ゴブリンの女王は死にたくない   作:フリーズドライ

21 / 21
皆様、お疲れ様です。ふふふ、この回を書き始めて早1か月…これが投稿されるのは果たしていつなのか……

今回は怒涛の説明回。一人称視点なので地の文も会話文みたいなものなのに、会話が続くとなんだか無性に不安になってきます。


第17話後編

 ふふふ……引き続きニエラチャンネルをご覧の諸兄、こんにちは。

 現在、たくさんのエルフが車座になって座っているここは、村長の家にある集会所だ。村の重大事を決めたり慶事などに使われる、村民全員が一度に入れる場所なのだ。頑張れば、だけど。

 そんな所でこれから何が始まるのかって? 大惨事ニエラ論争だよ……(白目)。

 

 

 あの後、俺には前世の記憶があること、それも別の世界の人間であることを白状した。これに対する反応は、少女2人はよく分かっていないようでポカンとしていたのに対し、大人2人の表情は険しいものだった。

 あー、これは地雷か何か踏んづけたかなー、なんて遠い目をする俺をヴォルさんがひょいっと抱き上げると、あれよあれよと言う間に前述の事態まで進んでしまったのだ。

 

 今俺は胡坐をかくサーラさんの足の間に置かれ、後ろから抱きしめられている。不安と恐怖で心情的にもう完全にいっぱいいっぱいなわけなんだが、サーラさんが全方位に向けて威嚇してくれているおかげで、ギリギリ平静を保てている。もしサーラさんがいなかったら、ストレスで吐き散らかしていたかもしれない。

 ああ、胃が痛い……。

 

 と、集会所の入り口から端正な顔つきの青年が入ってきた。ん? こっちに目線を向けたかと思ったら、一瞬妙に表情が険しくなったような? 本当に一瞬だったが、この人となんかあったっけな…?

 

「すまない、遅れた。俺が最後だろうか?」

「ああ、ムストラ。君で最後だ」

 

 って、あっさりと輪の中に……まぁ、いいか? それよりもこっちだ。彼が最後ということは、今から詰問会が始まるんですね分かります。

 もうね、皆の視線の痛いこと痛いこと。

 俺とサーラさんを含めないと、総勢14人のエルフがこの場にいる。長老を始めとする役職についている方々8人と、各家族の長が6人。なお、家長の人数が戸数よりも少ないが、これは単に役職持ちと被っているせいである。

 つまり、この集りはエルフ村の最高意思決定機関というわけである。その大多数がさっきから俺の方をちらちらと見ては、隣の人とひそひそと話したりとかしているわけだ。まぁ、中にはいつもどおりの様子の星詠みの巫女姉妹とか、ウチ代表としてリスケさんもいるので全員ではないのだが、10人に減るだけなので視線に圧があることに変わりない。

 

「では、始めよう」

 

 全員がいることを確かめるように長老が周囲を見渡し、厳かな雰囲気をまといながら宣言した。その言葉に皆が居住まいを直す。

 はー……どうなるんだろうか……。

 

 

「最初に。ニエラ、君には生まれる前の記憶がある、間違いないな?」

 

 えぇ、はい、あります。

 

「それも、完全な記憶がある。そうじゃな?」

 

 ……俺の記憶だと唐突にこの体に転生していたため、自分が死んだのかどうかも定かではない。もしかしたら神様とかの上位存在によって一定期間の俺をコピーされている、なんて可能性もなくはないと思う。とはいえ、わざわざ俺をコピーする意味なんてないだろうから、死ぬ羽目になったショックで記憶が飛んだか、そもそも死の瞬間を認識できていないとか、そんなところだろう。なので、完全かどうかと言われれば、違うとしかいえない。

 ただ少なくとも、ここに転生することになった直前までの30数年を生きてきた記憶はある。そういう意味で完全と言っていいのなら、答えはイエスである。

 

「間 違 い な い な ?」

 

 え、な、なんか、長老がえらく怖い顔で念押ししてくるけど、俺の主観ではそうだとしか言えないんだよなぁ……こくこく頷く俺をじっくりねめつけていた長老だったが、ふっとその空気を弛緩させた。

 

「まぁ、正直に言えば、そこは疑っておらんのじゃがな」

 

 ……えぇー……。

 村長の茶目っ気?にサーラさんがガルガル言ってるのを、ほっほっほとか笑っていなす村長。ついでに、周囲のエルフさん方もなんだか弛緩した空気でうんうん頷いている。

 

「ニエラちゃん、プリノト(ジャガイモ)の連作障害なんて知ってたしね」

「知識もそうだが、体の成長の割に心が育ちすぎている。まだまだ子供なのに、わがままも言わんし聞き分けが良すぎる」

「それに、自分を取り巻く状況をしっかりと理解できているからなぁ」

 

 ……まぁ、その、ねぇ。生きるのに必死だったんで、そこらに気を遣う余裕がなかったし。ぶっちゃけ、今更取り繕っても手遅れ感ハンパなかったし。とはいえ、なにこのほっこりした空気は。こちとら、割と追放くらいはあるかもと怯えてたんですが!?

 がやがやと俺のやらかしっぷりでにぎやかになるエルフさん方を、長老がおっほんと咳払いで静める。

 

「それに、重要なのはそこではないしの」

 

 ……ですよねー……安心させてから落とすとか、村長もやってくれますねぇ。感情の乱高下で風邪(ストレス性胃潰瘍)ひきそう。

 

「ニエラ。君は、こことは別の世界から転生した……間違いないな?」

 

 ……これも正直なところ、証明のしようのない話だ。宇宙には数え切れんほどの惑星があり、その中には居住可能な星もいくつもあるだろう。そこでは科学に代わって魔法が発展していた、とか。もしくは超科学文明が魔法っぽいシステムを構築した、とか。可能性は無限大だ。

 結局のところ、ここが異世界だと証明するためには、この宇宙に俺が生きていた地球が存在するかどうかを確かめなけりゃならない。ぶっちゃけ無理だ。

 なんてことを、知ってる語彙でなんとかかんとか説明していたら、もう十分だよと生暖かい目で見られた。解せぬ。

 

「ところで、良く考えて答えを出してほしい。ニエラは、自分の運命を直視する勇気は、あるかの?」

 

 えっ、運命?? 何それ、俺のこの先に何が待ってるの? キノコれるか分からないの? ゴブリンに生まれたってだけでもうお腹いっぱいなんですが……とはいっても、運命から逃げるなんてできそうにないし、そのせいでまた周りの人が悲劇に見舞われるようなことになるのは――絶対に、嫌だ。

 

 ……ち、ちらっとだけ……。

 

 俺の微妙に覚悟の決まりきらない返事に長老は朗らかに笑い、後ろを向いて目線で合図した。するとリスコ先生がいつものように本を片手に進み出てきた。あぁ、次は先生の解説パートが始まるんですね分かります。

 

「君はおそらく、デイヌンティウスだ」

 

 ……でい、なんだって? 聞いたことのない、というか音調からしてエルフ語ではなさそうな初耳の単語が出てきたぞ。しかもなんだなんだ? その単語が出た瞬間、周りのエルフさん方がすげぇ騒がしくなったんだが。驚きの表情をしている人もちらほらいるぞ。そんな、なんだと!?とか、まさかそんな!?とか、意味ありげな事言わないでよ……。

 

「主に人族が使う言葉、人族の文化圏で通用する言語だ。デイヌンティウスを我々の言葉にすれば“神の使い”という意味になる」

 

 神の使い? 神使? ってこっちは動物か。天使、だとどこぞに喧嘩を売りそうだし、うーん……普通に神の使いと直訳しておくかなぁ……そんで、単に“神”と言う場合は分割前の唯一神モードだったな。唯一神モードの神がこっちに転生者を送り込んでいるのか……神様って、太陽神と月神に分かれたんじゃなかったっけ? 今も活動してんの?――とか、ちょっと宗教問題を引き起こしそうな疑問はさておき。

 

 スー……フー……神の使いぃ!? そ、そんな大それたものになった覚えはないぞ!? い、いやでも、俺って転生時に神様に会ってないんだが? 多分だけど。

 

「それはどうも、皆同じのようだ。少なくとも歴史に残る限りでは、“神”に謁見したデイヌンティウスはいない。なのになぜ“神の使い”と言えるのかというと、我らが“神”がそうおっしゃられたからだ。“神”は、この世界をより良くするために、異世界から魂を連れて来られる。そしてその者はこの世界に、多かれ少なかれ、変革をもたらした」

 

 拉致しておいて世界のために働けとか、奴隷狩りじゃねーか! しかも転生させるだけさせておいて、会いもせずに放置とな!?――とは流石に口にはしないが、俺の中で神への敬意ポイントがかなり低下した。しかもゴブリンに転生させておいて、この世界を良くしてくれ? 何言っちゃってんの?――とも、流石に口にはしないが。しないが!

 

「――ッ! この子のマナは我らエルフと同じだ、この子はエルフだ! デイヌンティウスじゃない!」

 

 うおっ!? びっくりしたー。唐突に俺の頭の上からサーラさんの怒気を隠そうともしない声が降ってきた。急に頭の上で吠えるのはやめてもらっていい? 流石に耳が痛い。っていうかサーラさん、未だに俺がゴブリンじゃないって諦めきれてないのか? 外見は確かにエルフっぽいけど、歯なんて思いっきりゴブリンっすよ?

 

「いや、ニエラは――んん? 多少緑がかってはいたが、ニエラの魂は人族と同じように白だったが?」

「えっ!? そんなはずは……あの時、ニエラを《精霊の目》で見た時、確かにエルフと同じ若草色の光を……」

 

 リスコ先生の言葉に驚くサーラさんがぐりんっと俺を180度横回転させた。見つめあう形になったまま、よく舌を噛まないもんだと感心するくらいの早口で呪文を唱えたかと思うと、その瞳が金色に変貌する。その目で俺をじっと見るサーラさんの顔は次第に困惑したものに変わっていった。

 

「そんな……どうして……」

「そもそも、今のゴブリンのマナは黒く濁っている。たとえエルフから生まれようと、だ。エルフのマナがゴブリンに宿ったという話も聞いたことがない。仮にそうだったとしたら、始まりの父がそんなことを…………いや。あぁ、そうか」

 

 でも!と食い下がるサーラさんを前に、リスコさんが何かを納得したように何度も頷いた。

 

「不思議ではあったのだ。健常な大人ですら2度に1度は死ぬような、命を削るような魔法の使い方を、生まれて数年もしない幼子がしでかしたのに、生き延びた。最初はそんなこともあるのかと思った。次に、転生者だからかと思った。だが……」

 

 リスコ先生が切った言葉の先をサーラさんは察したらしい。震える手が俺を痛いくらいに抱きしめてくるが、俺の頭の中でリスコ先生の言葉がぐるぐると回っていて、そんなことは気にしていられなかった。

 残った魔力全部!なんてアホみたいな魔力の使い方をしても、俺は生きていた。急速に魔力が回復した? 俺の魂が30数年は生きてきたものだから? 自慢じゃないが、俺は俺の魂がそこまで強いなんて到底思えない。むしろ堕落してる方なんじゃないかと思うくらいだ。

 それに、怒りに身を任せて火の精霊を暴走させたときもそうだ。あの時はサーラさんが魔力を融通してくれたのもあるだろうが、気絶するほどの魔力を消費したにもかかわらず、目覚めた後、体内をめぐる魔力量が――今にして思えば――少なくなかったような気がする。

 

 つまり、何かが俺の魔力の埋め合わせをしてくれていた。

 

 ……サーラさんは俺を見て、エルフだと思った。だが、俺の魂はエルフのような緑ではなく、人族の白に近いらしい。ならば、サーラさんが見たのは()の魂だったのか……。

 

 :

 

 サーラさんと一緒に泣きじゃくり、リスケさんやリンム様に慰められ、何とか二人とも落ち着いた。ぐすっ……。

 

 脇道に逸れてしまったが、話はまだ俺がデイなんちゃら、神の使いかどうかというところである。

 ちょっと話を整理すると、この世界では命は流転するものと信じられている。つまりは生きとし生ける者、皆転生者なのだが、一般に“転生者”と言う場合、それは前世の記憶を多少なりとも承継している者を意味する。そんな中、異世界からの転生者をデイなんちゃら、神の使いと呼ぶわけだ。

 神の使いか普通の転生者かは、魂が異世界産か現地産かで区別される。ならば、それをどのようにして判断するのか、であるが。

 

「判別にはいくつか方法がある。真実を司る太陽神に対し、ニエラがデイヌンティウスか否かの審判を申し出る。出生と出産を司る月神に、ニエラの魂の出自について問う。世界の境界を司る“神”にお伺いを立てる」

 

 リスコ先生が指を順番に立てていく。神様が実在しているものだから、こういった人の身ではどうやっても証明できそうにないことも、結構簡単に解決できてしまうのだなぁ。

 ……あれ、じゃあ俺が異世界出身かどうかを聞かれた意味って……?

 

「まず、この村には太陽神の神官がいないので1つ目の手は使えない。同様に“神”に使える神官もいないし、“神”の声を聴くには月と太陽が重なっていなければならないから、今は無理だ。というわけで……」

「……私が、月神にお伺いを、立てる……」

 

 星詠みの巫女であるとともに月神の神官でもあるイナ様が、相変わらずの茫洋とした表情でこちらを見て言った。その隣で手を頬に当ててちょっと首を傾げ、リンム様が困ったような表情で言葉を繋ぐ。

 

「本当ならね、もっとニエラちゃんが大きくなって、自分の運命を受け入れられるくらいになってから、話をするつもりだったの。あなたの種族の意味とか。でも、デイヌンティウスともなれば、あなたの運命は必ず波乱に満ちたものになるわ。今ここで、半ば騙したみたいになっちゃったけれど、あなたの意思を確認しないといけなかったのよ」

 

 宗教に疎い日本人の感覚では正確に理解できていないと思うが、神の使いであるということはかなりの大事のようだ。それなのに俺の意思を一応は尊重しようとしてくれたのだし、恨みに思うようなことは全くない。それに、聞こうが聞くまいが、運命は逃してくれないだろうしな。

 

「私はね? 何も知らず、何も聞かず、ただ来るべき運命の日まで平穏に生きる。そういった選択をしたとしても、責められるべきじゃないと思うのよ? 誰しもが強いわけじゃないもの……“ハーサキナンゴトル”なんてものに生まれてしまったのに、しかもデイヌンティウスだなんて……」

 

 リンム様は優しいなぁ……うん? ハーサ、これは俺の名前でもある、プアッケ(ゴブリン)の古語だ。キナンゴトルは聞いたことがない単語だが、キナンゴス()は知っている。関連する単語?……女王か、王女……? というか、()()()()()に生まれて()()()()

 

「ニエラ。君は、自分の生まれの意味を知らねばならん」

 

 ヒェッ!? な、なんか、デイヌンティウスよりも大事な雰囲気じゃないっすか!?

 

「それを語るためにも、まずは我らエルフの始まりから語らねばならん」

 

 はーい、村長の独白入りまーす。なんか長くなりそうなんで、俺は黙ってるんで……あ、諸兄はエルフ語聞いてても分からんか。それに文字しか見れない諸兄には何が何だか分からんな。結局脳内で同時翻訳は止められないのかちくしょー。

 ……いや、こうなりゃ。

 

 脳内実況最終奥義――カット!

 

 :

 :

 :

 

 はい、というわけでね。今エルフの伝承がほぼ終わったところです。以下要約。

 

 話は以前にちらっと話した、この世界の創生神話の後のことだ。

 神は全てのマナと契約したわけではなく、精霊になれなかったマナもあった。そのマナが次第に自我を持つようになり、神に必要とされた精霊を羨んで、精霊に取って代わろうと攻撃しだしたのだ。神は、全てのマナと契約せず、いわば仲間外れを作ってしまったことを悔やんだ。が、世界は既に完成していて、新たな精霊を生み出す必要はない。それに、攻撃したことをお咎めなしとして放置することも好ましくない。そこで、神は世界にあるものでいくつもの人形を作り出し、そこにマナを閉じ込めることで罰とした。そして、人類の良き隣人となってくれるよう願ったのだ。

 その人形の1体がエルフの祖先である“始まりの父”だ。

 だがしかし、である。その人形の素材にされたテンティ(エルフ)という名の木には兄弟関係となる木があり、その名をハーサ(ゴブリン)といった。ハーサの木から作られた人形に宿ったマナは、神のお願いをぶっちして、今度は人間に取って代わろうと攻撃し始めたのだ。その際、ハーサに宿ったマナは自分が神にやられたことを真似て、ハーサの木に自分(マナ)を分けることで、たくさんの()()()()を生み出した。エルフも対抗するために同じ手段で自分と同じ存在を増やした。

 敵の数は1万とも2万ともいわれたが、あらゆる種族を巻き込んで百年をかけた戦争は、ハーサ改めハーサキナンゴス(ゴブリンの王)の討伐と封印という形で決着した。そのときには、エルフの数はわずか7人にまで減っていた。

 そして、始まりの父から直接分かたれた6人のエルフは交配によって数を増やし、各地にエルフの村を作った。戦争には勝ったものの、根絶するには至らなかったゴブリンから人類を守るために。

 

「――その6人のうちの1人、オルティムが作った村が、ここじゃ。オルティム様は、今も祖先の森から我らを見守ってくださっている」

 

 あー、なるほど。エルフが老いたら木になるっていうのは、オルティム様が木になったからか。いや、戻ったというべきなのかな? まぁそれはどっちでもいいとして……長老の話長いよ……話のテンポが遅いし、詳しく教えてくれようとして話がそれるし……話を聞きながら要約するの、すっごい疲れた……。

 おっと、そういえば、俺の話が出てきませんが?

 

「うむ……つまりは、エルフはゴブリンと長年にわたって戦争しておったから、やつらのことをよーく知っとると、言いたかったんじゃ」

 

 ……その一言で終わらせて良かったんじゃないですかねぇ?

 

「いや、長老がこの話を聞かせたのは――長老?……分かりました」

「うむ……この話は我らエルフのみに語り継がれる伝承。ゆめゆめ、みだりに話すでないぞ」

 

 ?? リスコ先生が口をはさみかけたのを長老が制止したんだが、当事者間で分かられてもこっちは分からない。それにまぁ、話すなと言うならそうするが……正直、エルフ村から出ることもないだろうし、話す相手もいないんだがなぁ。

 ところで結局、ハーサキナンゴトルって何なんですか?

 

「おお、話の途中であったな。私も全てを知るわけではないのじゃが、知る範囲で教えよう」

 

 白い立派なあごひげを右手でしごきながら、長老は記憶を手繰るように視線をさまよわせた。

 

「ハーサキナンゴトルとは、早い話がメスのゴブリンのことじゃ。キナンゴトルは“女性の王”と言う意味での。なぜ王の()ではなく()()と呼んでおるかというと、ハーサキナンゴトル(ゴブリンの女王)は、ハーサの妻ではない。ゴブリンの女王は、ゴブリンの中から突然現れ、小さく、弱く、数しかいなかったゴブリンという種を、強大にした存在じゃ」

 

 ゴブリンの、女王……ゴブリンという種を強大にした……? この体にそんな力があるのか……それにどうも自然発生したように聞こえるが…ハーサが作り出したのか、どっちだ? と思ったが、これは流石にハーサに聞かんと分からないな。

 

「ゴブリンの性質は大体知っておると思うが……奴らは繁殖に他種族の胎を使っても、母親の性質を受け継ぐことはない。何故かは、知らぬ……この話をしてくれた我が父も、おそらく知らんかったのじゃろう……ところが戦争のさなか、その母親の性質を受け継いだゴブリンが現れ始めた。あるゴブリンは今までよりも体格が優れていたり、またあるゴブリンは俊敏であったり、頭が良かったりといったな。その普通でないゴブリンの一派の巣におったのが、ゴブリンの女王じゃ。そやつは母体となった種族の性質を受け継ぎ、そやつが生むゴブリンもまた、その性質を受け継いでおった」

 

 ふーむ。他種族→ゴブリンの女王→普通のゴブリン、と性質が伝播するわけだな。つまりは女王は、本来のゴブリンならありえない混血を一手に引き受ける存在なわけだ。そして、それ以降は種としてステージが一段階上がる、と。で、俺はそんな女王の1人ってわけなのか……。

 マジで意味不明なゴブリンの生態だが、ハーサが生み出(デザイン)した兵隊だと考えるなら、割と納得できる。オスしか生まれないのは、ゴブリンを戦力としてしか見ていないから。早熟なのは戦力として好ましく、寿命が短くても戦死するので問題ない。子が親と同じという点は…元が木らしいし、無性生殖じみたことでもやってんのかねぇ? そして、ゴブリンが戦力として物足りなくなって、強化するためにメスが生まれるようになったんだろう。

 ……ところで、割とマジで、マジに、滅茶苦茶ヤバい事実に心当たりがあるんだが。

 

 

 ここにぃ、エルフと見間違えるくらいに素質を受け継いじゃったゴブリンの女王がいるんですけどぉ……焼いとかない?(白目)

 

 

「ニエラも気付いたようじゃな。君の精霊との相性は我々エルフと同等…いや、それ以上かもしれん。もちろん、全てが子に受け継がれるわけではないが……もし君がゴブリンの手に落ちて、子を産むことになったとしたら、どうなるか……」

「国が1つ2つ、倒れるかもしれん」

 

 精霊に好かれるかどうかはランダムとはいえ、エルフは樹や水、土の精霊に好かれやすいといった傾向がある以上、それが遺伝しないとはいえない。土はアレだが、俺の樹と水の精霊との親和性はエルフも驚くくらいのものだしな……。

 とはいっても、精霊ってゴブリンとも契約するの? ゴブリンっていわば、世界の敵みたいなものだ。精霊が気に入るかどうかで契約をしてもらえるかが変わる以上、ゴブリンとは一切契約をしない!となっても不思議ではないのだが。

 

「ああ……その疑問は至極真っ当なものだと思う。授業の際にも言ったが、精霊がどういった基準で我々の好嫌を判断しているのかは不明だし、教えてはくれない。一つ確かなことは……ゴブリンにも精霊魔法を使う個体が、僅かながらだが、いるということだ」

 

 ……あかんやん……。

 俺の子供が精霊魔法をバリバリに使う可能性は、正直言ってかなり高そうだ。ただ……本当にヤバいのはそっちではなく、この体が俺の人格や記憶を不足なくエミュレートできる脳みそを持っているという点だ。まず間違いなく、ゴブリンが賢くなる。あの、欲深く、利己的で、目的のためには手段を選ばず、倫理観などさっぱり持ち合わせていないゴブリンの頭が、良くなる。ついでに精霊魔法も使う。

 ……この世界の国の規模がどんなものなのか知らないが、国の1つ2つで済むかなぁ? これを初手で殺してないって、本当にエルフの皆様方は恩義に厚い……(嗚咽)。

 

 ……頭がくらくらする……吐きそう……。

 

「そういった事態を回避するために、その首輪をつけておるのじゃが…物事に絶対はない。この村で生活する分には問題ないとは思うがのう……」

 

 …あぁ、首輪ね…そういえばちゃんと描写したことなかったっけな? これは、草みたいに柔らかい素材を編み込んだような形状をしていて、幅広のチョーカーといった感じ。触ると文字っぽいものが刻まれているのが分かる。あと、正面につるりとした感触の赤色の石っぽいものがくっついている。

 つけてから一度も外したことはない。外れたら大問題だしな。

 

「今一度言っておくが、ゴブリンとの性交が避けられないとなった場合に、その首輪は発動する。君を確実に死に至らしめてくれるじゃろう」

「あと、長老の許可なく外そうとした場合にも、だ。普通の力で千切れるものではないが、絶対に試そうとはするなよ?」

 

 いや、流石にしませんて……。

 ……発動条件ってそんな感じだったのか……あのときは眠くて眠くて、あんまりよく聞いてなかったんだよな……まぁ、温情な条件じゃないか?

 

「というわけじゃ。ニエラが本当にデイヌンティウスか否かは、今宵すぐに出るじゃろう。イナ、頼むぞ? また、ニエラはゴブリンの女王でありながら、デイヌンティウスかもしれん、非常に重大な存在である。ここにおる間は安全じゃろうが、皆にも気配りを頼みたい。以上じゃ」

 

 長老のしめの言葉とともに、集まったエルフさん方は、サーラさんに抱きしめられたままの俺と二言三言交わして、三々五々、解散していくのだった。

 

 家に帰った俺は、ふて寝した。

 

 そうして月がコールム山の峰から顔を出すころになったとき、イナ様の立てたお伺いの結果が村中を駆け巡ったのだった。

 

 :

 

『――で、ニエラは、その……大丈夫?』

 

 時間は夜。もう月が随分と高くなっており、部屋の窓から見上げれば、枝葉の間からその姿を見ることができる。

 そして喋っている相手はホリィちゃんだ。今日の午前中に発覚した、遠隔地の声を届ける魔法、《風の声(ティールンオーナ)》を使用しているのだ。ホリィちゃんの風の精霊との相性が良いせいなのか、もともと汎用性が高いのかは知らないが、俺、ホリィちゃん、エッナちゃんの3人同時通話、なんてことができてしまっている。魔力はホリィちゃん持ちなのでちょっと申し訳ない。あと、何もない窓の外から声だけ聞こえるってのが、ちょっとホラー。

 で、大丈夫かそうでないかと聞かれたら、女王についての精神的ショックは、ふて寝したらちょっとマシになった。デイヌンティウス云々については正直実感がない。むしろ、ホリィちゃんやエッナちゃんは、その、気後れとかしない?

 

『ニエラが、デイヌンティウスだって、大変な偉業を成すかもしれないんだ、って言われたけど、あたしはデイヌンティウスってよく知らないし。なんだっけ、人族の最初の国を建国したのもそうだっけ?』

『そうだよー』

 

 思った以上にどえらいことをしてたわ、デイヌンティウス。え、なに、俺もこのレベルのことしなきゃならんの? ハードル高すぎない?

 

『別にいいんじゃない? ニエラはニエラだもん』

 

 お、おう。嬉しいことを言ってくれるなぁ、ホリィちゃんは。

 あ、ホリィちゃんは、俺がデイヌンティウスだとか、転生者だとかいった諸々を考慮した結果、呼び捨てで呼ぶことに落ち着いたそうだ。いやぁ、せっかくできた友達……親友から、さん付けとか、ましてや様付けなんてされたら俺の心が死ねるから、これはありがたいところ。

 サーラさん一家にも、どうか対応を変えないでくれとお願いした。当たり前じゃないと返されたよ。

 

『そんなことより、そろそろ節季が変わるはずなのよ。コストネプシスの実がだいぶ膨らんできたからね! ヒュデュルモ(森の実り)の月からの節季は短いわ。すぐに雪が降ってきちゃう』

『その前に、首飾りの実、集めないとねー』

 

 そうなのだ。コストネプシスというのは木の名前で、細めのドングリみたいな実をつける。それに穴をあけて首飾りにするのがここエルフ村での、冬の誕生祭の定番の贈り物となっている。そう、これを作る予定なのだが、まだドングリが地面に落ちてない。そして地面に落ちればそれは冬支度のための良い食料なので、すぐに動物に食べられてしまうらしい。ドングリって油分が多いらしいからね。

 となれば、越冬準備の動物と、生死をかけた競争になるねぇ。

 

『イノシシが出るかもしれないのがねー。一応、狩りの頻度は増えるし、追い払ったりもするけど、それでも絶対に安全ってわけじゃないから、気を付けていかなきゃ』

『だねー』

 

 よーし、おいちゃん、精霊とか大盤振る舞いして、絶対にドングリ捕獲計画を成功させr――

 

   エッナ!

『『「ニエラ! いつまで起きてるの! いい加減に寝なさい!」』』

   ホリィ!

 

『『「はーい、ごめんなさーい!」』』

 

 と、全員同時に怒られたところで、今日のところは、おやすみなさい。




というわけで、本当は1ヶ月程度で仕上げたかったんですが、ちょっと(2週間)オーバーしてしまいました。筆がスリップ事故起こすのが悪いんです。
次回は……やらねばならないことが多々あるので、2ヶ月後くらいかもしれません……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。