言い訳は長くなるので後書きにします。
あと、本編も終わらなかったので、前後編に分かれることになりました。
こんにちは、諸兄。今日もこのちびゴブリンの独り言配信を見に来てくれてありがとう。
さて、気付けばこの姿になって早5カ月。こんなことを言っている暇も余裕もなかったとはいえ……かつてはいちオタクとして情報端末を手放すことなど全くできなかった俺だが、ネットもゲームもテレビもない生活にいつの間にか慣れてしまった。スマホ中毒だかなんだかが社会問題になっていたが、こんなことでデトックスができるとは。でも、小説投稿サイトの更新を心待ちにしていた作品の続きを読めないのは、ちょっとでなく悲しい……。
おほん。で、今は何をしているかというと、昨日のサーラさんの宣言どおり、精霊魔法について習おうとしているところなのだ。が、その前に紹介しておかなければならない人が2人いる。
――少し時は遡って。
サーラさんに連れられて村の中央に位置する広場――と言っても、エルフ村は森の中。広い=木がまばらに生えている、という意味で、広いには広いんだが、木が邪魔で野球やサッカーなんかはどう頑張ってもできそうにないスペース(そもそも地面が平らじゃない)――にやってきている。そこには既に先客がいて、大人のエルフが3人、子供のエルフが2人いた。大人のエルフの1人は知っている人で、俺の勉強をみてくれているリスコ先生だ。他の2人は女性で、誰かは知らない。子供の方もだ。それぞれが固まって話をしていて、俺が来るとなぜか全員の目がこっちに向いた。敵意じゃなくて好奇の目っぽいが、ちょっとビビる。
サーラさんは俺を地面に下ろすと、大人のエルフに話しかけに行ってしまった。残された俺はというと、なんだか置いて行かれたような感じだったのでついていくのもおかしいかと思い、どうすっかなーと悩んでいたところで、先制パンチがきた。
「ねぇ!」
声を掛けられたのでそっちに向き直ると、2人で話していた子供エルフの片方がこっちに向いて、腰に手を当ててなぜか仁王立ちしている。いや、胸を張っているのか? その後ろにはなんともほんわかした表情でもう一人の子供エルフがこっちを見ていた。どっちも女の子である。
「あたしって可愛いでしょ?」
……先制パンチである。子供って突拍子もないことをするけれど、これまた凄い話の切り出し方だ。だが、その子のお顔はというと、これがマジで可愛い。金色の緩くウェーブのかかった髪と、つぶらな瞳にやや気が強そうな眉、血色の良いほっぺ。整った目鼻立ちに、ふっくらとした唇。掛け値なしの美少女だった。ちょっと人類が逆立ちしても敵いそうにないレベルの。エルフって凄い、またもそう思った。
「え、うん。可愛い。すっごく可愛いね」
なので可愛い可愛いと素直に言っておく。別に嘘をつく意味もないわけだし、事実ヤバいほど可愛い。語彙力が低下するというか、言葉では言い尽くせないというか、実況者泣かせな子だ。俺の頭の中の実況しか聞けない諸兄にはすまないことだが、俺って文才がないもんで。昔の成績も、国語は微妙だったなぁ。
ともあれ。俺の答えに気を良くしたのか、むふーっと満面の笑みを浮かべて、その子は後ろにいた子の手を引きながらこっちに寄ってきた。
「あたし、ティーラッカ・ホリィ。ホリィって呼んでね。この子はエッナ・キッカ。エッナちゃんでもキッカちゃんでもどっちでもいいって言ってるけど、あたしはエッちゃんって呼んでるわ。で、あなたもあたしのお友達にしてあげる!」
「……ええ、あぁ、それはどうも……ニエラ・ハーサです。よろしく?」
即行でお友達認定されてしまった。行動力の塊みたいな子だな。後ろの子、エッナちゃんは逆に非常に物静かな子のようで、ホリィちゃんの言を止めるでもなし、突っ込むでもなしに、にこにこと微笑んでいる。エルフって、お喋りか寡黙かの2種類しかいないのか?
「あたしたち、今日から魔法の練習するんだってね! 普通は30歳くらいになってからやるんだけど、あたしたちはなんでかちょっと早いのよねー。なんでだと思う? あたしは、あたしが可愛いからだと思うんだけど! あ、ところでニエラちゃんっていくつ? 15歳くらい? あたしたち2人とも21歳なんだけど、あたしたちの方がお姉さんよね?」
「え、えっと……3歳……」
話の展開についていけない! まぁ、ホリィちゃんには悪いが、君が可愛いからではなく、サーラさんが俺の授業をごり押しした結果、なら他の子も一緒にやってしまおう、となったのだと思う。
ところで、俺はいつ生まれの何歳なのかはさっぱり分からんが、一応対外的には3歳ということになっている。俺の成長速度は、この5カ月を見てもゴブリンとはまったく違うので、成長具合から何歳なのかを知るのは無理なのだ。なので、俺の母であるティーラさんの消息が絶えた3年前からとりあえず1年引いて、数えで3歳でいいんじゃね?となったのだ(ちなみにだが、ゴブリンは大体5~6カ月で生まれるそうなのだが、俺もそうだという保証はないんだよな……)。
ずいぶんと適当だな?と思う諸兄もおられるだろうが、平均寿命500歳というエルフの感覚からすれば数か月どころか1、2年なんて誤差でしかない。もちろん、ゴブリンにとって1年はとても大きいのだが、俺の成長がゴブリンよりもずっと遅いことから、まぁ気にしなくてもいいだろう、ということになった。
そういえば、“数え年”とかこの村の暦とかでちょっと面白い話を聞いているんだが、今は時間がないので、後編で触れようと思う。後編っていつだよ?というツッコミは勘弁してほしい。
で、俺の返答にホリィちゃんが驚きの声を上げる。
「えっ、3歳!? アルモラさんとこのケスカくん(5歳)よりも年下!? うっそだー!」
「うん。だって、私って、ゴブリンだし」
「……あー、そういえば父様が言ってたわ。あたし、ゴブリンって見たことないんだけど……どう見ても普通のエルフじゃない。ちょっと肌の色が濃いくらいよね? 耳もそんなに変わんないし、顔だって普通じゃない。うん、ほとんどエルフよね! ね、エっちゃん」
俺と肌の色を比べたり、耳をぴこぴこ動かしたり、こっちの耳をふにふに触ったり、なんとも忙しないホリィちゃんがエッナちゃんに話を振ると、エッナちゃんは変わらずほにゃりと微笑みながら頷いた。あまりにもすんなりと受け入れられて、ゴブリンである俺の方が逆に戸惑うんだが。いや、それで問題ないなら、全然いいんだよ? いいんだけどね?
それでねー、とさらにしゃべり続けようとするホリィちゃんの視界から外れると、俺は自然と上がりそうになる口角をごまかすために、顔をむにむにと揉むのであった。
……照れ隠しだよ言わせんな恥ずかしい!
――と、時は戻って、精霊魔法の授業の直前である。
先生役はさっきも言ったように俺のエルフ語の先生でもあるリスコ先生と、助手のサーラさん。場所はちょっと移動し、広場の南端にある炊事場の近くで、竈と川の水汲み場の中間くらいのところだ。村の中では珍しく土の地面が見えている。丁寧に石が取り除かれているところを見るに、ちゃんと手が入っているらしい。
「君たち、もう自己紹介は済んでいるな?――よし、では授業を始めよう。今日の授業の内容は、精霊魔法についての大まかな話と、ちょっとした実習だ」
ちょっとした実習、とリスコ先生が言ったところで、その内容を知っているのか、ホリィちゃんが待ちきれない様子で隣のエッナちゃんにきゃいきゃいはしゃぎだした。多分エッナちゃんも知っているんだろう。で、俺にも教えようと思ったのか、くるりと振り返る最中にリスコ先生に睨まれて、たちまち大人しくなった。やれやれ、といった風にリスコ先生が頭を振り、丸眼鏡のブリッジを指で押し上げた。
さて、精霊魔法の授業であるが、まずは精霊魔法とはなんぞやというところから始まる。
「世界には精霊が満ちている。精霊が手を動かせば世界も変わる。小さなものだと、火がついたり、水が流れたり。大きくなれば、大地を割り、風が吹き荒れる。精霊魔法とは、精霊と契約を結び、我々が魔力を与える代わりに、精霊に世界を操作してもらうことだ。そして、精霊の力は強大である。故に、我らはその力を最大の自制をもって行使する必要がある」
リスコ先生が厳めしい表情で俺たちを脅しにかかる。確かに、魔法は簡単に人を傷付けられる……いや、殺せる技術だ。半端な気持ちで使っていいものではないだろう。
……とはいえ、俺は内心ウッキウキでリスコ先生の話を聞いている。だって、魔法だぜ? 前世で幼少からサブカルチャーを嗜んできた俺としては、魔法を使うってのは少年時代の夢ってなもんだ。「竜の冒険」のメ〇とか「最終幻想」ファ〇アとか。
……むしろ、ポ〇モンの方が近いかもしれない。いけっ、ヒネズミ! 火の粉だ!
「精霊魔法を使う上で大切なことが3つある。契約内容、魔力、精霊との相性だ」
おっと、ふざけてたらリスコ先生がいつのまにか地面にガリガリと文字を書いていた。あー、そうか、ここの地面がむき出しなのは黒板代わりにするためか。
リスコ先生が地面の文字列の1行目を杖でトントンと指し示しながら話を続ける。なお、俺はまだ口語しか習っておらず、文字は読めないのでサーラさんに横で補助してもらっている。
「精霊は神との契約によって生まれた存在だ。故に、精霊にとって契約は“絶対”だ。もし契約の内容が不確かで、精霊に何をすべきか分からないと思われでもしたら、いくら大量の魔力を対価にしても契約に応じてはくれない。もしくは、精霊がこちらの意図しない結果を引き起こすかもしれない。その際には術者や味方に危険が及ぶ可能性もある。自分や仲間を守るためにも、精霊使いは“言葉”を疎かにしてはならないのだ」
うむうむ、道理であるな。失敗すると恐ろしいことになりかねないので、しっかりと勉強しないといけない。
……しかし、異世界に転生したというのに、チートどころか、勉強に追われることになろうとは……世知辛いもんだ。言葉が通じるチートって、ほんとにチートだったんだなぁ……。
「契約にどんな文言を組み込むか、どのような順番で組むかは、各家々の癖というか傾向があるから、それは適宜、君たちの父母に聞きなさい。私が君たちに教授するのは、呪文に文言を“組み込まなかった”場合の原則的な契約の内容だ。とは言え、これを勉強するのは今日ではないが」
おっとっと、またやってしまった。俺が遠い目をしている間に話が進んでいる。とはいえ、今日は本当にさわりだけのようだ。続いてリスコ先生が2つ目の単語である“魔力”を杖でトントンと叩く。あ、サーラさん、耳打ちしてくれなくてもさすがに覚えているんで大丈夫です。ありがとうございます。
「魔力とは、生命の雫である。魂でも命でも何でもいいが、我らの胸の奥で脈動する“生”の根源から生じる力である。よく分からんという顔をニエラがしているが……はっきり言って、私たちもよく分かっていない。魔力を体外で長期保存できないせいで、研究できないのだ」
ええ? 先生! よく分かってないのに、命の力だってのは分かってるんですか?
「それは確実だ。なぜなら、魔力が枯渇すると、生き物は死ぬからな」
…………パードゥン?
「我々の体は魔力の存在を前提としているのだ。例えば、魔力が衰えると体は老化する。一時的に枯渇すれば、頭痛やめまいに始まり、呼吸が苦しくなり、次第に意識を保てなくなり、最悪の場合は死に至る。分かるな? 精霊魔法を使う以上、常に魔力の残量に気を配り、時として非情な選択を迫られることにもなろう。例えば、敵から徒党を天の精霊に逃がしてもらうのか、それとも魔力枯渇で死にかけの1人を助けるのか」
マジっすか……魔力と訳していたが、正確にはプラーナとかオーラ〇とか生命力とか訳すべきものだった。今更変えるのも面倒なので魔力で通すけど。
とゆーかごめんなさい。サーラさんがめちゃくちゃ怖い顔でこっちを見てくる。すみませんでした、あれだけ魔法は2回までと言われてたのに。しかも最後に残る魔力全部とか言っちゃって、本当にすみませんでした。良く生きてたな、俺……。
いやね? ゲーム脳といわれればそれまでだけど、MP使い切ったら死ぬ世界なんて想定してないよ……。
「――と、脅しはしたものの、“生”が魔力を正常に生み出しているならば、ずっと枯渇状態が続くわけではない。病気も怪我もなく、老齢でもなく、いたって健康な奴であれば、そう死にはしない」
な、なーんだ。驚かせないで欲しいなぁ。リスコ先生もお人が悪い。ほ、ほら、横で聞いてるホリィちゃんやエッナちゃんまで軽く涙目になってるじゃないか。
「2回に1回は生き残るだろうよ」
……
「……スミマセンデシタ」
「そこの無謀な最年少が反省したところで、これを回避するための魔法を教える。月神の神殿が管理する魔法の中に、他人に魔力を注入するものがあるのだ。これは後で使うのでその時に説明しよう」
リスコ先生は地面に書いていた3つ目を指し示した。とうとう精霊との相性の話まで来たが、俺たち3人のテンションはだだ下がり。お通夜状態である。そんな俺たちを見てさすがにリスコ先生も脅しすぎたと思ったのか、若干トーンを明るめに話し始めた。
「最後に、精霊との相性の話だ。精霊が契約に応じてくれるかどうかは、精霊との相性……言ってしまえば、精霊に気に入られているかどうかが重要になる。精霊がどういった基準で我々の好嫌を判断しているのかは不明なのだが……これは術者側の努力ではどうにもならないもの。生まれ持った才能といえるだろうな」
あー、なるほど。ホリィちゃんがわくわくしていたのは、才能の有無が分かるからか。まだまだ子供だし、自分が特別であると周囲に認められるのは嬉しいことだろう。それに、精霊魔法を使えるようになるのは大人の仲間入りみたいな風潮があるので、おませなホリィちゃんなら二重に嬉しいだろうね。
「精霊との相性は実体化してもらうことで調べることができる。一般的には、相性が良いと大きく力強い精霊が、良くないと小さく力も弱い精霊が現れる。もし悪いと、実体化には応じてもらえない。ただし、実体化に応じてもらえないからといって、その属性の精霊魔法が全く使えないわけではない。が、大成するのは難しいだろう……」
精霊の大きさなんてあるんだな。俺が洞窟で実体化してもらった火の精霊は30センチくらいのネズミだった。火鼠、カソ、だと思う。日本人ならかぐや姫でおなじみの、燃えない毛皮の持ち主だ。どれくらい大きいものが出てくるのか知らないが、30センチだとあまり大きいとは言えないよなぁ。あ、いや、火鼠は命の恩人……恩鼠なんだから、残念に思うことなんて何もないんだけどね?
「その実体化の魔法を使うためにも、先にすべきことがある。自身の中にある魔力を認識・掌握することだ。それを容易にするのが、さっき言った月神の魔法である《魔力譲渡》だ。《魔力譲渡》によって他者の魔力を体内に得て、それと対比することで自身の魔力を認識するのが順当な方法だろう」
というわけで、最初の実習は魔力操作だ。体内にある魔力を感じ、これを掴み、ある程度自由に動かせるようになることが求められる。既にできる俺はすることがないので見学だ。ホリィちゃんが、何でニーちゃんもうできるの!?と驚いていたが、いつの間にかニーちゃんにされていた俺の方がびっくりだよ。
2人はそれぞれリスコ先生とサーラさんに手を取られ、昔俺が洞窟で受けたように、魔力を送り込んでもらっては、魔力の存在、それの動かし方を覚えようとしている。俺の場合は30分くらいかかったんだっけな? でもこちらはものの10分くらいでできるようになってしまいそうである。俺と違って的確なアドバイスがあるからね。あと、エルフだということも関係しているかもしれない。おそらく、エルフは昔から精霊魔法を使ってきたんだろうから、種としても魔力の操作に長けているんだろうと思う。
:
「ふむ……まぁ、おおむねこの程度でいいだろう。さて、お待ちかねの精霊の実体化に移るが、使用する呪文を記載する。ニエラはサーラに教えてもらうように」
地面にまたもガリガリと呪文を書き連ねるリスコ先生。ところで、俺がサーラさんに洞窟内で教えてもらったのは、火の精霊の実体化の契約の呪文で短期のものだ。後で聞いたところ期限は1日程度らしい。が、今リスコ先生が早々に書き上げた呪文は、どう見てもあの時に習った呪文よりも格段に短い。流石に1カ月以上も前のことなんで細かいところまでは思い出せないが……それでも、前の呪文のおおよそ4分の1くらいの長さだ。
それに、サーラさんに文字を読んでもらったけど、意味としては“〇〇の精霊よ、出てきて下さい”みたいな何とも大雑把な感じで、どれくらい実体化しているのかとか、支払う魔力の量とか方法とか書かれてないんだが、それはいいんだろうか? どうなんですかリスコ先生。
「うむ、これは“エルメス”という呪文体系で、簡単に言えば、定型化された呪文を短縮したものだ。その昔、人族が作った魔法を教える学び舎では長年の間ずっと同じ形式の呪文を教授し、使用していた。すると、大量の人間が同じ呪文を使い続けていたためか、精霊がそれを憶えてしまったらしい。これを知った当時の長が、であれば呪文を多少省略してもよいのではないか?と考え、実践したところ、これが上手くいった。ならばと省略を突き詰めた結果が“エルメス”という呪文体系なのだ」
はえー、つまりあれか、電話の短縮ダイヤルだな。もしくはチャー定。え、例えが微妙? いい感じのが思いつかなかったんだよ……。
「今回の呪文を正確に記すと、各属性の精霊に対し、魔力を“ナパ”支払いますので、魔力に相応の時間、私に許される最も高位の姿で現れてください、というものだ。なお、実体化の時間はもっとも高位の姿で現れた場合は1、2分程度、最も小さい姿であれば10分ほどだな。そして魔力の支払いは、精霊に徴収を任せることになる。心配せずとも“ナパ”はとても少量だ、これで枯渇するようなことはほぼない。ほぼないが、もし頭痛や吐き気、めまいがした場合はすぐに言うこと」
リスコ先生の怖い顔に、俺を含め3人ともが顔をぶんぶんと縦に振った。ところで、ナパ?とサーラさんに小声で耳打ちしてみたところ、魔力の量を表す単語のうちの1つで、もっとも少ない“オル”の次であり、おおよそ5オル程度の量らしい。身振り手振りで頑張ってサーラさんも説明しようとしてくれるんだが、さっぱりわがんね。計量カップ作ってくれ。
ともあれ、まずはリスコ先生の実演である。何せ、先生は精霊魔法に関してマジで凄い人なのだ。どう凄いのかというのはこれから実演される。
もにゃもにゃと早口でリスコ先生が呪文を唱えたかと思うと、突然、竈から火柱が上がった。それは見る間に人型を取ったかと思うと、赤い肌の偉丈夫へと姿を変えた。燃え盛る髪、牛のような黒い曲がった角、火を吹きそうな赤い目に、筋骨隆々の体。見ただけでも相当の高位な精霊だと分かる。たぶんイフリートとかだ。
さらにリスコ先生が続けると、次に現れたのは小川からだ。水が波打って立ち上がったかと思うと、急に霧が立ち込めてそれを隠した。乳白色の濃い霧の向こうから現れたのは、青い衣を身に纏った美女だった。自然界にはあり得なさそうな輝くような青い髪が、その美女を精霊だと主張している。彼女はちらりと先にいたイフリートに目をやって、何も気にしていませんよといった顔で木の根に腰掛けた。ぱっと見は普通に人間の女性なのだが……水の精霊……ウィンディーネ?
さて、リスコ先生の凄いところはここなのだ。
前にこの世界の神話を少し語ったが、この世界の基礎を作ったのは地水火風の四大精霊ということになる。が、その精霊たちは、精霊同士で相性の良し悪しがあるのだ。具体的には火と水、土と風の相性が悪いらしい。相性の悪い精霊が先に実体化している場合や、相性の悪い属性が濃い場所なのでは、実体化を拒否されるのが普通なのだとか。
ところが、精霊の覚えめでたきリスコ先生は、なんと相性の悪い精霊同士であっても同時に実体化をしてもらえるのである。これは凄いことなのだ。しかもというか、当然というか、実体化している精霊も高位の姿で出てきている。これが、なんと四属性全てこうなのだ。これはガチで凄いことなのだ。
ただ、さすがのリスコ先生でも相性が良くない属性があって、それが空なのだ。なぜか空だけは実体化に応じてもらえなかったらしい。なので。
「来て、ローヤン!」
サーラさんの契約している精霊、ローヤンこと、空の精霊である。洞窟からの脱出でもお世話になりました。あの時は風の精霊だと思ってたんだが、空の精霊でした。
あらためて、空の精霊は天候を操る力を持つ精霊で、風と水の精霊から生まれた精霊だ。特にサーラさんが契約している精霊は風の属性が色濃くて、土の精霊の力が非常に強い洞窟の奥底にまで侵入できなかったのだ。
外見は緑に色づいた風を縒り集めて人型にしたような感じで、CGを見ているような気分になる。ちょっと見えにくいが、外見年齢は少年くらいだ。
水や火の高位精霊に、ここでは珍しい空の精霊と、エルフ村でもここまで精霊が一堂に会することは少なく、俺ももちろんのこと、生粋のエルフである2人もテンション上がりっぱなしである。
「このように、精霊との相性を見るには、実際に精霊に実体化を願うのが分かりやすい。ただし、姿を持たない命の精霊と星の精霊との相性はこの方法では分からない。別の方法がある。ちなみにだが、このように実体化を願うことを顕現契約といい、サーラの呼んだ空の精霊は彼女と長期の顕現契約を結んでいる。私が呼んだ精霊は短期の顕現契約を結んだ精霊だ。では、サーラはニエラに、他2人は私がつく。実習を始めよう」
おお、やっとだな。それでは早速召喚だ!
:
:
:
えー……とんでもないことになりました……。
その“トンデモ”を説明する前に、精霊についてちょっと補足をしたいと思う。まず、精霊に普通に好かれているならば最低限の実体化には応じてもらえる。その場合の精霊は小さく、力も弱いし、言葉も話さない。これがどんどん相性が良くなるにつれて姿も大きく、強くなる。そして最も高位とされる精霊は本当に神々しい姿で、しかもなんと、こちらの言葉を話してくれるようになるのだ。
最高位の精霊が呼び出されるのは本当に、ほんとーに珍しいことで、サーラさんが言うには、精霊魔法をよく使うエルフであっても5世代(500年くらいかな?)に1人いるかどうかといったレベルらしい。あ、この村での話ね? 全世界で見ればどうかは知らん。
で、だ。
出ました。
まず、最初に四精霊の顕現を試したところ、俺はなんと水の精霊との相性が非常に良いことが分かった。とはいえ、最高位ではないんだがな。リスコ先生が呼んだ青い衣の女性と同じ精霊、つまりウィンディーネが呼び出せたのだ。やったぜ。なお、どこら辺が水属性なんだろうかと思っていたら、俺の頭を撫でる手がなんともひんやりしていた。ところで何故皆俺の頭を撫でたがるのか。
それと、既に分かっていたことだが、火の精霊との相性も良い。カソが今回も呼びかけに応じてくれた。しかも、相性の悪い精霊同士の顕現が成功し、周囲にちょっと驚かれた。水の乙女がちょっと嫌な顔をして、カソはビビり倒していた。なお、普通は連続して契約するのではなく、1体ずつ契約していくのだとか。説明し忘れてたとか言われたよ……確かに、相性の悪い精霊を同時に呼んでしまうと、実力がちゃんと計れないな。
あと、土と風は顕現に応じてもらえなかった。土の魔法は以前1回使えているので、致命的なレベルで嫌われているわけではないようなのだが……洞窟でのあの1回って、もしかして結構ギリギリだったのかもしれない……。
その隣で、土との相性が超絶悪かったホリィちゃんを、それと同レベルのサーラさんが抱きしめて慰めていた。樹と共に生きるエルフは樹はもちろんのこと、樹の精霊を生んだ土と水の精霊との相性も良い傾向があるらしい。あくまで傾向であって、それに当てはまらない人だって当然いるのよ!なんてサーラさんが叫んでいた。
なお、エッナちゃんは普通に土の精霊を呼び出していた。
さて。四精霊が終わったので次である。四精霊から派生した星、命、樹、空の精霊のうち、実体化を受けてくれる樹と空の精霊について顕現契約を試したのだが……。
「やった……やったわ、父様、母様! ホリィはやりました!」
ぱちぱちぱちー、とエッナちゃんの間延びした拍手の前でホリィちゃんが感動に打ち震えていた。その隣には、虹が浮かんでいた。虹のような、蛇だ。鱗がグラデーションのように七色にきらめき、頭から尾にかけて1本の虹になっている。しかもでかい。これに睨まれたらカエルどころかヘビもすくんで身動きできないだろうな。しかも、喋ったのである。エルフには珍しく風の精霊と相性が良かったホリィちゃん、なので空の精霊とも相性が良いんだろうなと予測されていたところに、最高位の精霊である。いやぁ、凄いものを見せてもらった。
まぁ、これだけなら、わー、この子は天才だ!で終わったんだが……まだいるんだ。いや、さすがにホリィちゃんにではないよ?
……俺にだ……。
樹の精霊の顕現を願ったところ……その結果が、目の前にいる、緑の乙女である。
突然、地面から芽が飛び出したかと思うと、見る見るうちに成長し、人の頭ほどに蕾が膨らんだ。そしてそれが花開くと、真ん中に親指姫のように乙女がニコニコと鎮座ましましていたのだ。樹皮のような模様の服、緑色の肌、結い上げられた髪は先が桃色に色づいて花の蕾のようだ。そんな樹の乙女、ドリアード?に俺が驚きのアホ面を晒していると、さらに驚くことに、言葉を投げかけられたのだ。
「これはまた、可笑しな子がいるのね?」
ドリアードの蠱惑的な笑みに、ホリィちゃんの空の精霊に続いてまたしても周囲に電流が走る。いや、電流どころではない、電撃、落雷のレベルだ。なにせ、森と共に生きるエルフの前で、最高位の樹の精霊が顕現してしまったのだ。これは後で知ったのだが、現在この村に最高位の樹の精霊を呼べるエルフはいなかった。最高で長老様で、もうちょっとでお声を聞けるところだった、という話だ。母親がエルフとはいえ、ゴブリンが、エルフ村で、エルフと縁の深い樹の精霊の相性でトップに立ってしまったのだ。そりゃあ電撃くらい流れる。まぁ、妬み嫉みでどうにかされる、なんてことはないと思う。この村の人は皆善い人だからな。
で、ここまでなら、この世代はなんて有望なんだ!で済んだかもしれない。すまない、まだいるんだ。あ、俺にじゃないよ?
そう、最後はエッナちゃんである。
ところで、命と星の精霊はこの世界の長い歴史の中でも、一度たりとも顕現契約に応じられたことがない、実態がよく分かっていない精霊らしい。とはいえ、星の精霊はまだ分かる。夜空に浮かぶ星々が精霊で、ある意味あれが実体化だと言えなくもない。星の精霊との相性が良ければ天啓のように(と言われても俺には聞こえなかったが)声を聞くことができ、ある程度の意思疎通もできる。
ところが命の精霊は、精霊の目(精霊の力の濃淡を見ることができるようになる、月神の魔法だ)で色づくのは見える、働きかけることで傷や病を癒すことができる、ということしか分かっておらず、声を聞くことも、意思疎通ができた者もいないのである。
こんな謎だらけの精霊との相性をどうやって調べるのかというと、命の精霊の活性化、というものを行う。何かしらの生きている動物(そこらに生えている植物は樹の精霊の管轄)に対して、《オクタヴェアンタ》という簡単な短縮呪文の精霊魔法を使い、その際の効力の多寡によって相性を見るのである。なお、オクタヴェアンタというのは、早い話が元気になる魔法である。大丈夫、ポンと疲労が抜ける薬のような副作用はないよ。
で。川にいた小魚を捕まえてバケツに入れ、エッナちゃんがオクタヴェアンタを使ったところ、精霊の目を使っていたリスコ先生が「うおっ」と声を上げた。冷静沈着という文字を人型にしたようなリスコ先生の珍しい驚愕シーンだが、同じく精霊の目を使ったサーラさんまで「うわっ!?」と声を上げるような効果が発揮されたのだ。なお、俺は使えないので一緒に驚けないのがちょっと寂しい。肉眼では小魚が元気に泳ぎ回っているのしか見えないんだよね……いや、ちょっと元気すぎる……バケツの中が渦巻いてるぞ……。
というわけで、この村一番の命の精霊魔法の使い手、つまりは癒し手であるリンム様が急遽呼ばれ、もう一度先ほどと同じことをやったところ、「あら~……エッナちゃん、私よりも凄いかもしれないわねぇ」とのお墨付きを頂いた。なお、リンム様の癒しの技術はめちゃくちゃ高いらしい。
かくして、え、何この子ら、怖っ……と言われる世代ができてしまったのである。
改めて、1ヶ月も遅れましたこと、誠に申し訳ありませんでした。
ここのところ、仕事とかワクチン接種とか一周忌とか、その他諸々で土日まで忙しい日が多くて、書く時間があまり取れませんでした。
しかも、精霊魔法のあれこれを乗りと勢いで適当に書きすぎたせいで、辻褄を合わせるのに滅茶苦茶苦労しました。
皆さんも、世界観や話の根幹になる設定を適当に決めて話を書くと泣きを見ることになりますので、ご注意下さい。
でも設定に凝りすぎると話を書き始められないので、メリハリが大切なんですよね……。
21/11/02
なお、どこら辺が水属性何だろうか→なんだろうか
誤字報告ありがとうございます。
ドライアードの蠱惑的な笑みに→ドリアード
名前統一するの忘れてました。