ゴブリンの女王は死にたくない   作:フリーズドライ

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よくよく考えたら前回を幕間にする意味が全く無かったので、タイトルを変更しました。


第15話

 今日もどこかの世界線からこんにちは、ゴブリン幼女のニエラです。

 そういえば、サーラさんは俺の伯母(父母の姉)にあたる人なのだけれど、伯母さんとおばさんという同音異義語ネタはこの世界じゃ通用せず、少し残念に思っている今日この頃。諸兄はいかがお過ごしだろうか?

 

 俺はというと、ティーラさんの……お母さんの葬式から3日。どうにも何も手に付かず、ごろごろとベッドの上で転がる1日を3回も過ごしてしまった。サーラさんやマウさんも何も言わなかったし、優しく微笑んで頭を撫でてくれて、それに甘えてしまった。

 とはいえ、このままずるずる行くと本気で引きこもりになりそうなので、今日から気合を入れなおそうと思う次第である。なんてことを朝に決意していたところ、マウさんが、リンムさんが俺に大事な話があると言ってきた。

 

 

「あなたの“星詠み”の結果がようやく出たの」

 

 いつもの面子である4人とリンム様で卓を囲み、お茶をずずーっと一口。ほっと息をつきながら、リンムさんがのほほんと重大発表をしてくれる。

 星詠み。天高くに瞬く星々はそのすべてが精霊なのだそうな。そして星の精霊は大地に生きるすべての生命を見守っているのだが、神(太陽と月に分かれる前らしい)から未来視の力を授かっており、その力でもって生命たちの手助けをしてくれるのだとか。

 なお、“星詠み”と俺は訳しているけれど、エルフ語を直訳すると“星の声を聴く”となる。マジで精霊の声を聞いているのだ。“聴く”で語呂のいい単語が思い浮かばなかったのと、単純に格好いいので、俺は“星詠み”と訳している。

 

 で、イナ様が俺の運命を星の精霊に尋ねても、何故かいつも以上に不明瞭な答えが返ってきたのだそうだ。それも、どこか星の精霊も困惑しているようだったらしい。俺が星どころか夜空すら見ない生活を続けていたせいだろうか? それとも、俺が転生者であることが問題なのだろうか?

 ……転生、か……いつかは皆に話さなきゃならんかなぁ……うん、現時点でもだいぶ奇異に見られていることはなんとなく察してるけど。子供の振りするなんて悠長なことを言ってられなかったんだから、しょうがないじゃないか。

 エルフの死生観的に転生自体は普通に受け入れられそうだが、転生前の記憶を持ってますってのはどうなんだろうな。気持ち悪がられたりとか、あまつさえ迫害なんてされたらそれこそ生きていけない。でも、皆を騙しているとも言えそうなのが心苦しい……。

 

「ニエラちゃんの運命は、今後10年くらいは安泰らしいわ。ただ、その後に暗雲あり、とのことよ」

 

 おっと、リンム様の話の最中だった。

 リンム様の発言にサーラさんが「たった10年しかないのか……」と愕然としている。確かに、エルフからすれば10年は非常に短い。エルフは50歳で成人とされるので、10年は人間換算で4年くらいだ。幼児の4年後なんてたかが知れている。またも運命に翻弄される日が来るなんて……とサーラさんが俺の代わりに落ち込んでいる。俺のことなんだけど、先に誰かに落ち込まれちゃうと、こっちは逆に冷静になるって、あるよね。

 それに、サーラさんは忘れてるっぽいけど、俺はゴブリンである。普通のゴブリンと比べると成長は格段に遅いようだが、エルフほどの遅さではないはずだ。10年もすれば成人くらいには成長してくれていると思うんだが……してるよね? ほんと頼むよ?

 

「でもねぇ、今回は星の精霊様方も、どうにも不明瞭で……たぶん? 10年くらい? 暗雲ももしかしたら来ないかも?」

「い、いつにも増してふわふわしてますね……」

 

 顎に人差し指を当てて「んー」なんて可愛い仕草をする、年齢不詳(聞いてないので)のリンム様であるが、それが普通に似合ってるのがなんとも恐ろしい。ちなみにだが、マウさんと同程度のおばちゃん度と思われるリンム様であるが、サーラさんの母であるマウさんは御年260歳である。人間換算でだいたい――

 

「――ニエラちゃん?」

「ハイ、イイエ、ナンデモナイデス」

「ニエラ、何言ってるの…?」

 

 いつの間にかリンム様の視線が俺にロックオンされていた。しかも目が笑ってない。やはりエルフでも、女性は年齢関係の話はタブーのようだ……なんでバレたんだろう。

 

「ともかくね? 今回のニエラちゃんの星詠みは、どうにもはっきりとしないのよねぇ。一応、姉さんも私も、おそらく10年は安泰だろうという答えになったけど、これが正しいかはちょっと自信がないわ……」

「10年……でも、暗雲、つまりニエラに不幸が来ない可能性もあるんですよね……?」

「ええ。でも、10年じゃなく、5年後に波乱が来る可能性も、あるかも?」

「――ッ!」

 

 突然、ガンッとイスを蹴立てて、部屋を出て行ってしまったサーラさんをポカンとした表情で見送る俺。何もリンムさんも、本当に明日波乱が来るとは思ってないと思うんだが……え、どこ行っちゃったんだ、サーラさん。と、リンムさんの方に目を向けてみると、何やらこちらは微笑ましい表情でサーラさんの出て行った出入口を見ていた。

 もしかして、何か焚きつけましたかね……?

 

「さっきも言ったとおり、不確実な話なんだけれど、私たちは10年はニエラちゃんが安全だと考えているの。安全というのは、ニエラちゃんの身もそうだけど、この村についてもよ? なので、村の中なら自由に出歩いても構わないわ。村の外に出るのは、誰か大人の人についてもらってね?」

 

 おっと、予期せぬ話に繋がったぞ。この村の人々は命の恩人も同然なわけで、何もやらかすつもりなんてないし、恩を仇で返すような真似をできるわけがない。とはいえ、外を自由に歩いてもいいというのは純粋に嬉しいので、素直に頷いておく。

 

「あと、その首輪はまだ外せないの。あなたがこの村にとって安全でも、他に対してもそうだとは限らないのよ。あなたが大きくなって、あなたの生に自分で責任が取れるようになったなら、その首輪は外せるようになると思うわ」

 

 むーん? 何やら俺が随分な危険物のような物言いだが……具体的にどう危険なのかは教えてはもらえないようで、リンム様は微笑むだけでその先を話そうとはしてくれない。これも、大人になれば教えてもらえるんだろうか。

 ま、村の外に出なきゃこの首輪が火を吹くことはないんだから、別に問題ない話だな。力強く頷く俺の頭を、変わらずリンム様はニコニコしながら撫でるのだった。

 

 :

 

 というわけで、エルフ村を案内してもらいたいと思います! 案内してもらうのは、マウさんとリスケさんご夫婦である。サーラさんはどっかに行ってしまって帰って来ていない。マウさんたちもどこに行ったのか心当たりがないそうで、「お腹が減ったら、帰って来るんじゃないかしら?」とマウさんののんびりしたコメントを頂いた。どこの野生児ですか。隣で本を読んでいたリスケさんも苦笑してるじゃないか。

 

 ともあれ、まずはエルフの住宅環境からいこうか。エルフの家は、樹齢何百年あるんだよというようなバカでかい大樹の幹の中を、樹の精霊にお願いしてくりぬいて部屋を作っている。しかも、適した木がない場合は遠くから連れてくるんだ。

 ……“連れてくる”なんだよ。木を歩かせるんだと。トレント化させるのか、ウッドゴーレムの亜種なのかは分からんが、どえりゃーことをするもんだ。

 そして、この村には11世帯34人のエルフが住んでいる。住宅用の大樹が11本あるわけだ。大樹はもちろん生きているので、太い枝を方々に伸ばして葉を生い茂らせているが、家と家との間が結構距離があいているので、日光が射さないなんてことはない。

 地面はほとんど下草か苔に覆われていて、下手に踏むと少々滑る。特に小川周辺は危険だ。まぁ、流れはちょっと早いが浅いし、山の湧き水が水源なのかめっちゃ冷たいくらいで、まず溺れて死んだりはしない。え、何で知ってるのかって? 既に落ちたことがあるからだよ、言わせんな恥ずかしい。

 んんっ。ともかく、木漏れ日の中、小川のせせらぎを聞きながら森の濃い空気を胸いっぱいに吸い込むと、本当に気持ちいい。

 ただ、幼児の身体能力的にちょっと辛いものがある。この村、アップダウンが激しいんだ……村のある森自体に傾斜があるんだが、それ以前に大樹の根がだね……地面から浮いた根っこが俺の身長超えてたりするんだよ。今も昔もアップダウンには弱い俺を尻目に、エルフの幼子はきゃらきゃら笑いながら、アスレチックかのようにまったく歯牙にもかけずに走り回っている。もちろん、マウさんやリスケさんもアップダウンをまったく意に介していない。場所によっては俺を抱きながらなのにだ。

 エルフって凄い。俺は改めてそう思った。

 

 

 さて、次は食、つまり第一次産業について見てみよう。

 エルフ村でももちろん農業を行っているが、俺たちの想像する農業、つまり畑をやっているところはかなり少ない。いかんせん森の中なものだから、光量が足りないようだ。

 木に退いてもらえばいいんじゃないか?とリスケさんに質問してみたところ、森の中でぽっかりと穴が開いていると非常に目立つそうで。空を飛ぶ肉食の動物とか、強欲な人間に見つかると厄介だから、なるべく木々の間はあけたくないんだそうだ。

 でも、隙間というか日光が結構入って来てるんだけどな、と空を見上げていたら、リスケさんが笑いながら、村長が樹の精霊に頼んで、薄くだけれど見た目を惑わす魔法をかけているんだと教えてくれた。凄いな、そんなことまでできるのか……。

 

 あ、そうそう。それでこの村で作っている作物の話だが、ここからは実際に畑で農作業をしている男性のコンゴスさんに案内をしてもらうことになった。がっしりした体格にとても朗らかな人で、これぞファーマーといった雰囲気の人だ。髭でも生えていれば完璧だったんだが、エルフって体毛薄いのか、髭が生えてる人を見たことないんだよな……え、髭のあるエルフは解釈違いだって? まぁ…確かに?

 で、畑で作っている作物だが、プリノトという見た目完全にジャガイモじゃんこれっていうようなイモをメインで作っている。ジャガイモと言えば連作障害が問題になるけれど、そこは土の精霊にお願いしたり、森の腐葉土を使ったりしているそうだ。コンゴスさんがびっくりしたような顔で説明してくれた。うん、ますますジャガイモじゃんこれ。

 ちなみにこのジャガイモことプリノトはエルフの主食である。え、ジャガイモが主食? 前俺が食べたお粥っぽい料理には丸い米っぽい穀物が入ってたんだが、あれは主食ではなかったのか? あ、待てよ、そういえば米が日照不足で不作だったって話は前世で何度も聞いたことがあるな。となると森の中で稲作は無理か。じゃああれはいったい……。

 ま、今はちょっと置いといて、畑を見て回ろう。

 ジャガイモ以外はやっぱり野菜が多い。“サラダ菜”と呼ばれてるレタスっぽい野菜。赤色をしたカブっぽいノイラスと、それの白バージョンの白ノイラス。これは漬物にされてたのかな? あとはわさわさと生い茂っている、薄い緑の葉物野菜のパノータ。他にもハーブとしていくつかの低木や草が育てられているんだと。また、農業とはちょっと違うが、キノコ狩りとか山菜採りも行っているんだとか。

 

 ……そして、説明するたびにその場で収穫されて俺の手に乗せられていく野菜。いいって言ってるのにお構いなしに乗せていくコンゴスさん。ちょっと面白がってませんかねぇ……。

 俺の両手がいっぱいになったところで、時間もちょうどいいということで、昼食ということになった。

 

 :

 

 エルフの食事は学校給食のように基本的に一括調理である。炊事場が限られていること、食料の無駄が極力減らせること、あと燃料の節約といった理由からなのだそうだ。もちろん、個人で作っても別に何も言われないけど、要ると言ったのに来なかったら後でチクチク文句を言われるのだそうな。

 作る人は料理大好きな肝っ玉母さんことアルモラさんと他数名で、その数名は持ち回りでやっているそうだ。なんと今日はマウさんの担当の日だった。いつの間にかいなくなってると思ったら。

 俺が両手いっぱいに貰った野菜類は全部マウさんに渡しておいた。隣にいたアルモラさんに「お手伝いして偉いわねー」と頭くしゃくしゃ撫でられたよ。アルモラさん、快活というか豪快なお方で、呵々と笑いながら背中をバンバン叩きそうな雰囲気のおばちゃんである。

 ……だんだん、俺の中のエルフ像が崩れてきてるんだが……。

 

 お昼は野菜スープとジャガイモ、じゃねぇやプリノトで作った平たいパン、あと特別に俺にだけ焼いた肉である。エルフの皆さんはあんまり肉を好まないようで、俺だけ?と首を傾げていると、いいよいいよ食べなよーみたいに押し付けられた。

 えー、野菜スープの味はというと……まぁ、野菜スープだな。薄緑の葉物野菜のパノータはざく切りで、カブっぽいノイラスはスライスされて、その他まだ俺が見てない野菜とともに、乾燥させたキノコで出汁を取って煮込んだものだ。コンソメを入れたくなるお味。

 パンは……小麦粉とかの粉を使ってないからパンと言っていいかは分からないが、とりあえずこのパンは茹でたプリノトを潰し、塩やハーブ類、油を混ぜて丸め、熱した窯で焼いたものである。表面はパリっと中はホクっとした感じで……うん、これパンじゃねぇな、焼いたコロッケだこれ。コロッケだと思うと肉とか玉ねぎとか入れて欲しくなるが、主食、ご飯として見るならばハーブが効いていて、ゆかりご飯を食べているような感覚である。

 肉はシンプルに塩のみで串を打って直火焼きに。多分、胡椒やそれに類似するものはないんだろう。赤身でしっかりと脂が乗っていて、何の肉かと聞いたところ、猪みたいな絵を地面に書いてくれた。バラサコと言うらしい。塩だけだがめっちゃ美味い、脂が甘いぜ。そういや、前世では猪肉、牡丹肉ってのを食べる機会がなかったもんだから比べられないが、この肉は獣臭さはほんの少しする程度で、それが逆にアクセントになってて美味いんだ。野趣溢れるっていうのかね。

 

 というわけで、野菜の分量多めの実に健康的な食事内容となっている。美味しいは美味しいんだが、やはり育ち盛りとしては肉をもう少し欲しいところだ……他にも揚げ物とか食べたくなるよな。何せこの体になってから早…えっと…5カ月くらいか?食べてないんだよ。

 とはいえ、揚げ物は油の確保が大変だ……猪っぽいバラサコからラードが採れるだろうけど、この村の文化レベルなら、脂は灯りか調味料に使われると思うんだ。調理法として大量に使うのは少々どころでなく気が引ける。畜産をしてないみたいだから、入手方法が狩りだけってのも不安定だしなぁ。

 ……そういえば、ノンフライヤーなんてのが一時期流行ったな……確か、200度くらいの熱風を使って焼くんだったよな? 火の精霊にお願いしたらどうにかできたりしないか……まぁまだ魔法禁止が解けてないから、まずはちゃんと使えるようになってからだけどな。

 

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 食後はシエスタである。午前中は半分アスレチックしてたようなもので結構疲れてたし、心地よい満腹感もあり、家のベッドでマウさんにお腹をポンポンされてたら、秒ですいまg す や ぁ……。

 

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 寝 過 ご し た !

 ハッと目が覚めた時にはもう、木々の間から見える空は夕焼け。部屋の中も薄暗い。慌てて階下……俺が今使ってる部屋って、母さんの部屋なんだ。下にはサーラさんの部屋が2階に、1階はご夫婦の部屋とリビングが。で、そのリビングに梯子で降りたところ、マウさんがぱたぱたと駆け寄ってきてひょいっと抱き上げられた。

 昼寝のつもりだったのに、起こして下さいよー。うん、あまりにもぐっすり寝てたから気が引けたんですって……。

 おっと、サーラさんも帰って来ていて、リビングのテーブルでリスケさんと一緒にお茶を飲んでいた。マウさんは俺をイスの上に座らせると、またぱたぱたと外へ。たぶん、外にある竈に行ったんだろう。炊事に使うほど立派なものではないが、お湯を沸かす程度の用に小さなものがあるのだ。流石に木の中には竈はない。

 

「ニエラ」

 

 ん? サーラさんが妙に真剣な顔でこちらを見ている。

 

「明日から、精霊魔法の練習をしよう」

 

 ……ファッ!?




竈って字やたらと難しいですよね……でも多分皆さん読めると思うので漢字にしておきます。
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