貞操逆転あべこべ世界TS転生男の娘ヒロイン精神的BLもの   作:後ろに敵が

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しれっと2話


状況に、ついていけそうもない

1.

 

翌日の朝。

発売された本を買いに行きそこで絡まれていた同級生――関…なんとかくん――を華麗に助けた翌日の朝。

 

なんだかんだでこの世界に生まれてそれ(チート)を完全に活かせたな、なんて感じる機会なんてのはあまりなく、転生主人公らしい活躍なんてまるでなかったがゆえに、昨日の『第一話-出会い』みたいな展開は物語のようで少し気分が躍る。

 

これが転生物の小説であったのならこれはヒロインの初登場シーンといった所だが、残念なことに助けたのは女子で助けられたのが男子だ。ちょっとそれは立場が逆――

 

――でもないのか、この世界だと。

そんな風に思い至り、そういえばこの世界の有名な横スクロールのゲームは囚われの王子を助けに行く話だったなと思い出す。

一般的に力が弱いのは男子で、それを助けるのが女子、そういう話が多い。私は別にその一種古臭くもある価値観に抵抗――男女平等的観点で――することはないけれど、どうにもそれは逆だろと違和感は感じる。

 

「おはよう」

「おはよー、お姉ちゃん!」

「おはようこよりちゃん」

 

考え事をしながらリビングに入れば父と妹が食事をとっていた。

昨日と同じく父の手作り朝ごはん。妹がおいしいおいしいと食べているのを見ながらその横の席に座る。

 

「今日は朝練なし?」

「んぐっ……うん!テスト前だから今日から一週間ぐらいは何もないかな!」

「そ、なら今週は朝ゆっくりできるのね」

「そうだよ!お姉ちゃんと一緒に朝ごはんも食べれるね!」

「……なにそれ」

 

わはは、と笑いながらそんなことをいう妹。

現在中学二年生、思春期の中にある妹だが、特に反抗期的なものを感じることはない。(私も思春期だが)姉からの評価としてはいい子といった感じ。でもどうなんだろう、案外既に学校では彼氏がいて、そういう方面では私より進んでいるかもしれない。

 

転生者である私の影響かはわからないが割と性格も落ち着ているから異性にもモテそうな感じがする。――私と違って明るいし。

 

「お、藤本ミナキだ」

「ん、ああ。あの男性アイドルね。好きなの?」

「うーん、まあ普通かな。かわいいとは思うけど別にファンってわけじゃないよ。友達がすごいファンだからなんかおぼえちゃって」

「そう……」

 

ふと、テレビに映るイケメンをみて反応をした妹をみて、こういう男が妹のタイプの男かなんてことを思ったがそういうわけでもないらしい。

私があまり恋愛方面に興味がないことがバレているのか妹からそういった話題を振られることがあまりなく――

 

――とさんざん話を進めたとことで妹のことも紹介しておこう。

立花ひより。

中学二年生女子。運動部に属し、性格も明るく勉強もできる。明るいが割と落ち着いた感じで――と、なんだかこれこそ小説やらのヒロインのようだ。

この世界でいうなら男性向け恋愛ゲームのキャラ。または少年漫画のキャラクターだ。

 

これでいて男遊びをしている様子もない――中二女子に心配する内容ではないけど――ときていれば将来は安泰な気もする。

私としても素直に姉として慕ってくれているのでかわいい妹だ。

 

「……そういえば二人はあんまり聞かないよね。男性芸能人のだれが好きとか」

「……まあ私はあんまり興味ないしね。ドラマとか映画とか見たら案外好きになるかもだけど」

「私が好きな芸能人いないとしたら完全にお姉ちゃんの影響だよね!」

「たしかにね。こよりちゃんは昔からあんまりそういうの聞かないものね」

 

……そう昔から。

生まれた瞬間に私には前世の記憶があったわけで。子供のころから成長する中で人は変わっていくと思うけれど、ある程度変わり切った状態で生まれた私はきっと子供のころから変わっていない。

何かが変わることがあれば、それはそれで楽しい話だとそんなことを思いながら話を続ける。通学に時間を要する私がそろそろ学校へいかなくては、と言えばはーい、と父とひよりが軽く声を上げた。

 

昨日は帰り道、いつもと違う出来事があった。さて、じゃあ今日はなにか変わるかといえばきっと何も変わらないだろう。またいつもの日常が始まる。

何でもない日常が――

 

 

2.

 

通学中、昨日購入した本を読みながら歩く通学路。

学校の最寄り駅につき、いつもならば同じように通学を行う同級生や先輩に混じり学校へ向かうが、こうして本を読んでいるときには何となく人の少ない路地を通る。前を見ていないと危ない気がするからだ。ならそもそも本など読むなという話だが。

 

さて、そういった所のマナーがどうか、歩きスマホと同じように危ないからやめたほうがいいとか、そういう話はさておいて今読んでいる本は期待通り面白くつい集中してしまいそうだと思う。割と、そういった娯楽については雑食である私だがその中でも現在読んでいるようなミステリーはついつい読み込んでしまう。読んでいる中で先を読む楽しさやそれを裏切られたときの驚きには、たまらないものが――

 

「――おはよ!こより!」

 

ぱしっ、と背中を軽く叩かれる。

私に話しかけてきたのは昨日と同じく香織だ。朝、通学路で話すことはあまりないのだけど、私に話しかけてくるのがそもそも香織しかいない。――言ってて悲しくなるな。

 

「おはよう、朝会うのは珍しいね」

「あ、そうだね!私は結構こっち通ってるからじゃないかな。こよりはいつも大通り通ってるでしょ」

「そうね、確かに。いつもだったら路地には入らないから」

 

パタリ、と本を閉じ鞄へしまう。

軽く世間話をしながら学校へ向かう道。

 

「お、いましまったの。昨日発売だったんだね」

「そうだけど……香織が知っているのはちょっと意外。こういう本も読むの?」

「読まんよー!私が読むのは漫画とラノベだけさ!でもその作者、こよりが良く読んでる人でしょ?そいでなんとなく憶えてただけだよ」

「ああ、なるほどね。そんなにメジャーというわけでもないから意外だったけど……でも、そんなに友達のこと香織がみているっていうのも、それはそれで意外」

「ひどいなー!特に私の唯一の親友でもあるこよりのことはよく見てるさ。ストーカーのようにね!」

 

むむむー、と言いながら私を観察するそぶりを見せる香織と、まあいつも通り話をしながら歩いていると、ふと後ろから足音が聞こえた。

 

――うーん、わからないな。

 

何がと言えば、この足音のことだ。

こつこつとかるい音。何気なく少し立ち止まって見ると後ろから聞こえた足跡も止まる。

 

何してんのといった顔でこちらを見る香織は一旦無視するとして、後ろの人間の目的は何だろうか。実はといえばすこし路地に入った時から気になってはいた。ーーただ、あくまでついてきている気がするだけだったから、たまたま同じ道を歩く誰かか、香織の足音だとおもっていたけど、残念なことに香織は私の横でふと止まった私に不思議そうな顔を向けているし、私が止まったタイミングで足音も止まった。

 

どうしたのと聞いてくる香織になんでもないと答え再び歩き出す。何気なしに先程より少しゆっくり歩いてみれば後ろから聞こえてくる足音もゆっくりになる。

それに香織も気づいたのかん?と一つ声をあげ私に歩調を合わせた。ちらりと私の顔を見た後少し悩むような顔を浮かべた。今度はふと香織が足を止めた。それに合わせ私も止まると後ろの足音も止まる。

 

――前世の価値観でいえば、女子高生である私たちを誘拐しようとするやつとかストーカーになる人間の気持ちなんかも、まあわからなくはない。

だが、残念なことにこの世界でそういう事件は少ない。ましてや私や香織はそもそも人と関係が少ないのだから、私怨などもないと思うのだが――

 

「……なんだろう」

 

ふと、香織が一言つぶやきどうしようか迷っているような顔を浮かべる。それに対してどうしたものかと私も返事をしようとした瞬間――後ろか駆け足が聞こえた。明らかに私たちの方へ向かっているような音だ。ぱっと香織が後ろを向く。で、それに合わせて私も振り返ろうとしたところで――

 

「――あのっ!」

 

一言、声がかけられた。さっきとは違う意味で不思議そうな顔をしている香織を横目に声の方を向いていれば一人の男子がたっていた。私たちと同じ学校の制服。同じ学年を意味するネクタイ。ついでにかなり整ったかわいい顔と、そこで気づく。

 

――昨日助けた関なんとかくん、か。

 

「今っ!ちょっとお時間大丈夫ですか!?」

 

意を決したように声をあげる関なんとかくん。それに対して首をかしげる私と少しパニックになっている香織。

 

「――えっと、B組の関口くん、だよね?私たちに何か用?」

「え……っと、はい、ちょっとお話が……」

 

――B組の関口くん。

なぜか香織の口から彼の名前が飛び出てきた。昨日はあまり知らないと言っていたが、いつの間にやら学校の美少年に詳しい親友キャラになっていたのだろうか。

なんだなんだと困惑している香織と気合を入れすぎたのか少し慌てている関口くんとなんだか無駄に落ち着いている私。

 

「あ、うん。私もこよりも大丈夫だけど……どういう用事?」

「えっと……わ、渡したいものがあって……」

 

緊張が隠せないのか左右に視線を揺らしながらごにょごにょとつぶやく関口くんを見てから、横でやたらと驚いている香織を見る。私はそもそも慌ててはいないが、こうのテンパる二人を見ているとなんとなく落ちついて――

 

「――これ!」

 

勢いをつけ関口くんがふっと私たちに一歩近づき私の方に何かを差し出し――私か。

 

「あー、っと。これは……?」

「昨日のお礼……ですっ!その、お、おかしなので良かったら食べてください!」

「……あ、ありが、とう?」

 

あわあわと効果音でもなってそうな様子で渡されたそれを受け取るとぱっと顔を明るくした。――確かに、そういえば昨日お礼をするみたいな話はしていたな。明るい顔でありがとうございます!と私に向けて言う関口くんの顔をなんとなく見ていると、ふとその笑顔がぽっと赤く染まる。

 

「じゃ、じゃあ、僕はこれで……」

「うん、えっと。ほんとありがとね」

「い、いえ。こちらかそありがとうございますっ!じゃあまたっ!」

「あ、うん。また――」

 

――また?

 

と、返事と疑問が終わる前にひゅっと私の横を通り駆け足で学校の方へ向かう。さっきの様子はまるで恋する乙女だな、と前世でしか聞かないような感想を抱く。あの子が女子で、私が前世のままの男であったのなら素直に今以上に喜べたのかもしれないな、なんて思う。ちらりと手元を見れば小さな花柄の紙袋が残っていた。中をすこし覗いてみれば、すこし形の崩れたクッキーのようなお菓子が10枚程度。――手作り。という言葉が頭に浮かぶ。

 

「どういうことなんじゃ……!?」

 

謎の老人口調で困惑する香織を横目にそれは私も思っていると考え、そして走り去っていった関口くんの背中を見送る。角を曲がりその背中が見えなくなったときにふと一つ思う。

 

(ああ、ずいぶんと。ラブコメのような展開だ)

 

おーい!と言いながら私の肩を揺らす香織をみて、猶更コメディのようだという考えを深める私であった――

 

 

3.

 

「じー」

 

体育の授業終わり。昼休み前の最後の授業として体育を終え、おなかがすいたとこぼすクラスメイトと「じー」と言いながら真横でこちらの顔を見つめる香織のいる更衣室で体操服から制服へ着替える。

……なぜそんなことまで声に出しているかはおいておいて、今は関口くんのことのほうが優先事項なのかもしれない。さて、もらったクッキーの意味を単にお礼のためであると考えるのは簡単なことだ。あの緊張した様子も、単純にあまり接したのことのない人と話さなくてはいけないから緊張していたのだとすれば、なんて話は単純なんだと思う。

 

あの様子を見て、そんな風に簡単には捨てられないのだが。あの様子だけ見れば、好きな人に精一杯のアピールをする少年だ。私も何となくそうなんじゃないかと思うし、香織はそうだと決めつけているのだろうなとも思う。だから私をジト目で見つめている……のか?そうならそうで恨みごとの一つは言ってほしいところだ。

 

「はぁ……」

「いいねぇ……あんな美少年からプレゼントとは」

 

ため息をつけば香織が絡んできた。

言葉だけ見れば、それこそさっき言ったように恨みごとのようだが、そのニヤニヤした表情を見れば、どちらかといえばからかいだとわかる。

 

「……それ言うために今まで何も言わなかったの?」

「いやー、そういうわけじゃないんだけどね。そもそも私とこよりはそんな休み時間の度に話したりはしないじゃん。タイプ的に」

「そうね。でも登校中もなにも言わなかったじゃない」

「……わりと今もだけどちょっと困惑してたからね。こよりが男子と話してるってちょっと珍しいとも思うし、しかも相手はあんな様子じゃん」

「……それ、本人にいっちゃうのね」

「いっちゃうよ、そりゃ。別にこよりは昨今の鈍感系ハーレム主人公というわけじゃないんだから、ある程度は気づいてるんじゃないの?まあ鈍感系ではなくとも無欲系主人公ではありそうだけど」

「無欲系、ね」

 

無欲系というのはあれだろうか。私の前世でいうところの女子に囲まれたハーレム的な状況の癖に性欲の一つも見せない主人公、的な。そういう観点でいえば、本当は興味があるのかどうかという違いはあれど同じような物なのかもしれない。――一応言えば私が興味がない側だ。私の前世が男なのだから、精神的には男は同性とも思えてしまう。ゆえに、そこに恋愛感情なんてわかないし、性欲なんて猶更ない。

 

「でも、実際何があったの?昨日は知らない様子だったじゃん」

「昨日?」

「そ、昨日。昨日の昼に話したじゃん。同い年の男子の中でイケメンって言われてる人の話。その時に関口くんの話もしてたよ」

「あー、なるほど。そうなのね」

「そうだよー。まあその時はほんと軽い話だったけど」

 

更衣室で着替えを終え、教室へ足を進めながら昨日の話をする。

 

「……あまり言いたくはないんだけどね。簡単に言えば絡まれているのを助けたというか」

「絡まれてたのを助けたぁ!?そりゃまたラノベみたいな展開だねぇ」

「だから言いたくなかったの。……でもそれでどうとかある?」

「そりゃあるんじゃない?ラブコメ漫画だけじゃなくてさ、バトル漫画とかでもよくあるじゃん、美少年を助けた主人公が惚れられるようなやつ」

「……あー、なるほど」

 

――美少女ヒロインを主人公が助けて、そのヒロインが主人公に惚れる。

なるほどそれはありがちな展開な気はする。ただ、それで主人公が恋愛に興味が全くないどころか異性にも興味がないという展開はあまりない――わけでもないか。異性嫌いな主人公なんてのもよくいる気がする。そしてそれがほだされるまでテンプレートだ。

でも、前世が男の女主人公が前世の世界でいう男的な立ち位置で前世でいうヒロインのような立ち位置にいる男に惚れられる(しかもその男子の見た目は美少女)なんていう話は見たことがない――というかあべこべすぎて意味が分からないし、全く綺麗な説明になっていない。

 

「いまので、何となくわかったけど。単純にお礼だと思うことにする」

「はっはっは、とわざとらしく笑ってしまうぐらいにはおかしな話だねこよりくん」

「……そう?」

「据え膳食わずは女の――というまでの話ではないけれど、そりゃもう逃げな気もしちゃうね。そりゃこれで好かれてる!なんておもって勘違いだったらめちゃ恥ずいけどさ。なんもしないのも女としてどうなのさ!」

「それ、香織じゃなくて別のイケジョが言ってたら説得力あったかもね」

「確かにね!私も非モテだし」

 

うぇい、と肩をたたきながら香織が笑う。

私も香織も、数カ月程度の付き合いではあるが、互いに別にモテるわけでないことはわかっているわけだ。

 

「でも、まぁ、こよりは落ち着いてるし大人っぽい感じもするからモテそうな気もするけど」

「……大人っぽい、ね」

「うんうん、少なくとも私よりは!」

 

そりゃそうだ。前世分私は人生を長く歩んでいる。同級生に比べればある程度成熟しているのは当たり前といえば当たり前だ。

それに、香織は同級生と比べてより子供っぽい。多分、友人である私しか知らないだろうけれど。

そんな風に話していたところで香織が足を止める。

 

「……どうしたの?」

「いやー、さっき言ってた話。それが恋愛的なやつなのかただのお礼なのかってやつなんだけどさ、やっぱり恋なんじゃないかなーと思うわけです」

「それはまた、どうして?」

「いやー、ほら。あれ」

 

香織は顔をくいくいと二回動かし私の前のほうを見るように示す。

そこには私と香織の教室と昼休みに入り学食や中庭へと生徒たち。

 

――そして、私のクラスの前でそわそわと弁当を持ちながら何かを待つように立っている関口くんがいた。

 

それを見て、今日は別でご飯食べることにしようか。なんて言って私の肩をたたき教室に戻る香織の背中を見ながらどうしたものかと思案する。

私以外を待っているなら気も楽なのになんて考えてはいるが、ふと私を見つけてはっとして少し嬉しそうな表情を浮かべる関口くんを見ればそんなわけもないと嫌でも伝わってしまう――

 

 

4.

 

――気まずい。

私は今、学校の中庭にて関口くんとともにお昼ごはんを食べている。

さて、先ほどのどうやったって逃げられそうもないエンカウントから、やはり逃げられなかった私が、こんな風にチラチラとこちらをうかがう関口くんとご飯を食べているかといえば単純に誘われたからだ。

 

私を見つけ遠慮がちにこちらへ歩いてくる関口くんを見て、朝に会ったばかりなのにその日の昼はいくら何でも気合が入りすぎなのではないかと思う私をよそに、関口くんは私へ話しかけてくる。緊張をにじませた声で話すものだから、どうにも私の調子まで狂わされるようだった。

 

『こ、こんにちは』

『……こんにちは』

『えっと、朝、渡したの、食べたりしましたか……?』

『あー、いや。まだだけど……ご飯食べた後にでも食べるつもり』

『……そう、ですか』

 

『…………』『…………』

 

謎の沈黙とうつむく関口くん。身長は同じぐらいなのだが縮こまっている分関口くんのほうが小さく感じた。

 

『あー、私にほかに何か用……ある?ないなら……』

『ありますっ!あ、すいません。えっと今日お昼とか約束ありますか……?だれと食べるとか……?』

『……ないよ、さっきまであったけど。なくなった』

『な、なくなった……?それなら――』

 

――僕とお昼食べてくれませんか。

そんな風に緊張をにじませながら必死に私に伝える関口くんを見て断れるほどに、残念ながら私のメンタルは強くないのだった。

それで今の状況。ご飯を食べているというだけで、あまり状況は変わっていない。中庭のベンチに並んで座りながら無言で食べ続けながらこちらをチラチラと見る関口くん。その視線を感じながらもどうしたものかと思う私。――どういう状況だ、これ。

 

「あの、立花さんはいつもお弁当ですか?」

「……え?ああ、そうだよ。私はいつも父が作った弁当。昨日の晩御飯の残りが多いけど」

「あ、そうなんですね……」

 

その答えでなぜか考え込む関口くんの心を読むことはできないわけだが、せっかくできた会話の糸口をそこでつぶすのも惜しい。

 

「そういう関口くんもいつも弁当?結構……手が混んでそうだけど」

「はい、僕もいつもお弁当です!」

「……いや、そこでそんな勢いで言われてもあれなんだけど……ちなみにそのお弁当って手作り?」

「はい!僕がいつも朝作ってます!僕の家はお父さんも結構朝早いので僕と姉のお弁当は僕が作ってます!」

「へぇ、それはまた。じゃあやっぱりくれたお菓子も手作り?」

「そうですね。それも僕の手作りで……昨日の夜ですけど作りました!」

 

すこしだけ、グイっと来る関口くんからは若干のやけくそ感が見えてしまう気がする。――後から悔やむことがないことだけは私も祈っておくとするが、高校生にして弁当を自作となれば猶更ヒロイン感を増していくななんて、そんなことを考えてしまうのもいかがな物だろうか。

 

「そうなんだね。それはじょ……男子力高めでモテそうだね」

「……ほんとですか?」

「……え?うん、まぁ、料理とか家事ができるのはいいと思うよ。女子は割とそういう人に惹かれそうなものだし」

 

そういうとあー、うー、と小さく唸り声のようなものを関口くんは漏らす。

なんだか、勢いがあるのかないのかわからないな。多分ではあるけれど、普段はもうちょっとおとなしい感じなのだろうとも思う。緊張からあわてて、つい勢いをつけすぎてしまっている感じなのだろうな、なんて少し悩ましい顔をする関口くんをみているとぱっと関口くんが顔を上げ、ぱちり、と私と目があう。

 

1、2、3、と目が合ったまま少し時間が過ぎれば、みゃっという声とともに目をそらす。

……随分とかわいらしい反応をするものだと思う。

そのまま少しうつむいているのを見ているのもなんだか変な気もしたので話題を一つ提供するとしよう。

 

「そういえば、関口くんさ」

 

そう呼びかければぴくっと肩を揺らし口元をきゅっと結びながらこちらを向く。

 

「昨日、本屋で新刊コーナーにいたよね」

「え?はい、いましたけどなんでそれを……?」

「いやさ、私も同じく本を買うためにあそこにいたんだよね。で、本を買った帰りに関口くんと会ったんだけど……本屋でも見かけたこと覚えてたから」

「そうなんですね!奇遇です!」

「うん、そうだね。で、奇遇ついでにだけど……昨日関口くんが買ってたの、これ?」

 

ブレザーから文庫本を取り出し表紙を示すように軽く振れば、関口くんの視線が表紙に併せて左右に揺れる。ピタリと動きを止め私がふと首を傾げれば、関口くんが激しく縦に振る。

 

「それっ!?立花さんも好きなんですか!?」

 

ばっと身を乗り出しながら、勢い強めに関口くんは声を上げる。

――藪蛇、という言葉がふと頭に浮かんだ。

 

「……うん、やっぱりそうだったんだね。昨日新刊コーナーで見かけたときこれ持ってたような気がしたから」

「僕、その作者の作品が好きでっ!今までの作品もほとんど買ってるんです!」

「あー、そうなんだね。私も結構買ってるよ。私もミステリーというか探偵ものが好きなんだけど。この作者はその中でも結構トリックも手が込んでていいよね」

「はい!その、なんていうか。すごい予想外で、でも納得できちゃう感じがすごいですよね!ええーって思うのとなるほどっていうのが一緒になる感じがあって、考えられるのがすごいなって思います!」

 

そのままの勢いで話し続ける関口くんをみて、やはり藪蛇だったかもしれないと思いながらも無言よりはましということもある。

 

「それは、わかるかも。ちなみに関口くんはどの作品が好き?」

「僕が一番好きなのは『色彩シリーズ』の作品が好きで、その中でも3作目の――」

 

好きな作品、好きなキャラクター、好きなシーン、好きな……好きなことを語るオタクのように――いや実際好きなことを語るオタクなのだろうけど、そうやって嬉しそうに語る姿はオタクというよりははしゃいでいる子供だ。

目を輝かせながら話を続ける関口くんは先ほどまで緊張で固まっていたのが嘘の用だが、早口でまくしたてるように話すその姿は今朝の慌てて去って行った姿に重なるところはあった。……これは、ギャップ萌えとでも称せばいいのかもしれない。普段はおとなしいあの子が、好きなことになると目を輝かせて話す、みたいな。

 

「ああ、でも私もそのトリック好きだったな。何回かそれ読むぐらいには」

「僕もです!ほんとに全部面白くて――」

 

そこまで言い切ると関口くんはその明るい顔をぱっとこちらへ向け私の目を見て。

 

「好きです!」

 

――と言い切った。

それはもう十分以上に伝わっている。なんて考えながら見つめ返せば関口くんの顔が真っ赤に染まる。

……ん?なぜそんなに顔を赤く――ああ、あれか。話過ぎてるなって思ったのか。今まで緊張からあまりしゃべれていなかったが、つい好きな話となってまくしたててしまったのだろう。それでふと冷静になり恥ずかしい気持ちになった、というところか。

まあ、わかる。私も前世オタクであった身分だし、ついつい好きなこととなれば無駄に語ってしまって恥ずかしい気持ちになったものだ。

ここは、一つ。私も同じく好きなものの話だし気にするなと、そんなフォローを入れておくべきか――

 

「――うん、私も好きだよ」

 

私は真っ赤な関口くんの顔を見つめ返しながらフォローを入れる。

 

「――――――」

 

が、それを聞いて関口くんは固まってしまっている。……なぜだ。

どうかしたのか――そういう風に声をかけようとしたところで、すでに真っ赤な関口くんの顔がさらに赤くなったような気がした。そして、口からふわぁと声になっているのかわからないぐらいの言葉を漏らす。

 

「ぴ……」

「……ぴ?」

「ぴみゃぁぁ……」

 

こんどは謎の言葉を漏らす。そしてそのまま俯く。そしてその後、昼休憩が終わるまでに何度か私からも話しかけてはみたものの、関口くんは「はい……」と上の空のように返事をするだけであった。そして二人ともご飯を食べ終わったころ関口くんは赤い顔を俯かせたまま最後にひとこと「あ、ありがとうございました」と言い残し小走りで教室のあるほうへ向かっていった。

一体どうしたのだろうか。途中までは我ながらかなり良い雰囲気で会話も行えていたと思うのだけど。

 

……そんなに早口で語ってしまったことが恥ずかしかったのだろうか?

 

 

5.

 

今日は、ちょっと特別な日だった。

朝、昨日作ったお菓子を立花さんに渡して、お昼にも一緒にご飯を食べた。

 

……僕は割と、動くときは積極的に動けるんだな。なんてことをふと思う。どっちかといえば僕はおとなしいほうだと思うし、恋とかそういうのも奥手で受け身になるのかな、なんて思っていた。

 

でも意外と、今日はアグレッシブ、だったような――ただ加減がわからなくて暴走しているだけな気もするけれど。僕はあまり友達が多いほうでもないし、純粋に距離の詰め方がわかっていないだけな気も――

 

――そんなことを考えながら今日のお昼のことを振り返る。

立花さんが僕と同じ本を買っていたのはすごい嬉しかった。なんだか、助けてくれた人が実は趣味が一緒でというのは……大げさかもしれないけれど、ラブコメ漫画のようだなと思う。

少し――ううん……かなり語りすぎちゃった気もするけど、こういうところから距離が縮まって行くものだとも思いたい。――これもラブコメ知識。

 

「ひゃっ」

 

ふと、その後のことを思い出し漏れた声を顔を枕に押し付けることでかき消す。多分立花さんはそんなことを意識していないし、気付いているかもわからなけど――

 

『――うん、私も好きだよ』

 

僕の顔を見つめながらそういった立花さんを思い出すと、また胸がどきどきと激しくなって、顔が赤くなり、それをごまかしたくて何か叫びたくなる。

 

「うぅぅぅ……」

 

ベットの上で風呂上がりの髪をいじりながらうなり声を漏らす。

結局その夜、僕は寝落ちするまで一人でうなり続けるのだった。




①メントスとコーラ②塩素洗剤と酸性洗剤③人が持つという108の性癖
世界三大まぜちゃいけなもの、だと。ふと思った。
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