室の中にいた。
その中を抜け、自分の席へ向かう中で男女比は普通なのだと思い至る。私のクラスは合計41人、そのうち男子は21人、女子は20人。おおよそ半々の比率だ。
前世のオタク的な記憶でいうのならこういった場合男女比が偏っていたりする場合も多いような気もした。が、そもそも前世の男女が逆になっただけで男女比が変わるわけではないのか。
「おはよう、こより」
「ん、おはよう」
私が席に着くと友人の
高校に入ってから数カ月の仲(本日は7月3日)だけれど、少なくとも高校に入ってからは一番話す友人である。
するのはいつも香織の趣味の話だが。
所謂オタク文化的なアニメや漫画、ゲームなどが好きなオタク女子である香織は、私によくその話をする。前世ではオタク男子であったが、今はそれほどそういった作品は見なくなってしまった。
幼少期にテレビで見た特撮物の主人公が全員美少女だったり、前世の少年漫画にあたる少女漫画の主人公が女の子だったり(少女漫画なのだから当たり前だが)と慣れれば大した違和感ではなかったのだが、どうにも完全にそれを受け入れることはできなかったようだ。
とはいえ、拒否反応を示すわけではなくおすすめされれば軽く見るぐらいはする私は、趣味の話をする相手があまりいない香織にとっては貴重な存在であるのかもしれない。
「で!こんどそのイベントにいくことになったわけ!」
「あー、うん。テンション高く説明ありがとう。そういうの抽選すごそうだけど」
「うん、まあまあかな。といってもその作品好きな人が全員いくかっていうの微妙だし、ある程度の余裕はある」
「ま、そっか。でも男性声優のイベントねぇ……正直声優まで興味があるわけじゃないから何やるかさっぱりわかんないな」
「こよりは枯れてるもんな。声優じゃないにしろ好きな男性芸能人とかいないの?アイドルとか男優とか」
「……うーん、まあ別にテレビも映画もあまりみなからね。特に疎いわけではないとは思ってるんだけど、ファンってほど好きなことはないかな」
ふーん、と口にし香織は私のほうを見て目を細める。
「めずらしいよね、それも。花の女子高生らしくもないね」
「花の女子高生、ね」
「そうそう!それにこよりの場合、テレビの芸能人だけじゃなくて異性に自体興味なさそうじゃん。こよりの口からだれがかわいいとかも聞かないしさ」
男をかわいいというのを聞かない。
――ややこしい話。
男の顔立ちで女子ウケがいいのはこの世界でも所謂ジャニ系ではあるのだが、性格は大和なでしこのようなものが良いともされている。だから、私からすれば顔は前世と同じなのにやたらと女々しく見えるし、世間はそれをかわいいと言ってもてはやす。
真逆になっていれば、まだ受け入れることもできたかもしれないが、あべこべすぎでなんとも言えない。
「別に、顔がいいとか、そういうのを思わないわけじゃないよ。テレビ見てても思うし同級生とかでも思わないわけじゃない」
「つって、顔がいいって思うだけなんでしょ?こう……彼氏とかほしいなとか思わんの?」
「思わないね、それは。別に興味もないし」
「……実は女好きとかいわないでよ」
いわないよ、なんて手を軽く振って返す。
前世のままの価値観で、この世界が前世と同じ世界であるのなら私もになったかもしれないけれど。残念ながらそうはならない。
「たとえばさ」
香織が私に顔を近づけ秘密のように小さな声で話をする。
「うちの学校の男子だと誰がイケてると思う?」
「……あんまり、そういう話をするべきじゃないと思うけど」
「かたいね、こよりちん。こういう話こそ女子が話すべきことでしょ。それに、こっそり話してるんだからいいじゃんか」
「まあ、別に個々の趣味の話ぐらいはしてもいいとはおもうけどね」
「でしょでしょ!それに割とうちの学校って男子も女子もレベル高めじゃん、イケメンもイケジョも盛りだくさんってね」
「……一応言っておくけど、私はどっちも興味ないよ。だから、私に聞く意味はないと思うけど」
チッチッチッ、とわかりやすく舌を鳴らし指を左右に振る。
「だからじゃん!割とこよりは枯れてるからね!中立立場からの気持ちも聞きたいってね」
「……中立」
「そう!もはや男女の中立だね!性別こより、かな」
見た目は女子だけどね。と香織はそう締めた。
――めちゃくちゃ馬鹿にされているような気もするけれど。
「でも、私はそれこそ香織のいう通り中立なわけだからこの学校の男子のことなんてせいぜいクラスメイトぐらいしかわからないよ」
「あー、なるほどねー。まあ私も部活とかで何人か聞いたことあるぐらいで、詳しいわけでもないからね」
「……じゃあ私なんて猶更わかるわけないじゃない」
むむ、少しうなりながらと口をくっと閉じて首をかしげる。
そしてふと笑顔を浮かべ香織は言葉を続ける。
「例えば!うちのクラスでいうと塚本くんとかが多分人気だと思うよ!」
「ああ、まあ、それはわかるかな。顔立ちも整ってるし」
「そだよね!後は別クラスで話を聞くのはB組の関口くんとかE組の岬くんとかかな」
「……さすがに知らない名前。でも部活で話が上がるぐらいのイケメンって話?」
「まあ、そうだねー。私もちらっと顔見たことあるかなってぐらいであんまり知らないからね。――あ、でも一つ情報があるとすれば岬くんはさきと付き合ってるらしいねぇ」
「……さき?」
「あー、うん。私と同じ部活の女子。まあまあイケジョかな」
「それはまた……手が早いのか展開が速いのか」
まだ1年生になって数カ月というのにすでにそんなラブコメが繰り広げられているとは。
「うらやましいよねぇ、私も趣味に理解のある彼氏がほしいです」
「そう……最近はオタク男子なんてのもたまに聞くし、いるはいるんじゃない?運命の相手的なのが」
「だといいねぇ、私も一介の女子高生だからね!やっぱかわいい彼氏の一人や二人……」
二人はダメだよ、なんてそんな定番に近い突っ込みをしながら過ごしていても、なんだかんだと時間は過ぎて行く。
私もこの世界に生まれてすでに十五年以上、なんだかんだと順応を感じるのだった。
3.
「じゃあねーこより!」
「うん、また明日ね」
新発売のゲームを買うと急いで帰路につく香織を見送り、私も学校から帰宅する。
学校から学校の最寄り駅へ、そこから数駅電車に乗り、家の最寄り駅へ。通学時間は約30分の道のり。
今話題の男性シンガーの歌を聞きながら帰る道すがら、ふと欲しかった小説が今日発売であったことを思い出した。
「……いこうかな」
帰ったところで、だらだらと過ごすだけであるわけだし時間をつぶしがてら買い物でもするかと乗った電車で家の最寄り駅からさらに一駅先へ行く。
単に、家から学校までの間より、そちらの駅のほうが栄えているからだ。
駅につき降りてみれば大型ビジョンで今話題の男性俳優が化粧水の広告に出ている。――何となく、前世の価値観で女子が化粧をして身だしなみを整えるべきなんてものがあるものだから、私はこの世界の女性のなかでは、割と美意識高めに属している。
前世を引き継ぐとでもいうのなら粗雑になりそうでもあるが。案外、この世界と前世とのギャップで、意識しすぎてしまっているのかもしれない。
ふと、まわりを見渡して周囲の人間を見てみれば見た目だけでいえば前世と対して変化はない。男性がスカートをはいたりはしていないし、かといって女性がはいているかといえばそうでもない。全体的に中性的な感じ。
そのまま町の中を抜け、本屋に入る。
私と同じ制服を着た人間を何人か見かける。学校から一番近い繁華街であるからだろう。同じ学年と思われる――タイが私と同じ赤色だ――人もちらほらと。
残念ながら友達あまりいない私の知り合いはいないのだけど……
「たしか、こっちだったかな」
何度か通っている本屋ではあるから、ほしい本がおいてある場所も大体わかる。
新刊がおかれた場所に近づけば、ふと一人の男子が立っていたことに気が付いた。制服からして同じ学校同学年。それと肩ぐらいまでに伸ばした黒髪と整った顔が目に入った。
――前世の価値観からすれば、イケメンというより美少女のような顔立ち。
(男の娘……)
ふと、そんな単語が浮かんだ。
この世界では全く聞いたことがない単語だ。そもそもかわいいことが男性に求められているのだから、言ってしまえば全員男の娘のようなものだ。
ただ、それに見た目まで伴っているのは初めて見た。整っているといっても割と私からすればかっこいいと形容する人間ばかりだ。
ふ、と一つ息を吐き近くの棚を眺める。
私が一般女子ならばもしかしたらナンパ的に話しかけたかもしれないが、私からすれば単に同級生がいるだけだ。話しかけては来ないだろうけど、できるだけ接するのは避けたいと思ってしまうのがぼっちの性。
悲しいことだが、本を選び終わるまで待つとしよう。
なんて、息をついたのも束の間その男子は一冊の本をとり、私の後ろを通りレジへ向かった。
――私がほしい本と同じ本だったな。
なんて、いらない運命でも感じてしまいそうな出来事はおいておいて私も平積みされた小説を一冊手に取った。
なんとなく少女漫画の棚を回ってレジへ向かい会計を済ませ、どこか寄り道でもしようかと店を出て少し駅の周りを歩く。
先の出会いを隅に追いやり記憶からもなくしそうなとき、ついでに服でも見ていくかと足を向けすこし歩いたところでふと、視界に同じ高校の男子の制服が目に入る。
――先程から何度か目には入っていたのだが、なんともなくそちらに目を向ける。視界に入ったから、なんとなくとそれだけではあったのだが。
そこには、先程本屋で見かけた男子と同い年ぐらいの女子が3人。女子の制服は見慣れない――私やその男子とは違う高校の制服であるようだ。
(――ナンパとか?)
頭の中になんとなくの可能性が一つ浮かんだが、まあだからと言ってすぐに関わる必要もない。そのまま視界から外して歩き出そうとしたときに、やめてくださいと声が聞こえる。
「……ああ、まあ。帰るわけにも行かないか」
助けを求めてそうな声を聞いて、何もせず帰るというのは、どうにも――
――男らしくない、か。
ふ、と一つ息をはき駅からその男子の方へ行き先を変える。
ぴたと目が合った。助けかどうか迷うような顔をしてはいたが、助けを求めているのは確かなようだ。その容姿がそもそも女子のような顔立ちだからかはわからないが、なんとなくナンパされそうな顔だと思った。同時に庇護欲をそそられそうな顔だとも。――そんなことを言っている場合ではないか。
そのまま顔を見たまま足を止めない私を見てか、すこしその男子の肩が落ちる。誰かがきたのが安心したのかこんな女子が助けにくるのかという失望か。前者であってほしいところ。
「おい」
一言、声をかける。
その男子は少し驚いたような顔を、私に背を向けていた女子3人はこちらを向きにらむような顔をする。――典型的な不良のような顔にすこし笑いそうになる。今時なかなか見ないぞなんて思いながら。それに前世の価値観から言えば、こういう顔は男の不良がするイメージもあるからか、すこし違和感があった。
一番私に近い所にいた女子が私に対して何か用かと聞いてくる――わけではなく私の顔を殴りにきた。
――暴力的だ。そんなことをその拳を右手で受け止めながら考える。
はい、これは私のチートなのか単なる努力の結果なのかは微妙な所だが、私はこの世界の女子としてもかなり高い身体能力を持っていた。――少なくとも喧嘩ぐらいでは負けないぐらいには。
受け止めた拳を腕ごとひねりながら引く。すこし体制を崩したところの足を払い地面に転ばせる。――なんだか、女子に対してやることにすこしの罪悪感を覚える。
転ばせた女子が痛みで軽く悲鳴を上げ、すこしもがく。
「さて、どうする?」
――彼我の実力の差はわかったか。なんて厨二チックのことを考えながら聞いてみればすこし後ずさりした後最後の抵抗のように舌打ちをして離れていった。――捨て台詞もなしか。
なんだか、私の勝手な不良のイメージと一致していそうな見た目とすこし違う行動になんだか混乱してしまいそう――
「――あの」
ふと、声がかけられる。
「えっと、助けてくれて、ありがとうございます……」
すこし遠慮がちに声を書けてくる目の前の男子は、声だけ聴けばまるで女子のようにかわいらしい声だった。見た目とは合っている。同時にそのおとなしそうな感じから、ああ、なるほど、こういう子がナンパされるのか、と。そんな風なことを思う。
「ん、別にいいよ。一応同じ学校みたいだしね」
「でも!ほんとにありがとうございます!」
意を決したかのように大きい声で私にお礼をいう。
――気分は、まあいいものだ。
「その、僕、あんまり抵抗とか出来なくて……だからありがとうございます」
「だからさ、別にいいよ。男子が女子3人に囲まれていたら抵抗出来る方がすごいと思うし」
「……はい、そう、ですね。はぁ、なんか嫌な日だな」
なんとなく、落ち込んだ男子を慰める形になっているのはなぜだろうか。
……と私がふと考えたことが伝わったのか、ふっと男子が笑顔を浮かべる。
「ちょっとああいう感じなのは嫌だったけど、好きな本は買えたし助けても頂けたから悪い日でもないのかも知れないです!……なんだか落ち込んでしまってすいません!」
「ああ、うん。まあ気にしない方がいいと思うからね、かわいいんだし笑ってたほうがいいと思うよ」
「かわっ!?」
驚いた顔で停止している男の子を尻目にじゃあと言って帰ろうする。――男は(今は女子だけど)クールに去るぜと帰ろうとしたところで私の服の袖がつかまれる。――袖クイ、なんて考えながら振り返れば、すこし顔を赤くした男子が私の顔を見つめる。見れば見るほどかわいらしい顔だな、なんて感想が浮かぶ。
「名前っ!……名前聞いてもいいですか?あと、クラスとか……」
「あー、うん。1年A組立花こより……です?」
「立花こよりさん……A組……ありがとうございます!僕、B組の
「……婚活?」
私のつぶやきは聞こえなかったようで、顔をすこし伏せて私の名前とクラスを何度かつぶやく。
最後にバッっと顔を上げ私の顔を見て「お礼、今度、します!」とカタコトのような言葉を言い放ち、スクールバックのベルトをぎゅっと握り駆け足で去って行った。
――ふむ、よくわからない流れだ。
首をかしげながら私はその後を追うように駅へ向かう。助けたのとそのあと名前を聞かれるのはなんとなく展開としては理解できる気もするのだけれど、なんとなく私の胸に理解できない気持ちが残る。
――これが恋か。
私からすれば金魚でも見たときの方が抱きそうな考えを思い浮かべながら家への帰り道。
そして、また別の考えが頭に浮かぶ。
――同じ本を買っているなんて話をした方が、運命的だったかもしれないな。
4.
――これが恋かな。
家にかえって、楽しみにしていた本を読みながらそんなことを思う。
――そんなことを思うせいで全然本に集中できてない。
「はあ、でも……かっこよかったな」
――本を買った帰りにナンパされていた僕を助けてくれた人。
なんとなくその人の顔と声が頭から離れない。
「立花……こよりさん」
その人の名前をつぶやく。もう、今日帰ってから何度目かわからない。
楽しみにしていたはずの本を読もうとしても集中できず、結局その本を閉じてベットに寝転ぶ。うー、と声を出しながら枕に顔をうずめて、すこしゴロゴロしてみても何も進歩なんて有りはしない。
なにかお礼とかした方がいいのかな。多分、いいんだろうな。
お礼が目的か、接点を持ちたいだけなのかがわからなくなってきて――
「こより、さん……」
また、ふと名前をつぶやいた。
つぶやいた回数も、今の気持ちも、僕にはわからなかった。